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最恐の弱点  作者: MANAM


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8/15

最恐の支柱

「ざくろちゃんもう帰っちゃうの? 叔母さん寂しいな〜」


「うるせえ! こっちは門限あんだよ! 次はセイロンティーでも用意しとけ! バカヤロー!」


次回の訪問とお茶の銘柄の予約を捨て台詞にして伊藤家を後にするざくろ。


門限とは言ったがまだまだ午前中、宿敵を取り逃したざくろはせっかくなので街を回る事にした。

地元芦浦市とは違い洲芦市は都会の雰囲気を醸し出す。地元には無い店も多くざくろも仏頂面をしながらも楽しんでいた。

「お! この絆創膏良さそうだな。消毒液も欲しいな。何! 冷却シートが半額だと!?」


ざくろの中での喧嘩用品を品定めし、くまさん絆創膏とごく普通の消毒液と半額冷却シートを買い込みほくほく顔で袋を振り回す。


次は服屋も見て回ろうとした所、前から見覚えのある人物が歩いて来た。

薄い水色のワンピースに白い帽子と素足にサンダルのロブの髪型の女の子。


「ん? 高木じゃねぇか」


「あ! ざくろちゃん! 奇遇だね! ざくろちゃんもお買い物?」


柚月は両手いっぱいに重そうな袋をぶら下げざくろの方へと駆け寄ってくる。

ざくろが袋の中身を覗き込むと古本屋で買ったであろう様々本が詰め込まれていた。

その視線に気付いた柚月が右手の袋を持ち上げ中を見せる。


「これ? これは好きな作家の小説。後は昔の文学本とか。あ! マンガもあるよ!」


左手の袋を持ち上げ笑顔でそれを見せる柚月。


「ふん…どんなマンガ買ったんだ? 見せてみろよ」


そう言うとざくろは柚月の左手からマンガの入った袋を引ったくり中身を確認し始める。


「ち…全部読んだことあるやつじゃねぇか…」


残念そうに言うざくろに柚月は再び右手の袋を持ち上げて言う。


「じゃあ、文学本読んじゃう?」


イタズラっぽい笑顔で言う柚月に苦虫を噛み潰したような顔で嫌悪感を露わにするざくろ。予想通りの反応にクスクスと笑う柚月。


「ケンカ文学なら読んでやってもいいぞ。無いのか? なら仕方ねぇな!」


一人問答をしながらマンガの入った袋を持ち柚月の予定も聞かず、ざくろは踵を返しずんずん進んでいく。


「あ! 待ってよざくろちゃん!」


柚月も慌ててそれを追いかける。


「で? 次はどこにいくつもりだったんだ?」


「えっと…もうすぐお昼だからどこかで食べようかなって。でもざくろちゃんも予定あるんじゃ…? それにざくろちゃんは来た道戻ってるし」


「あたしも腹減ってんだ。付き合えよ。てかおい!? さっき通った時気付かなかったけどこのオレンジ色の看板…」


「五線譜に音符…ま…まさか…このお店って…」


ざくろ達が立ち止まったのは『スコアバーガー』。全国的にあるファストフード店なのだが何故か地元芦浦市には一軒もないスコアバーガー空白地帯だった。


芦浦市からほとんど出たことのない、そしてお嬢様故ファストフードに縁が無かった二人にとって、スコアバーガーは都市伝説級のお店であり、本当にあったスコアバーガーを発見し感動に震える。


