おわりの言葉
「それでは最後に、ファッションショーの審査員でありこの町を代表するお三方に、スラリンピックの総評を伺いたいと思います」
各競技の優勝者が壇上から降りたのを見計らって、執事さんが言う。ちなみにフルールさんだけはステージ横から奥の部屋へと戻っていったけど、彼女は開会式の時と同じで最後に挨拶があるからその準備だろう。
「まずは冒険者ギルドのギルドマスターであるマギィ様から意見を伺いたいと思います。マギィ様、どうぞ」
「あいよ。アタシの立場でまず言うことがあるとすれば、祭りの総評というより、スライムに対する認識の違いだね。正直アタシはスライムがここまで高い知能を持ち、多才な存在であるなんてこれっぽっちも思ったことが無かった。この認識を改める機会を示してくれた冒険者トールに、まずは最大級の賛辞を贈りたい。
次に、この祭りの……ひいてはこの町でのスライムの扱いについてだ。魔物だからと懸念する声はアタシの所にもあがってきている。だが今回の祭りを体験して、アタシはスライムは人と共に歩めると確信した。勿論人と同じで善人……善スライム? ばっかりじゃないんだろうけど、それは個人の問題であって、種族の問題じゃない。かつて魔物と呼ばれた者達が今は人として過ごしているように、新たな隣人を迎え入れるその最初のきっかけに自分が携われたことを光栄に思う。
実に楽しい祭りだった。来年はアタシも相棒を捕まえて、是非とも参加する方に回りたいねぇ」
ニヤリと笑ったマギィさんの目には本気の色が見えて、来年の話はともかく間違いなくそのうちスライムを自力でテイムしに行きそうな感じだ。まあ冒険者ギルドのマスターともなれば多分強いんだろうし、仮に弱くてもスライムより弱いってことは無いと思う。そんな冒険者は僕だけ……ぐふぅ、自分で言って悲しくなるけど、まあとにかくそうだろう。
「ありがとうございました。それでは続いて、商業ギルドのギルドマスターであるレンデル様。どうぞ」
「はい。今回の祭りは商業ギルドとしても新たな需要を掘り起こせる、実に有意義なものでした。これによって更にスライム達が町に浸透すれば、今回競技に参加した方のように自分もスライムを鍛えたい、あるいは可愛く着飾らせたいという方も増えると思います。そう言う方の需要に応えられるよう、商業ギルドとしても様々な商品を考えておりますので、是非ともご期待下さい。
それと、ファッションショーに優勝されたフルールさまのスライムである翡翠の女王ですが、実は彼女には我が商業ギルドが開発したスライム用の美容フードを提供させていただいておりました。あの見事な色つやは商業ギルドでの研究の成果です。今回の各競技参加者の方々には、全員に美容フードの試供品を配らせていただきますので、是非ともお試し下さい。勿論一般販売も行いますので、ご興味がありましたら是非とも店舗の方へ足を運んで頂ければと思います。美容フードのみならず、様々な小物も……」
「あの、レンデル様?」
調子が出てきたレンデルさんのセールストークに熱が入りすぎたと見たのか、執事さんが声をかけてレンデルさんの暴走を止める。
「あ、いやこれはお恥ずかしい。つい調子に乗ってしまいました……とにかく、このお祭りも参加した人々やその友人たるスライムたちも、皆素晴らしいということです。是非とも予算を付けていただいて、来年はもっと盛大に開催したいですね」
そう言うレンデルさんはあくまでポーカーフェイスを崩さないけど、その視線はちらりと隣の当主さんの方へと向けられる。確かにこの規模のお祭りとなったら、当主さんの許可無しじゃ実行出来ないだろう。今回だってきちんと許可は取ってるしね。
まあそうは言っても、この調子ならよほどの事が無い限り許可が出ないなんてことはないだろうから、レンデルさんのもくろみが達成されるのはほぼ確実だ。
「ありがとうございました。それでは最後に、リチャード様。お願い致します」
「うむ。今回の祭りを行うにあたって、私としても懸念があった。マギィが言っているように、魔物と共に祝う祭りなど前代未聞だからだ。身近な者からの強烈な後押しがあったが故に開催を決定したという経緯があったが……今改めて思うことは、この祭りを開催したことは英断だったということだ。
