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勇者は転職して魔王になりました  作者: nauji
最終章 新天地編
352/364

310 元勇者の魔王、どうしてここに

 皆の食事が済み、どこか弛緩した空気が流れている。


 では改めて、魔法使いが何故ここに居るのか尋ねるとしよう。



「どうしてここに?」


「人に物を頼んでおいて、忘れたって言うの?」


「はい?」



 頼んだって何を……。



「あ」


「思い出したようね」


「もしかして、ゴーレムがもう」


「創ってきたわよ。前と同じく、土魔法限定だけどね。ただ、ここに土魔法が使える人間が居るとも限らないから、魔力を注げば動くように改良しておいたわ」


「頼んでから、まだ全然日が経ってませんけど」


「作り方自体は分かってるからね。後は材料と魔力だけだったし。改良も核の側に土魔法を発動させるよう仕込んだ程度だし」


「設置場所は?」


「門番代わりって話だったわよね? 村の入り口に置いといたわ」



 言うほどに簡単なはずはあるまい。


 態々、他事よりも優先して取り組んでくれたのだろう。



「ありがとうございます」


「そうね。感謝は大事よね。ちょっと王都を襲撃して、お菓子でも献上して欲しいぐらいよ」


「それは流石に。移動はピクシーに頼んだんですかね」


「そうよ。やっぱり便利よね。協会までの移動に要した苦労は何だったのかと、ひたすらに思ったわ」



 間髪入れずに、魔法使いが続けた。



「で、問題はこっちよ。何を無様を晒してるわけ?」


「無様って」


「そうでしょう? 倒れるまで動き回って、よっぽど早死にしたいらしいわね」


「そういうつもりはありません。ただ、動ける内にすべきことをし終えておきたいだけです」


「だからって全部アンタがやる必要ってあるわけ?」



 いやまぁ、最近は人間も魔物も増え、やることは山積みになっていた。


 その山は高さを増すばかりで。


 既に俺の許容量を超え始めていたのは事実。



「作業は分担しなさい。できる人間にやらせればいいのよ。アンタ自身が動くんじゃなく、人を上手く使いなさい」


「はい、済みません」


「秘書もよ。馬鹿の手綱をちゃんと握っておきなさい」


「馬扱いは酷いと思います」


「どうせまたすぐにでも無茶をするに決まってるんだから。股間を潰してでも止めてみせなさいな」


「「それはちょっと」」



 思いがけず声が揃う。


 乱暴どころではないだろう。



「取り敢えず、分かる範囲で指示は出しといたから。後はどうにかしなさい」


「お手数をお掛けしました」


「まったくよ。圧倒的に糖分が足りないわ」



 何と言うか、俺は指導者的な立場には不向きなのだろうな。


 思い起こされるのは、故郷への道中のこと。


 村を守るべく色々と施策してみたが、上手く行ったとは言い難い。


 王都からの援軍が無ければ、故郷へ辿り着くのが何時いつになったか知れない。


 その援軍もまた、王都に居た仲間たちに因るものだったわけで。


 どうやら今回も同じてつを踏んだらしい。



「母さんなら、お菓子も作れると思いますよ」


「もう頂いたわ」


「あ、そうでしたか。……ん? まだ足りないんですか?」


「一日三食は必要でしょう?」


「いえ、そんな習慣も体質も持ち合わせていませんけど」


「不合理な身体してるのね」



 いや、どっちがですか。



「機関が懐かしいわねぇ」


「お菓子を提供する場所ではなかったですがね」


「そんな勘違いはしてないわよ。続けられなかったのは残念ね」


「ですね」


「どうせなら、国の金でもっと色々と研究しておくんだったわ」



 軽口もどこか勢いがない。


 俺の都合で皆を呼び集めていたわけだが、残念に思って貰えるのならば、あの時間も無駄では無かったのだろう。



「そちらはどんな様子ですか?」


「魔法協会はって意味よね?」


「はい」


「別に。攻めて来られもしてないわ。のんびりしたもんよ」


「それは何よりでした」


「そもそもピクシーを通じて、話してあったでしょう?」


「それはそうですがね」


「こっちの様子は、聞いていた以上にダメダメだったけどね」


「ははは……面目ありません」


「そう言えば、来てからもう一人の馬鹿に会ってないんだけど」


「戦士ですか? ここしばらくはグノーメのところかと」


「ずっと?」


「恐らくは」


「入れ込んでるわねぇ。でも付いてきた割に、役目を果たせてないのはいただけないわね。超減点だわ」


「役目って」


「そんなの決まってるでしょ? アンタの御守りよ。あんなのでも、そばに居れば倒れる前に止められたでしょうに」


「機関では俺の我が儘に付き合って貰ったようなものです。皆と離れてしまったのは残念ですが、自由に過ごすのは悪いことではないでしょう」


「自由ねぇ……。ま、冒険者ギルドが敵対してるんじゃ、冒険者も続けられないでしょうし。やり甲斐もないのかしらね」



 最後、王都では多くの冒険者が敵対していた。


 戦士も言っていたが、冒険者ギルド自体が敵対したのだろうと。



「国も、冒険者も、これからどうなるんですかね」


「さあね。知ったことですか。襲って来るなら返り討ちにするまでよ」


「同じ人間同士ですよ?」


「だから何よ。自分の命を自分が守らないでどうするつもり?」



 迷いのない言葉。


 対して俺は、迷ってばかりな気がする。



「そんな調子じゃ先が思いやられるわね。これからも時折見に来ないと駄目なのかしらね」


「是非お越しください」


「ありがと」



 応じる前に秘書さんが笑顔で答えた。


 来るのはもちろん構わないのだが、魔法で昏倒させるような真似は控えていただきたいものである。



「魔法協会を空けて、大丈夫なんですか?」


「例えアンタが攻めて来たって、一日や二日で陥落させられやしないわよ」


「どんな場所と化してるんですか、それ」


「防御は言わずもがな、火力が違うわ、火力が」


「日々、研究に勤しんでいる方々の集まりでは……?」


「その研究の成果なんじゃない」



 随分と物騒な集団だった。


 裏を返せば、国に組み込まれるのは不味いのだろうな。


 一気に人間が勢力を増し過ぎてしまう。



「危険ですね」


「あら何? 本当にアタシたちと事を構えようっての?」


「いえそうではなく。狙われる理由足り得るでしょう」


「フフン。心配してくれるってわけ?」


「当然です。何かあれば知らせてください」


「真面目に返さないでしょね、もう」



 僅かに顔を赤らめ、照れてみせる。


 一方で、何か黒いオーラが視界の端に見えるような。


 秘書さんがジト目でこちらを見ていた。






ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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お読みいただき有難うございます!

『勇者に挑むは無職の少年』 本作の続編も完結!

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