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第28話 魔力の視える青年

 

  ショッキングピンク色のロボットがナガトの前で立ち止まる。

  騎士型のロボットだ。頭部の左右に尖った角が付いており、眼窩はV字に型取られた黒いゴーグル状になっている。眼球は無い。目から下はシンプルな作りで、のっぺりとしている。肩、胸、腰には重厚な装甲が取り付けられておるが手足は細っそりとしている。

  腰に細い剣を携えている。

  女体を思わせる機体に大袈裟な鎧を着せたような姿だ。

  胸部が左右に開く。中の者がゆっくりと立ち上がる。陽の光が照らす赤い髪が煌めく。

  アリサがナガトの胸部を真っ直ぐ見据える。

  木の葉が擦れる音と、いくつかの枝葉が折れる音と共に一体のロボットが森の中から現れた。

  アリサの後を追って来たロボットだ。

  白い機体に紺色の装甲を纏いしロボットだ。頭部に黄金の角がそびえ、凛々しき面持ちをしている。腰に二本の刀を差している。

  白と紺色のロボットの胸部が開く。

  紺色の髪が陽の光を反射し、そよ風が吹き、その髪を撫でる。

  胸部の操縦席から現れた少年の紺色の髪がまたも風に煽られ、ふわりと舞い上がる。

 

  「兄上。ご無事で何よりです」


  少年が丁寧に頭を下げる。面を上げた少年の大きな目に純粋な輝きを見て、トーヤは胸にチクリとした痛みを感じた。

  妹によく似た瞳。姉弟だから当然といえば当然かもしれないが、それが父親違いだという現実を突きつけられているようで辛かった。優しい顔立ちの弟はその外見通り、優しい性格の少年だった。父によく似た弟。自慢の弟だと声を大にして言える。

 家督を継ぐのは弟の方が断然良いとも……。

  家の者達は嫡男が継ぐべきだというが、トーヤは優秀な弟が継ぐべきだと考えていた。

  そよ風が一変し、突風が吹く。クオンの白いシャツの襟がパタパタとなびく。

  ーーこの風を利用しない手はない。トーヤは強風から顔を守ろうとする振りをして、目を細めると、クオンの足元に視線を移す。

  これ以上、弟の顔を見るのは辛い。

  視覚に映る紺色と茶色。髪の色によく似た紺色のズボンと手入れの行き届いた艶のある茶色の革靴に視線が流れる。

  こういう所に几帳面な弟の性格が表れていると、トーヤは思う。

  トーヤは口元を綻ばせ、素早く視線を上へと移す。

  弟の顔は変わらない。

 

  「あぁ……。心配かけて、すまなかったな。クオン」


  やけに、のんびりとした様子で応える兄に対し、口元を綻ばせ、軽く頷く。


  「話は姉上から聞きました。ーーなるほど。それが八八艦隊機、ナガトですか……」


  クオンは上から下まで、まじまじとナガトを見つめると、満足げに頷いた。

 

  「良いロボットですね」


  クオンの声には敬意と感嘆が込められているようだった。

  目尻は下がり、口元には笑みを携えている。

  トーヤは頷く。

  美しく、賢く、ちょっぴり寂しがり屋のロボット、ナガト。

  知り合って僅かな時間しか歩んでいないが、トーヤはナガトを愛おしく思っていた。

 

  「俺には勿体ないくらい良い奴なんだ。ーー今日は本当にツイてる」


  「トーヤ様……」


  トーヤの言葉にナガトが、まるで涙ぐんでいるような掠れ声で言った。


  「クオン!」


  凛と澄んだ高い声が鼓膜を刺激する。

  アリサが操縦席から身を乗り出し、クオンを指差して、大きく腕を振り回している。

 

  「あなた!兄様にガツンと言ってやるのではなかったのですの!自分で言ったじゃない!兄様には僕がキッツーイお灸をすえるから黙って見守るようにと!任せておけって!なのに!」


  アリサはナガトを睨む。


  「アリサ!」

 

  トーヤの咎めるような声にアリサはビクリと体を震わせた。

  怯えたような目でトーヤの顔を伺う。

 

  「すみません、姉上。そのつもりでしたが、先に話し合わなければならない事案が発生しているようなので、まずはそちらからにいたしましょう」


  クオンが無造作に転がる狼型のロボットの四肢に目を向ける。

  弟が理解したアリサは一瞬、真剣な表情を浮かべたが、すぐに不貞腐れたようにそっぷを向いた。

  己れの言いたかった事が伝わったと理解したクオンが満足気に頷く。


  「兄上。なにがあったのか、説明して頂いてもよろしいでしょうか?」


  クオンの問いにトーヤが答える。密猟者達についてと、そのロボットについて。やけにゴウトの騎士について誤解している事も伝えた。


  「なるほど。それは奇妙ですね。分からない事だらけですし、隣国だとしたら随分と大胆だ」


  クオンが考え込む。


  「絶対にマーフルスの仕業だわ!やっぱり同盟なんて始めから破るつもりだったのよ!」


  アリサが吠える。トーヤは苛立ちと憎しみを露わにする妹が不憫で、胸に巣食う悲しみと葛藤を考えると本当に可哀想で仕方がない。妹があの子と笑い、語らう姿が今でも鮮明に思い浮かぶ。


  「姉上。証拠も無いのに決めつけるのは、愚かですよ。先程も言いましたが、スールドロウもマーフルスも我が国に攻め入る利点がありません。ただの密猟者という可能性もなくは無い」


  クオンが諌めるような言いぐさにアリサは気を悪くしたらしく、不機嫌そうに顔を背ける。やれやれ仕方ないなといった感じにクオンが肩をすくめると、再び、兄に顔を向ける。


  「ひとまず、屋敷に戻りましょう。母上にも報告しなければなりませんし、皆、心配していますので」


  そうだ。その通りだ。さすが我が弟。正しい選択だ。兎にも角にも当主に意見を仰がなければならない。弟がいればゴウトも安泰だ。トーヤがほくそ笑む。


  「ああ。帰ろう。皆が待っている」


  クオンとアリサの後方の森の中から複数の声が聞こえる。隊の皆が追いついたのであろう。勝手な行いをした件について、なんと言い訳しようかと、トーヤはしばし物思いにふけていた。

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