543.世界が変わりかけた日3
エイムス家の邸宅に通されたイツキ達。
イツキですら感じる嫌な予感を抱えながらも応接室で大人しく座り、ニクソン達が来るのを待っていた。
フと、猛烈な殺気を感じたイツキは咄嗟にイツキ達全体を覆う結界を展開する。
同じく殺気を感じたララミェンも咄嗟にコンパクトな結界を更に張ってペロとエステルを守った。
すると部屋の扉をぶち破る形で白い光線が向こうの壁ごと突き破った。
「ミェン!!これはヤバい!!ペロとエステル連れて今すぐ逃げろっ!!」
「うんっ!!」
攻撃が飛んできた方向へ光の矢を乱れ打ちして応戦していたララミェン。
イツキの叫び声にララミェンはコクっと頷き、ペロとエステルを連れて丸い結界を展開、壁に空いた穴に向かって飛んでいった。
「パパーッ!!」
「イチュキ!!」
「パパなら大丈夫!ペロもエステルもミェンと逃げて!」
イツキはララミェンに向けて叫ぶ。
「バーグナズ・デスレイ!!」
かけ声とともに天井を突き破って白い光が次々とイツキに向かって差し込む。
イツキはどうにかそんな白い光を避けつつ声のした方を見つめる。
そこには変身後のバーグナズシャインが立っていた。
「おいっ!!な、なんでこんな事を…!!」
「うるさいっ!!黙れっ!!貴様のような悪人に説明する義理はない!!バーグナズ・フラッシュファイア!!」
咄嗟の攻撃にイツキは結界を展開する。
しかしバーグナズシャインの放った白い炎は結界を容易く破壊し、慌ててかわそうとしたイツキの左肩を捉えた。
(ぐっ…!!がぁっ…!!これ…まずい!!)
イツキの左肩から先は白い炎に焼き尽くされてしまい、激しい痛みを覚える。
イツキは慌ててモド・テクルをアイテムボックスから取り出して応戦を始める。
(理由だなんだ聞いてる場合じゃないぞ、ヤバいな…)
イツキの投げるモド・テクルはバーグナズシャインの手によっていとも簡単に弾かれてしまっている。
イツキは重力魔法をバーグナズシャインに向けて発動し、最大限の重力で動きを封じる。
「危なかった…」
「く、くそっ…!重…いっ…!!」
「何だか分かんないけど、なんで殺されかけないといけないんだよ!こっちは子供や孫を連れてるんだぞ!ふざけんなよ!!」
「な…ぜか…は、地獄にいるセスタナ…一家の仲間に…でも聞け!」
「セスタナ…一家?」
イツキが一瞬考え込んでしまう。
その一瞬の隙をついたバーグナズシャインは辛うじて右手をイツキに向けて伸ばす。
「デッド…エン…」
「くそ、まだ動けるのか…」
これ以上重力魔法の出力は上がらない。
イツキはバーグナズシャインのもとまで歩み寄り、バーグナズシャインの後頭部を思い切りぶん殴った。
漸く沈黙したバーグナズシャインを見下ろしつつ、イツキは治癒魔法で焼けただれていた左肩を癒やした。
「どうですか、悪の枢軸の中心人物であるイツキ・モグサは倒しましたか?」
そう言いながら部屋に執事のイザークがやってきたので、イツキはシャドウウィップでイザークをグルグル巻きにしてみせる。
「おい、お前が首謀者か?とりあえず拘束させて貰うぞ。」
イザークが無詠唱魔法を使い始めたようで、イツキ目掛けて大量の石礫が飛んでくる。
しかしイツキは結界で防ごうとも、避けようともせず、石礫は次々とイツキに当たる。
しかしイツキはどこかホッとした表情を浮かべていた。
「普通の魔法で攻撃されて逆にホッとしている自分が居るよ。っていうか無詠唱魔法とか使えるんだ?へえ…」
イツキはモド・テクルをゆっくりと拘束されたまま転がっているイザークに向ける。
「無詠唱魔法を止めるには…これしか無いな。」
そうしてお馴染みの拷問まがいの処置を始めた。
口を塞がれたイザークの声にならない悲鳴がこだまし始める。
抵抗する気が完全に無くなったイザークの口元の拘束だけを解き、イツキはイザークにあれこれと今回の暴挙について聞き出していた。
エイムス家に伝わる短剣「古代の遺物バーグナズシャイン」を使って『バーグナズシャイン』に変身していたオリバー・エイムスという男の正体はエイムス家の人間では無い、大マーリングのウンベルト王の婚外子であるチャーリーという青年だという事が判明。
