553.学びたい
イツキとクラウスによる天界からの観光客達を楽しませる為だけの決闘。
日頃殆ど体術で戦わないイツキがクラウスを圧倒しており、観光客達は大盛り上がりだった。
イツキは印を結ぶのが格好いいのと、見た目が派手なのとでクラウスの見様見真似の龍煌波を時折混ぜるような形でクラウスを圧倒的していた。
「クラウスさん、あれだなーこれ!龍人族の技はー!」
イツキはそう言いつつも観光客達へのサービスも兼ねて、ダンスのウインドミルで足に逆上する太刀を付与。
物理と魔法の合わせ技でクラウスを翻弄してみせるイツキ。
「距離がとれない時はー!イマイチ使い物になんないですねー!?」
イツキはそう言いながら完成した印を何種類か結ぶ。
印を結びながらも言葉を続ける。
「この動作を練習すれば多彩な属性の技をより高速に繰り出せるのは良いけど、両手が塞がる以上、近距離で使うのはちょっともうちょっと考えないとですね!」
クラウスも漸くイツキの攻撃に慣れてきたようで、どうにか攻撃を捌きながら口を開く。
「そうだ!そういう時は…っ!」
クラウスは間髪入れずイツキの懐に飛び込む。
「龍影一閃っ!!」
小さなジャブの素振りをしたクラウス。
拳自体をイツキに当てるつもりはなさそうなものだったが、イツキの身体を激しい痛みがつづけざまに通り抜ける。
想定していなかった痛みに少し怯んで隙が生まれてしまうイツキ。
クラウスはイツキからサッと距離を取り、続けざまに攻撃を繰り出す。
「大瀑布!!」
イツキの頭上から拳の雨が降り注ぐ。
「何度も出来る手ではないけれど、こういう手段もあるという訳だ。」
クラウスの後方から声がした。
そこにはイツキが立っていた。
イツキはクラウスの方へ歩みを進めながら言葉を続けた。
「身体の中に可愛い息子が居るもんで、あんま悠長に攻撃を喰らって覚えるわけにもいかなくて。」
「はは…流石師匠と同郷…師匠に本気を引き出させるわけだ…」
「さあ、ハイオーガは瀕死になっても踏みとどまれるんでしたよね?まだまだ行きましょうか!」
イツキのそんな言葉を受け、クラウスはその場でどっかりと胡座をかいてしまった。
「俺の負けだ。今の俺では届かないという事がよーく分かった。俺は「勝ちたい」という気持ちより、イツキ…お前さんから学びたい、もっと吸収したいという気持ちが勝った。」
イツキはどっかりと座り込むクラウスに手をさしのべる。
「うちのカミラも世話になりますし、気長に手合わせでもしましょう。」
クラウスはがっちりとクラウスの手を掴み、ぐわっと立ち上がった。
イツキが極力派手でアクロバティックな攻撃をわざと選び、見るからに強者なクラウスを圧倒した今回の戦い。
天界からの観光客に大好評となり、暫くの間イツキとクラウスは天界からの観光客達の相手をしていた。
クラウスはトウシロウやギタから厳しく育てられた根っからの武人。
トウシロウと同格のイツキに敬意を払っていたが、急に丁寧な口調になってしまったクラウスにイツキは苦笑しながら今までのように接するよう懇願していた。
天界からの観光客達も帰り、本邸前ではイサベラーネがクラウスの妻になったという事で、モグサ家関係者や劇団スーゼランズの中でも公演に支障を来さないメンバーが集まり、盛大な宴が行われた。
簡単な挨拶も終わり皆が思い思い騒ぐ中、テーゼウスはクラウスとしみじみ酒を酌み交わしていた。
「そうでしたか…父さんでも負けましたか。」
「そうだな。久し振りに「これは絶対に勝てない」と思ったぞ。ガキの頃に戻ったみてえな気分だ。」
テーゼウスはクラウスのグラスに瓶ビールを注ぎながら口を開いた。
「おっとっと、ありがとよ!」
「トウシロウさんとお義父さんに勝つのは不可能ですよ。しかしそれだけあの二人からは学べることが多い。いつまでも己の強さに驕ることなく居られます。」
