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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
最終章 新天地編
353/364

311 元勇者の魔王、心配

 結局、魔法使いが帰るまでは村を出ることは叶わなかった。


 復調はしている。


 今日からはまた活動を再開しなければ。


 実家を出たところで、秘書さんが立ち塞がった。



「また行かれるのですか?」


「もちろん。すべきことですから」


「どうしても連れて行っては貰えないのですか?」


「心身共に危険がありますから」


「守ってはくださらないのですか?」


「えぇっと……この村に居た方が安全だと思いますよ」


「ちょっと、アナタたち。朝っぱらから何をやっているの?」



 扉を開けた状態でいたため、中に状況が筒抜けだったようだ。


 呆れたように、母さんが背後からやって来た。



「あ、お母様。おはようございます。お騒がせしてしまい、申し訳ございません」


「はい、おはよう。こんないい天気に、綺麗なお嬢さんを置き去りに、またどこかへ行くつもりなのね」


「母さん……。命が危険に晒されているんです。全てをやり終えるまでは、時間も惜しいぐらいなんです」


「そうして倒れたのよね」


「それはまぁ、そうなんですが」


「やってることがいくら立派で誇らしく意義深かろうとも、そばに居る女の子を悲しませるのはどうかと思うわ」


「いえあの、女の子という年齢でもないのですけれども……」


「そんなことないわよ。いったい、いつになったら娘として迎えてあげられるのかしら」



 前後を挟まれ、居心地の悪さは言わずもがな。


 すっかり仲良くなったらしい二人。


 喜ばしい限りだが、協力して妨害するのは止めていただきたい。



「もっと気を配ってあげなさい」



 口調が真剣なモノに変わる。


 相対するように背後へと身体ごと向き直る。



「待っているだけなのは不安なものよ。必ず自分の元へと帰って来てくれる。そう安心させてあげられないなら、お母さんは何度でも行くのを止めるからね」


「お母様……」


「アナタの人生だもの、好きに生きる権利はアナタにこそあるわ。他の誰にも強制はできないのも分かってる」



 それでも、それでもと、すがるように言葉は続けられる。



「帰るべき場所が、変わらずあるとは限らないのよ? それは場所だけじゃなく人間も同じ。いつまでもは待っていてはくれないわ」



 両頬を温かく柔らかい感触が包む。


 こちらに手を伸ばしつつ、告げてくる。



「アナタの人生なのよ。しっかり見据えなさい。大事に想うだけじゃなく、行動もできるはずよ。よくよく考えてごらんなさい」



 パァーン。


 小気味良い音が頬から発せられる。


 ヒリヒリする頬を残し、母さんが家に入り扉を閉めた。


 言わんとしていたことは、何となく察せられもする。


 要するに身を固めてはどうか、という話なのだろう。


 告白こそされたものの、こちらからは未だに何も応えられてはいない。


 家族とは違う。


 仲間とも違う。


 別の何かではあるように思う。


 とは思うが、まだ確信には至らない。


 朝とは言え、村の住人から幾つか視線を感じもする。


 加えて、扉の向こう側には気配がある。


 聞き耳を立てているのは丸分かりなわけで。


 この場凌ぎで出す結論に誠実さはあるまい。



「必ず帰って来ますし、これからの関係についてもよく考えてみます。ですが今は、行かせてください」


「行かないでと、私が言ったら……困らせてしまうだけですよね」


「済みません」


「どうか、どうかお気を付けて。無理などされないでください」


「心配いらねぇぜ。オレが付いて行ってやるからよ」



 いつの間にか、そばには戦士が腕組しながら立っていた。


 気配を消して来たらしい。



「ど、どうもお久しぶりです」


「おう。朝から痴話喧嘩とは、見せつけてくれるじゃねぇか」


「んだ」



 更に足元にはノームが。


 戦士を真似てか、腕組していた。



「んじゃ、とっとと済ませて帰って来っか」


「本当に付いてくるんですか?」


「嘘ついてどうすんだよ。ほれ、きびきび歩け」


「はいはい、歩きますから、背中を押すのを止めてください」



 ややこしい空気を吹き飛ばすようにして、戦士に連れ出されて行った。






 一度山に入り、そこからピクシーを頼って、未だ保護していない魔物の元へ。


 眼前に広がるのは、黄色く乾いた世界。


