310 元勇者の魔王、どうしてここに
皆の食事が済み、どこか弛緩した空気が流れている。
では改めて、魔法使いが何故ここに居るのか尋ねるとしよう。
「どうしてここに?」
「人に物を頼んでおいて、忘れたって言うの?」
「はい?」
頼んだって何を……。
「あ」
「思い出したようね」
「もしかして、ゴーレムがもう」
「創ってきたわよ。前と同じく、土魔法限定だけどね。ただ、ここに土魔法が使える人間が居るとも限らないから、魔力を注げば動くように改良しておいたわ」
「頼んでから、まだ全然日が経ってませんけど」
「作り方自体は分かってるからね。後は材料と魔力だけだったし。改良も核の側に土魔法を発動させるよう仕込んだ程度だし」
「設置場所は?」
「門番代わりって話だったわよね? 村の入り口に置いといたわ」
言うほどに簡単なはずはあるまい。
態々、他事よりも優先して取り組んでくれたのだろう。
「ありがとうございます」
「そうね。感謝は大事よね。ちょっと王都を襲撃して、お菓子でも献上して欲しいぐらいよ」
「それは流石に。移動はピクシーに頼んだんですかね」
「そうよ。やっぱり便利よね。協会までの移動に要した苦労は何だったのかと、ひたすらに思ったわ」
間髪入れずに、魔法使いが続けた。
「で、問題はこっちよ。何を無様を晒してるわけ?」
「無様って」
「そうでしょう? 倒れるまで動き回って、よっぽど早死にしたいらしいわね」
「そういうつもりはありません。ただ、動ける内にすべきことをし終えておきたいだけです」
「だからって全部アンタがやる必要ってあるわけ?」
いやまぁ、最近は人間も魔物も増え、やることは山積みになっていた。
その山は高さを増すばかりで。
既に俺の許容量を超え始めていたのは事実。
「作業は分担しなさい。できる人間にやらせればいいのよ。アンタ自身が動くんじゃなく、人を上手く使いなさい」
「はい、済みません」
「秘書もよ。馬鹿の手綱をちゃんと握っておきなさい」
「馬扱いは酷いと思います」
「どうせまたすぐにでも無茶をするに決まってるんだから。股間を潰してでも止めてみせなさいな」
「「それはちょっと」」
思いがけず声が揃う。
乱暴どころではないだろう。
「取り敢えず、分かる範囲で指示は出しといたから。後はどうにかしなさい」
「お手数をお掛けしました」
「まったくよ。圧倒的に糖分が足りないわ」
何と言うか、俺は指導者的な立場には不向きなのだろうな。
思い起こされるのは、故郷への道中のこと。
村を守るべく色々と施策してみたが、上手く行ったとは言い難い。
王都からの援軍が無ければ、故郷へ辿り着くのが何時になったか知れない。
その援軍もまた、王都に居た仲間たちに因るものだったわけで。
どうやら今回も同じ轍を踏んだらしい。
「母さんなら、お菓子も作れると思いますよ」
「もう頂いたわ」
「あ、そうでしたか。……ん? まだ足りないんですか?」
「一日三食は必要でしょう?」
「いえ、そんな習慣も体質も持ち合わせていませんけど」
「不合理な身体してるのね」
いや、どっちがですか。
「機関が懐かしいわねぇ」
「お菓子を提供する場所ではなかったですがね」
「そんな勘違いはしてないわよ。続けられなかったのは残念ね」
「ですね」
「どうせなら、国の金でもっと色々と研究しておくんだったわ」
軽口もどこか勢いがない。
俺の都合で皆を呼び集めていたわけだが、残念に思って貰えるのならば、あの時間も無駄では無かったのだろう。
「そちらはどんな様子ですか?」
「魔法協会はって意味よね?」
「はい」
「別に。攻めて来られもしてないわ。のんびりしたもんよ」
「それは何よりでした」
「そもそもピクシーを通じて、話してあったでしょう?」
「それはそうですがね」
「こっちの様子は、聞いていた以上にダメダメだったけどね」
「ははは……面目ありません」
「そう言えば、来てからもう一人の馬鹿に会ってないんだけど」
「戦士ですか? ここしばらくはグノーメのところかと」
「ずっと?」
「恐らくは」
「入れ込んでるわねぇ。でも付いてきた割に、役目を果たせてないのはいただけないわね。超減点だわ」
「役目って」
「そんなの決まってるでしょ? アンタの御守りよ。あんなのでも、そばに居れば倒れる前に止められたでしょうに」
「機関では俺の我が儘に付き合って貰ったようなものです。皆と離れてしまったのは残念ですが、自由に過ごすのは悪いことではないでしょう」
「自由ねぇ……。ま、冒険者ギルドが敵対してるんじゃ、冒険者も続けられないでしょうし。やり甲斐もないのかしらね」
最後、王都では多くの冒険者が敵対していた。
戦士も言っていたが、冒険者ギルド自体が敵対したのだろうと。
「国も、冒険者も、これからどうなるんですかね」
「さあね。知ったことですか。襲って来るなら返り討ちにするまでよ」
「同じ人間同士ですよ?」
「だから何よ。自分の命を自分が守らないでどうするつもり?」
迷いのない言葉。
対して俺は、迷ってばかりな気がする。
「そんな調子じゃ先が思いやられるわね。これからも時折見に来ないと駄目なのかしらね」
「是非お越しください」
「ありがと」
応じる前に秘書さんが笑顔で答えた。
来るのはもちろん構わないのだが、魔法で昏倒させるような真似は控えていただきたいものである。
「魔法協会を空けて、大丈夫なんですか?」
「例えアンタが攻めて来たって、一日や二日で陥落させられやしないわよ」
「どんな場所と化してるんですか、それ」
「防御は言わずもがな、火力が違うわ、火力が」
「日々、研究に勤しんでいる方々の集まりでは……?」
「その研究の成果なんじゃない」
随分と物騒な集団だった。
裏を返せば、国に組み込まれるのは不味いのだろうな。
一気に人間が勢力を増し過ぎてしまう。
「危険ですね」
「あら何? 本当にアタシたちと事を構えようっての?」
「いえそうではなく。狙われる理由足り得るでしょう」
「フフン。心配してくれるってわけ?」
「当然です。何かあれば知らせてください」
「真面目に返さないでしょね、もう」
僅かに顔を赤らめ、照れてみせる。
一方で、何か黒いオーラが視界の端に見えるような。
秘書さんがジト目でこちらを見ていた。
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