そんな謙虚なテーゼウスの発言にクラウスはテーゼウスの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「はは!良い心がけだな!」
「父さん!もう子供ではないのですよ…!」
「いやぁな?お前も立派な大人になったんだと思うと嬉しくてな!お前は二言目には「聖女様」「聖女様」って極端だったからなぁ!」
そんなクラウスの言葉に、そばに座って親子の会話に耳を傾けていたララルージュとロロは悪戯っぽく笑う。
ララルージュがまずは口を開いた。
「あら嬉しいわね?そんなに私のことばかり口にしていたのかしら?」
「ん?おお、そうだぞ?初めてルージュを見たときなんてよ?「と、父ちゃん!俺…あ、あ、あの子と結婚する!どうすれば良い!?」なんて珍しく俺の足をグイグイ引っ張ってなぁ!」
テーゼウスを弄ぶ剽軽な口調でクラウスは嘗てのテーゼウス少年について語り出し、耳まで顔を赤くするテーゼウス。
「そんな昔の話は…!」
「いやぁ、その日からコイツの特訓は壮絶よ!毎日毎日煩くてなぁ!「父ちゃん父ちゃん、聖女様を妻に出来るかな?」なんてよ?んなもん分かんねえっつってんのに!」
テーゼウスは顔を真っ赤にしたまま俯いてしまう。
ロロは楽しそうにカラカラ笑いながらテーゼウスの肩をポンポンと叩いた。
「テテ君はほんとーっに一途な男だねぇ!」
「ふふ、聖女様を妻に出来て本当に良かったわね、テテ君?」
ロロとララルージュにからかわれてばつが悪そうにクラウスをじっとりと見つめるテーゼウス。
その頃、イサベラーネはクラウスの妻達と賑やかに話していた。
「あちしより強い男が良いと思って早600年なのです。でも…こんな急に…なのです。」
困惑気味のイサベラーネにアリマはクスクス笑いながら口を開く。
「クラウスの妻になる人は殆ど同じ感想ですよ!こんな急に…って。」
「みんなはそんな急に受け入れられたらなのです?」
イサベラーネは不安そうな顔をする。
しかしエルビラが考え込むような仕草で口を開く。
「うーん、初めは困惑だったけど…そんな困惑を吹き飛ばすくらいいい男だからね。滅法強いのは当然として、明るくて剽軽で優しくて、私達みんな深く深く愛してくれてるんだって安心するっていうか…」
「ドキッとする真剣な顔とかもするしね!あれズルいよねー?」
カルミラが頬を赤らめながらそう言うと、ライヤヨヨがクスクス笑いながら頷いた。
「戦い以外の事は不器用な人ですから、計算して振る舞える程女心に明るい訳ではないんですけどね。心配りなど自然にそういう事が出来るというのも魅力のひとつなのでしょうね。」
「それでもってクラウスは男前だしねえ、産まれてくる子供も漏れなく美男美女だよ。」
テレーズはそう言ってちらりとクラウスの方へ視線を送る。
「惚れた女は最後まで愛し抜くいい男だよ。私だってこんな年を重ねたのにさ、未だに一人の女として変わらない愛を注いでくれる。だからこそ、この男のためにいつまでも綺麗な女でいようって思えるね。」
そう言うラシェルは幸せそうに微笑んだ。
イサベラーネがクラウスの妻になり、劇団スーゼランズの方をどうするかという問題がすぐに浮上してきた。
そもそもイサベラーネ自身が当初「いくら結婚したと言えどあちしは座長なのです。だから劇団の活動は変わらずなのです」と宣言していた。
蓋を開けてみればイサベラーネはすぐにクラウスにのめり込んで溺れてしまい、小屋から出てこない日があるくらいだった。
他の妻達はそれぞれ仕事があるので朝には小屋から出てくるが、妻達に「イサベラーネはどうしたのか」と尋ねると苦笑で返された。
数日後。
「劇団スーゼランズの運営に支障が出るならさ、劇団の中でチーム分けすると良いと思うよ。」
宿屋のエキストラとして宿屋に来ていた劇団員達から「あれから座長が一度も来ていない」と相談をされたイツキ達夫婦。
