SS-12 エピローグ 僧侶
何だか未だに信じられない。
重さを増した身体を、椅子にゆったりと預ける。
この身に宿る新たな命。
大きくなるお腹は、確かな現実として訴えてくる。
同じ聖職者の優しい夫。
まさか家庭を持つなんて。
憧れは確かにあった。
しかし悲しいかな、相手が居なかった。
切っ掛けとなったのは、やはりあの婚礼だろうか。
勇者様と秘書さんの結婚。
喜ばしくある反面、羨ましくもあって。
その後に今の夫と知り合い、関係が自然と深まって行った。
あまりにもあっという間の出来事過ぎて、どうにも現実味が希薄。
夢のような日々。
あのお二人も、そうなのだろうか。
過ぎ去る時間は早く。
こちらの心構えなど待ってもくれなくて。
母になるという幸福と不安。
幸いなことに、夫を含め周囲の人間は親切で優しい。
日毎に話をしてくれたり、聞いてくれたり。
この不安はきっと些細なもの。
むしろ気掛かりなのは、勇者様のご容体の方。
ここ数年で体調が急激に悪化しているご様子。
聖魔法もポーションも然したる効果が見受けられない。
こんなのはあんまりではないか。
長い長い戦いの末、ようやく手にした幸福のはず。
奪う権利など、何者にもありはしない。
看病に当たる秘書さんのことも心配で堪らない。
しかしおいそれと足を運べる場所でもなくて。
夫にすら黙って、人目を忍んで向かうのも限界がある。
加えて今のワタシの状況もある。
しばらくは無理もできない。
ピクシーを介して、伝わってくる状況は芳しくない。
大変なときにお支えできないのが、とても歯痒く心苦しい。
娘が産まれた。
可愛い。
可愛くて可愛くて仕方がない。
そして何より愛おしい。
受け継がれた青い髪。
全体的にワタシ似のよう。
これはもう美人確定です。
夫は自分に似ず悔しがりながらも喜んでくれている。
眺めているだけで、一日が過ぎ去ってしまうかのよう。
その実、世話で大忙しなのだけれども。
眠りは浅く、よく泣く子。
一人きりでは、心も身体も持たなかったかもしれないほどに。
ここでも周囲の人間が助けてくれた。
有難い。
中でも頼りになったのは、孤児院の院長さん。
歴戦の猛者の如く、落ち着き払い手慣れてもいて。
突然の発熱や嘔吐など、慌てふためくワタシを都度叱り諭してくださった。
母親に成るのは容易くとも、母親として在るのが如何に大変なことかを日々学ばされる。
目まぐるしい。
子供は小さな怪物とは、よく言ったもの。
可愛く愛しい娘。
新たな戦場には、決して倒せぬ相手が君臨し続ける。
泣いて泣いて泣いて泣いて泣いて。
時折笑ってくれて。
指を握ってくれて。
手を伸ばしてくれて。
悲しんで、寂しがって、甘えて、怒って。
表れる感情が増えて行く。
得難い日々。
この日常は平和あってこそ。
もう少し娘が大きくなってくれたなら。
娘と、そして夫も連れ立って、お二人に会いに行きましょう。
幸せのお礼を告げに。
本日はSSを後3話、投稿します。
今回更新分を以て完結となります。
僧侶さんは幸せエピソードと相成りました。
これからは母親としてより一層強くなってゆくことでしょう。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




