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最恐の弱点  作者: MANAM


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11/15

最恐の弱点

ざくろと柚月がお互いカクゴを交わしてしばらく日が過ぎ今は夏真っ盛りである。


ところで桜花学園の門限は厳しいことで有名である。秋から春にかけては午後五時、日の長い夏場であっても午後六時までに寮に戻らなければならない。


ざくろは当初門限などクソ喰らえの精神でぶっちぎっていたのだが、入寮から僅か一日と八時間で挫折。理由は言わずもがな、門限破りで最恐先輩達から裸足を愛でられたからである。


しかしそんな桜花学園も毎年たった一日だけ門限が午後10時になる日がある。それは学校の近くの桜宮神社(さくらのみやじんじゃ)のお祭りの日である。


神社の参道はもとより、神社までの沿道にも夜店が出る地域の一大イベントとなっている。

この日ばかりは桜花学園の生徒は当然の事ながら、教師までもが浴衣に身を包みお祭りを楽しむのが毎年の恒例となっている。


ざくろと柚月も髪を纏めて浴衣に着替え、神社までのは道のりを歩いていた。

途中で最恐先輩達とすれ違いざくろは柚月の後ろで小さくなり、先輩と柚月がクスクスと笑う。


「ふう…行ったか…今日ばかりは奴らも祭りの方に夢中らしいな…」


「先輩達優しいよ? 怖がる事ないのに」


「どこが! あたしの弱いとこ知り尽くしてんだぞ!? 奴らはあたしの天敵だ!」


ざくろの弱い所と聞いて目を輝かせ迫ってくる柚月。


「ざくろちゃんの弱点!? どこどこ!? 教えて!」


「誰が教えるかバカ!」


迫り来る柚月の腕を押さえつけていると香ばしい良い香りが漂って来たのを感じ、そちらの方を見ると焼きとうもろこしのお店が目に入った。


「おい! ありゃなんだ? とうもろこしか!? 丸ごと焼いてやがる!」


「わ! すごい! あのまま食べるの!? とうもろこしもおにぎりのお友達だったのね!」


二人は初めて見るほぐしたコーン以外とうもろこしの姿に大興奮し購入。食べ歩きながら次のお店を探索する。


「わ! ざくろちゃん見てみて! 鉄砲が置いてあるよ!」


「お! あれはあたしでも知ってるぞ! 射的屋だ! マンガで見た事あるぜ」


二人はとうもろこしを食べ終えると揃って射的屋へと向かう。

物珍しそうに射的の銃を見て触る柚月とは対照的に、背筋を伸ばし銃を片手に構え狙いを定めるざくろ。その姿はまさにガンマンだった。


「かっこいい…!」


柚月はざくろの姿に見惚れると自分も銃を台の上に置きながら構え賞品に狙いを定める。

その姿はまさにスナイパーだった。


そしてガンマンとスナイパーはポコポコとコルク弾を撃ち出しその結果何の賞品も落とす事はできなかった。


「ち…あたしの腕もまだまだだな…クレー射撃でも始めるか…」


「あたし、バイアスロンを始めるわ!」


銃の弱さに注文をつけるのではなく、自らの射撃の腕を上げようと謎の向上心を発揮し射的にリベンジを誓う二人。

末恐ろしい二人の発言を聞き射的屋のおじさんは商売替えを決意するのであった。


次に目を付けたのはこれもまた夜店の定番金魚すくいだ。

二人は濡れないよう浴衣の袖を上げポイで金魚を追いかける。


水の中に浸けすぎてすぐに破れてしまった柚月の横で、半分破れながらも金魚をすくい続けるざくろ。そして実戦の中で金魚すくいの真髄を極めポイの枠で掬い上げる奥義まで披露して見せた。


