547.次から次へ
本邸前ではペロとララミェンがピョンピョン飛んで遊んでいた。
イツキにせがんで召喚して貰ったホッピングで飛ぶのが余程楽しいようで、ニコがホクホクした顔でどこかへ行った後、ペロとララミェンはひたすらピョンピョンと飛んで過ごしていた。
「おいおい、そんなただピョンピョン飛ぶだけのオモチャがそんな楽しい?」
すっかりペロとララミェンにも相手にされなくなったイツキがキャーキャーはしゃぐ二人に声をかける。
しかしそんなイツキの言葉はペロとララミェンの耳には届かない。
「ちゅまんない!」
まだまだホッピングで遊べないエステルは頬を膨らませてイツキの足にぎゅっとしがみついた。
そんなエステルを不憫に思うイツキ。
「エステルはまだちょっと難しいもんなぁ、ちゅまんないよなぁ。」
「むじゅかしい!ちゅまんない!」
今にも泣き出しそうなエステルの頭を優しく撫でるイツキ。
何か良い案はないかと思案し、空を見上げる。
空は雲一つない快晴。
そして閃かない妙案。
「これたのしい!」
「そうかそうか、エステル姫のお気に召したようで本当に良かったよ。」
そう言ってイツキはエステルを見守る。
ぐずり出しそうなエステルにイツキが思いついて召喚してあげたものは三輪車だった。
操作性の単純さでエステルも問題なく遊べたので、エステルは満面の笑みを浮かべながらキコキコと三輪車を漕いでいた。
そんなエステルのはしゃぐ声を聞きつけたペロとララミェンは、ホッピングで飛ぶことを止めてジッとエステルを見つめる。
「三人で競争だよ!」
「ペロ負けないもん!」
「エシュテルも!」
ララミェンはスケボーを、ペロはキックボードを、そしてエステルは三輪車で広場を走り回っている。
流石にここまで来ると広場で働いていた者達も物珍しい遊具で遊ぶ子供たちの姿に思わず手を止め、そんな子供達の様子を眺めていた。
直ぐに乗りこなしてしまったララミェンは流石に精神的にペロやエステルよりもお姉さんなだけあり、ペロやエステルの為に少し手を抜いていた。
「これまで見たことのないオモチャばかりね。」
ララミーティアが少しワクワクした表情でララミェン達の遊ぶ様子を眺めながらそう言った。
ララミーティアの隣で眺めていたマーウーも楽しそうに口を開く。
「あんな面白そうなのになんで出さなかったの?凄いキャーキャーはしゃいでるよ?」
二人の意見にイツキは頬をポリポリかきながら口を開く。
「いやー、あれはどれも車輪にゴムってグニグニしたやつが使われててさ?一見すると簡単に再現出来そうだけど、多分ゴムなんてこの大陸に無いんだよ。デーメ・テーヌ様もそんな事を前に言ってたしさ?」
「なるほどね。あちこちに普及したら部品の替えが利かないって事かしら?」
「まぁ…そんなとこかな。ゴムって本当に便利な代物なんだよね。それこそ文明を飛躍的に発展させちゃうものなんだ。でも俺ゴムの加工方法なんてまるで知らないし、どんな木からゴムの原料が採取出来るか見当も付かないし「くれくれー!」って殺到されても困るなってね。」
そんなイツキのもとにニコが満面の笑みを浮かべて走ってくる。
マーウーが笑いがらイツキの背中をポンポンと叩いた。
「ほら、早速来たよ!」
「まぁ来るよな…はは。ニコに一任すっかね。」
イツキは苦笑してしまう。
そこからすっ飛んできたニコに実物を与えて説明を始めたイツキ。
イツキが用途について具体的に説明する必要がない程に理解の早いニコはゴムの有用性を瞬時に理解。
真剣な表情であれこれ思案し始め、すぐに天界と交渉をする事に。
イツキに声をかけられたウーラガンが上司のアラスを連れてきてすぐさま交渉が始まってしまった。
