血の気
「んぁ……うぅ……」
ゆっくりと目を開けながら、倒れていた床から立ち上がる。なんだか物凄く頭が痛い。
「何してたんだっけ俺……」
気を失う直前の記憶が抜けている。アニマに血をやった所までは覚えているが、それ以降があまり思い出せない。
「お目覚めですか?」
ふと、声がした。声の方向をみると、アニマが椅子に座りながら俺を見ていた。
「おはよう」
「おはようございます、ご主人様。と言ってもご主人様は寝てたんじゃなくて気絶してたんですけどね」
「え、マジで?」
と言うことは、この頭痛は恐らく気を失う直前に何かに当たった痛みなのだろう。
「一体何があったんだ?」
「暴走しかけたご主人様を、ライヴが気絶させて止めたんです」
「あぁ……」
思い出した。俺はこいつの持っているサキュバスの力によって、こいつに魅了されていたんだった。もしライヴが止めてくれなければ、大変な事になっていただろう。
「ライヴにちゃんとお礼を言ってくださいね、ご主人様」
「わかったよ。それにしてもお前、ずいぶんとライヴと仲良くなってないか?」
いつの間にか名前で呼んでるあたり、結構気が合ったりしたのだろうか。ライヴの事だから、面倒だから名前で呼べとでも言いそうだが。
「ライヴとは色々とお話しまして。面白いヒトでしたよ」
「面白い……?」
恐ろしいの間違いじゃないか?と言いかけたが、そう言った事がライヴに知られたらまた気絶させられそうなのでやめておいた。
「それにしても、完璧なタイミングでした。あと数秒で、ワタクシの大事な物がご主人様に奪われる所でした」
「お前なぁ……」
「あ、でもでも! ご主人様がどうしてもと言うなら今からでも続きを!」
「お願いだからやめてくれ……」
「ヘタレですね!」
散々な言われようだった。何度も言うようだが、そういった事に興味が無い訳ではない。けれども、さすがに人外っ子は守備範囲外だ。
「人外っ子は守備範囲外って顔してますね」
「お前やっぱり俺の心読めてんだろ」
「ふっふっふ。下僕たるもの、ご主人様の事などお見通しなのです」
「否定してろよ。怖すぎるから」
本当に大丈夫なんだろうか。とりあえず後で心を読む魔法について小夜に聞いてみよう。そして実在したら対抗策も聞いておこう。
「ご主人様は心を読めないんですか?」
「さぁな。俺自身、自分がなんの魔法を使えるか把握してないし」
そもそも黒色の魔法使いがいない上に、実在したとされる一人もその素性は全くわからない。もしまだ生きているのなら、ぜひ話してみたいものだ。
「俺ができるのは身体能力の強化、真槍の作成、あとは1回だけできた転移魔法だ」
「ほー、真槍ですか」
「そうだ、小夜がつけてくれた。なんでも、魔力を吸収できるらしい」
昨日のガルを思い出す。一瞬触れただけだというのに、立てないほど疲弊していた。
「ワタクシも出せますかね?!」
キラキラと目を輝かせるアニマ。俺の魔力で出来ているのなら、可能性が無いとは思うが……
「ご主人様はどうやって出してるんですか?」
「どうやってか……こう、なんというか……うん」
説明が上手くできない。なんというか、イメージした場所にいつの間にか出ている感覚だ。
「あ、待ってください。その感覚を持ったまま、ワタクシに伝達回路経由で通信を」
「また難しそうな事を……」
そう言いながらも俺は、言われた通りに真槍を作成するイメージを思い浮かべ、傍らにアニマへの見えない回路を想像する。
「ふむふむなるほど……お手軽ですね」
「伝わったのかよ?!」
納得したような顔のアニマ。あまりにも現実離れした現象に驚く。
「感覚的な事も、アニマとは共有できるのですよ」
「それ、地味に凄いぞ」
空いた口が塞がらない。主人とアニマは、そんなにも深く結びついているのか。
「そうです、凄いのですよワタクシは」
「へえ」
あまり無い胸を張って威張るアニマ。結構身長はあるのに、胸は無いヤツだった。
「んで、出せそうか?」
「やってみますね!」
そう言うとアニマはビシッと天井に向けて指差した。すると、背後に見覚えのある魔法陣が出現する。
「おぉ?!」
「その綺麗な顔を吹っ飛ばしてやります!」
そのままその指を俺に向け、声高らかに叫ぶ。すると魔法陣から、黒い長物が飛び出してくる。紛れも無くそれは真槍だった。
「んー?!」
「あっ……」
射出された真槍は寸分の狂いもなく俺の眉間へと迫り来る。
「あぶねっ!」
間一髪、紙一重の所で向かってきた真槍を掴む。もしあと一瞬でも遅かったら、眉間に穴が空いていたかもしれない。
「あれ、ご主人様……?」
「何だ、もう1本来るのか?! 来るなら気やがれ!」
急いで周囲を見渡す。
「そうじゃないです」
「じゃあ何だってんだ」
「だって、それ……」
そういうとアニメは、ゆっくりと俺の左手を指差す。
「ん?」
つられて俺は自分自身の手へ視線を落とす。そこには、アニメが飛ばした真槍が握られている。
「え、どうして……」
ようやく気づいた。真槍の能力は魔力の吸収、人に当たった場合は消失する──ハズだ。
「どうして、俺の魔力は吸収されないんだ?」




