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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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色の話

5/3 誤字修正

「色が欲しい……」


 聞く人が聞けば誤解されるような言葉を呟き、僕はトボトボと町を歩く。その姿はまさに黒ずくめ。髪や瞳が黒いのは生まれつきだから仕方ないとしても、服もマントも鞄も水筒も、頭のてっぺんから足のつま先まで全身真っ黒というのはいくら何でもやりすぎだ。


 いや、別に僕が好きで黒を着ているわけじゃない。単に『威圧の旅装』が黒いからという、ただそれだけの理由だ。別に脱げないわけじゃないんだから普通の服と組み合わせてもいいんだけど、着心地、通気性、耐久力や防御力などなど、ありとあらゆる面で『威圧の旅装』が優秀すぎて、他の服を着る気にはなれない。じっとりと汗をかいて服がぐっしょりするような環境でも軽く汗をかく程度で済み、かつすぐに服が乾いてサラサラに……くらいの違いがあったら、そりゃあまあね。似たような魔法がかかった服なんて買ったら、今の稼ぎじゃ数年分を突っ込んでも一式は揃えられないしね。


 そんなわけで、端から見たらもの凄く暑そうな格好をして、僕はハイアット家へと向かう。今日は野菜の卸し日じゃないけど、出来るだけ早くくーちゃんのことを確認しておきたかったからだ。ちなみに頭には今日もえっちゃんが乗っているし、肩にはひまわりの種が大好物なハム……げふんげふん、スライムのさっちゃんと、鞄の中にはあーちゃんも潜んでいる。「サイズ調整」というスライムの固有技能(スキル)で、野球のボールくらいまで小さくなれるからこそできる芸当だ……そんな便利な固有技能(スキル)があるなら最初から使ってくれればと思ったけど、僕が気づいたのは眷属リストで詳細を見たからだからだし、スライムたちは「できて当然」のことを僕が知らないと思わなかったみたいだ。常識を知らない怖さを、またひとつ噛みしめた出来事だった。


 門のところで用件を伝えると、すぐに執事さんが出てきてくれてフルールさんのところに通してくれた。流石にここで手間取らない程度には顔見知りになったからね。屋敷にいる使用人の人とかも、今はもう僕を過剰に怖がったりしない。フイッと顔を向けて「ああアイツか」みたいに納得すると、何事も無く仕事に戻っていく。僕の方も仕事の邪魔をしたくないから気にしない。僕が偉い人とか有名人なら声をかけたら喜ばれるなんてこともあるんだろうけど、今の僕が有名だとしたら、「スライムと引き分けて大量のスライムを連れ帰ってきた人」か「暑いのに全身黒ずくめの変な人」かのどっちかだからね……うぅ、世知辛い……


「いらっしゃいませトール様! ようこそおいで下さいました」


 満面の笑みで迎えてくれたフルールさんに、僕はまず頭を下げて謝罪する。


「失礼致します。事前のお約束無しでの訪問のご無礼、お許し下さい」


 頭の上のえっちゃんと肩に乗っていたさっちゃんも、僕の足下に降りたってぷるりとひと震え。そんな様子が功を奏したのか、顔を上げた時に見たフルールさんは相好を崩している。


「何を仰いますか。私の治療をしてくれたトール様に閉ざす扉など、我が家には存在しません。それに、こんな素敵なお友達も連れてきて下さいましたしね」


 フルールさんのベッドの脇から翠色のゴムまりが跳ね、ベッドで上半身だけを起こしているフルールさんのお腹の辺りにぴょいんと飛び乗る。愛おしそうに優しく撫でるフルールさんの手に、くーちゃんもプルプルと身を震わせて幸せそうだ。


「実は、今回は彼女のことでお話を伺いに参りました。何というか……彼女と一緒にいて、圧迫感のようなものを感じたりはしていないでしょうか?」


「圧迫感ですか? ええと、流石に顔に乗られたら苦しいとか、そういうことじゃないですよね?」


 くーちゃんそんなことしてるのか……そりゃ苦しいでしょ。息出来ないだろうし。


「違います。そう言う物理的なものでは無く、もっと心理的な感じで……何かありませんか?」


「そうですね……」


 そう言って、フルールさんが顎に手を当て頭を捻る。その間も空いた手でくーちゃんを撫でることは辞めない辺り、既に無意識ですら二人は友達になっているのかも知れない。だったら何事も無ければ良いけど……


「確かに、くーちゃんから不思議な気配を感じることはあります。でも、それは何というか……こう小さな子供が「自分は凄いんだぞ!」と威張っているような感じでしょうか?」


 ぷりゅりゅーん!


