第12話 能力厳選計画
その後、会長は病院へ運ばれた。
幸い命に別状は無いようだが、レーザーによって灰となった左腕を元に戻すのは、現状では難しいと医師は言っている。
通常の医療技術では不可能に近く、能力による治癒という方法もあるが、完全に消滅した左腕を全て修復するなどという芸当ができる能力者はそうそういないらしい。
こうなったのも全部……俺のせいだ。
俺のせい──俺のせい──俺のせいで会長の左腕は……
「そんなに気を病まないで下さい、お兄様。全部……全部楓のせいです」
病院の待合室にあるソファーに座っている俺の隣で楓がそんな事を言ってくる。
そういえば──楓はこの事を最初から知っていたみたいだったな。
「こんな未来が見えていたのなら教えてくれれば良かったのに……」
俺がぼそりと呟く。
「すいません……お兄様……楓のせいで……」
俺の独り言が聞こえてしまったようで、楓は自分の事を更に責め続けてしまう。
でも……違うんだ。悪いのは全部俺なんだ。
楓が未来をどこまで見ていたのかは分からない。
だけど、もしこんな未来が見えていたなら俺達に相談する筈だ。
無能力者の俺が頼りなかったら会長でも良い。
楓はSランク、状況判断ができない馬鹿では無いんだ。
つまり──俺達に相談できない理由があった。
思えば、最初におかしいと思ったのは温恩デパートでニーナの過去を見た時。
あの時に楓は何かを見た。
俺達に相談できない何かを。
その事を承知の上で俺は楓に問い掛ける。
「なぁ、楓? お前はニーナのどんな過去を見たんだ?」
「……それを教える前に言っておく事があります、お兄様」
楓はそう言って、『S』と書かれた自身の腕章に視線を向ける。
「この腕章には盗聴機能が付いていて、会話は全て上に筒抜けになっています。そして……今から楓の言う事を聞けばお兄様は政府、いえ<州の長>から狙われるかもしれません……」
<州の長>から狙われる程の何か……って事か。
<州の長>は1000年前の第3次世界大戦で世界頂点のアランにこそ適わなかったが圧倒的強さを誇り、アランに認められる程の力を持った者達。
極端な話、東京特隊高校生徒会長であり『A』ランクである会長と日本に10人しかいない『S』ランクの一人である楓の二人が1000人になったとしても勝つ事はできない──それ程の実力差がある。
楓が安易に俺達に相談しなかったのも納得だ。
でも……それでも俺は聞く。
「一体何が見えたんだ、楓? ニーナは何なんだ?」
「能力厳選計画……ニーナちゃんは能力厳選計画によって生まれたのです、お兄様」
能力厳選計画。
その名の通り、大量の子供を産ませて能力を厳選する計画。
かつて行われていた計画では、産まれた時点で無能力者だと分かった時点で殺し、能力者だった者は2,3年生かしてどんな能力を持っているか調べる。
そして使えない能力者だった場合は殺す。
そして残った強い能力を持った子供達を洗脳しながら育てて道具として扱う。
そんな非人道的で残虐な計画。
その事もあり、800年前に<州の長>全員が締結した能力厳選禁止法が……ってあれ?
