表彰式
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何となくスッキリしない気持ちを抱えたまま、それでも時間は流れていき、もうすぐ閉会式が始まる。夏場なのでまだ明るいけど、時間的にはもう夕方だ。もっとも完全に日が落ちたとしても、ファッションショーのステージ周辺だけは何かあったときのために簡易的な魔法道具の照明が設置されているので、真っ暗になったりすることはないんだけど。
「それでは、第一回スラリンピック、閉幕式を始めたいと思います。まず最初は、各競技の勝者に対する表彰式です。スライムレース優勝者のリタ様とそのパートナーレベッカ様。スライムレスリング一般の部優勝のトマス様とパートナーのマル様。冒険者の部優勝のジェイク様とそのパートナー遠き理想様。どうぞ壇上へとお越し下さい」
名前を呼ばれて、人とスライムが連れ立って続々と壇上へと上がっていく。ちなみにトマス君は以前に仕事を頼んだ鍛冶屋さんのところの甥っ子さんだ。スラペリオンを紹介したディーツ君とはえっちゃん大好きのミラを巡ってライバル関係にあるらしいけど、スライムレース後の態度を見ていると勝負は決まっているような……うぅ、世知辛い。というか、そうだよね。僕だって普通の子供だったなら、こうやって恋愛関係を学んで行けたんだろうなぁ……
そんなことをぼーっと考えているうちにも、表彰式は進んでいく。今回優勝者に与えられる商品は、僕からの「新鮮お野菜直送便 1週間コース」だ。期間が被らないように調整はしてもらうけど、指定した日を初めとした1週間の間、僕の畑で収穫した採れたて野菜を僕とスライム達でご自宅まで宅配するというサービスを思いついたからだ。僕とスライム達が率先して町中で働く姿を見せることで、「魔物が町にいる」ということに対する抵抗感を薄れさせるという目的もかねた商品だったんだけど、今の様子だとそこまでする必要は無かったかも知れない。
まあ町中でスライム達がプルプル震えながら野菜を運んでたら愛らしいと思うからそれだけでもいいんだけど。スライム達が更に愛され可愛がられるなら、僕としても嬉しい。
「それでは改めまして、各競技の優勝者の方々に拍手をお願い致します」
執事さんの言葉と共に、壇上にいるみんなに再び拍手が送られる。手を振って答える人間と、プルプル震えるスライム達。そんなスライム達の頭の上にはちょっとしたプレゼントが贈られている。目録が木札は寂しすぎるので、スライムレースの優勝者には奴さん、スライムレスリングの優勝者には兜の折り紙を用意していたのだ。破損する可能性を想定して2つずつ用意していたのが良かった。でなかったら兜が1つ足りなかったところだしね。折り紙自体はすぐ折れるけど、紙を染色するのは時間がかかるので即座に用意は無理なのだ。
「それでは、続いてファッションショーの優勝者の発表に映ります。公正な審議の結果、ファッションショーの優勝者は……フルール・ハイアット様が選ばれました」
その結果は誰もが予測し得たものだが、出来レースなどと揶揄する人はいない。単純に衣装の完成度を見るなら、どう考えてもフルールさんが一番だったのはそれを自分の目で見たこの場の人達こそがわかっているからだ。
観客席からの拍手に答えるように、ステージ袖からフルールさんがその姿を現す。ちょっと遠目だけど、その顔はさっきよりもスッキリした感じに見えた。笑顔も自然な感じに見えるし……もう立ち直ったんだろうか? 振った僕が言うのも何だけど、そうなんだったら嬉しい。恋では無くても好きな人には変わりないんだから、フルールさんが笑顔でいてくれることは僕にとっても幸せなことだ。
「それと、今回はもう一名、審査員特別賞というのを設けることとなりました。その方の名は……冒険者トール様と、そのパートナー緋色の大怪盗様です! さあ、トール様、壇上へどうぞ!」
「ふぁっ!?」
えっ? 僕? 何で!? というか、審査員特別賞って何? 発起人とか主催者とかそういう立ち位置の人のはずなのに、そんな話聞いてないんだけど!?
