SS-11 エピローグ 戦士
意識は朦朧とし、身体の感覚は曖昧に。
余分なモノは削ぎ落され、残されたのは意志か意地か。
もう数合。
届かせる。
呼吸すらも忘れ去り、ただただ没入する。
考えるよりも先に身体が動き、迫る大剣を打撃で逸らす。
生じる隙は刹那でも足りない。
逸らしたはずの大剣が、何事もなかったように再び眼前に現れる。
瞬きほどの合間で。
尋常な動きではない。
それも当然、常人が相手ではない。
Sランクのステータスを振り絞ってなお、突破できぬ防御。
脳が焼き切れるほどの熱を感じながら、限界など超えて双棍を振るう。
「さっぱりだ。さっぱり進歩せん」
「うるせぇ」
「時間の無駄だ。いい加減出て行け。鬱陶しい」
「勝つまでは諦めねぇよ」
芝生に仰向けに。
大の字になりながら疲労を癒す。
光源となっている水晶、それを取り込む木が視界を専有する。
「話にならん。何度やろうとも結果は同じ。既にどれだけ負けたと思ってる」
そこに割り込み見下ろす女性。
褐色の肌に黒髪を頭頂部で束ねて垂らす、グノーメだった。
「負けた数なんざどうだっていい。勝つことだけが意味を持つんだよ」
「随分と己に甘い考えだな。戦闘において敗北とは、即ち死を意味する」
「んなこと偉そうに講釈されるまでもねぇんだよ」
「訳が分からん。魔法も使えず、妖精の助力もなしに、人が妖精に敵う道理もあるまい」
「抜かせ。どんだけつえぇ力だって、使い手次第、使い方次第で勝敗は変わってくるもんだ」
挑んだ回数は数十、いや、3桁はとうに超えたのか。
手数で敵う相手じゃない。
それはまぁ理解できた。
「その体たらくでか? 実践できておらんようだがな」
「そいつはこれからだ」
「まだ懲りぬのか」
「たりめぇだ」
相手の攻撃を逸らさせることはできてる。
つまり力はこちらが上。
相手に攻撃を防がれちまう。
つまり速度は相手が上。
魔装化とやらで全身を鎧で包んでいる癖に、馬鹿みたいな速さ。
ひょっとすると、大剣や鎧に重さはないのかもしれねぇ。
鈍重そうな見た目に惑わされるな。
「解せんな。かの魔王は床に臥せっていると聞く。見舞うが仲間と言うものではないのか?」
「そばには居るべき人間がちゃんと居る。オレがすべきことはそれじゃねぇ」
「ワタシに勝つことが、それに値すると?」
「強さが必要なんだよ。アイツに守られねぇだけの強さがな」
「勝たせてやれば満足するか?」
「手を抜きやがったら承知しねぇ」
「ハァッ……厄介なことだ」
相手が本気で拒否してるってんなら、とっくに此処を追い出されてるだろう。
まぁ、嫌がってはいるんだろうが。
精々付き合ってもらうぜ。
アイツがこれ以上無茶しねぇで済むように、オレが強くなるしかねぇんだ。
双棍で挟み込み、武器破壊を狙う。
目論み通りに事は成せたが、次の瞬間には大剣が復元して見せやがった。
蹴りも攻撃に織り交ぜる。
単一の攻撃じゃ通じねぇ。
相手の速度はオレを上回っているんだ。
攻撃箇所や手段を変えたぐらいじゃ、全て防がれちまう。
違う箇所を同時に狙え。
双棍と蹴り、都合3つの同時攻撃。
大剣を面に構え、盾代わりに防がれる。
攻撃箇所をもっと離さねぇと駄目か。
いや、まずは大剣の動きを封じて、残った部位で攻撃してみるか。
双棍で封じての蹴り。
大剣を蹴飛ばしつつ双撃。
どちらも通用しない。
ほぼ同時の攻撃は、相手にとっては時間差の攻撃にしかならねぇらしい。
大剣が悉くを防いでみせやがる。
相手の意表を突け。
予想される程度の攻撃じゃ防がれちまう。
双棍を振り下ろす。
勢いのままに、左のみ手放す。
左手が空く。
そのまま掴みかかる。
狙いは大剣か腕。
加えて右の棍で殴り掛かる。
更には左足で先程手放した棍を蹴り飛ばす。
全てを一瞬の内に済ませる。
異なる3つの挙動は、相手の1つの挙動により封殺された。
回転。
接近する悉くを弾き飛ばされる。
迎える先は壁。
「器用なものだが、通じぬな」
「みてぇだな」
「諦めはついたか?」
「まさか」
「思うに、意志は見事なものだが、その分覚悟が足りぬ」
「何だと?」
「次で終いだ。二度は応じぬ」
「お、おい待て!」
「付け焼き刃など無為無駄。どうせ幾度やるも一度限りも変わりはせぬ」
勝手な宣言の元、後がなくなる。
次が本当に最後。
勝てなければ、オレはこのまま変われず仕舞いか?