「それって国際法で禁止された筈じゃ……ッ!」
その時、俺は気づいた。
気づいてしまった。
楓の口振りからすると、この計画には<州の長>が関わっているという事になる。
そして国際法を作るのも、また国際法を犯した者を裁くのも全て大元を辿れば<州の長>による物。
つまり──全部グルだったんだ。
何もかも全てが。
この世界は俺が思ってた以上に腐っていたんだ。
早く……早く俺がこの腐った世界を変えないと……
「……お兄様? その……やっぱり聞かない方が良かったでしたか?」
楓は心配そうに俺の顔を覗き込む。
「いや、ありがとう楓。後、これからは気負いすぎないで俺に全部言ってくれ。<州の長>に目を付けられているんだ。もうアランだろうが誰だろうが一緒だ。だから……背負いすぎないでくれよ」
「……お兄様は強いですね。あ、それとニーナちゃんの事ですが命の危険とかは無いと思います。かなり待遇が良かったので、恐らくかなりの良能力を持っているかと。だからお兄様は気にしないで下さい。何も気に病む事なんありません」
楓はそう言い終えると、帰ってしまった。
今日は学校の女子寮に泊まると言っていたので、恐らく俺の家には帰って来ないだろう。
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「そこまで悲観しなくていいわ、私が弱かったせいでこうなっただけよ」
左腕を失った会長はそう言いながら俺と一緒に夜道を歩いている。
無くなった左腕の修復は出来なくても処置自体は能力によってすぐ終わったので、今は会長を家まで送っている途中だ。
会長に慰められるなんて……これじゃあ立場が逆転してしまってる。
結局、誰も俺の事を責めてくれない。
確かに、あの時に会長の邪魔──助けが無ければ俺は勝てていた。
ニーナも攫われずに済み、全てが解決していただろう。
だけど俺は、会長程では無いにしろ深い傷を負っていただろう。
だから……本来なら会長は左腕を失わず、代わりに俺が傷を負う筈だったんだ。
それなのに────
「本当にごめんなさい、会長。いくら謝っても……」
「後悔したって過去は変わらない。大事なのは未来よ」
「……会長?」
「恐らく【死淵】が時間切れになってしまった為、このような結果になってしまった。初めは誰だって失敗する権利を持っている。でも、次にまた同じ失敗を繰り返すのは愚かな事よ」
「……何を?」
「だから、今回の件を踏まえて対策を考えなさい。2度と同じ失敗をしないように。そうしていつの日か、あなたのおかげで世界がより良くなったのならば、私の左腕一本なんて安い物よ」
会長はそう言った後、「後は一人で大丈夫」と言い残して走って帰ってしまった。
その後、俺は自分の胸を手を当てる。
今の会長の言葉で俺はどれだけ救われたのだろうか。
他人から見たら、会長は上から目線だなんて思うかもしれない。
でも、多分会長もその事を分かっていた。
分かった上で言ってくれた。
俺をただ慰めてくれた楓とも違い、俺が望んでいた責められると言う事でも無く、俺にどうしたらいいかの道を示してくれた。
そうだ……くよくよしたって過去は変わらないんだ!
大事なのは未来!
将平達や会長の左腕───また一つ増えたんだ。
俺が目標を達成しなければいけない理由が。
だから俺は絶対にこの腐った世界を変えてやる!
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翌朝
俺はいつも通り、学校へ向かっている。
昨日は楓と一緒に登校したのだが、昨晩、楓は女子寮の自分の部屋に泊まったらしい。
──と言うか、自分の部屋あるなら俺の家に来なければいいのに……などと思っていたら突然
ドスン!
イタタタタタタ、誰かと思いっきりぶつかった。
明らかに向こうからぶつかられたような気がするけど一応謝っとこうと思い、ぶつかったでっ歯で細身の男に声を掛けようとしたら、遠くから会長が
「颯太さん、そいつは強盗犯よ! 押さえといて!」
なーんて事を言ってくる。
よく見ると、その細身の男は『B』と書かれた腕章を付けていてそれなりには強そうだ。
という事でポケットから毒薬を取り出して、口に放り込む。
カリッ
【死淵】発動!
俺がそんな事をしている間に細身の男は何か喋ってるみたいだけど
「くっくっく、お前も特隊か! だったら僕の能力、《熱の膨張人》でお前をぶっぐぁぁぁぁぁぁぁぁ、ガクッ」
一撃で気絶させてしまった。
やり過ぎたか? などと思っていたら大剣を引きずりながら会長がやって来る。
「ありがとう、颯太さん。おかげで助かったわ」
「それは良いですけど、今日からもう仕事で大丈夫何ですか?」
俺は会長と軽く雑談をしながら【死淵】を解除して、反動によりお弁当をもう全て食べてしまう。
お弁当を食べ終わった後、後悔しても無駄だと思いながらも俺は会長の左腕の事を思い出してしまう。
今回の強盗犯だって会長が万全の状態なら俺の助けなんていらなかった筈だ
左腕が無くなり、大剣を引きずりながら走っていたので強盗犯に追いつけなかったのだろう。
と言うか──
「何でそんな大剣を使うんですか? 能力の制御に利用するだけなら短剣でもいいのでは?」
「そう……だけど、この剣が慣れてるから他の剣を使う気は無いわ」
会長は何所か遠くを見るような表情で答えてくれる。
その後、会長は他にも仕事があるみたいで何所かに行ってしまった。
色々忙しそうだなぁ。
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まぁ、そんなこんなで学校に到着したんだけど。
「如月颯太! 今すぐ東京特隊高校3年生副会長Aランクである私と勝負しろ!」
俺が校門から学校に入ったすぐ直後、入学式の日に無能力者である俺に対してぼろくそ言っていた副会長からいきなりそんな事を言われた。




