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ダークエルフと暮らす異世界間違い転生  作者: 三沢 七生


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544.世界が変わりかけた日4

そして夕方、イツキが本邸に帰ってきた。

先に家に帰って鼻歌交じりで味噌汁を作っていたララミーティアは、帰ってきたイツキの格好がボロボロになっているのを見て、お玉を持ったまま大慌てでイツキに駆け寄る。


「ちょ、ちょっと!!どうしたのその服!!」


ゲオルグやジーニャ、ルキアとトウシロウ、それにマーウーも目を丸くしてイツキに駆け寄る。

マーウーがオロオロしながらイツキに駆け寄った。


「こっちの肩から先がボロボロじゃん!なにこれ?」

「いやーはは…ちょっと色々あってさ…」


頬をポリポリとかくイツキの後ろからなだれ込むようにペロ達が本邸に入ってくる。




その後イツキがボロボロになって帰ってきた理由について夕食を食べつつ今日あった出来事を一つ一つ説明してゆくイツキ。

ララグレースやミッシェルにケリーもイツキの説明を聞きつつ夕食を食べていたが、途中から何とも言えない表情でイツキの説明を聞いていた。

ミッシェルと結婚してからララグレースを独り占めしなくなっていたララミェンだったが、イツキの話が続いている間、ララグレースにピッタリとくっついていた。

ララグレースやミッシェルにケリーはララミェンが思いっきりララグレースに甘えている理由について「そういうことか」と納得しながらスンスンと泣くララミェンを見守っていた。


最近ではエステルも「じぶんですわる!」と言って聞かなかったが、今日ばかりはゲオルグの膝の上に座っている。


「フランク達、なんで私達に何も教えてくれなかったの!大聖堂だってきっと訪れる人達に情報統制をかけていたのよ!信じられない!行ったのがイツキじゃなくてケリーとかだったらどうするつもりだったのかしら!!」


ララミーティアは珍しく声を荒げてテーブルをドンと叩いた。


「俺たちに頼りたくないって気持ちは、まぁ…分かる。俺とかリュカとか…前に酷いこと言っちゃったしね。でもさ…今回のはあちらさんが短慮なお陰で助かったけど、一歩間違えたら俺はマジで死んでたと思うよ…」

「そんなに強い力だったの?」


ルキアがイツキにそう尋ねると、イツキは深刻な表情のままコクっと頷いた。


「うん、バーグナズシャインの力は想像以上だった…。はっきり言って本当に死にかけた。みんな生きて帰ってこられたから笑い話で済んだけどさ…ちょっと明日フランク達に物申したいよ。いくらなんでも俺達に対して情報統制かけるのは違うよって。」


イツキはそう言って力無く笑った。

ペロは再び目に涙を浮かべると、持っていたスプーンをポイっとテーブルに放り出してイツキの膝に乗った。


「パパ、死んじゃいそうだった!ペロ、パパ死ぬのヤダ!」


そうしてワンワン泣き出すペロ。

エステルも思い出してしまったのか、ペロと同じようにゲオルグの膝の上に乗って抱きつきながらワンワン泣き出す。

ゲオルグも眉を八の字にしながらエステルの背中をさすっている。


「お義父さんお義母さんがモードラド王国へフラッと向かう事は誰でも思いつく事だと俺も思います。相手がもう少し狡猾であれば今頃「イツキ・モグサが唐突に宣戦布告してきたから討ち取りました。大マーリング連邦は教国に宣戦布告します。イツキ・モグサの仇を討つぞ。直ちに弔い合戦に行きます」…大勢の手練れがモードラド王国に攻め込んで全面戦争という地獄のような未来は…そこまで荒唐無稽な妄想ではないと思いますよ…」


ゲオルグはそう言って深いため息をついた。

トウシロウも箸で芋の煮っ転がしを転がしつつも深刻な顔をしながら口を開いた。


「こっちは友好関係があると思っている家にお邪魔してんだ。その異常な…えーと、バーク…?まぁその『ナントカコントカ』の力で練りに練った作戦をもとにイツキ君を討ち取ろうとしてたらさ…今頃イツキ君達は死んでて可笑しくないわな。イツキ君はいくら強いったってさ、実戦経験じゃなくて手合わせの上で…だからねえ…」


トウシロウの言葉にララミーティアまでもが声を殺して泣き始めてしまった。


本邸の中には何とも言えない重苦しい空気が流れる。


イツキはペロの背中を撫でつつも寄りかかってくるララミーティアの肩を抱いていた。

そしてララグレースに甘えるように寄り添うララミェンをちらっと見て微笑んだ。


「でもさ、あの時ミェンが冷静に立ち回ってペロとエステルを守って励ましてくれたお陰で本当に助かったよ。俺一人だったらペロとエステルの安全に気を取られて死んでたと思う。最高に頼りになる立派なお姉さんだったね。」


