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働きたくないので効率化していたら、いつの間にか文明ができていました  作者: 猫野ひかる
第6章「地下からの職人」

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第118話「町をまるごと設計したら、引っ越しが始まった」

 気づいたら、村じゃなくなっていた。

 石畳の広場。木と石が組み合わさった市場。水路と繋がった噴水。

 いつからこうなったんだ。……わかってる。全部俺のせいだ。


 事の発端は、昨夜のカイの一言だった。


「融合建築を量産できるなら、この町の形を変えられるんじゃないか」


 宴の余韻が残る広場で、カイが設計図を広げたとき、俺は正直こう思った。

 めんどくさい。

 だが同時に、別のことも思った。


 ──建物がバラバラに建つと、動線が無駄になる。水汲みに遠回り、食堂まで坂道、作業場は風下。歩く距離が増えるたびに俺の昼寝時間が削られる。

 つまり、一回まとめて配置を決めてしまえば、当分いじらなくていい。

 それは「楽」だ。


 翌朝、俺は作業場でカイの設計図を広げ直した。

 ガロンが腕を組んで横に立つ。


「で、何をどうするんだ」


「全部決める。広場、市場、住居、水路。全部の配置を一回で」


「……正気か?」


 正気じゃない。でも二度手間のほうがもっと嫌だ。


 目を閉じて、【効率化】に意識を向ける。


 頭の中に、集落の全体図が浮かんだ。川の流れ、地形の傾斜、風の通り道。今ある建物の位置と、これから必要になる施設。

 淡い青色の線が、頭の中で地図を描き直していく。


『広場は中央の平坦地が最も適している。市場は東寄り、街道に近い位置。住居は北と西の緩斜面に置けば排水に有利で、水路は川から分岐させて全域を循環させる。この配置なら動線の総距離が最も短い』


「……見えた」


 俺はカイの設計図の上に、指で線を引いた。

 ここが広場。ここが市場。住居はこっちとこっち。水路はこう回す。


「カイ、これ全部やるぞ」


「全部? 本気か」


 カイの目が丸くなる。


「やったら楽になるだろ。一回やれば当分いじらなくていい」


「……お前の『楽したい』は、毎回とんでもないことになるな」


 うるさい。楽したいだけだ。本当にそれだけだ。


 ガロンが拳を鳴らした。


「石畳は任せろ! ワシの腕が鳴るわ!」


「頼んだ。……俺は設計だけな。体は動かさない」


 そこからは、怒涛だった。


 ガロンが石を切り出し、敷き詰める。フィーネが木を操り、建物の骨組みに生きた木材を組み込む。カイが住民を束ね、資材を運び、工程を仕切る。


 俺はハンモックに揺られながら、ときどき【効率化】で配置を微調整した。


 ……嘘だ。ハンモックは三回しか使えなかった。微調整が思ったより多い。めんどい。


 初日は石畳だった。ガロンが石を叩き割る音が朝から晩まで鳴り響いて、俺の昼寝計画は初日から崩壊した。

 二日目は水路。川から分岐させた水の道を、集落の端から端まで通す。フィーネが水路の底に苔を植えて、マナの循環が安定するようにした。「これで水が腐りませんわ」と得意げだったが、苔の手入れは誰がやるんだ。俺はやらないぞ。

 三日目の昼過ぎ。

 広場の中央に、噴水の台座が据えられた。


 ガロンが最後の石を嵌め込む。水路と繋がった石の器。底にはフィーネが植えた苔が緑色に光っている。マナを含んだ水が苔を通って循環する仕掛けだ。


「水、流すぞ」


 ガロンがせき止めていた水路の栓を抜いた。

 ごぽ、と音がした。


 石の管を水が駆け上がる。

 一瞬の沈黙。


 ──ざあっ。


 水が噴き出した。

 午後の陽光を受けて、飛沫が虹色に散る。石の台座を伝った水が苔の上を滑り、薄い緑色の光を帯びながら水路に還っていく。

 風が水の粒を運んで、広場に涼しい空気が広がった。


 周囲から、歓声が上がった。


「水が出た!」


「噴水だ! 噴水ができたぞ!」


「賢者さまが町を作った!」


 ……出た。またこれだ。


「作ったのは全員だろ。俺は配置を決めただけだ」


 誰も聞いてない。住民たちは噴水の周りに集まって、水に手を浸したり、子供が飛沫を浴びてはしゃいだりしている。


 フィーネが広場の縁に立ち、両手を掲げた。地面から若木が伸び、広場を囲むように等間隔で並んでいく。葉が風に揺れて、木漏れ日が石畳に模様を落とした。


「……これで日陰もできましたわ。暑い日でも広場が使えます」


 ガロンが噴水を見上げて、腕を組んだ。


「ふん。石の出来は悪くない。……耳長の木も、まあ、邪魔にはなっとらんな」


「褒めているのかしら。分かりにくいですわ」


「褒めてねえ!」


 はいはい。


 俺は広場の端に立って、出来上がった景色を見渡した。

 石畳の広場。噴水。若木の並木。その向こうに、木と石が組み合わさった建物が並んでいる。東の方には市場の骨組みが見える。北と西には、住居が整然と建ち始めていた。


 ……やりすぎた。

 これもう村じゃない。


「ユウト」


 カイが隣に来た。腕まくりをして、額に汗を光らせている。こいつは三日間ずっと現場を走り回っていた。


「どうだ。お前の設計、形になったぞ」


「……ああ」


 素直に、悪くないと思った。

 俺が楽したいだけで始めたことが、こんな景色になるとは思わなかった。


「なあ、ユウト。ちょっと気になる話がある」


 カイの声が少しだけ低くなった。


「最近、東の港の方面から旅人が増えてるらしい」


「旅人?」


「ああ。商人とか、冒険者とか。……この町の噂が広がってるみたいだ」


 町の噂。

 融合建築。石畳の広場。噴水。

 ──目立つものを作ってしまった、ということか。


「旧大陸の方にも、届いてるかもしれない」


 旧大陸。

 俺たちが渡ってきた、あっちの大陸。


「……面倒なことにならなきゃいいけどな」


 カイは黙って頷いた。

 噴水の水音が、広場に響いている。さっきまで心地よかったその音が、少しだけ違って聞こえた。


 その夜、ハンモックで目を閉じたとき、ルナがそっと近づいてきた。


「ユウトさん。あたし、変な匂いがした。東の方から」


「……変な匂い?」


「知らない人の匂い。たくさん。……あたし、ちょっと怖い」


 銀色の耳が、ぺたんと倒れていた。

お読みいただきありがとうございました!

本人はやる気ゼロですが、周りの環境がどんどん激変していきます。


【毎日 朝7時・夕方17時】の2回更新で投稿していきます!


もし『この怠惰な主人公、面白いな』と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!

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