最恐の顧慮
しかしさすがにお風呂に入らないのは気持ちが悪いので、洗いっこ無しの条件で浴場へとやって来た二人。
体を洗いさっぱりした後、二人並んで湯船に浸かり話し始める。
「さっきのダチになるって話だけどな、学校の外では言うんじゃねえぞ?」
「え? どうして? あたしと友達だと恥ずかしい?」
「ちげーよ!」
柚月のこめかみを人差し指で押しざくろは続ける。
「あたしは芦浦の不良をのして回ってた。当然奴らは今でもあたしのことを恨んでる。高木があたしのダチだってなったら奴らお前に何するかわからねぇ。だから外ではあたしに近づくな」
「じゃあ何で今日は一緒にお買い物してくれたの?」
「あたしはまだ洲芦の不良どもに手は出してねぇからな。噂は回ってるかもしんねえが恨みはまだ買ってねえ。それにずっとあたしが見張ってたしな」
湯船から片足を出しバシャンと水面を叩いて再び浸からせるざくろ。
「だけど外に行く時あたしが居るとは限らねえだろ? だからあたしとは関係ないふりしとけよ」
「やーだ!」
柚月は「いーっ」と歯を見せながらざくろの顔に湯船のお湯を被せる。
びしょ濡れになった顔を子犬のようにブンブンと振り水を切るざくろ。
「てめぇ! 言うこと聞きやがれ! 言っちゃ何だが足手纏いになられると困んだよ!」
「じゃあ足手纏いにならなければいいんでしょ? 芦浦の不良さん達に襲われたら自分で何とかするもん!」
「バカかてめぇは! ケンカの仕方わかってるあたしでも体中アザだらけになんだぞ! お前なんかがケンカしてみろ! 体中バラバラにされんぞ!」
「その時は拾って接着剤でくっつけて!」
「それじゃ最後は結局あたし頼りじゃねえかよ」
あ…と自己矛盾に気付き口を押さえ俯いてしまう柚月。
ため息を吐き湯船の縁に両腕をかけて天井を見上げるざくろ。
「いいか? 勝ち目のないケンカはすんな? お前はあたしとは違う。逃げても恥にはなんねえ。不良に絡まれたら全力で逃げろ。あたしのとこまで逃げて来たらあたしがシメてやる」
「うん、逃げる。ざくろちゃんのとこまで逃げる。でもね…」
柚月はざくろの手を取り両手で握り締め顔をじっと見る。
「やっぱり暴力はダメだと思うの。ざくろちゃんにはこれ以上人を傷つけてほしくないし、ざくろちゃんも傷ついてほしくないよ」
「ケンカの傷はあたしにとっちゃ勲章だ。悪さする奴に落とし前つけさせんのも当然だろ。今までもあたしを襲って来た奴らにはそうして来た」
柚月は握り締めているざくろの手に視線を落としそして目を閉じて首を振る。
「今までざくろちゃんは不良さんをやっつけて来たのはわかってる。決して褒められたことじゃないけど、でもそれはざくろちゃんから手を出したわけじゃないんでしょ?」
言われてふと考えるざくろ。今まで駆逐して来た不良達は最初から最後まで確かに向こうから襲いかかって来た者ばかりであった。
「まあ…そうだな…」
「それはざくろちゃん自身の身を守るための正当防衛。でも、あたしが襲われて不良さんをやっつけちゃうとそれはただの暴力だよ。だからあたしが逃げて来ても絶対不良さんに手は出しちゃダメ!」
ざくろは握られていないもう片方の手で頭を掻きながらため息を吐く。
それでは結局外で無関係のフリをする方が最善策となり、まさに堂々巡りである。
しかし言っても柚月は一歩も譲らないであろう事は目に見えているので、ざくろは妥協案を出す事にした。
「じゃあ正当防衛ならいいんだな? ならあたしがわざと殴られて…」
「それだとざくろちゃんが傷ついてる!」
「だったらお前が敵の足を踏んづけてから逃げろ。キレイごとばかりじゃ何も解決しねえ。あたしにカクゴを求めんなら高木、お前もカクゴ決めな」
柚月は一瞬目を丸くして驚くが、すぐに口を結んで手をより一層握り締め頷いた。