 そして何より暑い。



「よりにもよって、砂漠かよ」


「手早く済ませましょう。ピクシー、案内をお願いします」


「その前に匿ってぇ~。日陰じゃないと無理ぃ~」



 熱気により大気が歪む。


 秒単位で消耗をいられる。


 事前の砂漠の準備も無い。


 砂が否応なく足取りを重くさせながら、魔物の元へと急ぐ。



「しかもコイツらかよ」


「魔物は魔物です」



 砂丘の陰に潜んでいたのは、幾らか見知った魔物。


 ワームだった。


 生憎と意思が通じないのは、以前に学んでいる。


 手早く広範囲の支配を使い、空間の歪みへと入って貰う。



「連れ帰って大丈夫なのか? アイツら何でも食うぞ。それこそ魔物だってよぉ」


「支配がありますから。襲わせたりはしませんよ」


「ならいいけどよ」



 それからも空間の歪みでの移動を繰り返す。


 日が高さを変えるころ、何処かの岩場で唐突に戦士が呼び止めた。



「ちぃっとばかし話そうぜ」


「は?」


「いいだろ、まぁ座れや」


「良くはないんですが」


「座れ」



 有無を言わさず、ですか。


 仕方なく地べたに腰を下ろす。



「倒れたらしいな」


「情報の出所でどころは魔法使いですか」


「あぁ、くどくどと文句を、な」


「もう快復しましたよ」


「オレらがそばに居りゃ、違ったのか?」


「はい?」


「秘書の言うことは聞く耳持たねぇらしいじゃねぇか」


「そういうわけでは」


「無いってのか? 傍から見てた感じ、どうにも避けてる風だったがな」


「そんなつもりはありませんよ」


「その言葉、相手に伝わってなきゃ、意味がねぇな」


「これ、何の話なんですか?」


揶揄からかってるわけじゃねぇさ。ただの確認みてぇなもんだ」


「確認ですか」


「あぁ、秘書のことを好きなのか嫌いなのか。ここらでハッキリと聞いておくべきだと思ったんでな」


「戦士も、ですか」


「なんだよ」


「いえ、ついさっき、母さんからも似たような話をされたもので、つい」


「気が気じゃねぇのさ。その真っ白い髪を見せられれば、嫌でもな」



 目を背けきれぬ現実。


 望外な奇跡の代償。


 少しだけ気が滅入る。



「ふーっ」


「好意を向けられるってのは気持ちがいいのかもしれねぇがな。嫌ってるなら、それこそ早く言ってやるべきだぜ」


「嫌ってはいませんよ」


「けど、好きかどうかは分からねぇってか?」


「そうなんですよねぇ」


「好きか、嫌いか、何とも思っちゃいねぇか。3つしかねぇ内の、いったい何で迷ってんだ」


「そんな単純な……」


「単純なことだ。オマエは難しく考え過ぎなんだよ。魔法使いや僧侶と比べて、どう感じるよ」



 どう、ねぇ。


 魔法使いは兄妹、いや姉弟だろうか。


 僧侶さんは姉のような母親のような。


 では、秘書さんは……。


 どちらとも違う。


 それは確かなのだけれども。



「くわぁーっ、煮え切らねぇヤツだな。ならよぉ、秘書が他の男と仲良くしてたら、どう感じるよ」



 むむむむむ。


 良い気分ではない、かな。



「相手だって生きてるんだ。ずっと待って居てはくれねぇぜ」



 こちらの返事を待たず、すっくと立ちあがる。



「答えを聞かなくていいんですか?」


「ツラを見りゃ何となく分かるってもんだ。それによ、男相手に告白なんてするもんじゃねぇぜ」


「それじゃあ一体、何がしたかったんですか」


「どうにものんびり構え過ぎなんだよなぁ。……勢いも大事ってか。帰ったら告白しろ」


「はぁ!?」


「覚悟を決めやがれ。先延ばしにすんじゃねぇ。今までだって十分過ぎるほどに時間はあったんだろうが」


「もうやってることが無茶苦茶ですね」


「オマエにはオレらほどの時間は残ってねぇんだ。悠長にしてる場合かよ」



 超級魔法の反動は、確実に蓄積されている。


 髪の色然り、身体の不調然り。


 そう遠からず自由に行動もできなくなるだろう。


 どうしたって皆を残すことになる。



「勇者でも魔王でもなく、人間として生きて死ね。それがオレらの願いなんだぜ」



 こちらへと差し伸ばされる手。


 人間としての終わり。


 それをどう迎えるべきか。


 誰と共に在りたいのか。


 そんな大事なことを、帰り着くまでに考えろと言うのか。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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