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働きたくないので効率化していたら、いつの間にか文明ができていました  作者: 猫野ひかる
第7章「交易路を拓く」

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第121話「移動がだるいので、道を作ることにした」

 町が完成してから、人が増えた。

 東の港方面からやってくる旅人も、北の山から下りてくるドワーフの荷馬車も、みんな口を揃えて同じことを言う。


「道が悪すぎて死ぬかと思った」


 今日もまた、泥だらけの旅人が東門から転がり込んできた。

 文字通り、転がってきた。足を取られて、門の前の坂で滑ったらしい。


「大丈夫か?」


 カイが駆け寄って助け起こす。旅人は膝についた泥を払いながら、げっそりした顔で言った。


「港からここまで三日かかった。晴れてるのに道がぬかるんで、荷車が二回ハマった。頼むから何とかしてくれ」


 俺はそれを、少し離れた木陰から眺めていた。

 木漏れ日が気持ちいい午後だった。昼寝の場所を探していただけなのに、また面倒な話が聞こえてくる。


「ユウト、また道の苦情だ」


 カイが俺のところまでやってきて、困った顔をした。


「知ってる」


「これで今月だけで十五件目だぞ。北のドワーフの荷馬車なんか、車軸が折れたって怒鳴り込んできたし」


「あいつらが勝手に来てるんだろ。俺が呼んだ覚えはないぞ」


 カイが腕を組んで、真面目な顔になった。


「なあユウト。道があれば物資も増える。遠くから来る連中が楽に着けるようになれば、向こうから勝手に持ってきてくれるんだ。お前も楽になるぞ」


 その一言が、妙に刺さった。


「……それは確かに、めんどくさくなくなるな」


 俺が動かなくても、向こうからものが届く。

 それは理想の形だ。究極の怠惰と言ってもいい。


「よし。道を直すか」


「おお、やる気になったか!」


「やる気じゃない。めんどくさいことを減らすためだ。勘違いするな」


 カイが嬉しそうに笑っているが、無視する。

 俺は別に、この町のためとか、旅人のためとか、そういう立派な動機で動いているわけじゃない。

 ただ、苦情を聞くのがだるいだけだ。


***


 町の東側にある小高い丘に登った。

 風が心地よい。ここで昼寝したいくらいだが、今はそうもいかない。

 丘の上からは町の全景と、周囲の地形がよく見える。北に山脈、西に森、東に砂地が広がる海岸方面、そして南には草原。


「ユウトさん、何するのー?」


 ルナがぴょこんと隣に現れた。銀色の耳がぴくぴくと動いている。


「道を作る。その前に、地形を調べる」


「道! わー、楽しそう!」


 楽しいかどうかは知らないが、まあいい。

 俺は目を閉じて、【効率化】を発動した。


 頭の中に、町を中心とした地形の情報が流れ込んでくる。


『北──岩盤が浅い。地表から三尺で硬い層に届く。石を敷くなら最も安定する方角。ただし勾配がきつい。つづら折りが要る』


 北は硬い地盤か。石畳には向いてるが、坂道がだるそうだ。


『西──樹木の根が地中深くまで張っている。掘削は困難。根の上に板を渡す木道が適する。ただし腐食対策が必須』


 西は根っこだらけ。掘るのは無理か。


『東──砂地。水はけは良いが、荷重が分散して車輪が沈む。マナを含む地盤を圧縮すれば、通常の石畳より頑丈な路面になる』


 ……北から東まで、全部ちがう。


「すごい……」


 思わず声が漏れた。

 Lv3になってから、分析の精度と範囲が段違いだ。町の周囲数十里の地形が、まるで上から見下ろしたように把握できる。


「ユウトさん、すごーい! 道がぜんぶ見えるの?」


 ルナが目をきらきらさせて、耳をぴこぴこさせている。


「見えるっていうか、地面の下がわかる感じだな」


「へー! あたしは地面の上の匂いしかわかんないけど……」


 ルナが鼻をひくつかせて、ふと南の方角を見た。

 耳が少し倒れる。


「あたし、南の道も……気になるなぁ」


「南? お前の部族の方か」


「うん……いつか、帰らなきゃいけないって、約束したから」


 風が吹いて、ルナの銀色の髪が揺れた。

 口を一度開いて、閉じた。それだけだった。

 南の草原の向こうに、獣人たちの集落がある。ルナがここに来る前に暮らしていた場所だ。


「まあ、そのうちな」


 俺はそれだけ言って、話を切り上げた。

 深く踏み込むと面倒なことになる。今は道のことだけ考えよう。


***


 丘を下りて、作業場に向かった。

 カイとガロンが待っている。


「で、どうだった?」


 カイが身を乗り出す。


「三方面、全部わかった。北は石畳、西は木道、東は砂地を圧縮。それぞれ最適な工法が違う」


「ほう。で、どこから手をつける?」


 ガロンが腕を組んで聞いてきた。


「全部だ」


「は?」


「全部同時にやる。一回でやった方が二度手間にならん」


 俺は【効率化】をもう一度発動して、三方面の全ルートの設計図を描き始めた。

 頭の中に、淡い青色の線が走る。北へ伸びる石畳の道、西に蛇行する木道、東へまっすぐ伸びる圧縮砂利の道。

 勾配、排水路、待避所の位置まで、全てが一気に形になっていく。


「おい、全部同時にやるのか?」


 カイが目を丸くした。


「一回でやった方が二度手間にならん。さっき言っただろ」


「いや、言ったけど……規模がおかしくないか?」


 ガロンが設計図を覗き込んで、低く唸った。

 節くれだった指で、北の山道の部分をなぞる。


「おい人間。北の山道だけで、石がどれだけ要ると思っておる? ワシの部族の採掘量でも数ヶ月はかかるぞ。それが三本。しかも排水まで入っとる」


「だから効率よくやるんだろ。石が足りないなら、マナを含んだ地盤を圧縮して使えばいい。東の砂地と同じ要領だ」


「……お前の『楽をするため』の規模がおかしいと、誰か言ってやれ」


 ガロンがカイを見たが、カイは苦笑しているだけだった。


「これだけの道を作るとなると、人手が必要だな」


「……めんどい」


「お前が言うな」


 カイのツッコミが飛んでくるが、俺の頭はもう次のことを考えていた。

 道を作れば、物資が勝手に届く。人が勝手に来る。俺が動かなくて済む。

 完璧な計画だ。

 あとは誰かに任せて昼寝したい。


 ガロンが設計図の全体像をもう一度見渡して、腕を組み直した。


「おい人間。これは……道じゃない。交易路だぞ」


 ……俺はただ、歩きたくなかっただけなんだが。

【挿絵あり】

自分で作った道の向こうから、招いてない客が来ました。しかも百人。

ユウトの「……嫌な予感しかしない」という顔、正解です。大正解。

便利な道は、便利な侵攻路でもあるんですよね。

挿絵(By みてみん)



お読みいただきありがとうございました!


本人はやる気ゼロですが、周りの環境がどんどん激変していきます。


【毎日 朝7時・夕方17時】の2回更新で投稿していきます!


もし『この怠惰な主人公、面白いな』と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!

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