様々な思惑
「ほう。あの遺跡に挑戦した者がいるのか」
「はい。まあ遺跡の攻略自体はかなり昔に終わっているので、純粋にスライムに挑みにいった方ですけど。情報を提供したところ火を使わずにあえて分裂させてスライムを倒すという手法は斬新だと、驚いていらっしゃいましたよ」
「……ん? 火?」
予想外の単語に僕が思わず首を捻ると、ミャルレントさんも同じように首を捻る。そしてえっちゃんは「おいおいマジか?」と頭の上で震えている。あ、これは知らずに何かやっちゃった感じかな?
「えっと……火を使わずにあえてスライムを分裂させ、複数回の擬似的な死を与えることで完全に屈服させるのがテイムの条件だとギルドとしては判断していたのですけど……違うんでしょうか?」
そうなの? と頭上に問いかけたいけど、それは流石にはばかられる。そして多分その条件は違う。どう考えても追い詰められてたのは僕の方だしね。あ、頭の上から「何度倒れてもへこたれず向かってくるお前の男気に惚れたんだぜ?」的なぷるりが来た。言葉にしなくても通じ合えるとか、流石えっちゃんだ。
ん? でもそれだと2匹目以降は条件が違う気がするけど……「俺との戦いでお前の根性はみんな解ってたからな。あとは自分で実力を確認して認めたから眷属になってくれたんだぜ?」……ああそうなんだ。あれ、固有技能全然関係無くない? いや、友達になってから固有技能を取得したんだからいいのか? 「固有技能の有無如きで友達になるかを選ぶほど、スライムの心は安くないぜ?」 そうなんだ。凄いなえっちゃん男前だな。これはしびれるし憧れちゃうぜ。
「あの、トールさん?」
無言のまま視線を宙に彷徨わせ、頭の上をぷるぷるさせていた僕はさぞかし不気味だったんだろう。いぶかしげな表情で声をかけてきたミャルレントさんに、僕は慌ててキリッと表情を整えてから答える。
「ああ、すまない。何というか、スライムのテイムには画一的な方法があるわけではなく、私の場合はそうすることでできた、ということのようだな」
「そうなんですか? ということは、トールさん以外にはスライムのテイムはできないんでしょうか?」
「うーむ。難しい質問だな。不可能とは言わないが、遺跡にいるメイズスライムたちが何を持って相手を認めるかは、それぞれのスライムの思うところによるからな」
「はぁ。スライムがそんな複雑な思考をしているとは……あ、いえ、ファーガストとのことを考えるとおかしくないですね。でも、そうするとスライムってみんなあんなに頭がいいんでしょうか?」
「それもまた、何とも言えんな。少なくとも私が連れてきたスライムたちは、皆それぞれが独自の自我を確立し主義や嗜好を持っている。だが全てのスライムがそうかと言われたら、答えようが無い」
「それはそうですよね。うーん。とするとトールさんはそういうスライムを見つけるのが上手くてテイム出来ている? それともトールさんがテイムするとスライム達の頭が良くなるんでしょうか? うぅ、謎が増えてしまいました……」
ミャルレントさんの表情が曇り、尻尾がしょんぼりと垂れ下がってしまった。そんな姿も可愛らしいけど、僕はやっぱり笑顔の彼女が好きだ。ここは話題を切り替えて元気になって貰いたい。
「スライムの生態については研究者にでも任せればいいだろう。それより、指名依頼の件について聞きたいのだが?」
「あ、はい。すみません! えっとどこまで……ああ、挑戦者の方の話ですね。今までスライム遺跡のメイズスライムに挑戦された方は3人いまして、1人目は魔法使いの方ですが、この方は16分割されたスライムが3匹同時になったところで自分には無理だと諦めて戻ってこられました。全く目で捕らえられない程の速度で跳ね回ったとのことなので、トールさんの時より強い個体だったのかも知れません」
うん? 結構な数と戦ったけど、メイズスライムの強さに誤差以上の個体差があったとは思えない……と考えたところで、僕は常に『威圧感』の効果を発揮していたことを思い出す。『威圧感』による行動阻害が一切無いなら、そりゃ速いよね。いや、それでも今の僕なら3匹同時くらいはいけると思う……いけるよね? いくら何でも魔法使いより近接戦闘が弱いのは悲しすぎる。
「で、2人目は偵察者の方で、手順通りに16分割したスライムを15体倒したけれど、最後の1体も普通に向かってきたのでやむなく倒した、とのことです。その後数匹と戦っても結果は全て同じでテイムはできなかったとのことでした」
ふむふむ。テンプレイメージ的に短剣二刀流で素早さ特化な感じだし、現役バリバリの冒険者ならスライムくらいわけないよね。
「最後の3人目はエルフの精霊使いさんで、メイズスライムに対して精霊を介した対話を試みたところ、『クッコロ』という謎の単語を繰り返すばかりだったそうで、命とは違う感じの身の危険を感じたのでそのまま帰って来たとのことでした」
……何やってるんだメイズスライム。いや、まああれだけ数がいれば、中にはそういう奴もいるんだろうけど……そのエルフさんには、是非ともちゃんとしたスライムを引き合わせてあげたい。エルフさんにも会ってみたいしね。
「ふむ。そのエルフには是非会いたいな」
僕の言葉に、ミャルレントさんのヒゲがピクッと動く。
「……トールさんは、エルフの女性に興味がおありなんですか?」
「うむ? そうだな。エルフというのは会ったことが無いので、興味もあるが……それより、まともなスライムと引き合わせてあげたいと思ってな。我が友たちが変な奴ばかりだと思われるのは、私としても心外なのだ」
「ああ、そういう……そういうことでしたら、機会があれば伝言を伝えさせて頂きます」
さっきとは反対のヒゲがピクピクッと動いて、ミャルレントさんがご機嫌な感じで笑ってくれた。誤解というのはその場で解かないとこじれるからね。勘違いフラグを潰すには、最初が肝心なのだ。
「あー、で、結局私はどうしたらいいのだ? 全員失敗したから、誰かの見ている前でテイムしてみて欲しいとか、そういうことだろうか?」
「そうですね。本来魔物をテイムするのは特殊技能ですから、公開する義務などは一切ありません。ただ今回は短期間に大量の同種の魔物をテイムしたということで、確立された技術のようなものがあるなら、それを研究することでただでさえ少ない魔物使いの育成に役立てられるかもというのがありまして、こうしてお願いしたということです。
勿論強制ではありませんし、断ったとしても一切ペナルティ等はありません。また協力頂ける範囲に関しても、トールさんの都合を優先していただいて構いません。協力していただけた範囲に応じて報酬を上乗せさせていただくという形になります。どうでしょうか?」
ミャルレントさんの言葉に、僕は顎に手を当て考える。『威圧感』の事は話せない……というより固有技能なので話しようが無いから、僕がやれることはせいぜいいつものようにスライム遺跡でメイズスライムを勧誘してくることくらいだ。それに関しては他人に見られてもどうと言うことは無い。なら、引き受けても問題無いかな? どう思うえっちゃん?
ぷるるーん
頭の上から「別にいいんじゃね? ギルドに恩を売っておくのは悪くないぞ?」と計算高いプルプルが返ってきたことも踏まえて、僕は自分の決断を口に出した。
「わかった。引き受けよう」





