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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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浸透する魔の気配

 視線を感じる。自意識過剰とか被害妄想なんかじゃなく、確実に見られている。まあそれも当然だ。何せ今の僕は町の注目の的なんだから。

 理由は3つ。最初の理由は言わずもがなの『威圧感』だ。ずっとこの町にいる人達は流石に慣れてくれたけど、それでもフイッと顔を向けるくらいはしてくるし、初めて町に来たような旅人とか冒険者みたいな人だと、凄い顔でこっちを見てくる。『威圧感○』へのレベルアップ効果と、『威圧の楔』2本を畑に置いていることによる出力低下ではどっちが大きいんだろう? まあどっちにしろ、未だに『威圧感』ダダ漏れの状況は変えようが無いので、これはもう仕方ないと諦めている。


 2つめの理由は、この暑い中全身黒ずくめだからだ……いやもう、これもね。どうにかしたいけどどうしようもないんだよね。次のスキルアップの時に、カラーバリエとか出ないかな? グラデーションとか模様とか、フルカラーなんて贅沢は言わないから、せめて3原色か黒の濃淡、いっそ真っ白と真っ黒の2択だけだったとしても、今よりは大分マシになるはず……お願いします神様。次は色を下さい……


 そして最後。3つめの理由は、最近いつも一緒にいるスライム達だ。いつも頭に乗っているえっちゃんと、左肩でお昼寝をしているさっちゃん、それに鞄に潜んでフフフ笑いをしているあーちゃんは固定メンバーとして定着している。でもその他に1匹、いつも右肩にまだ名前を付けていないスライムを僕は乗せている。これは僕のスライム地位向上作戦のひとつだ。町を一緒に歩くことで魔物であるスライムへの抵抗感を減らし、またスライムを気に入った人、逆にスライムが気に入った人なんかがいると、お見合いのような事をしたりもする。実際気が合う子が市場で串焼きを売っているおばちゃんの所や、子供と仲良くなってその人の家にお世話になるようなこともあった。その2匹はそれぞれの人が名付けて、おばちゃんの所の子はプルタ……ぷる太だと駄目だけど、プルタならいいらしい……で、町の子供のところに行った子はスラペリオンとなった。プルタの愛らしい姿に串焼きの売り上げが2割伸びたとおばちゃんは大喜びだったし、スラペリオンは近所の子供がこぞって面倒を見ている。当の本人は「チビッ子どもは元気があんなオイ」と職人気質で面倒見の良い性格っぽいので、いい具合に面倒を見ているらしい。「まさかスライムに子守を任せられるとは」と親御さんからの評判も上々で、こちらも良好な関係を築けている。


 ちなみに、当然だけどミャルレントさんのところにも数回通い、気の合いそうなスライムを渡した。猫人族(フェリシアン)は女性だとミャ、男性だとファから始まる名前を付けるのが伝統だとのことで、ミャルレントさんのところに行った子はファーガストと名付けられた。猫人族(フェリシアン)的には勇敢な感じの名前らしく、本人も「姫の御身は拙者が守るでござる!」と張り切っていたので、これも問題無いだろう。

 ただ、ミャルレントさんにファーガストをお願いして以後、隣の窓口から言葉に出来ない気配というか、圧力のようなものを感じるようになった。スライム達も怯えるので少し足が遠のいたりしたんだけど、ミャルレントさんに「どうか同僚にもスライムを紹介してあげて欲しい」とお願いされ、ちょっとビビりながらも彼女にも1匹お願いすることになった。リタさんはあまり表情が動かず、ふーんみたいな感じだったので正直心配だったんだけど、会わせた子が「アンタいけるオンナだね? アタイとアンタならもっと高いところまでいけるはずだよ?」と妙に乗り気だったので、ミャルレントさんの言葉を信じる、という形でお願いした。

 もっとも、その後ギルドに行ったらリタさんが頭にスライム……レベッカと名付けたらしい……が乗っていた。流石に仕事中に頭に乗せるのは大丈夫なのかと心配したんだけど、何でも渋るギルドマスターの耳元にリタさんが二言三言ささやいたら、もの凄く嫌そうな顔をしたギルドマスターが許可を出したらしい。この人は一体何者なんだろうか? まあもの凄く仲良くやってるらしいという話は聞いたし、本人達がいいならいいんだろう。あ、ミャルレントさんのところは普通に留守番をさせているようだ。仕事場だし、ファーガストも「不審者は一人たりとも見逃しませんぞ!」と気合いを入れて警備をしているとのことなので、僕も安心だ。


 とまあそんなわけで、スライムの周知は僕が思ったよりもずっと早いペースで進んでいった。もともと魔物使い(テイマー)はかなり希少で、もっと都会かもっと田舎……というより辺境辺りで敵が強いところに居るのがほとんどらしいので、魔物を受け入れて貰うのは大変かもなぁと思っていたんだけど、えっちゃんたちの愛らしさの前にはそんな心配は必要無かったのかも知れない。今ではすっかり町のアイドル……とまではいかないけど、普通に受け入れられている。特にえっちゃんは自ら精力的に動き回っているようで、僕の知らないところで色んな人にぷにられているらしい。ぬぅ、何という愛され上手。戦闘のみならず、日常生活においてもその立ち回りは学ぶところが多い気がする……これはえっちゃんが凄いのか、それとも僕が駄目なのかのどちらだろう? ……あー、うん。これは気にしたら駄目な奴だね。それに僕だって日本にいた頃に比べたら、段違いに色んな人と人間関係を築けている。ならここはへこむところじゃない。頑張ったのだと胸を張って、これからも頑張ろうと思えばそれでいいのだ。せっかく転生したのに後ろ向きの人生なんてつまらない。お金と命がかかってない時は、前向きに直進するのが一番だ。


 そんな風に考えつつ、スライム達と一緒に今日も元気に畑を威圧していたら、冒険者ギルドからの呼び出しが来た。スライム達が何か問題を起こしたのかと戦々恐々としていたら、何と僕に対する指名依頼が入ったらしい。

 指名依頼! 凄い! 何か凄腕冒険者っぽい! 一応ハイアット家からの依頼も指名依頼扱いだったけど、あっちはまあ野菜からの流れだから、冒険者としての実力を買われたとかじゃないのがね。

 そんなわけでウキウキ気分でギルドを訪ねた僕に、今日も変わらぬにこやかな笑みでミャルレントさんが出迎えてくれた。あ、流石に今日の同行スライムはえっちゃんだけだ。仕事だからね。


「いらっしゃいませトールさん。冒険者ギルドへようこそ」


「うむ。邪魔するぞ。私に対する指名依頼があると聞いてきたのだが……」


「あ、はい。承っております。依頼内容としては、スライムをテイムするところを実際に見せて欲しい、というものになっております」


「……スライムを? 私がえっちゃんに懐かれた時のことは、詳細に報告したはずだが?」


 初めてえっちゃんを町に連れてきて従魔登録をしたあの時、僕はそこに至る経緯をかなり細かく説明してある。あれ以上の情報は無いし、あの方法で駄目だったとしてもそれ以外に説明しようがない……あ、ひょっとして『威圧の絆』が無いと駄目な可能性があるのか!? そうなると確かに僕以外にスライムをテイム出来る人がいないのは説明が付く。

 そうなると、どんな風に説明すればいいのか……と悩む僕を前に、ミャルレントさんが新たな事実を口にした。


「実は、最近のスライム人気にあやかって、テイムしようとスライム遺跡に挑戦した人がいるんです」

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