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働きたくないので効率化していたら、いつの間にか文明ができていました  作者: 猫野ひかる
第6章「地下からの職人」

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第114話「三つのスキルが重なると、寝る暇がない」

 三人の息が合った瞬間、鳥肌が立った。


 ガロンが石を据え、フィーネが木を曲げ、俺の【効率化】がその接点を示す。


 これは──今まで作ったどの建物とも違う。


 朝の冷たい空気が建設現場に張りつめている。昨日、融合設計を描いたばかりだというのに、もう作業初日だ。めんどくさい。だが、三人のスキルが重なる瞬間を見てしまったら、もう止められなかった。


 ガロンが巨大ハンマーを振り上げる。石の柱が地面に据えられるたびに、地響きが足の裏まで伝わってくる。小さな体に見合わない衝撃。ドワーフの力というのは本当にどうかしている。


「おい人間! 次の柱の位置はどこだ!」


 俺は【効率化】を発動する。


 頭の中に、淡い青色の線が浮かび上がった。石の柱と木材が噛み合う接合点。角度。配置。三人のスキルが最も効率よく重なる手順が、一本の道筋として見える。


『次の柱──現在位置から東に四歩。傾きを三度、南に倒すこと。石の目を縦に揃えれば、木材との接合面が最大になる』


「東に四歩。三度南に傾けろ。石の目は縦だ」


「細かいことを言う男だな!」


 ガロンが唸りながらも、寸分違わず石を据える。職人の腕は文句なしだ。俺が位置を言えば、あのドワーフは一発で正確に置く。


「フィーネ、次はお前の番だ。この石の上に、曲面の梁を乗せてくれ」


「わかっています。指図しないでいただけます?」


 フィーネが目を閉じる。長い金髪が風に揺れた。


 次の瞬間、彼女の手元にある木材がゆっくりと曲がり始めた。【植物操作】だ。エルフの木材は「生きている」。だから曲面にしても折れない。


 まるで木自身が望んだ形に変わっていくように、滑らかな弧を描く。


『接合の角度は問題ない。ただし木材のマナが石のマナと干渉を起こしている。干渉点から二指分ずらせば、両方のマナが安定する』


「フィーネ、もう少し右。二指分だけ」


「うるさい。わかっています」


 口ではそう言いながら、フィーネの手が微調整を加える。


 木が、石の隙間にぴたりと嵌まった。


 音はなかった。ただ、空気が変わった。石の灰色と木の温かみのある茶色が、まるで最初からそうだったかのように一つになっている。石の重厚さが木の柔らかさを支え、木の曲線が石の無骨さを包んでいる。


「おお……」


 ガロンが息を呑む。ゴーグルを額に押し上げて、接合部を食い入るように見つめていた。


「これは……石だけでは出ない形だ」


「……美しい」


 フィーネが小声で漏らす。すぐに口元を引き締めたが、翠の瞳だけは接合部から離れなかった。


 正直、俺も見とれた。


 だが見とれている暇はない。この融合建築、一本の柱を立てるだけで三人分のスキルが要る。めんどくさいにもほどがある。


「次だ。二本目、いくぞ」


「ガハハ! 腕が鳴るな!」


「……受けて立ちます」


 二人の声に、さっきまでの渋々感が少しだけ薄れている。


 そこへ、砂埃を上げて走ってくる影があった。


「資材はどんどん運ぶぞ!」


 カイだ。両腕に石材と木材を抱えて、息を切らしながら突っ込んでくる。兄貴肌は今日も全開らしい。


「カイ、ありがたいが──」


「次の石はこれでいいか!? 木材もこっちに三本あるぞ!」


「……ちょっと待て」


 三本目の柱を据え終わり、四本目に取りかかる。フィーネが木を曲げ、ガロンが金属の留め具を【金属加工】で成形し、俺が接合点を指示する。


 カイが石材を置いて戻ってきたとき、もう五本目に入っていた。


「もう次か!?」


「遅い。ドワーフなら一人で運べる量だぞ」


 ガロンが赤髯を揺らして笑う。


「ドワーフの体力と一緒にするなよ! あいつら規格外だろ!」


「カイ、休んでいい」


 俺は振り返りもせずに言った。


「むしろ休め。お前の足音がうるさくて集中できない」


「俺の出番は……」


 カイが肩を落とす。だが三歩下がった場所で腰を下ろすと、すぐに「よし、見届けてやる!」と拳を握っていた。腐らないのがカイのいいところだ。助かる。


 午後に入ると、作業の速度が上がった。


 三人の間に、言葉にならない呼吸が生まれ始めていた。ガロンが石を据える音。フィーネが木を操る気配。俺の指示。三つが重なるタイミングが、少しずつ噛み合ってくる。


「ガロン、次は留め具を薄くしろ。木のマナが通りやすくなる」


「薄くだと? 強度が──」


「石の方に厚みを持たせればいい。木に負担をかけるな」


「……ワシに教えるのか、石の使い方を」


 ガロンが不満そうに鼻を鳴らす。だが、ハンマーは正確に薄い留め具を打ち出した。


「フィーネ、木目が石の灰色に映えてるな。計算通りか?」


「いえ、偶然です。……ですが、効率の上では正解だった、と?」


「ああ。木のマナが石のマナと混ざって、接合部が強くなってる。偶然にしては出来すぎだ」


 フィーネが少しだけ口元を緩める。それだけで、午後の疲労が少し軽くなった気がした。


 ……気がしただけだ。実際は全身がだるい。三人分のスキルの最適解を絶えず計算し続けるのは、頭が焼ける。楽をするために【効率化】を使っているはずなのに、全然楽じゃない。本末転倒だ。


 日が傾く頃。


 骨組みが、形になっていた。


 石の柱が大地に根を張り、木の梁がその間を滑らかに繋いでいる。金属の留め具が要所を締め、全体が一つの生き物のように調和していた。石だけでも、木だけでも、絶対にこの形にはならない。


「明日はもっといける。壁と屋根だ」


 ガロンがハンマーを肩に担ぎ、赤髯を撫でる。職人の目が光っていた。


「競争するつもりですか」


「負けたら酒を奢れ、耳長」


「……受けて立ちます。ですが、わたくしが勝ちますので」


 二人の間にある空気が、昨日までとは明らかに違う。まだ渋々だ。まだ認めたくない顔をしている。だが、互いの腕を見た目は嘘をつけない。


 ま、明日も同じだけ働くってことか。


 ……勘弁してくれ。


 作業場を出ると、ルナが入口で丸くなって寝ていた。


 銀色の耳がぺたんと倒れている。小さな寝息が漏れて、吐く息がかすかに白い。待っていたのか。


 ……悪い。今日は、もふる余裕もない。体が動かない。

お読みいただきありがとうございました!

本人はやる気ゼロですが、周りの環境がどんどん激変していきます。


【毎日 朝7時・夕方17時】の2回更新で投稿していきます!


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