そのチャーリー自身も意識を取り戻し、変身は解け、途中からイザークの暴露をただただ呆然としながら聞いていた。
「なる程なる程…?じゃあ大マーリングはモードラドの反国王派の貴族と結託してエイムス家のお家断絶を無事果たし、そして?モードラド王国の国王の交代も果たしたと。」
「は、はいっ…!」
「そして?ニクソンさん達を含めた関係者を片っ端から処刑した。んで、一番操りやすそうな国王の婚外子のチャーリー君を騙して操って?大陸全土を征服して、教国に一泡吹かせてやろうと。ふーん、馬鹿かな?」
イツキは服がズタボロになってガタガタ震えているイザークの頬をモド・テクルの刃でペチペチと叩きながらそう告げた。
ガタガタ震えているイザークは必死にコクコクと頷く。
「何年もコソコソ準備して、こんな教国の超重要人物を葬れるチャンスが急に舞い込んできて、どうしてこんな雑で強引に進めたの?馬鹿なの?もっとタイミングとか計れば俺を倒せたよね?急なアドリブは苦手だったかな?」
「…それは…」
「まぁその辺が雑だったからこそ俺も命拾いした訳だし…その辺は別に良いか。」
イザークのそばでしゃがんでいたイツキはそう言ってスッと立ち上がる。
「まあそういう事らしいよ?チャーリー君?」
「そ、そんな…それじゃあ俺は…」
もう変身が解けているオリバー改めチャーリーは唖然としながらそういってイザークを見下ろしていた。
「疑うこともなく言われるまま吹き込まれたデタラメを信じ込んで、殺される必要なんて無い善良な一般人を大量殺戮、そんな気の狂った殺人鬼みたいな事を繰り返していたって事かな。コイツがどこまで本当の事を知ってるのか知らんけどね。」
イツキはそう言うと、壊れた部屋の隅でララミェンに背中をさすって貰っていたペロとエステルに視線を送る。
そして呆れ顔で放心状態のチャーリーに冷たい視線を向ける。
「そもそも大陸全土に潜伏する悪の組織セスタナ一家って何だよ。大陸全土で活動してた旧亜人解放戦線とか旧聖護教会だって活動資金がカツカツでド貧乏だったんだよ?大陸全土で悪いことして大陸征服を企んでいるんだったらさ、資金繰りが相当厳しくて君の母親に手を出してる暇なんて無いよ多分。」
「でも…母さんは…そのセスタナ一家とかいうヤツらに…」
「そのセスタナ一家の資金源は何だと思う?その辺の村とか町ってみんな税金を払うだけでカツカツなんだよ?そんなカツカツな状態の一般人から金を更に巻き上げて苦しめてたらさ、普通その土地の領主の私兵にやられてるよ。じゃない?一般人が野垂れ死んだら困るのって、税収が減っちゃう領主だからね。」
「………」
「このクズどもに言われるまま村や里を滅ぼしてる時もさ、君は本当に何も疑問に思わなかった?」
「………」
イツキの問いに何も答えられないチャーリー。
質問したイツキもチャーリーの口から答えを望んでいた訳でもなく、呆れ顔で言葉を続けた。
「自分を正義の味方とでも思ってたんだろうな。女子供や老人までセスタナ一家なの?抵抗できないまま泣き叫んで死んだ女子供とか老人のさ、悪の組織セスタナ一家とやらにおいての役割ってなに?世界征服を企む組織にそんな穀潰しな構成員はいらないよね?」
「……はい…」
イツキは深いため息をつく。
「おいおい…少しは冷静に考えろよ。そんなあちこちの村や里を隠れ蓑にしていたセスタナ一家とやらにさ、君が手を下すまでなーんもしてこなかった大マーリング連邦とやらは無能集団だと思わない?「次はあの村だ」「その次はこの里だ」「じゃあ次はその町だ」その情報を全部持ってて?君に手を下させたの?」
「…はい…」
「お前馬鹿か?いや、馬鹿だよ…」
ため息混じりに軽蔑の視線をチャーリーに送るイツキ。
「皆殺しにして良いならさ、君の手を借りなくたって兵士とかをけしかけて簡単に壊滅させられるじゃん。素人の俺から見ても矛盾してるよ。」
「それは…バーグナズシャインの…熟練度を…」
「おいおい、そんな呆気なくバタバタ殺されるヤツしかいないセスタナ一家とやらを相手にさ、これ以上バーグナズシャインを力強くする理由って何?っていうかバーグナズシャイン要らないだろ。セスタナ一家の全貌が見える前からさ、明らかにランブルクとかうちの国とか大国とやり合う算段をしてるよね?」
