夏の空
ようやくの昼休み。疲れきった体を少しでも休めたいが、世界はそう簡単には出来ていない。
ガルとライヴは相変わらずだし、ベルは今どこにいるのか分からないので連絡が取れない。今動けるのは、俺と小夜だけだ。
「真、飯買いに行こうぜ」
「早くしろ。売り切れるぞ!」
「悪い、金やるから買ってきてくれ。カツサンド二つ」
倉﨑と桐山が立ち上がり、俺の席の前に並ぶ。財布から五百円玉を取り出し、二人に預ける。カツサンド二つなら、これで十分足りるだろう。
「小夜、とりあえず一年の所に行ってみようぜ」
「お腹は減らないの?」
「いや、あのさ」
「一緒にカツサンド食べましょう?」
「あの」
「真?」
「⋯⋯」
テコでも動かなそう。
「真、行ってやれって。ほら、返すわ」
「んじゃ、俺らは先に行ってるわ」
なぜか早足で去っていく二人。途中チラリとこちらを振り返ると、グッと親指を立てられた。
「⋯⋯売店行くか」
「えぇ、行きましょう!」
という訳で、一階にある売店へと行く事にした。混んでいたものの、先に行ってた二人が目当ての物を確保してくれていたので、無事手に入れることが出来た。
「細かいのはいいや。百円玉のトコだけくれ」
「いいのか?」
「いいって事よ」
「悪いな」
カツサンドを渡すと、奴らはまた早足でどこかへと行ってしまった。
「このまま教室ってのも面白くないし、屋上でも行ってみる?」
「真が行きたいのなら、私はどこでも構わないわ」
「んじゃ屋上行くか」
階段を上りきり、重い鉄の扉を開け放つ。さんさんと強烈な日が差す屋上には、人っ子一人もいなかった。俺はその一角に、迷うこと無く進む。
「実はここに日陰があるんだ」
「あら、上手く隠れてるわね」
「お気に入り」
秘密基地を自慢する小学生の様に、目を輝かせながら胸を張って見せびらかす。
「いい景色じゃない」
「だろ?」
そこに腰を下ろし、買ってきたカツサンドを食べ始める。パンにぎっしり詰まったカツが、空の胃に突き刺さる。美味い。
「それにしても、いい景色ね。空も綺麗だし、ピクニックの気分だわ」
「このまま昼寝って流れだと最高なんだけどな⋯⋯」
食後の眠気と、心地よい風が相まってここは最高の昼寝スポットだ。だからといって油断してしまうと、午後の授業があっという間に過ぎていってしまう。
「ちゃんと授業は受けましょう。アナタと一緒なら、どんな時間でも楽しいもの」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
何か温かい物が、胸をじわじわと染め上げてゆく。恥ずかしくなって小夜から顔を逸らし、俺は街の景色を見て気を紛らわす。
と、ポケットに入れた携帯が鳴り出す。着信は、どうやら海千流からのようだ。
「ごめん、ちょっと外す」
「ゆっくりどうぞ」
小陰から這い出て、携帯を耳に当てる。
「はいはい」
「あーさっちゃん、なんか生徒会長さんが用事があるから放課後生徒会室に来てって」
「涼城先輩が? なんだろ」
「さあねぇ。伝言だけして帰っちゃったから」
「分かった、とりあえず行く。悪いな、わざわざ」
「気にしないで。それじゃ、遅れないようにね」
「はいはい」
しばらく、切れた通話画面を見つめる。
生徒会長──あの人は一体、俺に何の用だろうか。心当たりが無いだけに、不安の雲は厚く心を覆い尽くしてゆく。
「悪い、戻った」
「おかえりなさい。どうする、もう少し休んでいく?」
「まだ時間あるし、のんびりしてこう。転校生の件は、また時間があればでいいさ」
ともかく今は、この幸せな時間を楽しむ事にしよう。俺は再び小陰に腰を落とすと、小夜と何気ない話に花を咲かせた。