 くーちゃんが身を震わせ、「私はそんなはしたない事はしてませんわ!」と抗議の声……はないので震えを発している。そんな彼女にフルールさんは微笑んだまま言葉を続ける。


「ふふっ。御免なさいくーちゃん。決して悪い意味じゃないのよ? そういう所も凄く可愛いってことで……はいはい、そうね。私と同じ淑女(レディ)ですもの。きっと素敵な女性だけが発する魅力が溢れてしまっているのね」


 フルールさんとくーちゃんが、楽しそうに会話をしている。うん、これなら何の問題も無さそうだね。最悪くーちゃんを引き離さなくちゃいけないかと思ってヒヤヒヤしてたけど、一番いい結果になりそうでホッとしたよ。


 と、そんな二人のところに、えっちゃんとさっちゃん、おまけに鞄から飛び出したあーちゃんまでがぴょいんと跳ねて飛んでいく。4匹のスライムが身を寄せ合いプルプルする姿に、流石のフルールさんも驚きに目を見開いた。


「あらあら、この子達は? 赤に黄色、色違いの子までいるなんて……トール様?」


「ああ、申し訳ありません。彼らはくーちゃんの後に名付けた者たちです。赤いのが緋色の大怪盗(スカーレットアルセーヌ)のあーちゃんで、黄色いのが輝く太陽(ブリリアントサニー)のさっちゃんですね」


「あーちゃんにさっちゃんですか。みんな不思議な略し方をするのですね。皆さん初めまして。私くーちゃんの友達のフルール・ハイアットと申します。以後宜しくお願いしますね」


 フルールさんの挨拶に、あーちゃんは「素敵なお名前ですねレディ。お会い出来て光栄です」とキザに震え、さっちゃんは「よろしくー!」と元気に震えて答える……これフルールさんにも伝わってるんだろうか? くーちゃんとは普通にやりとり出来てたし、みんな意外とわかるんだろうか?


「あの、今更ではありますけど、フルール様はスライムたちの言葉というか、意思はわかるのでしょうか?」


「ええ、何となくですけど伝わってきますよ。細かい部分はひょっとしたら違う事もあるのかも知れませんけど、こうしてお友達として語らう分には、何の問題もありませんわ」


「そうですか。それならば何よりです」


 笑顔のフルールさんに、笑顔で答える。今のフルールさんは血色も良くなり、本当に魅力的だ。以前の儚い芸術品のような美しさも悪くなかったけど、命溢れる今の美しさの方が個人的には好きだ。この様子なら、そう遠くないうちにベッドから起きて家を歩き回るくらいにはなるだろう。


 楽しそうに震えて旧交を温める……それほど時間は経ってないけど……4匹のスライムたちと、それを幸せそうに見つめるフルールさん。見れば、横に控えているお手伝いさんもそわそわしている。あれはフルールさんを心配しているんじゃなく、スライムたちと触れ合いたい感じのそわそわだ。うん、わかるよ。中身は可愛いだけじゃないけど、見た目は抜群に愛らしいしね。


「まあ、そうなの!? そんなことが……え、トール様にそんな嗜好が?」


 ……なんだろう。一体彼らは何を語っているのだろう? 凄く気になる。特にえっちゃんが激しくぷるってるのが気になる。彼は僕の最初の眷属(ともだち)なだけに、スライム達のなかでは一番僕のことを知っている。いつも頭に乗っていたから出会ってから後のことは大体何でも知ってるし、そもそもフルボッコにされて謝ったこととかも知っている。

 あれ、ヤバくない? こいつを野放しにして好き放題語らせるのは僕的に駄目なんじゃない?


「トール様……ぽっ」


 僕を見つめたフルールさんが、頬を染めて顔を逸らす。ヤバイ。これはもう一刻の猶予も無い。でもその前に確認くらいはしてみたい。


「お待ち下さい。何を……一体何を聞かされたのでしょうか?」


「そんなこと、私の口からは言えませんわ。いえ、それともわかっていて言わせたいと? ……悪い方ですわ。トール様のえっち」


「し、失礼します! ほら、帰るぞお前ら! うっさい! いいから入れコノ!」


 口に手を当て意味深に笑うフルールさんに、僕は即時撤退を決意する。まだ帰りたくないとぷるぷる震える3匹を鞄に詰めたり両手で抱えたりして、僕は早足にお屋敷を後にした。別れ際に手を振るフルールさんと、その横でプルプル震えていたくーちゃんが印象的だった。だって二人ともほんのり桜色だったから……いやマジで何の話をしてたんだ?


「お前ら、帰ったら絶対問い詰めるからな!」


 友達はいつだって対等だ。だからこんなこともある……その経験を恐怖として噛みしめ、その日は結局日が暮れるまで、自宅の庭で3匹相手に熱い鬼ごっこを繰り広げることになるのだった。

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