第13話 『T』
「えっと……何でですか?」
突然、副会長に勝負を挑まれた俺は訳が分からず質問で返してしまう。
まぁ当然と言えば当然だろう。
心当たりも全くないので、何で勝負を挑まれたか見当もつかない。
そんな俺の疑問に答える為、副会長は薄ら笑いを浮かべて口を開く
「いいだろう、教えてやろうではないか。君は入学式の日、皆の前で無能力者であるのに関わらず生徒会長を打ち破った。しかし、そんな事信じられない! だから私は考え、そして考察した」
「……それで?」
「私の出した答えは一つ、君は何らかの遠隔系の能力を持つ協力者の力を借りて生徒会長に勝利した」
「そんな事はしてないですけど……」
「ふっ、そう言うのは分かっていましたよ? だからこそ、それを証明する為に今すぐ勝負をしようじゃないか! 万が一、私に勝つ事ができれば会長に勝てたのも納得だ。今すぐになら協力者と悪巧みをする時間も作れまい」
この副会長しつこそうだな……。
さっさと倒してしまった方が早い、か。
そう思い俺は【死淵】を使おうと────ってできないわ。
さっき【死淵】解除の時に飲んだ解毒剤は飲んでから大体3時間ほど作用し続ける。
つまり後3時間くらいは毒薬を飲んでも、すぐに解毒されて【死淵】を発動する事はできないのだ。
「えっと……3時間後くらいにしてくれませんか?」
「その3時間は協力者を呼ぶ時間ですかぁ? ぷーくすくす、自分から認めるなんてさすがは低脳無能力者ですなぁ!」
「え、違う。協力者なんていない!」
「はいはい、分かりました分かりました。今日の所はこれくらいで許して上げますよ。どこぞの無能力者さんと違って、Aランクである私には時間も無いですからね~」
そう言い残して副会長は何所かへ行ってしまう。
そして残った周りの人達も
「今の副会長の話、図星なんじゃないの?」
「そりゃ、無能力者がAランクの会長に勝てる訳ないよなぁ」
「無能力者の癖にいつも会長の近くにいてうざいよな、あいつ」
「と言うかあいつ、Sランクの星宮楓って奴とも仲いいみたいだぜ?」
「あの超可愛い子もか? うっわ、うぜぇー」
そんな喋り声も聞こえて来る。
そのような次第に悪口にもなってきたひそひそ話を背に俺は教室に向かうのであった。
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今日もまた午前中の通常授業は全て現代社会だ。
どうやら特隊としての基礎知識は全て現社で補うらしい。
「……であるからして、『T』という世界各地の犯罪組織の長達の連合のような物が存在していて、これに関しては強すぎるが故に特隊の管轄外となっているので、皆さんは関わらないようにしましょう。『T』の属するメンバーは皆『T』と書かれた独自の腕章を付けているので、もし見かけても何もしないように。彼等の強さは規格外でメンバー一人一人が世界中のSランク全員と真っ向から戦っても勝てるだとか、国一つを潰せるだとか言われているようです。であるからして……」
授業は先生が喋っている事を聞くだけの一方通行だが、寝る訳には行かない。
睡眠欲まで満たしてしまうと残りは性欲だけになってしまうからな。
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そして昼休み。
俺は朝にお弁当を全て食べてしまったので特にする事も無く学校内を一人ぶらぶらと歩いていた。
何となくどんどん人気の無さそうな所へ俺は向かって行く。
そうしてぶらついてると何故か雑木林に辿り着いた。
って何で学校に雑木林が……と思った次の瞬間。
ドゴンッ!
突然、背後から背中を思いっきり蹴られる。
そのあまりの痛さに俺はしゃがんでしまったのだが、それがいけなかった。
そこから蹴られ、蹴られ、蹴られて俺は地面に這い蹲る状態になり、踏みつけられていた。
「よぉ、無能力者の癖に随分調子に乗ってるみたいだなぁ?」
「ひひっ、兄貴に踏まれてるんだ感謝しな!」
「へへっ、ちなみにさっきお前を蹴ったのは能力で脚力強化したあっしでやんす!」
3人組の男達が何かごちゃごちゃ言っているようだ。
見た所、学年カラーでこいつらは2年生……一応、先輩と言う事が分かる。
俺を踏みつけている奴はAランク、取り巻き2人はBランクで一人は脚力強化の能力者、か。
「……何が目的だ?」
「あぁ? 無能力者のお前が気に食わないから、じゃ駄目なのかぁ?」
「ひひっ、自分の力で生徒会長に勝った訳じゃないのに調子に乗るな!」
「へへっ、無能力者は学校の恥になるから黙って去るでやんす!」
3人組の男達はどうやら俺の事が気に食わなかったらしい。
気に食わなかったら排除する。
子供のような考え方だが、現に彼等のような高ランクの能力者には容易であり権利もある。
これがランク主義社会。
無能力者にはどんな理不尽な事だろうと黙って受け入れるしか無いんだ。
でも……【死淵】を使える俺なら歯向かう事ができる。
だけど────
「お前等には……踏み台にする価値も無い……」
「あぁ? お前、今自分が置かれてる状況を分かってんのか?」
「ひひっ、もうこいつやっちまいましょうよ兄貴!」
「へへっ、無能力者の癖に調子に乗りすぎでやんす!」
ドゴッ、ドスッ、ドゴッ、ドスッ!
