死神の足音は軽やかに
「部室の方行ってみるか」
サッカー部の生徒達がちらほらと後片付けを終えて帰っていくのを見て、サッカー部の部室へと行き先を変える。
この様子だと、倉﨑と桐山と一緒に下校できそうだ。
「先輩、お疲れさまです。生徒会長からの用事は終わったんですか?」
部室へ途中で雪舟と会った。彼女は両手いっぱいに用具やら何やらを抱えていた。
「終わった。ていうか重そうだな、持つよ」
「あっ、でも⋯⋯悪いです、先輩に」
「いいからいいから。どうせ桐山と倉﨑が着替え終わるまで暇だし」
「じゃあ⋯⋯少しだけお願いします」
「少しと言わず八割くらいでも大丈夫だぞ」
雪舟の荷物を半分ほど受け取り、彼女と並んで歩く。これは多分、部室から少し離れた倉庫にだ。
「ったく、あいつらも少しくらい持ってってやれよなー」
「いいんですよ。先輩達は先輩達のやる事が、わたしはわたしのやる事があります。だから、先輩達にそこまでさせるわけにはいきません」
「真面目だなぁ。桐山も倉﨑も、こんな優しい後輩がいるって事をもっと幸せに思わないと罰が当たるな。ていうか当たれ」
そういえば貰ったパスタ缶をまだ開けてなかった。お土産にとでも言って、早いうちにアイツらに渡して毒味して貰おう。
「そういえば先輩。転校生さんにも荷物手伝ってもらったんですよ。見学のお礼だって言って、止める間もなくそのへんにあった荷物持って倉庫に走っていったんです」
「へー。て事は、このまま行くと転校生とご対面出来るってことか」
「なんか運動神経バツグンの子でした。その上礼儀正しくて可愛くて、部員のみんなは是非入ってくれって絶賛でしたよ」
「⋯⋯雪舟、帰りにジュース奢ってやるよ」
「へ? 嬉しいですけど、どうして?」
「いいんだ」
可愛い後輩ならもう既に居るというのに、酷い奴らだった。これからは、時間さえあれば少し雪舟を手伝ってやろう。
そして予想だにしないタイミングで、転校生の正体を掴めそうだ。最初は怪しい奴かと警戒心すら抱いてしまったが、雪舟の話を聞く限りどうもかなり良い奴っぽそうで安心した。
「そうそう! 真先輩の事を話したらその子、『まるでワタクシのお兄ちゃんみたいですね!』って言ってました」
「可哀想な奴だ」
というかもはや、転校生よりもその兄の方が怪しい奴に思えてきた。俺みたいな奴など、そうそういられては困る。
「あ、いました。あの子です、丁度倉庫のドアの前にいる子」
「どれどれ。へー、あの子も外人か」
雪舟の指さした方向に、一人の少女がポツリと立っていた。夕日の赤色を反射し紅く輝く髪。恐らくは銀髪か白髪の髪の毛をツインテールに結んだその人物は、こちらに気づいきはっと顔を上げるとこちら目掛けてダッシュしてきた。
その少女を見て、俺は何かとてつもなく恐ろしい者に遭遇してしまったような恐怖に襲われた。
「⋯⋯なぁ、雪舟。アイツの名前、なんて言うか聞いた?」
恐る恐る、隣でニコニコと手を振っている雪舟に問いかける。雪舟は笑顔のまま、あのバケモノじみた少女の名前を紡いだ。
「言ってませんでしたっけ? サリィさんって名前です。羨ましいです、名前まで可愛くて」
「⋯⋯いやー、参った」
「どうかしたんですか先輩? なんだか顔色が悪いですよ」
「気にするな、いつもの事だ」
そう、これはいつも通りの日常。非日常の出番では無い。故に、異物は取り除かねばならない。
全身に魔力を張り巡らせ、左手で手刀を構える。
「あ、お兄ちゃん! 会いたかったです、お兄ちゃん!」
満面の笑みを浮かべたその綺麗な顔に、手刀を思い切り叩き下ろす。大丈夫、痛いだけだ。ただし────
「どうしてお前がここにいるんだよ!」
「ぎゃっふん!」
────とてつもなく痛い。




