552.君を賭けた君との決闘
イサベラーネに一目惚れしたクラウスが大声でイサベラーネに求婚。
これから始まる天界からの観光客受け入れを前に宿屋前は大騒ぎになっていた。
「クラウスはああなったらもう聞かないですね。こういう時はもうクラウスに任せますよ。」
そう言って苦笑しているのはライヤヨヨ。
ライヤヨヨの横ではアリマが腕を組みながらうんうんと頷いている。
クラリスもクスクス笑いながら後ろで手を組んでいた。
「惚れた人を手に入れる!って時のクラウス、本当に格好いいからなぁ。」
「みんな案外歓迎ムードなのねえ?」
騒ぎを聞きつけたベルヴィアとサーラもやってきて様子を窺っている。
ベルヴィアがそう言ってクラリスに尋ねると、クラリスは笑いながら頷いた。
「うんうん、まぁクラウスが見初めて連れてきた人だもん。私達は文句も無いし、不思議と気が合うんだよー。」
「だねえ。私も初めは歓迎されるか不安だったもんだよ。」
ラシェルも微笑みながら顔を赤くしているクラウスを見守っていた。
「ふふ、ラシェルも初めは不安そうな目で私達を見たものでしたね。」
ノンナがそう言ってラシェルの頬に口づけを送る。
するとラシェルは幸せそうに微笑んだ。
一方、イサベラーネはクラウスの急な求婚に酷く驚いたが、クラウスに対してツンとすました顔をしたと思ったら、そのままぷいと横を向いてしまう。
「あちし、自分より弱い男には興味ないなのです。」
そんなイサベラーネの言葉にクラウスの恋心だけでなく、闘争心にも火がついてしまう。
「俺は負けねえ。俺がイサベラーネさんより強けりゃ妻になって貰えるか?」
「あちしが負けるわけないなのです。良いなのです!」
クラウスとイサベラーネは互いにニヤリと微笑む。
そして天界からの観光客がゲートからゾロゾロやってくる最中、クラウスとイサベラーネによる決闘が始まってしまった。
慌てて引率のデーメ・テーヌに説明をするニコ。
デーメ・テーヌも頭を抱え込んでしまうが、そんなやりとりを耳にした天界からの観光客達は目の前で見られる本物の決闘に大盛り上がり。
それだけではない。
互いにこの大陸の上位に君臨する強者中の強者。
そんな強者が夫婦になるかならないかで決闘。
もはや興奮しない理由は存在しなかった。
「それではこれより!ハイオーガ族のクラウスが!デモンパペッタ族のイサベラーネを妻にする為!なんと妻にしたいイサベラーネ自身と決闘を始めます!!天界からお越しの皆々様!!皆様に危害は及びませんが!!我々の方でしっかりと!!結界でお守りいたしますのでご安心を!!決闘者たちが自らの運命を切り開くため、拳や魔法を交わします!さあっ!!歴史に名を刻む戦いの始まりを、共に見届けましょう!!」
ニコはそう言いながら観光客達へ声を張り上げる。
イツキとララミーティアが大急ぎで召喚で用意したパイプ椅子には大勢の観光客が座っている。
観光客、また集落に影響が及ばないようにという事で、魔法の心得がある者は皆、観光客や壊れてはいけない施設に結界を張っている。
「即興の筈なのに、随分とまた馴れた司会ぶりだなぁ。」
一通り準備を終えて一息ついたイツキがそう言うと、隣にいたサーラがクスクス笑う。
「ふふ、流石ララミューズ薬局を大陸一の商会にしただけありますね。」
「実際どっちが勝つのかなー?」
マーウーがソワソワした様子でイツキを背中から抱きしめる。
イツキは肩を竦めてみせた。
「んー、まぁクラウスさんじゃない?負ける様子が思い浮かばないもん。」
「ふふ、そうね。勝算もないのに挑まないわ。」
ララミーティアもそう言ってクスッと笑う。
「しかしあれよこれは。お義父さんがさ、これからきっと闘技場を作って、そこで本気の戦いをして欲しいとか言い出すわよ!」
ベルヴィアはウーラガンが満面の笑みでそんな話を持ち込んでくる様子を思い浮かべてそう言うと、イツキ達も然もありなんと笑ってしまう。
「いつでもかかってきていいぞ!」
向かい合う形で立っていたクラウスとイサベラーネ。
クラウスがイサベラーネに向けて声を張り上げた。
イサベラーネは黙っていると相変わらず人形のように美しくも無機質な印象を与える。