イツキの言葉にララグレースは目を潤ませながらララミェンに話しかける。


「あら、ミェン。そうなの?」


そんなララグレースの問いかけに、ララミェンは照れくさそうにはにかみながら頷いた。


「うん。ミェンね、お姉ちゃんならこういう時どうするかなって思ったの。お姉ちゃんならどうするかなって思ってたらね、お姉ちゃんの背中が浮かんだの。お姉ちゃんが側に居るみたいだなって思って勇気が湧いてきたの。」

「ミェンは一番近くでグレースの背中をずーっと見てきたもんね。偉かったね、ミェン。」


ケリーの言葉にミッシェルも涙ぐみながらコクコクとじっくり頷いた。

ララグレースは嬉しそうにララミェンの頭頂部に唇を落とす。


「お姉ちゃん、ミェンのお姉ちゃんとして本当に誇らしいわ。」

「お姉ちゃん大好き!ミェンも立派なお姉ちゃん誇らしい!」


幸せそうにララグレースに甘えるララミェン。

逞しいお姉さんララミェンはいつも通りの甘えん坊ミェンに戻っていた。




その夜、ペロはイツキから離れようとしなかった。

普段なら高確率でケリーとララミェンの寝床に混ざる形で寝ていたペロだったが、今日の出来事が余程怖かったようで、ずっとイツキにしがみつくようにして寝ていた。

所狭しと床に敷いた布団では真ん中にイツキとペロ、そして両脇にララミーティアとマーウーという形で横になっている。


「よっぽど怖い思いをしたんだねー。」


イツキの方を向きながら肘ついて横になっていたマーウーがそう言うと、同じように肘を突いて横になっていたララミーティアが切ない表情を浮かべて、ペロの髪をソッと撫でつけた。


「私ですら下手したらイツキが死んでたと聞いて怖い思いをしたわ。」

「私もだよ。いくらイツキが強くてもさ、やっぱそんな一発逆転みたいな古代の遺物?があるんだね。そう考えると怖いなー。」


ララミーティアの言葉にマーウーがそう言って苦い顔をする。

イツキはペロの寝顔を眺めつつ口を開く。


「トウシロウさんの言うとおりだと思ったよ。いくら俺が強くたってさ、そりゃ1対1の勝負で強いってだけでさ、今日みたいなトラブルに巻き込まれる形では全然上手く立ち回れないのが良く分かった。」


そう言ってペロの頭をそっと撫でるイツキ。


「今日だってさ、襲われた瞬間に重力魔法でさっさと制圧すべきだった。でもいざとなるともう全然…そんな手が頭に無くてさ、結界で守りつつ会話をしようとするっていうね…そんなの悪意を向けてくる相手に無意味な行動だよ多分。」

「イツキはもともと平和な国からやってきたのよ?こっちへ来ても平和にノンビリ暮らしてるのに、殺気を向けられた瞬間に向けてきた相手に斬りかかったり制圧したりなんて行動を咄嗟に出来るわけがないわ。」


ララミーティアはそう言って眉を八の字にしてみせる。


「そーだよそーだよ。ティアの言うとおりだと思うなー。」


マーウーもそう言ってニッコリと笑みを浮かべる。

しかしイツキの表情は冴えない。


「今回の事を受けて、俺も戦地に身を置きたいとは思わないからさ、もう勝手に他国とかに行くのは辞めようと思う。」

「それがいーよ、ねえ?」

「そうね、別に単独で他国に行かなくなって困る事なんてないわ。」


マーウーとララミーティアはそう言ってイツキの意見に賛同する。


「そうだね。俺はこの本邸でさ、美人な奥さん達と幸せに暮らして、そんで可愛い子供や孫、その子孫たちとぼんやり楽しく過ごしている方が好きだな。」


イツキはそう言ってララミーティア、マーウーと順番に顔を見て微笑みかける。


「えへへ、美人な奥さんだってー。」

「ふふ、私から始まってベルヴィア、サーラ、そしてマーウー。果たして最終的に何人子供が出来るかしらね。」

「私、何人子供を産むのかな?」

「それはもう沢山よ。イツキったら私にすらまだまだ飽きる気配がないもの。」


悪戯っぽく微笑むララミーティアとクスクス無邪気に笑うマーウー。

イツキはペロと向かい合う形で背中を丸め、ジッと目を閉じた。


「ダメダメ、今日はペロも居るし出来ない。これ以上はムラムラする。本日のイツキ・モグサの営業は終了しました。」


そんなイツキを見て益々クスクス笑うララミーティアとマーウー。




翌朝、モグサ家の誰かが首都ミーティアへ行く前にフランク、アンジュ、ヴィクトールの三本柱が揃ってやってきた。

危ない目にあったイツキよりも他の面々は思った以上に怒り心頭の様子だった。


一通り各々が苦言を一言二言呈し、やがてずっと胡座をかいて腕を組んだままじっと目を閉じていたトウシロウが口を開いた。


「自分達で何とかしてえって心意気や良しだけどな?じゃあティアとイツキという象徴の耳に何一つ情報を入れねえってのは筋が違うと思うぜ?教国三本柱の判断でよ、下手したら今頃モグサ・イツキというみんなの心の支えが死んじまって、大マーリング辺りで生首が飾られてた未来だってあったんだぞ?」


