最恐の庭
ざくろと柚月は薮を掻き分け突き進む。蚊に刺され、枝で浴衣を破き、葉っぱを頭に乗せながら二人は神社の社の真ん前へと飛び出した。
ぷはっ! と二人揃って息を吐き出しすと、顔を見合わせて笑い合う。
「よくやったな高木! あん時の風呂で誓い合ったお前のカクゴ! しっかり見せてもらったぜ!」
「あたしも! ざくろちゃんがケンカしないって約束守ってくれて嬉しかった! それに…あたしのこと友達以上って…」
頬を赤く染めモジモジする柚月にざくろもつられて真っ赤になる。
「いや…あれはあの場での…」
「あの場での…」
笑顔で顔を覗き込む柚月から視線を逸らし、口を尖らせ不本意そうにざくろが言う。
「まあ…本心だ…」
顔を逸らすざくろと、クスクスと笑う柚月は繋いだ手をお互いより一層強く握り締める。
そんないい雰囲気を壊すかのように荒い息づかいが薮を掻き分ける音と共に聞こえてきた。
「ぶへあ! はぁ…はぁ…追いついたぞ…てめえら…もう逃さねえ…!」
頭プリンが頭の上に蜘蛛の巣をトッピングして薮の中から飛び出してきた。
それを合図に社の裏からわらわらと十数人の男女の不良達が現れざくろと柚月を静かに取り囲んでいき二人は完全に逃げ場を失った。
「よーし…祭りの客に怪しまれないように裏まで来てもらおうか」
頭プリンはニヤリとしながら蜘蛛の巣トッピングを頭から振り払い、不良達に顎で指示をする。
柚月はざくろの背中でその浴衣を掴み怯えているが、ざくろはと言うと圧倒的に危険な状態にも関わらず余裕に構えていた。
取り囲んだ不良達がざくろ達に近付こうとした所でざくろが口を開く。
「てめぇら、自分が勝ったと思い込んでるみてぇだけどここ、どこかわかってんのか?」
ざくろは人差し指で地面を指し示しながら更に続ける。
「ここは桜花学園のお膝元だぜ? 今日は全校生徒はもちろん、せんせー達も祭りを楽しんでる。これがどう言う事かわかんねぇか?」
ざくろは腰に片手を当て言うと不良達がざわつきだした。
そのおかげか異様な雰囲気に桜花学園の生徒達も気付きはじめ、取り囲まれたざくろ達の姿が発見される。
「あれざくろちゃんと柚月ちゃんじゃない?」
「あらホントだわ! 何かトラブルかしら…?」
「同人誌即売会の会場はあそこですか?」
最恐先輩達に全くブレないクラスメイトのあの子。続々と集まる桜花学園の面々に不良達も気圧され始めるが、頭プリンはそんな不良達に檄を飛ばす。
「怯んでんじゃねえ! こいつらは所詮世間知らずのお嬢様だ! ちっと脅せば黙り込む!」
頭プリンの檄にざくろ達を取り囲んでいる不良達が桜花学園の生徒達に鋭い眼光を飛ばす。
大勢の生徒がいるとはいえさすがにお嬢様。その威嚇に怯んで声を上げる。
ざくろはそれを見て更に余裕を見せる。
「あーあー…せっかく静かに取りこ込んでたのに騒ぎ広げてどうすんだ?」
不敵な笑みを浮かべざくろより頭一つ分大きい頭プリンを見上げながら精神的に見下す。
対照的に頭プリンは段々と余裕がなくなっていくが、しかしそれでも虚勢を張り続ける。
「バカが! こんな軟弱お嬢様が何人集まってもうちらに勝てるわけないだろうが! 構わねえ! 全員道具出せ!」
頭プリンの指示に不良達は次々凶器を取り出し構え始めた。それを見たお嬢様達はさすがに離れ始め不良達に対する包囲網が瓦解する。
それを見て頭プリンは余裕を取り戻し、ざくろを物理的に見下す。
「残念だったなぁ。てめえの頼みの綱もこのザマだ」
ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ耳につくいやらしい声で言う頭プリンの言葉に、柚月の浴衣を掴む力が強くなる。
それを感じながらざくろはますます余裕を見せる。
「ところで、うちのパ…オヤジからあたしに毎日のように文句のメールが届いてうぜぇったらねえんだよ」
「あ? 何言ってんだてめえ? んなこと知らねえよ。てかもう一生メールできねえようになんだから今のうちに返事入れとけ」
くくく、と笑う頭プリンにざくろはニヤリと笑い更に続ける。
「その文句ってのが、毎日山のように届くあたしへの感謝の手紙なんだと。感想の手紙なんだから喜んで受けとりゃいいのに、内容が悪いんだとさ」
『藤宮ざくろ様、芦浦市の不良をやっつけてくれてありがとうございます』
『藤宮ざくろ様、不良がいなくなって万引きが無くなりました。ありがとうございます』
『藤宮ざくろ様、お陰様で同人誌即売会に安心して出掛けられます。ありがとうございます』
『藤宮ざくろ様、お礼のくまさん絆創膏です。芦浦市を平和にしてくれてありがとうございます』
話しているうちに頭プリン達不良の周りにはお嬢様包囲網に変わり、夜店の店主達による包囲網が出来上がっていた。
射的屋のおじさんは射的銃を構え、金魚すくい屋のおばちゃんはポイを手に掲げ、焼きとうもろこし屋のお兄さんは生のとうもろこしを片手にトングを突きつける。
それだけでは無い。お祭りに来ていたお客さん達も不良達を囲み、芦浦市民による包囲網が頭プリンに迫ってくる。
「あたしのホームは桜花学園だけじゃねぇ。芦浦市全体だ。なにしろ芦浦はあたしの庭だかんな。今、芦浦市にてめぇらの味方は一人もいねえぞ? カクゴすんだな」
不良達は完全に逃げ場を失い、ざくろは柚月の手を引き余裕で不良達の中から抜け出した。
そして追い詰められた頭プリン達の方に視線をやるとニヤリと笑って言い放つ。
「今日は祭りの日なんだ。せいぜい祭りをカクゴして楽しんでくれ」
そしてざくろと柚月は雑踏の中へと消えて行き、頭プリン達は凶器を落とし全員怯えた表情で一箇所にかたまった。
「ざくろちゃん達をいじめた罰どう償って貰おうかしら?」
「昨日丁度ざくろちゃんのお仕置き用に買ったお座敷用アイアンメイデンが届いたからお試しで使ってみようかしら」
「同人誌のネタに男不良同士で絡んでもらうのがいいと思います」
物騒な祭りからブレない祭りまで提案され、頭プリン達が主役の血祭りという因果応報の祭りが開催されるのだった。




