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【Web版】威圧感◎  作者: 日之浦 拓
本編(完結済)

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最弱生物への挑戦

 結局の所、その日はスライムの動きを捕らえることは出来なかった。ムキになって挑んでみたけど、3回ほどぷにょーんとされたところで体の痛みが限界に来て、結局すごすごと帰宅させられたのだ。何という屈辱! 何という敗北感! 神に選ばれた伝説の農夫にして料理人である僕が、スライム如きに負けるなんて……いや、本当に農夫とか料理人なんだったら、別にスライムに負けてもいいと思うけどね。僕はほら、冒険者だからね。強者のオーラたる『威圧感○』を常時発し続けているのに、スライムに勝てないとか……流石に恥ずかしすぎて、誰かに相談する気も起きない。


 というか、あのスライムで最弱とか、この世界の魔物って強くない? 初めて会った時に足下でプルプル震えてたゴブリンとかも、『威圧感』が無かったら実は凄く強いとか? あれ、これ駄目じゃない? あのスライムが「その辺の大人が棍棒持ってぶっ叩けば倒せる」とか、僕の身体能力って思っていたよりずっと低いんじゃない? 今日も元気に泣いていた門番の人とかも、日本に連れて行ったら総合格闘技で無双しちゃうくらい強かったりするの?


 ヤバイ。これはヤバイ。何がヤバイって僕の存在意義がヤバイ。村人Aより弱い冒険者なんて、どうやって生活していいかわからない。一応畑仕事をすれば生活はできそうだけど、何かこう「そこがゴール」みたいな感じで、その先の展望が見えない。おじいちゃんになるまでこの町だけで畑を威圧して生活するのは、流石の僕でもちょっと遠慮したい。元日本人だからこれが限界ですって言われたなら素直に受け入れられるけど、成長出来る余地があるって教えられたうえで、『威圧感』なんて便利固有技能(スキル)を貰っちゃったからね。夢くらい見ちゃうよ。男の子だもん。


 となれば、やるべき事はひとつ。あの緑のプルプル野郎に一矢報いて、最弱生物から1つ上の男へとランクアップを果たすのだ! それこそが、冒険者として僕がクリアすべき最初の冒険(クエスト)! 待ってろよスライムめ、見事お前を打ち倒して、最弱の名を返上してやる!


 ……目標低いなぁ……いや、でも、小さな事からこつこつと、だよね。千里の道も一歩から、五十歩百歩、目くそ鼻くそを笑う……違うよ。最後の2つはネガティブな奴だよ。まあとにかく頑張っていこう。




 何をすべきかは決まったので、その日から僕は遺跡に通うようになった。あの場所にいくと2分の1スライム、4分の1スライム、8分の1スライム、16分の1スライムと全部が勢揃いしているので、僕は『威圧の剣』を手にして構える。それを確認すると8と16が跳ね回り始めるので、意識を集中して剣を振る。

 この時、闇雲では駄目だ。適当に振った剣がまぐれ当たりしても、スライムはぷにょんと『威圧の剣』をはじいてしまうのだ。明確な意図を持って振るわないと『威圧の剣』の効果は発動しないのだろう。意図しない相手を傷つけないようにする安全装置のようなものが働いているんだと思うので、これは仕様として飲み込むことにした。僕としてもまぐれ当たりだけで勝っても、勝った気がしないしね。


 3日ほど籠もったところで、最初の16スライムが僕の頭に乗ってきた。何度振り払ってもすぐにまた乗ってくるし、それならばと一度頭を『威圧の剣』でひっぱたいたら、見事に回避されて初めての自爆ダメージを食らってしまったので、その後はずっと放置している。頭の上でぷにょぷにょとはしゃいでいる(あるいは煽っている)のがそこはかとなくウザイ。


 とはいえ、的が8スライムだけになったので、意識の集中はしやすくなった。良く見てやれば、色々なことがわかってくる。例えば、動きそのものに規則性はないけど、跳ねられる角度には厳然として限界がある。地面や壁面に接地するときの速度と角度、接地した場所の僅かな出っ張りやへこみ、そういうものを理解してやれば、そこから跳ねられる範囲は実はそれほど広くない。

 それがわかれば、後は速度の問題だ。どんなに速く動いたって、人は慣れる。一発勝負で負けたら死亡、みたいな通常バトルだったら慣れるも何もないけど、このスライムは僕を殺すつもりは無いらしい。倒す気は満々でぷにょーんと体当たりされるが、僕が倒れた場合はそれ以上攻撃してこない。 死の危険が無いという意味なら、確かにスライムは最弱生物だ。

 そして、死なずにトライし続けられるなら、時間をかけて速度に慣れることができる。1週間ほど通ったところで、僕は遂に8スライムに一太刀当て、16スライム2匹にすることができた。


 だが、そこからはまた長かった。的の大きさは半分なのに、的の数と速度は倍なのだ。しかも片方を叩けそうになると、もう片方がぷにょーんとしてくる。つまり、攻撃だけじゃなく回避、あるいは防御の技術も求められるようになったのだ。難易度激上がりだ。


 ここで小盾を使ってみるのはどうかと検討してみたけど、実際に使うまでには至らなかった。小さくても、盾は普通に重かった。重さを感じない威圧装備に慣れているから動きの違和感が半端ないし、何よりあっという間に腕がだるくて上がらなくなってしまった。これを使いこなすにはまずは筋トレから始めないといけない感じだったので、今回は見送ったのだ。いずれ『威圧の盾』とか手に入ったら、その時改めて練習すればいいだろう……あるよね? まあ鍬があって盾が無いってことは無いだろうけどさ。


 16スライム2匹同時との攻防は、熾烈を極めた。何度も何度もぷにょーんされて、正直心が折れかかったこともあった。何より辛かったのは、冒険者としての悩みや苦労なのに、誰にも話せない、頼れないってことだ。こういう時の相談相手として最良であるミャルレントさんにも、流石に「16分の1のスライムが倒せない」と相談することはできなかった。いくら何でも格好悪すぎる。

 逆にお嬢様の方には、例の創作小話が完結したのを機に、「スライムに苦戦する冒険者の話」という笑い話として話題を提供してみた。体の弱かったお嬢様には共感出来る部分が多かったらしく、また自分が紹介した遺跡の話だということで、十分に楽しんで貰えたようだったし、話のモデルが僕だということにも気づかれずに済んだようだ。まあ見た目はともかく、こんな『威圧感』を出している奴がスライムに苦戦するとは思わないよね。あるいは僕が駆け出しだった頃の話を交えている、くらいなら感づいていたかも知れないけど……うん、現在進行形の話です。情けないけど、喜ばれたならむしろ救われたよ。ありがとうフルールさん。今度またフレンチトーストをご馳走するよ。


 試練の日々は続く。更に1ヶ月の時が経ち、自分から動くのではなく、相手の動きに合わせることを学ぶ。飛び跳ねるスライムの軌道に剣を置いてみせる「フェイント」と、それを阻止しようと突っ込んでくるスライムを引き戻した剣でぶっ叩く「カウンター」を使うことで、僕はようやく2匹目の16スライムを倒すことに成功した。大声をあげて喜んだ僕に対し、頭の上の16スライムが一緒に跳ね回って喜んでくれたり、4スライムが「お前なかなかやるな?」という気配を、2スライムが「奴らは4形態スライムの中で最弱。まだまだこれからだぜ?」みたいな感じを出してプルプル震えていた。


 ふむ。確かにまだ僕は、不意打ち以外で初めてスライムを倒せただけに過ぎない。最弱脱出への男坂を、今ようやく登り始めたところなのだ。頑張らねば!

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