イサベラーネが操り人形のように両手を動かし始めると、六属性の魔法の矢よりも小さい針が次々にクラウス目掛けて襲いかかる。
しかしクラウスは避けようともせずにゆっくりとイサベラーネ目掛けて歩みを進めた。
「俺にはそんな攻撃は利かねえ。イサベラーネさんも分かっているはずだ。」
そう言って穏やかに微笑みかけるクラウス。
イサベラーネはパッと後方に下がる。
次にイサベラーネは強力なクラウスだけを覆う竜巻を作り出した。
猛烈な風の刃がクラウスの身体に傷を付けてゆく。
それでもクラウスは歩みを止めない。
「無駄だ。イサベラーネさんの本気がそれなら俺を倒すことなんざ無理だ。」
穏やかな表情を止めないクラウス。
イサベラーネは小さく微笑んで漸く口を開いた。
「あちしの得意技はここからなのです。デモン・マリオネット!」
イサベラーネが操り人形を操るように両手を構える。
するとクラウスの動きが止まる。
イサベラーネをよく知る面々は、イサベラーネの十八番が来たと思ってクラウスに同情の視線を送るが、天界からの観光客達はワッと盛り上がる。
クラウスの妻達はまるでクラウスの勝利を信じて疑わないように穏やかな顔でクラウスを見守っていた。
「デモンパペッタ族の得意技はこれという訳だ。なるほど…身動きが取れない。」
「あちし達デモンパペッタ族は血が流れる場で敵は居ないなのです!残念ですがここまでなのです!」
イサベラーネは人形のように冷たい笑みを浮かべながら、動けないクラウスへ向けゆっくりと歩みを進める。
「血を媒介して操るという訳か。通りで強さの割に弱い魔法で来るわけだ。このために血を流したがる魔法を…なるほど。」
「これであちしの操り人形なのです。」
「操り人形か…」
クラウスは穏やかな微笑みを浮かべたままそこまでいうと、大きく息を吸った。
「うおおおおっっっ!!!がぁぁぁぁっっっ!!!」
ガラスにひびが入りそうな程の雄叫びを上げたクラウス。
イサベラーネはその雄叫びに一瞬たじろいでしまった。
「ふぅ、さてと…」
クラウスは何事も無かったように優しく微笑みながら再び歩みを進める。
イサベラーネは動揺を隠しきれない。
「き、傷は塞がってないはずなのです!なのに…な、何故なのです!?」
「細かい理由は分からねえ。強いて言うなれば…俺が強いからだ。」
「今まで…こんな事…!デモン・マリオネット!!」
再びクラウスの動きを封じるイサベラーネ。
しかしクラウスは再び雄叫びを上げ、ゆっくりとイサベラーネに向けて歩みを進める。
クラウスが醸し出す強者の佇まいに観光客達は息をのんで見守っている。
「無駄だ。俺がイサベラーネさんを妻にしたいと思う限り、そんな技はすまねえが全然効かねえ。」
やがてクラウスはイサベラーネの目の前までやってきた。
十八番のデモン・マリオネットが効かない相手となればイサベラーネに打つ手はない。
放心状態のままクラウスの顔を見つめているイサベラーネ。
「俺は強い。俺はイサベラーネさんが理想とする、イサベラーネさんより圧倒的に強い男だ。」
クラウスはそこまでいうと一旦言葉を止めた。
そして満面の笑みを浮かべる。
「イサベラーネさん、いや…イサベラーネ。俺の妻になってくれ。」
そんなクラウスの言葉に、イサベラーネは呆気に取られたような顔のまま頬を赤らめ、やがてこくっと頷いた。
するとクラウスは再び天に向かって雄叫びを上げ、目にも留まらない速さでイサベラーネに足払いをかけたかと思うと、そのままイサベラーネを横抱きにしてみせた。
「よしっ!!やったぞ!!今日から俺の妻だ!!」
クラウスはイサベラーネを横抱きにしたまま、妻達の見守る方へと走っていった。
会場からは暖かい拍手が送られる。
結果からいうと、クラウスは妻達からコッテリ絞られた。
何故かと言えば、イサベラーネはクラウスに妻が9人居ることをまるで知らなかった。
何の心の準備も出来ていないままクラウスの妻になったかと思えば第十夫人。
状況の追い付かないイサベラーネをよそに「いつも配慮が足りない」「少しは段階を踏め」などと怒られ背中を丸くしていたクラウス。
