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彩色の魔女  作者: 唄海
3章 第零種永久機関
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青い鳥と黒い魔女

 最後の授業の終わりを告げるベルが鳴る。今日も一日が終わった。

 俺は荷物をまとめると、足早に生徒会室へと直行した。面倒そうな用事は、さっさと片付けてしまうのが得策だ。


「それにしても、なんかしたっけかな」


 呼び出しの内容をあれからずっと考えていたが、一向にそれらしき理由は見当たらない。生徒会に所属してない俺が呼び出される理由など、あるはずもないのだが。


「あ、そいや⋯⋯」


 一年生の教室前廊下を歩く。ふと転校生の話を思い出し、生徒会室へ行くついでに見ていこうかと歩き出す。と、すれ違った女子生徒が声をかけてきた。


「真先輩、こんにちは。何してるんですか?」

「⋯⋯ん? ああ、なんだ雪舟か。生徒会長に呼び出されたんだけど、ふと転校生が来たってのを思い出してついでにちょっと見に来たとこ」


 この可愛らしい後輩は、雪舟蛍(ゆきふねほたる)。倉﨑と桐山の部活の後輩にしてマネージャーで、その関係で顔見知りになった一年生屈指のポニテメガネ美少女だ。


「あ、あの子なら部活を見に行くって言ってグラウンドの方に行きましたよ」

「へー。熱心な奴なんだな、そいつ」

「何ていうか、すっごく元気な子でした」


 元気な子。そう聞いて一瞬、白い髪の悪魔が脳裏をよぎる。


「⋯⋯いや、まさかな」


 ぶんぶんと頭を振って、悪い予感を振り払う。まさかそんな事、あってたまるものか。


「どうかしました?」

「いや、何でもない。一体そいつは何部に入るんだろうな」

「サッカー部はいつでも歓迎ですよ。もちろん、真先輩もです!」

「俺じゃ入ったところで何の役にも立たねぇよ」

「そうですか? 先輩、運動神経良さそうですけど」

「悪い。特に球技は」


 なんというか、頭と体がリンクしない。脳は反応しても、体が思った通りに動いてくれないのだ。走るだけ、蹴るだけならばまだやれるが同時並行は無理に等しい。


「まあその話は置いといてだ。とりあえずここにいないならいいや」

「あ、そういえば生徒会長から呼び出されてたって⋯⋯すいません呼び止めちゃって」

「いや大丈夫。じゃ、部活頑張って」

「はい。さよなら、先輩」

「じゃあなー」


 雪舟と別れ、再び生徒会室を目指して歩き出す。結局転校生は見ることは出来なかったが、どうやら怪しい奴ではなさそうなのでひとまずは安心だ。もしこれで魔法だの魔女だの神だの言いだすような奴だったなら、それはもう戦うしかないだろうし。

 そんな物騒な事を考えている内に、生徒会室はすぐそこまで来ていた。鍵はかかっていない。どうやら生徒会長は既にいるようだ。


「涼城先輩いますかー?」

「いますよ〜」

「お邪魔します」


 扉を開ける。風が吹き込み、夏の空気が肌を乾かす。長い夏の夕暮れ、まだ高い太陽を窓の額縁が切り取っていた。


「待ってましたよ、黒峯君」


 その窓を背に、涼城先輩は佇んでいた。


「⋯⋯⋯⋯」

「どうかしましたか、黒峯君?」

「いや、先輩は相変わらず綺麗だなって」

「褒めても単位は出ませんよ?」

「流石にそこまで悪くねーよ!!」


 窓辺に髪をなびかせて立つ美人は、どの季節でも絵になるなぁと思ったのだ。

 涼城鈴鳴(すずしろすずな)。この高校の生徒会室であり、俺の一つ上の先輩。誰にでも優しく、みんなから慕われている人だ。その上美人なので人気が出ないはずがない。なんでも三年生の中ではファンクラブが結成されており、メンバーは男女合わせて三桁に届きそうだとかなんとか。異性同性問わずに人気なのは恐ろしい所である。


「今日は他の生徒会の人達はいないのか?」

「⋯⋯もしかして黒峯君、テスト期間の事忘れてます?」

「知らないなぁ。来月くらいだっけ?」

「うちに帰ったら、予定表を見てみるといいですよ。ちゃんと勉強道具も持ち帰って」

「はーい」


 あまりにも恐ろしい事を思い出してしまった気がしたので、先輩を見て気を紛らわせる。多分今日は生徒会は休みなのだ。


「んで、何の用です?」

「まあ立ち話も何ですし、座って下さい。あ、お菓子とお茶も有りますよ。黒峯君は緑茶と紅茶、どっち派でしたっけ?」

「どっちでもいいですよ。先輩に合わせます」


 促されるまま適当にそのあたりの椅子に座る。面倒そうな用事は早く済ませてしまう主義だが、このまますぐに帰ると更に面倒そうな事が待ち構えてる気がするのでお言葉に甘えてお茶を頂くとしよう。

 しばらくすると、先輩がお茶とお菓子を持って俺の前に座った。差し出されたお茶に口をつけ、夏の暑さで乾いた喉を潤す。


「それで、用事ってのは?」

「それはですね~。あ、このガトーショコラ美味しい。黒峯君もどうです?」

「あ、どうも⋯⋯」

「先輩あーんしてあげます。はい、あーん」

「いらんいらん!」


 ちょこんと差し出されたガトーショコラを慌てて掴み、そのまま口に放り込む。確かに美味しいし、お茶と絶妙に合う甘さだ。先輩さえいなければ。先輩は誰に対しても甘すぎる。