「ふ…あたしにかかれば金魚の命、なんぼでも救ってやれるぜ」


「ざくろちゃん! あたしの分まで救ってあげて!」


すくうの意味を勘違いしながら二人は金魚すくいを心ゆくまで楽しんだ。


その後もたこ焼きを食べたり、当たらないくじ屋で安物のペンを当てて喜んだり、色々回り会場のベンチで少し休憩する事にした二人。


「あー…疲れたな…ちょい休憩だ」


「でもお祭り楽しいね! ざくろちゃんと一緒だからもっと楽しい!」


「やめてくれ…鳥肌が立つ!」


クスクス笑いながら柚月がざくろの手を握る。

暑さで汗ばんだ手を握られて思わず振り払おうとするが、柚月の手がそれを許してくれなかった。諦めてため息を吐き空を見上げるざくろ。


「お祭りの最後花火が上がるんだって! 一緒に見ようね!」


「しょうがねえな…まあここまで来たら最後まで付き合ってやるよ」


二人は笑顔で揃って夜空を見上げた。

その時神社に風が吹き抜け二人の頬を撫でる。そして柚月の健康的な芳香がざくろの鼻を刺激する。その瞬間心臓が飛び跳ね顔が真っ赤になるざくろ。


そんなざくろの顔を不思議そうに覗き込む柚月。


「どうしたの? 暑い? 飲み物買ってこようか?」


「い…いや! 何でもない! 大丈夫だ!」


お嬢様(変態)に堕ちそうな所を何とか理性で持ち堪えるざくろ。

その直後、はっとして自分の下駄の裸足に目を落とす。


下駄に裸足という通気性抜群の蒸れにくい状況にも関わらずその足裏はジトっとして、おそらく臭っているであろう事は想像に難くなかった。


「やべえ…この暑さで下駄履いてても足が汗ばんで…」


言われて柚月も慌てて自分の下駄の裸足に目を落とす。柚月の足も健康的に汗ばんで下駄から足裏を外した瞬間にその芳香が放たれそうであった。


「あたしもだ…」


揃って絶望の表情を浮かべる二人であったが、次の瞬間二人揃って笑い出す。


「でもま、いっか!」


「へっ! 下駄で蒸れるんじゃ何やってもおんなじだ! これも生きてる証だぜ!」


「帰ったら洗いっこしようね!」


「じゃあ今日の風呂キャンセルな」


手を繋ぎ汗ばんだ下駄の裸足をパタつかせ二人の笑い声が祭りの喧騒に加わる。 

ざくろはゆっくり柚月の手を離すとベンチから立ち上がり、くまさんがまぐちを取り出して上に投げ横から捕って見せる。


「ちょっとここで待ってろ。どっか自販機で飲み物買ってくるからよ」


「わかった。迷子になっちゃダメだよ?」


「バカ言ってんな。芦浦は全部あたしの庭だっての! 不良どもをシメて回ってたあたしに知らないとこなんてねえよ!」


白い歯を見せるとそのまま颯爽と飲み物を買いに走るざくろ。

そして迷う事なく自販機に直行しミルクティーと柚子レモンジュースを購入し、雑踏をかき分け柚月の待つベンチへと向かう。


すると途中ざくろのスマホに着信が入る。立ち止まり確認すると柚月からの着信だった。

ざくろは飲み物を片手に電話に出た。


「おう高木どうした? 迷子にでもなったか?」


『へぇ…こいつが藤宮のダチだってのは本当だったのか。ブラフかと思ってたわ』


電話の向こうからは柚月ではなく聞き覚えにない女の声が聞こえてくる。


「誰だてめぇ…高木はどうした!」


『高木? こいつの事か。高木ちゃんは今うちらが丁重におもてなししてやってんよ。返して欲しけりゃ神社裏の丘の上まで来な』


そこまで言うと通話は切られた。ざくろは舌打ちをしてスマホを睨む。


「ちっ! 誰か知らねえがあたしが前にシメた不良の一人か! 汚ねえ事しやがる!」


ざくろは思案する。この人混みの中騒ぎにならず柚月を連れ去った敵である。一筋縄ではいかないと直感が告げていた。


「電話の奴はうちらとか言ってやがったな…てことは一人じゃねえな。タイマン張れねえ電話のバカと高木をさらったキレる奴、二人以上いるかもしんねえな」


ぼそりと言い終わるとスマホをしまいながら柚月の待つ神社裏の丘の上へと向かって行く。



神社裏の丘の上は人気は全くないが、桜花学園と芦浦の街を見下ろす隠れた絶景ポイントでもあった。

回りには背の高い薮が生い茂り、丘へ至る道も夏場には雑草が生えてその姿を隠してしまい夏祭りの客が入って来ることはない。


ざくろはそんな草を踏み分け足を蚊に刺されながら丘の上までやってきた。

そこには茶髪ショートカットのジト目の女と、柚月の背後に立ちその首に腕を回して捕まえるロングヘアに見事に生え際が黒くなった金髪の目つきの悪い女が待っていた。


「ざくろちゃん!」


ざくろの姿を見て柚月は駆け出そうとするが当然引き戻される。


「よう、久しぶりだな藤宮!」


ニヤリと余裕たっぷりに言う中途半端金髪不良女。しかしざくろは、


「あ? 誰だてめぇ?」


ざくろの言葉に目を大きく見開くと歯を食い縛り歯軋りをする中途半端金髪不良。

それを無視してざくろはその横に立つショートカットのジト目に視線を向けた。


