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働きたくないので効率化していたら、いつの間にか文明ができていました  作者: 猫野ひかる
第6章「地下からの職人」

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第113話「喧嘩の仲裁が、文明を動かすとは思わなかった」

 フィーネとガロンが、広場のど真ん中で怒鳴り合っている。


 住民が遠巻きに見守る中、俺はハンモックから引きずり出された。


 ……朝っぱらから最悪だ。


「石造りは醜い。森との調和がない。このまま建て続けるなら、わたくしは協力を打ち切ります」


 フィーネの声が広場に響く。翠の瞳が冷たく光っていて、あれは本気の顔だ。


「耳長が偉そうに! お前の木造は脆くて話にならん!」


「脆い!? エルフの木材の何がわかるのです!」


 ガロンが一歩踏み出す。フィーネも一歩も引かない。百三十センチのドワーフと長身のエルフが、互いを睨みつけている。空気が凍るとはこのことだ。


「おい、落ち着けよ二人とも」


 カイが間に割って入るが、二人の視線はカイを素通りして真正面からぶつかっている。カイが困った顔でこっちを見る。


 ……振るなよ。俺だって寝てたかったんだよ。


「ワシの石は百年持つ! 脆い木を貼りつけて何になる!」


「百年持とうが醜ければ意味がない! 暮らしとは、美しさと共にあるものです!」


 フィーネが腕を組み、ガロンが赤髯を逆立てる。朝の冷たい空気がぴりぴりと張り詰めて、息が白い。


 見物人が増えてきた。マーレンが腕組みして見守っているし、遠くでルナが耳をぺたんと倒して心配そうにしている。


 面倒だ。本当に面倒だ。どっちかが折れてくれれば俺は寝てられるのに。


 でも、これは折れない喧嘩だ。どっちも本気で、どっちも間違ってない。


 ガロンの石造りは確かに頑丈だ。修繕が要らない、長持ちする。けれどフィーネの言う通り、無骨で味気ない。灰色の箱が並ぶ光景は、エルフの美的感覚じゃ耐えられないんだろう。


 一方でフィーネの木造は美しい。木目を活かした曲線、森に溶け込む佇まい。けれどガロンの言う通り、石に比べれば脆い。


 石か、木か。


 どっちかを選べば、もう片方が離れる。集落が二つに割れる。


 正直に言えば、俺はどっちでもいい。寝られれば石でも木でも構わない。でも、どっちかが出ていったら、残った方の仕事が俺に回ってくる。


 それは嫌だ。絶対に嫌だ。


「……あのさ」


 口を開くと、二人の視線がこっちに刺さった。


 うわ、怖。


「両方使えばいいだろ。どっちも捨てなくて済む」


「は?」


「何を言って──」


 フィーネとガロンの声が重なる。


「ちょっと待て。見せた方が早い」


 俺は【効率化】を発動した。


 頭の中に、淡い青の線が走る。ガロンの石造りの構造。フィーネの木材加工の曲線。二つの技術が重なり、噛み合い、一つの形を結んでいく。


 新段階──異種族技術の融合。昨夜ガロンの呟きを聞いてから、ずっと頭の隅にあった。一人じゃ作れないもの。なら、二人の技術を組み合わせれば。


 ……めんどくさい思いつきだ。でも、これが一番楽に黙らせられる。


 半ば引きずるようにして、二人を作業場に連れていく。地面に棒きれで図を描き始めた。


「石の骨組みに、木の外装。石が強度を担って、木が美しさを担う。どっちも捨てなくていい」


 線を引くたびに、スキルが設計を補完していく。


『石の骨格に木を組み合わせた構造──強度は石造り単体の一・五倍に上がる。見た目はエルフの基準を満たせるし、効率化込みなら十日で建つ』


 数字が頭に浮かぶ。石だけでも木だけでもない。両方の長所を引き出す構造。


 俺は地面の図を指差した。


「ここが石の柱。ここに木を這わせる。石が荷重を受けて、木が表面を覆う。石の灰色は木目で隠れるから、フィーネ、お前の言う『美しくない』は解決する」


 フィーネが息を呑んだ。


「で、ガロン。木は表面だけだから荷重は石が全部受ける。お前の言う『脆い』も起きない。石の強度はそのまま、むしろ木の弾力が加わって一・五倍だ」


 ガロンの目が見開かれた。


 二人が黙った。


 風が吹いて、フィーネの金髪とガロンの赤髯が同じ方向に揺れた。地面に描かれた図を、二人が食い入るように見つめている。


「……こんな発想、出てこなかった」


 ガロンが低い声で呟いた。赤髯の奥で、職人の目が光っている。あの目は石窯を組んでいたときと同じだ。新しいものを見たときの、抑えきれない興奮。


 けれど一瞬だけ、ガロンの瞳に別の色が混じった。何かを飲み込むような、押し殺すような。


 ……まあ、急かすつもりはない。


「石が……美しい、と言えなくもない」


 フィーネが小声で呟いた。地面の図に視線を落としたまま、長い耳がわずかに揺れている。


 この図の中では、石は見えない。木目に隠れて、中から支えるだけ。でもフィーネの目は、その「見えない石の骨格」をなぞっている。


 隠れているからこそ、美しさを支えている。


「ガロン」


 フィーネが顔を上げた。


「あなたの石工技術は……認めたくはありませんが、この設計を実現するには必要です」


 ガロンが太い腕を組んだ。


「耳長……お前の木材加工は確かに一級品だ。……ワシが言うと気持ち悪いな」


「同感です」


 フィーネが冷たく返す。だが、さっきまでの凍った空気とは違う。渋々だけど、一歩だけ近づいた。


 全面的な和解なんかじゃない。渋々の、本当に渋々の、一歩。


 でも、それで十分だ。


「じゃあ明日から作るか。……めんどいけど」


「お前が一番面倒がってるだろ!」


「あなたが言い出したのでしょう!」


 ガロンとフィーネの声がぴったり重なった。


 ……こいつら、息合ってるじゃねぇか。


 石か木か、じゃない。石と木だ。


 たぶんこの世界に、まだこんな建物はない。石の強さと木の美しさを同時に持つ建築なんて、どこにも。


 前例がない。


 それを聞いたら、あのドワーフはもっと目を輝かせるだろうし、あのエルフはもっと渋い顔をするだろう。


 フィーネの【植物操作】とガロンの【金属加工】。それに俺の【効率化】。


 三つのスキルを重ねたら、何が建つんだろうな。


 ……たぶん、めんどくさいことになる。間違いない。

お読みいただきありがとうございました!

本人はやる気ゼロですが、周りの環境がどんどん激変していきます。


【毎日 朝7時・夕方17時】の2回更新で投稿していきます!


もし『この怠惰な主人公、面白いな』と思っていただけたら、下の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援いただけると、執筆の励みになります!

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