「うむうむ。ゴムの原料を抽出出来る植物のうち、この辺りでの栽培に適した品種の木を提供する事は可能だな。」
「流石です!調査が早いですね!?」
用意周到なウーラガンに大興奮のニコ。
ウーラガンは頭をかきながらも言葉を続ける。
「いやぁな?以前交易の品目として調査して選定まで出来ていたのだ。ニコが尽力してくれるまでは頓挫してて計画が凍結していたのだがな?」
「ええ!ええ!」
「ここの収益が頗る良いので直ぐにでも提供可能だな。」
「ありがとうございます!こちらも受け入れについて調整を始めますね!」
ニコは猛烈な勢いで手元の手帳にスラスラメモを始める。
そこでアラスが口を開いた。
「一つお願いがあるのだが良いだろうか?」
そんなアラスの言葉に賺さず顔を上げるニコ。
「ええ!何なりと!」
「コーヒーはまだ問題ないのだがな?ゴムに関してはなるべくでいいのだが、製品化に漕ぎ着けても天界からの観光客の目にはつかないように…「ええ!そうした方がいいでしょう!イツキさんからも聞きましたが文明を飛躍的に発展させると伺いました!そんな物がここにあれば興醒めしてしまう事でしょう!」
「さ、流石ニコだな。うむ、何卒頼む。」
天界側の思惑も全てお見通しのニコは満面の笑みを浮かべた。
そこからはニコは天界側から何か些細なものでも要望は無いかニコがウーラガンとアラスに尋ね、あれやこれやと意見を引き出した。
やはりウーラガンやアラスから出た意見は「あくまでこの時代っぽいもの」で固めるよう心掛けて欲しいというものだ。
家具もキャスターつきの家具は時代のイメージにそぐわないから控えて欲しい。
食器に関しても木製の食器、若しくは堅いパンをくり抜いて器にしたものが望ましい。
服装もイツキの召喚で出したジーンズやトレーナーに靴など、便利だが時代にそぐわなすぎるので身に着けないで欲しい。
とは言えイツキの召喚に頼った調味料や食材をフル活用している料理や酒に関しては大好評の目玉なので、複合施設の宿屋謹製の料理のクオリティを維持したままでお願いしたい。
気難しそうなドワーフが営む鍛冶屋を作って見学するようにして欲しい。
本邸前で繰り広げられるそんなやりとりをイツキとララミーティアにマーウーが見学していると、パントリーから久し振りにユーコとラバゥがやってきた。
「お久しぶり!」
「おおっ!ユーコ!なんだよ、随分久し振りじゃん!」
イツキに抱きついたユーコ。
久し振りに会う娘にイツキも嬉しくなって抱きしめ返した。
「ずっと勉強詰めなんだー。スッゴい難しくてさ。」
「今日は久しぶりの息抜きかしら?」
ララミーティアはそう言いながらユーコに向けて手を広げる。
ユーコはニッコリ微笑みながらララミーティアと抱擁を交わす。
「流石に疲れたからね。たまにはのんびりしたところでのんびりしないと!」
「ふふ、ここは万年のんびりしているものね。」
「うんうん、ホッとするよー本当。」
そう言ってふにゃっと微笑むユーコ。
一方ラバゥはマーウーと抱擁を交わしていた。
「そっちはどーなの?天界は過ごしやすい?」
そんなマーウーの問いにラバゥは苦笑してしまう。
「とても快適ですよ。この世界とは比べ物にならない便利さです。」
「その割には冴えない顔じゃん!」
「自然が殆ど無いのが元精霊族としては、ふとしたときに寂しくなりますね。」
ラバゥはそう言ってマーウーから身体を離し、辺りをぐるっと見回した。
「凄くホッとしますね。あっちでの暮らしにいい加減馴れないとと思ってずっとユーコと過ごしていましたけれど、たまにくらいなら良いかもしれませんね。」
「そーだよそーだよ。うちはいつだって大歓迎だよー?」
歯をむき出して笑うマーウーに、ラバゥはクスッと笑う。
「ふふ、すっかりモグサ家の妻ですね。」