「そっちのてめえは覚えるぜ。あたしを廃ビルに誘い出して翻弄しやがった茶髪だ。あん時は世話になったな。てめぇが高木を誘い出しやがったんだな?」


「そ…あんたの友達だって言ったらほいほい付いてきたわ。高木ちゃん素直だね」


ジト目は頭を掻きながらやる気なさそうに答えた。

ざくろは柚月に鋭い「アホか!」と言う視線を送り、柚月は「ごめんね!」と言う申し訳なさそうな視線をざくろに返した。


しかし中途半端金髪は黙ってはいなかった。声を荒らげ怒鳴り散らす。


「うちはお前にやられるまで芦浦の頭張ってたんだぞ! 何でこいつの事は覚えててうちの事忘れてんだよ!」


言われてざくろは中途半端金髪の頭を凝視し、そしてうっすらと思い出して来る。


「ああ…あたしに不意打ちしながらタイマン張ろうとしたら手下に丸投げして逃げたあの頭プリン女か! 思い出したぜ!」


「てめえ! どんだけうちをバカにしやがる…!」


頭プリンはそこまで言うと怒りを抑えながら、声を震わせ続ける。


「余裕かましてられんのも今だけだ。何でうちらが今てめえにリベンジしにきたと思う? うちはてめえの弱点知ってんだ」


「な…!」


予想外の言葉にざくろは驚愕し身構える。背がちっちゃいことか、足が臭くなる事か、それとも足裏こちょこちょの事か…頭の中で自分の弱点がグルグルと回り続ける。


「お前の弱点、こいつだよ。な? た・か・ぎ・ちゃん?」


いやらしい笑顔を浮かべ柚月の耳元でいやらしく言う頭プリン。

柚月は目を大きく開き、そしてざくろの心臓は跳ね鼓動が早くなるのがわかる。

それはまさにざくろが意識していなかった『最恐の弱点』であった。


ざくろは思わず半歩下がり、頭プリンはそれを見逃さなかった。


「その反応、やっぱこいつが弱点か。くくく…最恐とか言われてんのに今はお友達に絆されて腑抜けちまったかぁ?」


桜花学園に入学する前のざくろなら間違いなく柚月の事など気にせず頭プリンに手を出していたはずだが、知らず知らずのうちに柚月の存在がざくろの中で大きなものになっていた。

先日の柚月との約束も頭をよぎりざくろは身動きが取れなくなる。


「よーし動くんじゃねえぞ。大人しくしてりゃ高木ちゃんだけはここからは無事に返してやんよ。おいジト目、藤宮をこっちに引っ張ってこい」


「はいはい…」


ジト目は言われるがままやる気無さそうにざくろの方へ歩み出す。


「ははは! あはははは!」


その時いきなり笑い出したざくろに驚き歩みを止めるジト目。


「てめぇら、大したもんだよ。あたしが自分ですら気付いてなかった弱点を見つけちまうなんてな! けどな! てめぇらは勘違いしてるぜ。そいつはあたしのダチなんてもんじゃねえ」


笑いながら弱点と認め、しかし友達ではないと否定するざくろに混乱する頭プリン。


「はあ!? 何言ってんだ! 今自分で弱点って言っただろうが!」


「そうさ! そいつはあたし(最恐)の弱点さ! でもな! ダチなんて言葉じゃあらわせねえ最強の相棒なんだよ!」


そう叫ぶとざくろは柚子レモンジュースを頭プリン達の上へと投げる。頭プリンとジト目はそれにつられてジュースに注目する。そしてざくろが叫んだ。


「来い! ゆずっ!」


短く言うざくろの言葉に柚月は頭プリンの足を下駄の足で思い切り踏んづけると、まさかの反撃に動揺した頭プリンの拘束が緩んだ。

その隙に腕を振り解きざくろの方へと駆け出し、そしてざくろが差し出した手を取り握り締め二人は薮に中へと走り出す。


「くそ! 追いかけんぞジト目!」


「はいはい…」


痛そうに足を振るプリンに、やる気無さそうに走り出すジト目。


「あ!」


短い叫び声と共にジト目はその場に尻餅をつく。先程ざくろが放り投げた柚子レモンジュースの缶を踏んで転んでしまったのだ。


「痛た…足捻ったわ…」


やっぱりやる気無さそうに言うジト目に、頭プリンは舌打ちをして指示を出す。


「ちっ! 肝心な時に使えねぇな! この薮の先は神社の社か! じゃあてめえは神社に散らばった奴らに連絡入れて、社の裏に集めとけ! そこで取り囲んでフクロにしてやる!」


「はいはい…」


言い終わると頭プリンはざくろ達を追い藪の中へ消え、ジト目はスマホを取り出し神社に複数いる不良達に指示を一斉送信した。


終わるとジト目は立ち上がりお尻についた土を手で払いながらスマホをポケットにしまう。


「ま、これでプリンに義理は果たしたでしょ…」


無表情でやる気無さそうに言うと、すぐに薄っすらと笑顔になるジト目。


「いいもん見たわ。友達か…うちも気の合う友達探してみるかな…」


やる気になったような声でぼそりと呟きながら柚月レモンジュースを拾い上げると、ジト目は転んで捻ったはずの足を引きずりもせず神社とは反対側の薮の中へと歩み出してそのまま神社を後にした。

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