俺はしばらく蹴られ続ける。
痛い、苦しい、でも耐えなきゃいけないんだ。
俺が本気を出して【死淵】を使えばこいつらなんて余裕で倒せるだろう。
だけど……こんな事で一々【死淵】を使っていたら肝心な時に使えなくなってしまう。
皆の目の前で副会長を倒すならともかく、人気の無い所でこいつらを倒した所で同じような事をしてくる奴はきっと現れてしまう。
それに【死淵】について説明するって訳にもいかない。
入学式の日は気分が高ぶっていて、つい会長にだけは話してしまったが【死淵】という切り札を相手に話すなんて自分の弱点を晒すような物。
だから……俺は耐えた。
耐えるしか無かった。
ドゴッ、ドスッ、ドゴッ、ドスッ!
「ひひっ、そろそろ午後の授業が始まりますよ兄貴!」
「へへっ、急がないと遅刻でやんす!」
「あぁ、そうだな。お前等、ずらかるぞ!」
そう言ってようやく彼等は蹴るのをやめて帰っていく。
その後、俺は自分の体の様子を見てみるが、少なくとも大怪我とかはしていないようだ。
一応、彼等も最低限手加減はしていたのだろう。
結局、少し痛みが残る程度で特に怪我は無かったので俺はそのまま午後の授業、武力クラスに急いで向かったのだった。
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今日の武力クラスは自分の能力の特徴や使い道などを詳しく調べる、という授業だったので無能力者の俺は隅っこで自主トレをしていた。
そうして授業が終わって放課後。
会長は左腕を失った事により軽くリハビリ、楓は昨日の事について少し調べ物をしていたので俺は一人で下校していた。
今歩いているのは俺が入学式の日に通ってAランクの殺人犯と出くわした人気の無い廃れた工場がたくさんある場所。
思えば──まだ入学してから5日しか経ってないけど、これまで色々あった。
Aランクの殺人犯、会長との勝負、Sランクであり妹でもある楓、ニーナ、将平達、<棘穴無光>、そして……会長の左腕。
その一つ一つが俺の踏み台へとなっていく。
高く、安定して、決してぶれない踏み台に。
だけど……まだ足りない。
この腐った世界を変えるには、まだ高さが圧倒的に足りない。
────と、その時だった。
「ひひっ、た……助けて……」
「へへっ、た……助けてでやんす……」
「くそっ! Aランクの俺でも全く歯が立たないなんて……」
「ふぉっふぉっ、儂に喧嘩を売っといてこの様か?」
近くからそんな喋り声が聞こえてくる。
声がする方に行ってみると、そこには4人いた。
昼休みに俺を蹴り続けた3人組のぼろぼろになった男達と、杖を持った80代くらいの無傷の老爺。
そして……その老爺が付けている腕章には『T』と書かれている。
それは今日、丁度授業で習った物だった。
『T』と書かれた独自の腕章を持つメンバーは皆、一人で世界中のSランク全員と真っ向から戦って勝てる程の規格外の強さを持った犯罪組織の長達。
そして目の前の老爺もまた『T』の腕章を持つ物。
普通だったら────特に俺みたいな無能力者だったらすぐさま逃げ出していただろう。
しかし、俺は堂々と真っ向から老爺の元へ歩きだす。
俺はこれから、この腐った世界を変える。
その為には<州の長>……そして世界頂点のアランに勝てる程の強さが必要になるんだ。
だから『T』と戦える──いや、倒せるくらい強くならなければいけない。
だから俺は進む。
1歩たりとも迷わずに。
「ひひっ、兄貴、誰かこっちに来てます!」
「へへっ、あれはあっし達が昼にいびった無能力者でやんす! まさか助けに……」
「違う。助けに来た訳では無い」
俺は否定した。
「じゃあ何しに来やがった! あいつらは『T』だぞ! 分かってんのか!」
「だからこそだ。お前等には踏み台にする価値が無くて、『T』とか言う奴等には踏み台にする価値がある。ただそれだけだ」
俺はそう言い放つ。
その後、『T』の腕章を持つ老爺は俺に向かって語りかけてくる。
「ふぉっふぉっ、それで君は今、儂をどうすると言ったのかね?」
「聞こえなかったのか?」
「ふぉっふぉっ、儂も最近耳が遠くなってきてのぉ」
「……そうか。だったらもう一度だけ言ってやる」
俺はポケットから毒薬を取り出し、口に放り込む。
カリッ
「お前には俺の踏み台になって貰う、爺さん!」




