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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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542.世界が変わりかけた日2

チャーリーという男




この世界はクソだ。

金もない、力もないヤツはただただ搾取される。

偉いヤツ、強いヤツの顔色を窺って黙々と生きる。


物心ついた頃から父親は居なかった。

母は村のヤツらとは違って褐色の肌をしていた。

村の酒場で酔っぱらい相手に踊りを見せる仕事をしていた。


母はいつも綺麗で優しかった。

誰よりも綺麗で、俺にとって自慢の母だった。

吹けば潰れるようなボロい家でじっとする毎日だったけど、それでも母が居ればそれだけで幸せだった。


母は時々、俺にこんな事を言った。


ーーーあなたにはある国の止ん事無きお方の血が流れている


そんな訳ないのは嫌でも分かってる。

もし本当にそんな血が流れているなら、こんな貧しい暮らしを送るわけがない。

そんな事どうでもいいから、俺は早く大人になりたかった。

早く大人になってこんな貧しい暮らしから脱却したい。

母に楽をさせてあげたい。


そう考えると幸せな気分になれた。

母一人子一人、それだけで十分幸せだった。


幸せは長くは続かない。

やがて柄の悪い男たちが家にやってきては何か母と言い争うようになった。

母も俺も力はなく、ただただ震える母の背中に隠れる俺。

そんな時、村のヤツらは決まって見て見ぬ振りを決め込んだ。

なんで誰も助けてくれないんだ?