「それは…!それは……」
俯いてしまうチャーリーを見て再び深いため息をつくイツキ。
「今日だってどうせ俺が偶然訪ねてきてさ、この男に「アイツはムーンリト教の偉いヤツだが、実はムーンリト教はセスタナ一家の隠れ蓑なんだ」「母君の仇です」とかなんとか言われたんでしょ?」
イツキの言葉に呆然としたまま小さく頷くチャーリー。
「セスタナ一家の隠れ蓑のムーンリト教はさ、大陸に大飢饉がやってきたときに無償で救援物資を配りまくったのは知らない?」
「知って…ます…」
「知ってたらさ、なーんでそんな雑な嘘を信じるんだよ!セスタナ一家っていう悪の組織は何がしたい組織なの?人から金巻き上げて?でも危機が迫ると巻き上げた以上の規模で人々に救いの手を伸ばして?情緒不安定かな?馬鹿かな?」
チャーリーは、もはや抜け殻のように呆けていた。
「そのセスタナ一家とかいうのはさ…多分田舎のチンピラみたいなもんじゃない?良く分かんないけど、うちの国の諜報部隊の頭やってる子の口から一度も聞いたことないよ。本当に存在はしてるかも知れないけど、騙すために適当にでっち上げた嘘の規模だよそれ。」
イツキはそう言ってガタガタ震えているイザークの首根っこを掴むと、壊れた建物の外から様子を窺っていた衛兵達に向かってイザークを放り投げた。
「やっぱりジョージさんが亡くなったって聞いたときに真っ先に来るべきだった。本当にごめん。」
「いえ…イツキ様は…外国の要人ですから…何も悪くありません…」
イツキ達から少し離れた場所で見守っていた衛兵達は放り投げられたイザークの身柄を確保し、そう言って小さく頭を下げた。
イツキは衛兵達の立場からくる複雑な心境を慮って、頬をポリポリとかきながら口を開いた。
「まぁ…エイムス家のお友達ってよりは他国の要人なんだもんなぁ…。俺からはこれ以上何も出来ない。後はそいつの身柄と、このチャーリー君の身柄はみんなに任せるよ。一応俺も自分の国には報告はしとく。」
そしてイツキはチャーリーの手元に転がっていたバーグナズ・シャインをヒョイと拾い上げた。
「さて、これを復讐に使いたいだろうけどさ、俺すらも瀕死寸前まで追いやれる古代の遺物なんてやっぱりこの世界にあったらマズい。これはもとの持ち主であるデーメ・テーヌ様に返しておく。」
イツキはそう言ってチャーリーの頭を撫でた。
「君も…まぁ被害者みたいなもんだろうけど、無実の人達を何万人も殺してきたのは紛れもない事実だよ。無知は罪だ。「知りませんでした。ごめんなさい」では済まない、取り返しのつかない事をしてしまったんだよ。悪いけど君は大マーリングにトカゲの尻尾切りみたいに切り捨てられちゃうんだろうなと思う。…俺はあくまで外国の要人だから、多分教国が猛抗議するくらいで、これ以上この件に何も出来ないけどさ…」
バーグナズ・シャインをアイテムボックスにしまい込み、イツキはペロ達を連れてそのまま本邸へと帰って行った。
帰りの結界の中で、ペロとエステルはずっとイツキにしがみついてスンスンと泣いていた。
「ミェン、何かすげー頼もしいお姉さんなんだなって思ってさ、おじいちゃん滅茶苦茶嬉しかったよ。」
イツキは毅然と振る舞うララミェンにそう話しかけて微笑んだ。
ずっと甘えん坊だとばかり思ってたララミェン。
しかしイツキが絶体絶命のピンチに陥った際、瞬時に結界を張りながらペロとエステルを守り抜き、外の衛兵達にイツキの危機を知らせていた。
震えながら泣くペロとエステルにニッコリと微笑みかけて懸命に励ましていたララミェンは、ララグレースの背中を見ながら成長した立派なお姉さんになっていた。
ララミェンはスンと澄ました顔をしていたが、真一文字に結ばれていた口はぐにゃりと歪み、目に涙が浮かんだかと思えばそのままボロボロと決壊したダムのように涙が溢れだしてきた。
「ミェン…こ、怖かった…おじいちゃん…死んじゃヤダ…!」
「はは、よしよし。心配かけたなぁ、本当にごめんなぁ。帰ったらフランク達をとっちめてやらないとダメだな!こらっ!って。」
イツキはそう言ってララミェンを膝の上に乗せて抱きしめる。
健気なララミェンにジーンときたイツキの目に涙がにじむ。