トウシロウが珍しく怒り心頭な胸の内を隠すようにイライラしながらそう語った。

更にトウシロウは続ける。


「そうなっちまったら俺はクラウスとカミラでも連れて大マーリング連邦にカチコミに行って問答無用で戦争を始めてたぜ。」

「私もトウシロウさんに誘われなくても敵討ちに行ったかな。おじいちゃん大好きなルルが倒れちゃうかもだし、私だってずっと本当の孫みたいに愛してくれるおじいちゃんが殺されたってなったら我慢出来ない。」


カミラはそう言ってトウシロウに視線を送る。

視線が合ったカミラとトウシロウは満足そうな表情をして小さく頷き合った。


そんな説教大会を見守っていたコルムが徐に口を開く。


「ララミューズ薬局としても度々会議に参加して詳しい話は耳にしていました。そういう意味ではニコ君も俺も同罪です。」

「それを言うなら俺達引退組だって同罪だよ。」


ガレスが表情を殺しながらそう言って小さく手を挙げた。

ウーゴは静かに息を吐いてから徐に口を開いた。


「だな。でも不確かな情報だけで勝手に怒り狂われてよ、勝手に動かれたら俺達じゃイツキ・モグサ、ララミーティア・モグサ・リャムロシカっつー象徴の行動を止められねえ、それどころか国から抜けるって言われたらなんて考えると、どうしても尻込みしちまうというか…後回し後回しにしちまったって言い訳もある。」


ウーゴはそう言ってイツキに視線を送る。


「しょんぼりしてるコイツらだって同じだぜ。力の差が有りすぎて上手くコントロールする自信がねえんだよ。だからあんまやいのやいの責めねえでやって欲しい。」


そんなウーゴの意見にテオドーラも切ない笑みを浮かべながら口を開いた。


「そうだね。その通りだね。そんな中で象徴に頼らない国づくりってなったら必然的にコミュニケーション不足に陥っちゃうのは…理解出来ちゃうかな。ほら、私達は二人の子供の世代だけど、フランク達は孫の世代だから、二人に対する距離感もちょっと違うと思うな。」


テオドーラの言葉にイツキは大きく頷いてみせた。


「確かに。引退組の言うとおりだと俺も思った。フランク達だって何も悪気があって情報統制した訳じゃないんだしさ、この魔物蔓延る魔法の世界で個の力が持つ重要性をね、力を持つ側の俺やティアが理解してなかった点はあると思う。」


イツキの言葉にララミーティアも眉を八の字にして微笑みながら頷く。

イツキは言葉を続ける。


「そりゃ気後れするに決まってるよ。自分達より全然強い人がさ、ぶち切れて勝手に行動を起こし始めたらさ、もう自分達で止める手立てが無くなるんだもん。自分達だけでもなんとかなりそうな限りさ、そりゃ報告したくもなくなるよね。」


トウシロウのように胡座をかいて座っていたイツキはスッと立ち上がり、フランク、アンジュ、ヴィクトールと順番に頭をそっと撫でて回った。

フランク達はそんなイツキを呆然と見つめるが、イツキの優しい表情に思わず見取れてしまう。

誰もがそんな突拍子のないイツキの行動を見守る中、イツキは再び口を開いた。


「これまで苦労かけて本当にごめんな。俺達象徴はさ、ちゃんと立場ある者として振る舞うよ。勝手に外国に行かないし、勝手に思いつきで首都ミーティア以外の町にフラフラ行かない。みんながこう慕ってくれるからってさ、今までが無責任過ぎたんだ。」


イツキは微笑みながら座っているララミーティアに視線を向ける。


「今回のことでさ、自分が命を狙われるような立場にある人なんだって痛感した。万が一、俺が死ねば首都ミーティアを守る絶対的な結界は無くなって国防計画を練り直す必要が出てくるし、危険が生じるようになれば折角ニコが掴み取った天界との交流も無くなるかもしれない。もう俺は俺だけのものじゃないんだ。」

「そうね。いつまでも自由人では居られないって思ったわ。その代わりね、私達象徴が教国の三本柱から報告を受ける場を定期的に設ける仕組みを作って欲しいの。」


ララミーティアの言葉にフランクが「報告の場…」と呟く。


「そう。報告の場。この先何度世代交代が起きようと、私達象徴と教国を担う子孫たちと、萎縮したり疎遠になったりしない、ちゃんとした報告の場。私達も教国を無視してあれやこれややるつもりは無いわ。今どんな悩み事を抱えているとかね?あんな事こんな事をして欲しいとか、末永く良好な関係が続けられたら良いなって思ったの。」


ララミーティアの意見にはイツキも賛成のようで、うんうんと頷いていた。


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