「えへへ、みんな優しいからぜーんぜん苦じゃないよ。お腹の子も今一季節。私もジーニャもね、悪阻も無くてもう元気いっぱい!」
両手に力瘤を作ってウインクするマーウー。
「イツキの子供が欲しいなんて言い出した時はどうなるかと思いましたけれど、幸せに暮らしているようで何よりですよ。」
「ラバゥも幸せそうで何よりだよ!」
精霊族の長同士、そう言って微笑み合う。
大自然を感じながらのんびりしたいというユーコとラバゥの要望通り、外にレジャーシートを敷いてのんびりおやつタイムを楽しむイツキ達。
やがて遊んでいたペロ達がやってきて、すぐにキョウシロウを抱きかかえたルキアとトウシロウがやってきて混ざり、暇を持て余していたテオドーラ達もフラフラとやってきて、一際賑やかな午後の一時となった。
その夜、寝室にてイツキ達夫婦が夫婦五人水入らずで横になっている時、頭の後ろで手を組んだままぼんやり天井を眺めていたイツキがふと口を開いた。
「なんか…本当に幸せだな…」
イツキの急な感想にララミーティア達はキョトンとしてしまう。
そしてベルヴィアがクスッと笑いながらそんなイツキに問いかける。
「なによ急に?別に今始まった事じゃないでしょ?」
「はは、そりゃそうだけどさ…こうして食う寝るところに住むところに困らなくて、前世の俺じゃ考えられないすげー美人の奥さんが四人もいて…子供や孫が巣立っていっても時々思い出したように帰ってきて、いつだって賑やかにワイワイ暮らして…」
そんなイツキの感想にマーウーとサーラが噴き出してしまう。
「あはは!それちょいちょい言ってるよね?」
「ふふ、イツキの口癖ですね。」
クスクス笑われたイツキだったが、マーウーとサーラに視線を送って微笑んだ。
「年が変わる頃にはマーウーが俺の子供を産んでくれるし、ジーニャにも子供が産まれて孫が増える。何の不安もなくどんどん子供や孫が増えていく。」
「そしてあなたいつまでも私達の身体に興奮してくれる。」
ララミーティアが悪戯っぽく笑ってイツキのこめかみをちょんと指で突っつく。
しかしイツキは穏やかに微笑んだままだ。
「その通り。君達はいつまでも美しい。俺は興奮して興奮して果ててしまうな。」
イツキのそんなセリフに噴き出してしまうララミーティア達。
イツキは言葉を続けた。
「そして俺が果ててもそんな美しい君達は愛し合うな。俺はそれを見てはちきれんばかりに興奮するな。」
芝居がかったイツキの言葉に呆れ顔のララミーティア達。
しかしイツキは言葉を続ける。
「…俺は今でもたまに思うんだ。これがぜーんぶ夢だったらどうしようって。起きたら子供の頃からずっと暮らしてたあの部屋でさ、仕事から帰ってきたままの格好で寝ちゃってて、大慌てで朝の支度をするんだ。「ヤバいヤバい!そのまま寝ちゃったよ!」ってな。」
イツキはふっと小さく笑った。
更に言葉を続ける。
「適当に飯を腹に詰め込んで会社に向かうな。会社に向かってる間もさ「良い歳してなんて都合の良い幸せな夢を見てたんだろう」って恥ずかしくなって自分で自分に呆れるな。で、俺はまた誰とも深く関わらない酷く退屈な色のない暮らしが続くな。」
むくりと身を起こすイツキ。
ぼんやりと俯いたまま言葉を続ける。
「退屈を忘れるように…誤魔化すようにがむしゃらに働いて、よけいな事を考えないように働いて働いて、多分結局死んじゃうんだろうな…」
「明日、またあの大樹のもとに行くのなんてどうかしら。」
ララミーティアがそう言ってイツキの肩に手を乗せ、そして言葉を続ける。
「そうしたら夢じゃなかったって実感するかもしれないわ。」
「おー、それも良いかもなぁ…」
イツキはこの世界で始めに降り立った大樹を思う。