そしてまた柄の悪い男たちがやってきては母と何やら揉めて怒鳴りつけてゆく。

やがて母は金をむしり取られるようになった。

母は踊りで稼いでも稼いでも、その殆どを男たちにむしり取られてゆく。


はじめの頃は目を閉じて耳をふさいでいた俺も成長とともに抑えきれない憤りを覚え、やがて柄の悪い男たちかは金を奪われまいと俺が抵抗するようになった。

しかしガキである俺の抵抗など有ってないようなもの。

笑いながらオレを蹴っ飛ばす男たち。

それでも知らん振りを決め込む村のヤツら。

泣く母。

倒れる俺に覆い被さり、ひたすら蹴りを一身に受ける母。

うずくまることしか出来ない俺。


俺は力が欲しかった。

母以外の誰もが憎かった。


母に暴力を振るい、金を奪ってゆく男たちの行動は年々エスカレートしていった。


男たちが母の顔を棍棒のような物で思い切りぶん殴った事があった。

誰よりも綺麗な母。

そんな母の鼻は曲がり、歯は抜け、口と鼻から血を流した。

そんな母の姿を見てゲラゲラ笑う男たちは、母の顔を踏みつけ、服を破り捨て、首を絞めながら、思い出すだけでもおぞましい…母を犯し始めた。


縄でグルグル巻きにされた俺には何も出来なかった。

その日の明け方、母は死んだ。


朝になり、村のヤツらがそんな様子を見つけた。

俺はその時の村のヤツらの言葉、厄介事を見るような視線を絶対に忘れない。


「村への援助金が打ち切りになるぞ…」

「下手すると俺達全員取り調べだぞ」

「厄介な事になった」

「例のお方のお妾さんだろ?どうすんだ」

「大人しくセスタナ一家のヤツらに股を開いておきゃ良かったのに」

「南方人は馬鹿だ」

「王国から調査団がゾロゾロ来るのか」

「面倒臭いな、もてなしの準備か」

「疫病神め…馬鹿なことをしてくれた」


母が本当に止ん事無き人の愛人だと知った瞬間でもあった。




やがて小さくて辺鄙な村にお偉いさんがゾロゾロとやってきた。

母が死に、一人になった家にやってきたそのお偉いさん達は俺にこう言った。


ーーー君の本当の名前はオリバー・エイムスという


ーーーモードラド王国のエイムス伯爵家の血を引いている


ーーー今、エイムス家の後継者が不慮の事故で亡くなり、お家存続の危機に瀕している


ーーー君の母君は己の身分から自らエイムス家から身を引き、名前を変えてそのまま行方をくらませていた


ーーーモードラド王国は必死に君の存在を探し、漸くこの大マーリング王国にて君のことを見つけた


ーーー君をエイムス家の当主として迎え入れたいとモードラド王国からやってきた




信じられなかった。

俺には貴族の血が流れていたんだ。


聞けばエイムス家は何百年に渡って国の平和を守ってきた由緒正しい貴族との事だ。

そのエイムス家に代々伝わる古代の遺物とやらの力を使えば、超長命種すらも凌駕する力が手に入るらしい。




ーーー母君の件、遅くなって本当にすまなかった


ーーー母君の無念を晴らし、大マーリング連邦の平和を守って欲しい




母の無念…


母を気紛れのように殺したヤツらは「セスタナ一家」と言うらしい。セスタナ一家は大陸全土に巣くう巨大なマフィアで、大マーリング連邦もその対応に手を焼いているようだ。

その規模は大国である大マーリングでも全貌を把握しきれないらしい。


俺がそのセスタナ一家とかいう奴らを根絶やしにしてやる。

絶対に許さない。


その日、俺は正義の執行者としての道を歩み出した。




大マーリング連邦

首都エルピディオシティ

王宮にて




「ふむ…そのチャーリーとやらの者めが、我が計画に疑いの影も投げかけず、愚かにも駒となりて動いておると…ふむ。」

「報告によれば『セスタナ一家である』『母君の無念を晴らす』この言葉を耳元で囁けば女だろうが子供だろうが容赦なく手をかけると。」

「ふむ…して『バーグナズシャイン』…か?どこまで進んでおるか。」

「はっ。エイムス家の者から聞き出した情報によれば間もなく最終戦技まで辿り着くかと。」

「辿り着いた折には教国を…分かっているな?」

「はっ!既にランブルク王国に潜伏している部隊の手筈も整っております。」

「余の威光に泥を塗った愚かなる輩どもよ…おぬしらの不敬な行いを、決して赦すことはないぞ。」


ウンベルト王はクツクツとほくそ笑む。


気に入った市中の女に産ませた己の血を引く息子だろうが、ウンベルト王にとっては「馬鹿で疑うことを知らない便利な駒」程度の認識しか無かった。


とは言え今回の計画を遂行するに当たり、駒には「己の血を引いている者」という血に対する面倒な拘りがあり、ランブルク王国陣営を打ち倒した折には「バーグナズシャイン」を取り上げた上で適当に爵位と辺鄙な領地を与えるつもりだった。


学がなく無知なチャーリーは大マーリング連邦の手のひらで良いように転がされ続け、ただひたすら熟練度を上げるための大量殺人を繰り返していた。

それは「セスタナ一家」というこの大陸に巣くう巨大な悪を討ち滅ぼす為であり、愛する母の無念を晴らす為であり、己の行いに一つの疑問を抱いていなかった。


「セスタナ一家」というのが片田舎の小さなギャング程度である事も、自らが善良な市民を殺して回っている事も、チャーリーは何も知らない。




旧モードラド王国

エイムス伯爵領



イツキはとりあえず手が空いていたルキア達に「ちょっとモードラドに日帰りで行ってエイムス家の様子を見つつ港で魚を食べてくる」と伝え、全速力でモードラド王国へ向かった。


帰りが遅くなると確実にどやされてしまうと思ったイツキは、昼前にはモードラド王国のエイムス伯爵領へ到着してしまった。


そして以前世話になったエイムス家の屋敷の前までやってきた。

ララミェンとエステルは退屈そうに、ペロは興味深そうにじっと屋敷を見つめている。


「本来ならさ、ここに世話になった人達が居たんだよ。でも事故で亡くなっちゃったって…せめて先代のニクソンさん達に何か一声かけたい所だけど…」


イツキがそう言いながらもエイムス家の屋敷の門まで歩みを進める。

門では立番の衛兵が二名立っていた。


「すんなり会えるかな…」


イツキの存在に気がついた衛兵は緊張の面持ちでイツキをジッと見つめる。


そして武器を持ったままイツキに近寄って制止するような仕草を取った。

この大陸で特徴的な見た目をしている自分が、まさかエイムス家にそんな対応をされるとは夢にも思ってなかったイツキは目を見開いてしまう。


「なっ…!!えっ!?」

(今すぐ逃げてください…!!もうここは…)


衛兵の男がイツキの耳元で呟こうとするが、屋敷の方から若い男が壮年の男を引き連れて歩いてきた。


「待ちなさい。そのお方はひょっとするとイツキ・モグサ様ではありませんか?」


壮年の男がそう言うと、衛兵達は悔しそうな表情を浮かべイツキから身を引いた。

イツキは良く分からない展開に困惑しつつも頭を下げる。


「あっ、どうも…」

「はじめまして、私はエイムス家執事のイザークと申します。こちらはエイムス家領主オリバー・エイムスでございます。」


基本的には執事のイザークだけが応対する様子で、オリバー・エイムスと呼ばれた若者は表情も変えずにジッとイツキを見つめている。

何となく不穏な空気を察したララミェンはペロとエステルを背中に隠してジッとイツキ達の様子を伺っている。


「モグサ・イツキです。あの…ジョージさんたちの訃報を以前聞きまして…落ち着いた頃合いを見計らってニクソンさん達にご挨拶でもしようかと…」


イツキの言葉に執事のイザークはオリバーに耳打ちをする。

オリバーは深刻そうな、険しい表情で小さく頷く。

執事のイザークは深くお辞儀をしてみせた。


「それはご丁寧にありがとうございます。こんなところで立ち話もなんです。どうぞ、中へお入りください。おもてなしさせていただきます。」


執事のイザークの誘いにイツキはチラッとララミェン達に視線を送り、小さく頷いてから誘いを受けることに。


屋敷の中に入ると応接室に通されたイツキ達。

暫く待っていて欲しいと言われ、ソファーに座って待つことに。


「おじいちゃん、なんか…嫌な感じがする。ゾワゾワする。」

「ペロも。ここ、ヤダ。」


ララミェンとペロはそう言って不安そうな顔をイツキに向けた。

そんな二人の言葉に怖くなったのか、エステルはララミェンの膝の上によじ登り、ララミェンに抱きつく形で座った。


「お姉ちゃん、こわい…」

「大丈夫、お姉ちゃんがエステルを守ってあげる。」


ララミェンは穏やかな微笑みを浮かべながらエステルの背中をポンポンと叩く。

ペロは相変わらず不安そうにイツキを見つめている。

あまり子供達を不安にさせても仕方ないと思ったイツキは肩すくめて苦笑してみせた。


「うーん、まだ悲しみから立ち直ってないのかな。まぁおじいちゃんがついてるから大丈夫。何があっても絶対死なないし死なせないよ。」


イツキはそう言って不安そうなララミェン達にウインクしてみせる。

しかしララミェン達の表情は冴えない。

イツキは頬をポリポリとかいてしまう。


(た、確かに…なんか嫌な感じだ。不安が纏わりつくような…用事が済んだらさっさとずらかろうか…)


そうして小さくため息をついたイツキ。


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