「さあ、トール様!」
「う、うむ」
執事さんに再度促され、僕は困惑しながらもステージ上へとあがる。そうなれば当然、隣にいるのはフルールさん。肩が触れそうなくらい近くに彼女の存在を感じて、僕としては非常に落ち着かない。
「ふふっ。トール様、そんなに緊張なさらなくても……」
「いや、申し訳ない。こう言うのには慣れて無くて……」
動揺する僕に、フルールさんが笑いかけてくる。その顔は本当にいつもと変わらなくて、だからこそ僕の中ではより混乱が深まってしまう。
「それではお二人を表彰する前に、お二人が選ばれた理由を審査委員長であるリチャード様から伺いたいと思います」
勿論、僕の動揺なんて他の人には一切関係が無い。普通に司会進行していく執事さんの言葉に、当主さんがその口を開く」
「ふむ。今回表彰者を二人としたのは、ファッションショーを『ファッション』と『ショー』という二つの観点から評価したためだ。そしてそれは、そうしなければ勿体ないと思える程どちらも優れた参加者が多かったからということでもある。
子供らしい愛らしさをアピールした者、冒険者としての技量を示した者、己の日々の鍛錬の証を見せつけた者など色々といたが……そのなかでこの2人を選んだのは、それぞれの分野で二人が突出していたからだ。
まずはファッション。我が娘であることを抜きにしても、フルールの用意した衣装は非常に素晴らしいものだった。単に金を使っただけではなく、きちんと己の技量を持って作り上げたというのが評価された。これが町の職人に依頼を出したものを着せただけであったなら、優勝に選ばれることはなかったであろう。
次にショーの部分だが、こちらは選考に難儀した。素朴で可愛らしい少女の歌声や服が破れるなどというハプニングすら味方に付けた演出など、見ていて楽しめるものが非常に多かったのだが……そのなかでも、トールの演出は素晴らしかった。服とともに『紙』という想定しえない素材を使い、ステージ上にいる全ての人物を巻き込んだ演出はまさに圧巻であり、彼単独でショーが成り立つほどの完成度であった。故に『審査員特別賞』を設けることを急遽決定し、こうして表彰することとなったのだ」
相変わらず見た目に威厳は無いのに、その態度は実に堂々としたものでまさに「ザ・貴族」な感じの当主さん。そんな人に何か凄く褒められるとか、実に落ち着かない。何だろう。周囲の注目を一身に集めてるとか、フルールさんが隣にいるとか、当主さんに褒められるとか、ベクトルの違う色々なことが一度に集中しすぎていて、もう何が原因で落ち着かないのかすらわからないくらい落ち着かない。何という小市民メンタル。この落ち着かなさこそを威圧したいけど、こんな目立つ場所で下手なことをしたくはない。
「ありがとうございました。それではお二人には受賞の証として、こちらをお贈り致します」
そういって執事さんが取り出したのは、鶴の折り紙。花とかでも良かったんだけど、折り紙と言えばやっぱり鶴ということでそれにしたのだ。お盆の上に夫婦のように寄り添って置かれた赤と青の鶴。赤い方をフルールさんが、青い方を僕が手に取り、抱えてきたあーちゃんの頭に乗せてあげる。真っ赤なボディに青い鶴は、なかなかに鮮烈なコントラストだ。
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ」
「ありがとうございます」
「それでは皆様、賞に輝かれましたお二人にもう一度盛大な拍手をお贈り下さい」
自分で作った物を自分で受け取るという自作自演な感じが満載されてさらに落ち着かない僕ではあったけど、観客席からの大きな拍手にフルールさんと一緒に手を振って答える。
こうしてスラリンピックの表彰式は終わり、後は閉会の挨拶が残るのみとなった。





