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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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フルボッコタイム

 単独となった最後の(頭の上のを除けば)16スライムは、さほど苦労する事無く倒すことができた。変に奇をてらったりせず、これまで経験してきたこと、身につけた技能を確認しつつ剣を振ることで、その日のうちにスパーンと行けた。


 そして翌日。僕はちょっと調子に乗っていた。だってもう勝ち確だ。一度に戦う最大数は16スライム2匹までで、それは昨日攻略したのだから、ここから先は消化試合……そう、その思い込みこそが僕に対する最大の罠だったのだ。


 いつもの通り遺跡に行くと、いつもの通り16スライムが頭に乗ってきて、目の前には2スライムと4スライムが1匹ずつ。余裕の態度でプルっている2スライムはそのままにし、僕は4スライムに向けて軽く一太刀。あっさりと8スライム2匹になる。あとはこのまま8スライムをもう1度斬ってやれば、必勝の形だ。不気味なほど静かで身動きしない8スライムを斬ろうと、『威圧の剣』を振るったまさにその時。


「……え!?」


 僕の剣の軌道に、もう1匹の8スライムが飛び込んで来たのだ。『威圧の剣』の切れ味の前に、2匹の8スライムはそれぞれが真っ二つに切り裂かれ、生まれ出たのは4匹の16スライム。


 スライムたちが、ニヤリと笑った気がした。ここでやっと罠にはめられたことに気づいたけど、今更どうすることもできない。その先で待っていたのは、止めどない暴虐の嵐であった。


ぷにょーん ぷにょーん ぷにょにょにょーん


「痛い! 痛い! 待って! ちょ、マジ待って!?」


 4匹のスライムが縦横無尽に跳ね回り、僕に向かってぷにょぷにょと体当たりを繰り返す。地面に倒される前に他の方向からの体当たりが来るので、実際は倒れ込むよりよっぽどダメージは少ないんだけど、そこはイメージの問題だ。だって想像してみて欲しい。ハンドボールの球くらいの大きさの物体が、四方八方から自分に向かって突っ込んでくるのだ。痛いとか痛くないとか以前に、その恐怖とかインパクトだけで正直ガクブルだ。


「御免なさいすいません! 調子に乗って悪かったです! 申し訳ありません! 勘弁してください!」


 両腕で顔を隠しその場でうずくまってひたすら謝罪したことで、ようやく僕のフルボッコタイムが終了した。怖い、スライムマジ怖い。そしてマジ強い。昨日までは普通に手加減されていたんだという事実に気づいて、何かもう愕然となる。最弱と言われる魔物の16分の1に手加減されてたって……えぇぇ……


 正直、かなりへこんだ。このまま家に帰って布団にくるまって眠りたい、そしてその後はおとなしく畑を耕す人生を送りたい……という欲求に、結構なレベルで負けそうになった。だが、そんな僕の頭の上で、16スライムがぷにょぷにょと蠢いていた。

 励まされている。そんな気がした。「こんなところでへたれるとか、ミジンコ以下のナットウ菌野郎じゃねーか」みたいな、意味不明の煽りを言われてる気がした。馬鹿にして、口汚く罵って……それでも決して見捨てない。そんな思いが伝わってくる気がした。


 そんな……そんなことされたら、諦められないじゃないか。そうだ。僕は強くなって、世界を見て回りたかったんだ……いや、そこまでのつもりは無かったけど、とりあえず町から出られるくらいにはなりたかったんだ。そのためにここに来た。そのためにスライムと戦った。時間をかけて少しずつ速さに慣れて、やっと16スライム2匹同時まで攻略できるようになったんだ。

 だったら、ここで諦めるのは勿体ない。別に今は、邪神が復活しそうとか魔王軍が攻めてくるとか、そんな切羽詰まった状況じゃない。僕がスライムを倒すのにどれだけ時間を費やしたって、変わるのは野菜のお裾分けが減ることになるミャルレントさんやフルールさんのご機嫌くらいだ……それはそれで大事にしたいな。いや、でも、ここで妥協は駄目だ。中途半端が一番良くない。というか、スライム1匹倒せないとか、中途どころかスタートラインですら無い。ここで辞めたら、もう「冒険者」ではいられない。農夫か料理人か……それも別に悪いわけじゃないけど、とにかく僕は「冒険者」でいたいのだ!


 立ち上がり、剣を構える。もう油断も慢心も無い。恐怖感はちょっぴり残ってるけど、それは戦いの中で克服すべきものだ。そんな僕を見て、2スライムが「いい面構えになったな」的な身の震わせ方をし、一列に並んだ16スライム×4は「これからが始まりだぜ? 覚悟はいいか小僧ボーイ?」風のプルプルを醸し出している。

 何だろう。何かこう、凄く自分が輝いている気がする。体中に力が満ちあふれ、今ならどんな困難だって乗り越えられそうだ。


 16スライム達が、一斉に跳ね始める。さっきまでのように無茶苦茶な体当たり連発ではなく、僕の周囲をまるで結界でも形成するような動き。そこから時々飛び出してくる弾丸のようなスライムを、僕は必死で回避し、あるいは防ぐ。が、昨日までのようには全くいかない。

 だって、昨日までは2匹しかいなかった。1匹が空中にいる間なら、実質僕を狙って動けるのは1匹だけだからこそ何とかなったのであって、それが3匹になったら正直手も足も出ない。勿論、タイミングを見極めれば2匹3匹が空中にいる瞬間もあるだろうけど、そんな動体視力は僕には無い。あくまでスライムが同じ速度で・・・・・動き続けてくれたからこそ倒せただけで、能力が上がったとかじゃなく、本当に単純に目が速さに慣れたってことだけなのだから。


 ん? 同じ速さ……?


 ここでふと、僕の中に閃きが過ぎる。これはいける……かも知れない。でも、多分使えるのは1回だけだ。


 僕は息を整え、意識を集中する。

 目の前をスライムが横切る。でも、それじゃ駄目だ。

 横から肩に体当たりしてきた。これも駄目だ。

 後ろから頭の横を通り過ぎていった。これも駄目。

 正面から、僕の顔めがけて真っ直ぐに突っ込んでくる……ここだ!


 機を逃さず、僕は『収束威圧』を発動。これの対象を指定することが、スライムの動きが速すぎてできなかったのだ。だから待った。真っ正面から顔に向かってくる直線軌道、それだけを待っていたからこそ『収束威圧』の対象指定は成功し、目前に迫ったスライムの動きが3割ほど遅くなる。

 それに合わせて、僕は『威圧の剣』を叩き付ける。当然それを阻止しようと他の3匹が飛び跳ねてくるけど……そいつらは今までよりも倍近く速く動いてしまったために、タイミングを完全に外していた。『収束威圧』その効果は、対象に対する威圧力の上昇と、それ以外・・・・に対する威圧力の低下。いきなり速度が変わったら、それが速かろうと遅かろうと対処なんてできるはずがない。


 スパーンという小気味よい音を立てて、16スライムがはじけ飛ぶ。対象を失って『収束威圧』の効果が切れ、いつもの速度に戻った残りの3匹のジェットでストリームなアタックを食らって地面に倒れ伏したけど、僕の心の中の会心の笑みが歪むことは無い。痛みをこらえて立ち上がり、再び剣を構える。


「さあ、残り3匹だ……どこからでもかかってこい!」


 言った瞬間3匹によるフルボッコタイムが再開され、もう一度泣きそうになりながら謝ったのはここだけの秘密だ。

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