私が治める町において、新たな隣人となれる者が現れた。それによって産業が活性化し、町も活気づくとなれば歓迎しない訳が無い。故に私は領主として、この町にスライムが住むことを歓迎しよう。無論何か問題があれば、近くの衛兵でも冒険者ギルドでも、あるいは私に直接陳情してくれてもいい。その時は断固とした決断も含め、適切な対処をすると約束しよう。そのうえでこの町にさらなる発展を促すきっかけを与えた者達に、私もまた感謝を贈ろう。
来年もまたスラリンピックを行い、多くの喜びと共に楽しい時を過ごせることを楽しみにしている」
当主さんの言葉に、観客席からは歓声とざわめきが溢れる。魔物が勝手に町にいるのを黙認するのと、町の統治者に認められてそこにいるのとでは大きく違う。それに伴う責任は発生するけど、それと同時に守られるということで、それはつまりスライム達がより安全にこの町で過ごせるということだ。既にスライムと友達になっている人達は喜びの声をあげ、子供にねだられながらも躊躇っていた父親が、当主さんがそう言うならとスライムをお迎えすることを了承し、嬉しそうにはしゃいでいる子供の姿なんかもある。
そして勿論、その影響が一番大きいのが僕だ。大量のスライムと一緒に生活している僕にとって、今や彼らは家族と同じだ。そんなみんなが正式に住民と認められたなら、こんなに嬉しいことは無い。流石にこれで「住民なので税を取ります」とか言われたら困り果てるところだけど、流石に従魔登録の時のお金と二重取りはしないだろう。日本だったらわからなかったけど、レンデルさん曰くスライムの存在で大きなお金が動きそうということだったから、そっちから得られる税収の方がよっぽど大きいし、そのためにはスライムに税金をかけて普及を押さえ込むなんて本末転倒だしね。
「ありがとうございました。それでは最後に閉会の挨拶を、フルール様から頂きたいと思います。では、どうぞ」
執事さんに促され、フルールさんが奥から出てくる。ファッションショーの時の衣装は脱いで、シンプルなツヤツヤぴっかりの翠色ボディのみになったくーちゃんもまた、その腕にしっかりと抱きしめられている。
「皆さん。本日のお祭りはいかがだったでしょうか? 今私の目の前には、皆さんの笑顔があります。であればそれが全てでしょう。答えの言葉など必要ありません。そしてそれは私も同じです。本当に……本当に楽しい、夢のようなひとときでした」
遠くを見るような目でフルールさんが言う。その顔は何処か寂しそうで、お祭りが終わってしまうのを惜しむ気持ちが感じられる。
「ですが、これで終わりではありません。明日からはまた、いつもの日常が待っているのです。そして、これで終わりではありません。明日からもまた、皆さんの隣にはスライムたちがいてくれるのです。楽しい時間が終わりを告げても、共に歩む友人が残ります。それはとてもとても幸せなことです。
ですから、楽しい夢はここで一端終わりです。明日から始まる新しい未来のために、私はここにスラリンピックの閉幕を宣言致します。皆さんお疲れ様でした。楽しい夢を、幸せなひとときを、本当に……本当にありがとうございました」
そう言って、フルールさんが頭を下げた。貴族が一般市民に頭を下げるなんてこと滅多なことではあり得ないので観客席がざわついたけど、それでもその礼が個人ではなくこのお祭りへの感謝ということだろうと納得して、観客席から少しずつ拍手が響いてくる。それは一瞬事に大きくなり、最後には町中に響き渡るくらいに大きな歓声と拍手が世界を埋め尽くした。
顔を上げたフルールさんの目が、少しだけ赤かった。ひょっとしたら感動して泣いちゃったんだろうか? そんなにも楽しんでくれたなら、僕としても企画した甲斐があったと言うものだ。そんなに喜んでくれたなら、来年はもっとしっかりした企画を考えて、色々準備とかもしたいな。フルールさんのためだけってわけじゃないけど、そこは是非とも頑張っていきたいと思う。
こうして大きな歓声のなか、大成功のうちに第一回スラリンピックはその幕を下ろすのだった。