しかし徐々に妻達とも打ち解けたイサベラーネの様子に、クラウスは満足げに妻達を見守っていた。
とは言え激しい戦いを期待していた観光客達は消化不良を起こしていた。
と言うことで今クラウスとイツキが向かい合って立っていた。
何となく微妙な様子の観光客達を気遣ったイツキなりの思い遣りだ。
「ずっと手合わせしてくれって言ってたのでいいですよ!どうぞ、クラウスさんから来ちゃって下さい!」
イツキはそう言ってヒラヒラと手を振る。
日頃拳で戦う事などないイツキに、流石にララミーティア達も不安を覚えている。
イツキの余裕そうな様子にクラウスは俄然メラメラと闘争心が燃えてゆく。
「日頃素手で戦う事など無いと聞こえてきたけれど!本当に大丈夫か!?」
「はは、平気平気!いいよ、クラウスさんどうぞー!」
イツキはそう言って適当なファイティングポーズをとる。
クラウスはイツキの素人丸出しのファイティングポーズを見て益々やる気を起こし、一気にイツキの間合いに飛び込んだ。
その勢いは物凄く、少しの時間差でクラウスが地面を蹴った音が聞こえるほどだった。
クラウスの猛攻を涼しい顔をしながら全ていなしてしまうイツキ。
「一撃一撃が全然重いっ!いやぁ、テーゼウス君よりも…おっと!!断然重いなぁっ!!よっ!!」
そう言いながらニコニコしているイツキ。
クラウスも今にも笑い声が零れそうな満面の笑みを浮かべている。
「よしっ、大体分かってきたぞー?」
イツキはクラウスの攻撃をいなして防戦に徹していたが、そう言ってニヤリとしてみせた。
「出た。おじいちゃん、ああやって覚えるんだ。トウシロウさんと戦った時と同じだ。」
カミラはイツキが防戦に徹している様子を見つつ隣にいたララルルディにそう言った。
前でペロの肩に手を置いていたララルルディもこくっと頷く。
「パパはああやって戦いながら相手の動きを学んでるんだね。凄いな、そんな細かいところまで見る余裕があるんだ。」
「ねえ、パパ負けない?」
不安そうにララルルディを見上げるペロ。
ララルルディはそんなペロにニッコリ笑いかけた。
「私達のパパは絶対負けないよ。この大陸の人には絶対負けない。」
「うん!パパ強いもんね!」
ペロの顔に笑顔が戻る。
ララルルディとカミラはそんなペロの笑顔を見て優しい笑顔になる。
イツキが反撃に転じる。
クラウスの顔には動揺が見られた。
「お、重いっ…!!」
「クラウスさんの攻撃を覚えたからね。あーくそ、当たんないなぁ!なんかタイキが身体の中に居るようになってから!どうもさ!よっ!!魔力が見えるようになったみたいで!!試してみたかったんですよ!!」
やがてクラウスは防戦に徹する形に。
イツキは楽しそうにニコニコしながら口を開く。
「ちょっと!試してみたかったのが!あって!!龍煌波!」
イツキは足技も混ぜながらも両手を組んで印を結びながらクラウスに襲いかかる。
クラウスと違う点は印を結びながらも、組んだ両手でプロレス技のダブルスレッジハンマーでも攻撃する点だ。
クラウスと同じ魔力の練り方をした攻撃に、更に得意なアーデルハイト式も織り交ぜていた。
どの印でどんな攻撃が来るか理解し、的確に対処可能なクラウスだったが、イツキは絶妙にクラウスの死角に入った瞬間に印を結ぶので、もはやイツキから距離をとるしかなかった。
しかしそれをイツキは許さない。
すぐに背後に回り込みクラウスの退路を塞ぐ。
「やっぱり1対1の勝負はイツキ君の独壇場だねえ…」
キョウシロウをあやしながらトウシロウはそう呟く。
隣で観戦していたルキアはクスクス笑ってトウシロウを肘で突っついた。
「ふふ!トウシロウさん武者震いってやつ?ブルブル震えてるよ?」
「はは、やっぱりこうウズウズしちまってなぁ。やらねえとやられちまうんだけどな、でもやってると相手が自分の技を覚えて工夫しちまう。本当に厄介なんだよ、イツキ君は。」
トウシロウはイツキを眺めたままそう言ってふふっと笑った。
「いいかー?キョウシロウ。父ちゃんが鍛えてやるからなー?」
トウシロウはニッコリ微笑みながら腕の中でぼんやりとトウシロウを見つめるキョウシロウにそう言った。