とりあえず本邸にクラウスとイサベラーネを呼びつけ、イツキが腹案を提案し始めた。
「チーム分け…なのです?」
クラウスに横抱きにされたままのイサベラーネがそう言うと、クラウスの頬に口づけを送った。
いちいち突っ込んでいたらキリがないと思ったイツキはそんなイサベラーネには触れずに言葉を続ける。
「そう。劇団の中にはさ、イサベラーネさんが特に口出しする必要のない、こう…安心して演技指導とか取り纏めをある程度任せられるような人が何人くらいかは居るはずでしょ?」
「居るなのです。」
「そういう人をチーム長みたいにしてさ、小さい劇団をいくつも作る。」
そう言いつつイツキは指折り言葉を続ける。
「例えばチームその一は伝統的な芝居。チームその二は喜劇。チームその三は恋愛もの。チームその四は戦いもの。チームその五は歌劇、みたいなチーム分けをするの。そうすりゃイサベラーネさんは時々稽古の風景とか見てさ、チーム長の指導をするだけで済むでしょ?」
イツキの提案を受け、イサベラーネはクラウスの腕の中からピョンと飛び降りた。
「そっ! そそっ!そそそっ!それは名案なのですっ!!今物凄い色々浮かんできたなのです!!あわわわ…忘れないうちに…なのです!!」
イサベラーネは大慌てでアイテムボックスから紙とペンを取り出し、すぐさまスラスラとメモを始めたが、珍しくピタッと手が止まってしまう。
「あら、どうしたの?」
ララミーティアが肩を竦めながらイサベラーネにそう尋ねると、イサベラーネは頬を赤くしながらチラチラとクラウスに視線を送る。
当のクラウスは腕を組んでニコニコしながらイサベラーネを見守っていた。
「クラウスを…ほ、放り出して…アレかなぁと…なのです。」
「そんな事気にするな!惚れた女を眺めてて飽きる訳がないだろ!俺はイサベラーネ、お前を見てりゃ退屈なんてしねえ。だから気にせずしたいことをしてくれ。」
クラウスはそう言ってイサベラーネにニッコリと微笑みかけた。
少女のように満面の笑みを浮かべたイサベラーネは再びスラスラとメモを再開した。
夢中になってあれやこれや書きたくるイサベラーネの集中力は凄まじく、イツキとララミーティアはそのままクラウスと雑談を始めた。
「他の奥さん達は朝から普通に働いてるけど、夜は蔑ろになっているの?」
ララミーティアの質問にクラウスは照れるでもなく、あっけらかんと答える。
「いや。月のものがあったり体調を崩してたら当然別だが、そうでなければ毎晩必ず全員とまぐわうな。」
タフなクラウスにイツキとララミーティアは思わず顔を見合わせてしまう。
「10人…しかもイサベラーネさんは朝が過ぎても…いやはや…」
「脱帽ね本当。何よりそれに平然とついて行けるイサベラーネもなかなかのものよ。」
苦笑するイツキとララミーティアに、クラウスは豪快に笑ってみせる。
「うははは!ハイオーガの男はそうでなきゃな!逆にテーゼウスのヤツなんて相当我慢してるんじゃねえか?」
「ふふ、確かにそうかも。二人しか妻が居ないうえ、日中はあちこちを行脚よ。」
クスクス笑うララミーティアと苦笑しているイツキ。
クラウスは微笑みながらイサベラーネを眺める。
「俺も我慢しなきゃならねえんだけどな。イサベラーネにも劇団は続けて欲しいと思ってるしな。」
「まぁイサベラーネさんは大所帯、劇団スーゼランズの屋台骨だからしょうがないですもんね。」
イツキの言葉に大きく頷くクラウス。
「イサベラーネもだが、当然一人一人に生活があるからな!俺も大人になって分別がついたっつーこったな!」
「ふふ、その割には全然イサベラーネを手放さないじゃないの。」
「そりゃイサベラーネがいい女だから仕方ねえな!」
豪快に笑い飛ばすクラウス。
そんな中、イサベラーネはワクワクした表情のままひたすら筆を走らせていた。