「これは…」


ゴクリと固唾を飲む柚月。


「ああ…行くっきゃねえな…!」


冷や汗を流しながら不敵な笑みを浮かべるざくろ。

そして二人はいざ戦場(ただの店内)へ。


『いらっしゃいませ〜』


緊張の面持ちでカウンターへと向かって行く二人。ざくろが先頭に立ち柚月がその後ろからざくろのTシャツの裾を左手で掴みついて行く。


「ざくろちゃん…あたし注文の仕方わからないよ…?」


「問題ねえ! こう言うのはテンションとパッションで何とかなるもんだ!」


カウンターに着くやざくろはメニューも見ず店員さんに言い放つ。


「ハンバーガー二人分だ!」


『ハンバーガーお二つですね? セットにすればお得になりますが?』


「それだ! セットにすればお得で頼む!」


『かしこまりました。ついでにナゲットもいかがですか?』


「それはいらねえ!」


ざくろがナゲットを断ったところでクイっとTシャツの裾が引っ張られる。振り向くと柚月が目を潤ませてふるふると首を横に振る。


「…わけねえだろ! ナゲットも二人分頼む!」


『ありがとうございます。お会計は…』


会計を済ませ二人で空いている席に、ざくろは足を組み尊大に座り、柚月はちょこんとお行儀よく対面に座る。


「ま、あたしにかかりゃこんなもんよ」


ただ注文しただけで得意になるざくろに、


「ざくろちゃんすごい! あたしには絶対無理だったよ!」


ただ注文しただけのざくろに心から称賛を送る柚月。


しばらくして注文したセットにすればお得なハンバーガーとナゲットがトレイに乗せられ席まで運ばれて来た。

二人はそれを見て目を輝かせるが一つの疑問が柚月に浮かぶ。


「これ…どうやって食べるの…」


トレイの上にはナイフやフォークはもちろん、お箸すら乗っていない。

ざくろは得意そうに鼻で笑い自分のハンバーガーを手に取り包みを開けて見せた。


「これはな、おにぎりと同じでこうやって手で食うんだよ。マンガで見たぜ」


ざくろがハンバーガーに齧り付くと柚月も笑顔で包みを開けハンバーガーを頬張る。


「ハンバーガーはおにぎりのお友達なんだね!」


絶妙に違う納得をしながら美味しそうに食べ、セットのジュースを飲みながら柚月はまたも疑問を投げかける。


「このポテトとナゲットはどうやって食べるの?」


目を輝かせて聞いてくる柚月に、ざくろは言葉を詰まらせる。マンガにはポテトとナゲットを食べるシーンが無かったためその知識が全く無かったのだ。


ざくろが思案していると一つ思いつき、ポシェットの中を探る。そして取り出したのは二膳の割り箸。何かの時のために学生寮の食堂から拝借していた物だ。


「これだ。こいつらはきっとマイ箸で食うもんなんだ!」


ざくろは柚月に割り箸を渡す。


「環境に配慮しているのね! 次からはちゃんとお箸持ってこよっと!」


またしても絶妙に違う納得をしながら美味しそうにポテトとナゲットをお箸で食べるざくろと柚月。

側から見ると異様な光景だがお行儀よくお箸で食べる二人の姿はまるでそれが正解かのように見えた。


「高木、この後どこに行く? あたしもついて行くぜ」


「え? でもざくろちゃんも予定があるでしょ? 悪いよ」


「ここは敵地だ。どこから狙われるかわからねえからな。護衛ってやつだ」


先に食べ終わりジュースを飲むざくろに柚月が最後のナゲットをお箸で食べながら聞く。


「ざくろちゃんあのね…前から聞きたかったんだけど…ざくろちゃんが不良さんって聞いたんだけど…本当なの…?」


ざくろはニヤリと嬉しそうな表情を浮かべ得意そうに話し始める。


「ああ、マジだ。芦浦の不良どもはあたしが中学ん時にシメて回ってやった。したらいつの間にかケンカ相手いなくなってよ! だから中学卒業したら全国回ろうと思ってたんだ」


しかし従姉妹によりその夢が潰えた事を思い出して笑顔から仏頂面になり歯軋りをするざくろ。

柚月はさらに質問を続ける。


「ざくろちゃんはどうして不良さんになろうと思ったの?」


「大した理由じゃねぇよ。ちっちゃい頃からお嬢様、お嬢様言われてウザかったから中学ん時ちょっと不良ぶってやったんだ。そしたら今まであたしに取り入ろうしてた奴ら全員さっさと逃げて行きやがってな。爆笑したぜ。」


ジュースを飲み干しカップの中の氷を口に含みガリガリいわせながら続ける。


「こりゃいいやってんで、本格的にケンカの仕方覚えて不良道を突き進んでんのさ! おかげで中学ん時は気楽に過ごせたぜ?」


柚月はナゲットを食べ終えてお箸をトレイの上に置く。


「お友達は居なかったの? 寂しく無かった?」


「中学のダチなんていねえ。あたしのことを怖がって誰も近づきゃしねえよ。だけど寂しくも無かったな。どうだ高木。あたしのこと怖くなってくれたか?」


「ううん、全然」


「ちっ!」と舌打ちして不機嫌そうに目を逸らすざくろ。

そんなざくろに不意に横からほんわかした声が飛んで来た。


「あ〜! ざくろちゃんだ! 何で何でどうして!?」


ざくろは嫌悪感を露わにしてのほほん声の主の方へと視線を送る。

そこには手を振ってこちらに向かってくるざくろの従姉妹である伊藤桃(いとうもも)と、その友人と思われる人物の姿があった。


桃はちょこんとざくろの隣に座るとその両手を取ってぶんぶん振り回しす。


「ざくろちゃん久しぶり〜! この前ざくろちゃんのお家に行ったけど居なくて寂しかったよ!」


「そりゃてめぇのせいだろうが! あたしをあんな魔境へ放り込みやがって! 今ここで落とし前を…」


桃は頬を真っ赤に染めはにかみモジモジする。


「ざくろちゃん桜花学園でとっても楽しそうだもんね! 推薦して良かったよ〜! あ! ウエイトレスすっごく可愛かったよ!」


次々に飛んでくる桃の言葉に言い返す暇もないざくろ。そしてウエイトレスを褒められて黙って居られないのはデザインした柚月だ。


「でしょでしょ! あの服ざくろちゃんの事考えながらデザインしたの!」


「え! あなたがあれをデザインしたの!? えっと…ざくろちゃんのお友達の…」


「柚月です!」


柚月は対面の桃に手を差し出す。その手をしっかりと握り握手を交わす桃。


「あたしはざくろちゃんの従姉妹の桃です! よろしくね柚月ちゃん!」


「よろしく! 桃ちゃん!」


ざくろと桃の友人を置いてけぼりにして盛り上がる柚月と桃の二人。

呆れたように横からその桃の友人が自己紹介を始める。


「あ、あたしは桃の幼馴染で佐藤藍那(さとうあいな)。お邪魔して申し訳ない」


藍那は桃の襟首を引っ張りざくろの横から引き剥がす。


「じゃ、ごゆっくりー」


「ちょっと…藍ちゃん…あたしまだざくろちゃんとお話し…」


桃は藍那に引きずられながら奥の席へと消えて行った。大きくため息を吐き首を振るざくろ。


「ち…また落とし前つけさせられなかったぜ…」


落胆しているざくろだったがしかしどこか嬉しげな雰囲気を醸し出している事を見逃さない柚月。


「ざくろちゃんがホントの不良さんにならずに寂しく無かった理由わかっちゃった」


桃の屈託のない性格、そしてざくろに寄せる全幅の信頼がざくろの心の支柱となり中学時代の彼女を支えていた事に気付き、嬉しそうに小さな声で呟く柚月であった。

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