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働きたくないので効率化していたら、いつの間にか文明ができていました  作者: 猫野ひかる
第7章「交易路を拓く」

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第124話「商人の目は、おもちゃに光った」

「いやー、ユウトさん! お久しぶりです! 道、良くなりましたねぇ!」


 トビアスが荷車いっぱいの品物を引っ張りながら、満面の笑みで現れた。

 ……この男、前に来たときも勝手に値段をつけてたやつだ。


「なんで来たんだ」


「商人が道の整備を聞きつけて来ないわけがないでしょう。噂はもう港町まで届いてますよ。新大陸の奥地に、道を切り拓いてる集落があるって」


 トビアスは荷車を止めて、町の中をきょろきょろと見回した。

 前回来たときとは、もう全然違う。融合建築の住居群が並び、石畳の広場の中央には噴水が水を吹き上げている。市場の骨組みには屋根がかかり、住民たちが行き来している。


「ユウトさん、前に来たときと全然違うじゃないですか。これは……本格的に町ですね。商売になる」


「商売とか面倒なこと言うなよ」


「面倒なんてとんでもない。むしろ楽になりますよ。あなたの町の産物を外に持ち出せば、欲しいものが向こうから届くようになるんですから」


 向こうから届く。

 その言葉だけは、ちょっと心が動いた。


 トビアスを町の中に案内すると、奴はいちいち立ち止まっては目を丸くした。


 マナ香草の乾燥棚を見て「これ、旧大陸じゃ手に入りませんよ」と呟き、融合建築の壁を触って「石と木と金属が一体になってる。こんな工法、見たことがない」と首を傾げ、石窯から漂うパンの匂いを嗅いで「この香り……マナ香草を練り込んでますね?」と鼻を利かせた。


 商人の嗅覚もなかなかのもんだ。ルナとは違う意味で。


***


 広場を横切ったとき、トビアスの足が止まった。


「……あれは?」


 広場の隅の遊び場で、子供たちが遊んでいた。

 人間の子供とドワーフの子供が一緒になって、何かを投げたり転がしたりしている。


「ああ、子供のおもちゃだ。住民が暇なときに作ってるやつ」


 トビアスが遊び場に近づいて、しゃがみ込んだ。

 商人の目が、すっと細くなった。さっきまでの愛想のいい顔とは違う。値踏みする目だ。


「この木の実のおもちゃ。中に石が入ってて振ると音がしますね。木の実の殻は人族の……いや、これは人族じゃない。獣人の薬草で処理した木の実ですか。匂いが違う」


「ああ、ルナが教えた方法で処理すると長持ちするらしい」


「こっちの匂い当て玉。中にいろんな匂いの素を詰めて、当てっこ遊びをするんですね。薬草はエルフの知識でしょう」


「フィーネの弟子が調合したやつだな」


「このぱちん弓。弓の部分はエルフの弾力のある木で、弦は……ドワーフの金属糸ですか?」


「ガロンのところの見習いが作った」


「この鈴玉。金属の細工が……これはもう完全にドワーフの仕事ですね。でも中の木の芯は森の木で、音を響かせてる」


 トビアスが立ち上がった。

 立ち上がり際に、膝の泥を一度だけ払った。その仕草がやけに丁寧だった。


「ユウトさん。ちょっと待ってください」


「何だ」


「このおもちゃ群。木の実は獣人の処理、匂い玉はエルフの薬草、弓はエルフの木にドワーフの金属、鈴は金属と森の木。四つの種族の素材と技術が、全部混ざってる」


「まあ、この町には四種族いるからな。自然とそうなるだろ」


「自然と、ですか」


 トビアスが俺の顔をじっと見た。


「ユウトさん。これ、ここにしかない工芸品ですよ。旧大陸のどこを探しても、四種族の素材を混ぜたものなんか存在しない。持ち出したら……値がつきます。それもかなりの」


「……おもちゃ?」


「だからこそです。どこにも真似できない」


 言われてみれば確かにそうだ。四つの種族が一つの町で暮らしているからこそ生まれたもの。素材も技術も、この場所でしか混ざらない。


***


 市場の隅に腰を下ろして、トビアスと話を続けた。


「で、実際にどのくらい売れるんだ」


「それはですね、正直やってみないとわかりません。ただ、希少価値は間違いなく高い」


 ……めんどいが、どのくらいの価値があるかくらいは知っておいた方がいいか。

 あとで面倒な交渉をしなくて済むように。


 【効率化】を発動した。


 町で作られているものの価値と需要が、頭の中に浮かび上がる。


『融合建築の技術──需要は極めて高い。だが技術の移転には職人の派遣が必要で、供給は困難。流出させると模倣される危険がある』


 建築技術は出せない。これはガロンとフィーネの合作だ。勝手に外に漏らしたら怒られる。


『マナ香草──旧大陸では入手困難な素材。乾燥させれば長期保存が可能で、軽量。交易品として最も扱いやすい。需要は高い』


 香草なら手軽だな。乾燥させるだけだし。


『おもちゃ工芸品──需要は未知数。だが四種族の融合という希少性は、他のどの交易品にもない独自の価値を持つ。量産は難しいが、一品の単価は高くなる可能性がある』


「マナ香草が一番手堅いな。軽いし、日持ちする。おもちゃは未知数だが、希少価値はある」


「さすがユウトさん、話が早い。俺もそう思いますよ。まずはマナ香草を軸に、おもちゃは少量の試し売りから始めましょう」


 トビアスが手を叩いた。商談がまとまりそうな顔をしている。

 いや、まとめるつもりはないんだが。


「ただ、一つ気をつけた方がいい」


 トビアスの声が、少し低くなった。


「旧大陸の商人ギルドは、新しい交易路を好みません。既存の商売の枠組みを邪魔されるのが嫌なんです。この町が独自の交易路を持つようになると……目をつけられるかもしれない」


「……面倒そうだな」


「面倒ですよ。でも、避けては通れない。道を作ったってことは、人が来るってことです。商人だけじゃなく、いろんなのが」


 いろんなの。

 その言葉の中に、あの書状のことがちらついた。旧大陸の開拓総督府から届いた、視察団派遣の通知。

 考えたくない。あとでいい。


「賢者さまが遠方の商人まで招いてくださった!」


 いつの間にか集まっていた住民たちが、嬉しそうに声を上げた。


「招いてない」


「謙虚な賢者さまだ!」


「謙虚じゃない。本当に招いてない」


 トビアスが荷車から何かを取り出した。


「おまけですよ」


 差し出されたのは、妙な模様の壺だった。


「いらん」


「まあまあ。中に旧大陸の塩が入ってます。マーレンさんのお料理に使ったら喜びますよ」


 塩か。それならまあ、マーレンに渡せばいい。

 俺は受け取ってしまった。商人の口車に乗せられた気がする。


 トビアスが荷車をまとめて出発の準備を始めた。

 帰り際に、ふと振り返った。


「ユウトさん。あの道、もう少し整えたら旧大陸からも来ますよ。商人だけじゃなく……役人もね」


 ……それは、もう来ることが決まっている。

お読みいただきありがとうございました!


本人はやる気ゼロですが、周りの環境がどんどん激変していきます。


【毎日 朝7時・夕方17時】の2回更新で投稿していきます!


もし『この怠惰な主人公、面白いな』と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!

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