覚悟が足りねぇだと!?
言ってくれる、言ってくれるぜ。
戦闘経験なら、圧倒的にこっちが上だ。
んでこの様を晒してやがる。
情けねぇなぁ。
次があると腑抜けた考え。
なるほど確かに、このままじゃあ何度試そうが駄目だろうな。
不退転の覚悟。
それがどうにも足りねぇらしい。
相手の言うように付け焼き刃は通じやしねぇ。
必要なのは相手に通じる確かな一撃。
力はこちらが上なのだ。
ならば全力で殴り掛かる。
二の手など考えず、全力の一撃を見舞え!
「多少はマシな目付きになったか。とは言え、結果は明らか」
もはや言葉は不要。
あらゆる力を双棍に込め、防ぐ大剣諸共叩き伏せる。
腕の力だけじゃ足りねぇ。
全身だ。
足、脚、腰、背、胸、肩、腕、手首、手。
指先に至るまで。
搔き集めろ。
全ての力を一撃に、いや双撃に込めろ!
両腕を振りかぶり双棍を背に構え、ゆっくりと歩を進める。
「戯け。全力を躊躇うとは」
移動に余分な力は必要ない。
温存する。
一瞬の爆発のために。
「待ち構えるまでもない。一撃で終いだ!」
相手が焦れたか、大剣を振りかぶる。
間合いが詰まるのは一瞬。
ここだ!
踏みしめる。
動かずに力を出すなら、歯を食いしばった方がいいらしい。
動きながら力を出すならばその逆を。
歯は食いしばらず、隙間を空ける。
全身を連動させ、双棍に全力が集約される。
相手の速度すらも利用する。
究極をここに。
振り下ろす。
「フン。手間のかかる手合いだ」
「どうだったよ」
「言葉に意味はあるまい。この結果が全てだろうさ」
地に足をつけるのはオレのみ。
グノーメは壁に打ち付けられていた。
「すべきことは済んだのだろう? ならば仲間を見舞ってやれ」
「おう」
強くなった自覚など皆無。
精々が力の使い方を学べたぐらいか。
そうそう実戦で使い物になる代物でもない。
それでも勝った。
幾度挑んでも敵わなかった相手に。
双撃は大剣を砕き、相手を吹き飛ばしてみせた。
「あー、まぁなんだ。世話になったな。あんがとよ」
「ええい、どこへなりと疾く失せろ」
随分と長い期間、付き合って貰っていたのだ。
礼は言っておくべきで。
後、もう一つ告げておくべきことがある。
「グノーメよぅ。オレはオマエに惚れてる。好きだ」
「――――」
沈黙。
応えはない。
が、相手の表情は目まぐるしく変化し続けている。
さて、と。
言うべきことは言い終えた。
アイツのツラを拝みに行くかね。
「またノームを借りてくぜ? んじゃ、また後で来るわ」
人間だ妖精だなんざ関係ねぇ。
いい女だ。
美人で強いときてる。
惚れ甲斐がある。
今度は口説き落としてやるさ。
なぁに、時間はまだたっぷりとあるんだ。
本日はSSを後4話、投稿します。
今回更新分を以て完結となります。
実はまだ好意を告げてもいなかったというね。
PTの兄貴分が見せた意地と覚悟。
主人公のそばを離れていたのは、より強くなり再び守る立場へと至るため。
主人公がベッドから動けなくなった後、彼の活躍があればこそ、守られたものがあったのです。
果たして、グノーメの心は射止められたのでしょうか。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