 もしもこんな所を三年生の先輩達に見られた日には、恐らく明日は体育館裏だ。


「先輩、そう言う男が勘違いしそうな行為は控えたほうがいい。無自覚に犠牲者を増やしてしまう」


 優しく殺すとはこの事だ。高嶺の花は、見上げて眺めるからこそ美しい。手を伸ばそうなどは、間違っても思わない事だ。手を伸ばしたが最後、届くことなく奈落へと滑り落ちていく。


「先輩、頼むから勘弁してくれ」

「つれないですね、黒峯君は。先輩悲しいです」

「よしいいぞ、そのまま俺を嫌え!」

「ダーメーでーすー!」

「⋯⋯はぁ」


 なんだか頭痛がしてきた。


「きっと、先輩のクラスの人は大変なんだろうな⋯⋯可哀想に。絶対先輩の隣の席とかなりたくない。考えただけで寒気がする。夏なのに」

「黒峯君は先輩の事が嫌いなんですか?!」

「いや別に。というか、もうそろそろ呼び出した理由を聞かせてもらえませんか」


 これ以上話しても無駄な気がするので、俺は強引に話を戻す。先輩は少しだけ不満そうに口を尖らせるが、しぶしぶ本題へと入ってくれた。


「黒峯君、転校生さんと仲はいいですよね?」

「まぁ⋯⋯それなりには」


 今朝の、というか今日一日の出来事がフラッシュバックする。堪らず苦い顔をしそうになるが、なんとか抑え話の続きを促す。


「先輩ね、学校探検をしようと思ったんですよ」

「学校⋯⋯探検⋯⋯?」


 なんだ、その小学生低学年の様な単語は。そんなので喜ぶのは、うちのクラスの奴らくらいだぞ。


「ほら、転校生さんが沢山来たじゃないですか。それで、生徒会長として何かしたいなぁっと思ったんです。それで、迷わないようにこの学校を案内してあげようと思ったんです!」

「そう、いいんじゃないですか。話は終わりですね、じゃあ俺は帰ります」


 湯呑みと皿を片付け始める俺を、先輩が慌てて静止する。


「何ですか、もう用事は無いですよ」

「せめてお話だけでも聞いてください!」

「はぁ⋯⋯」

「それでですね、黒峯君にも手伝って貰いたいんですよ。黒峯君、転校生さん達みんなと仲良しですから」

「マジすか⋯⋯」

「まじです。まじまじです」


 まじまじと俺の反応を伺う生徒会室の主。生徒会室という結界の中なのか、俺は逃げられる気が微塵も感じられなかった。袋のネズミの袋が二重に包まれてるみたいだ。


「断ったら?」

「明日から毎日、黒峯君のお昼ご飯を奪いに行きます。先輩、カラスになっちゃいます。黒峯君のカラスで黒カラス君です」

「カラスは元々黒い。多分先輩が想像してるのはハトだ」


 先輩の頭の中で、ハトがかぁーと鳴いた。


「わかりましたよ。いつやります? さすがに休日はお断りしますよ」

「そこは大丈夫です。先輩、ちゃーんと労基は守りますから。それで黒峯君、明日の放課後は空いてますか?」

「そんな早速で大丈夫なんですかね⋯⋯」

「大丈夫です。多分」

「多分」

「多分!」


 本当にこの人生徒会長なのだろうか。いやまぁ、実際学校行事の運営とかは支障なくしてるから普通に仕事は出来る人ではあるだろうけれども。


「実はもっと前から計画はしていたのですが、黒峯君と青原さんがすぐに休んでしまったので」

「あ、なるほど。それでその後に他の転校生がきたから、一緒にしたってこと何ですね」

「そうです。黒峯君、あまり心配をかけちゃダメですからね」

「⋯⋯すんません」


 こればっかりは反論の使用がない。魔法について話すわけにもいかないし、何より先輩まで巻き込むわけには絶対にしてはいけない。

 力には責任が伴う。当たり前の事だが、これを忘れては人はたちまち災害となる。だからこそ俺は隠し通さなければならない。この力を、この秘密を。


「確かに黒峯君くらいの歳の男の子は、自分探しの旅に出たくなるかもしれません。でも思い出してください、幸せの青い鳥はどこにいましたか?」

「青い鳥⋯⋯ねぇ」


 或る少女の姿を、俺は思い出す。きっと彼女は、鳥だ。大空と海の狭間を優雅に翔ぶ、決して届かない青い鳥だ。幸せの象徴、その止まり木になるのは何だろうか。


「黒峯君?」

「あ、いや何でもないです。それじゃあ用事も終わった事ですし、帰りますね」

「ええ、さようなら。気をつけて」

「はい。お菓子、ごちそうさまでした」


 生徒会室を後にする。もうすっかり夕暮れになっている。もうしばらくは明るいままの空を眺めながら昇降口へと歩く。ピリピリとした夏の夕日が肌を焼き、夏の訪れを文字通り肌で感じられた。暑い。とにかく暑くて堪らない。今晩は絶対に冷たい物にしよう。

 外に出ると、丁度よくサッカー部員達の練習が終わった頃だった。

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