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趣味で作ったコスプレ衣装が、なぜか全部S級装備だった件  作者: あどん


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第2話 予期せぬ魔法は爆音とともに(リエア・タカハルの場合)

陽射しがゆるやかに差し込む午後、俺の小さな工房兼店舗『布袋工房ほていこうぼう』には、のんびりとした時間が流れていた。


木の香りが漂う室内。作業台には布束や魔法銀糸の小箱が積まれ、壁には完成品の軽装やマント、冒険者用のアクセサリーが整然と並んでいる。隅の方には裁断前の布や定規、魔法具などが雑然と置かれていたが、それさえも不思議と一つの秩序を感じさせた。


俺は椅子に腰掛け、目を細めて針先を眺めながら、のんびりと糸の調整に励む。店は静まり返り、聞こえるのは鳥の鳴き声と、風に揺れる木々のざわめきだけ。こんな穏やかな日常が心地よかった。


「よっ、イオリさん!」


不意に、常連客の一人である女戦士リエア・タカハルが颯爽と入ってきた。なんでも装備のインナーが破れてしまったらしい。


「適当に見せてもらうよ」


そう言って彼女は商品棚を眺め始めた。戦士とは思えないほど小柄で華奢な少女だが、この世界では外見で実力を判断してはいけない。筋肉質な魔法使いもいれば、細身の女性が重装備で最前線に立つことも珍しくないのだから。


髪は濃い赤色で、肩の下まで届く長さ。眉の上で揃えられたぱっつんの前髪と、顔まわりを縁取るサイドの房が、彼女の可憐さを引き立てている。紅に近い深い赤色の大きな瞳は、瞬き一つでくるくると表情を変え、整った顔立ちの中に幼さと凛々しさを同居させていた。


リエアは棚からいくつか品を手に取り、一つひとつ丁寧に確認していく。


「どれがいいかなぁ。……ねぇ、これと同じのはないの?」

「ああ、それなら……」


──その時だった。


ふと顔を上げた瞬間、彼女の仕草と、記憶の底にある「あるキャラクター」が重なった。流れる髪のライン、頬の赤み、瞳の色彩──すべてが脳内で強烈な光を放ち、一つの閃きとなって弾けた。


「……イオリさん?」


呆然と立ち尽くす俺の顔を、リエアが心配そうに覗き込んでくる。


「……明日、また来てくれ!!」


思わず声を張り上げると、リエアが目を丸くして「え?」と聞き返す間もなく、俺はそのまま工房の奥へと飛び込んだ。


ーーー


夜通し、工房の静寂を切り裂くような布を裁つ音と、生命を宿したかのように脈動する魔法銀糸の輝きが満ちていた。


今回のテーマは「一撃必殺」。


「一発の魔法にすべてを賭ける」という、そのあまりに潔く、あまりに効率の悪い美学を完成させるための一着だ。


俺は、燃えるような緋色と、夜の深淵を写し取ったような深紺の布を組み合わせた。布地は、ただ丈夫なだけでは足りない。彼女の迸る魔力に耐え、それを一点へと集約させるための「導管」として機能させる必要がある。


「……ここだ。このラインで魔力を加速させる」


肩や腕、胸元、そして大胆に開いた腰回りに至るまで、あらゆる関節の可動域をミリ単位で計算し、縫い合わせていく。特筆すべきは、その内側に施された緻密な魔法回路だ。本来、大魔導師が一生をかけて刻むような複雑な増幅陣を、俺は「天啓」に従い、刺繍として布裏に極限まで圧縮して叩き込んだ。


一針、一針、糸を通すごとに工房の空気が熱を帯びる。それは、詠唱を極限までサポートし、放たれる爆裂魔法の威力を「もう一段階」上の次元へと押し上げるための、狂気的な工夫。


普段の装備作りとは比較にならないほどの集中力が、俺の神経を研ぎ澄ませていた。針を持つ指先が、魔力の摩擦で熱を持って赤く腫れても、一刻も手が止まることはない。脳裏にあるのは、黄金の光に包まれて倒れ伏す少女の、満足げな笑顔だけだった。


「……見せてやるよ。これが、ロマンを形にする職人の仕事だ」


徹夜の果て、朝日が工房に差し込む。机の上に鎮座していたのは、怪しくも気高く、そしてどこか物騒な気配を纏った「魔法の聖衣」だった。赤と紺のコントラストが、朝の光を吸い込んで鈍く光る。


翌日。

徹夜明けだというのに、不思議と気分は清々しかった。

――ああ、これは間違いなく“会心の出来”だ。


ーーー


「お待たせ」


リエアは、俺の昨日の強引な要求に戸惑いながらも、律儀に店を訪れてくれた。


「イオリさん?……やっぱり無理させちゃったんじゃない?」

「何のことだ?」

「何のことって、目の下のクマがすごいことになってるわよ」

「そんなことより、これだ!これが完成品だ!」

「……え?」

「いいから、まずは着てみてくれ!」

「ちょっと、私の求めてるインナーはもっとこう、実用的な……」


抗議しようとする彼女の手へ、強引に包みを押し付ける。


渋々といった様子で店の奥へ消えたリエア。しばらくして、着替えて戻ってきた彼女の姿を見て、俺は思わず息を呑んだ。


黒を基調とした豪奢なローブは、肩口から裾に向けて緩やかに広がり、優雅なシルエットを描いている。襟元や袖口を彩る金と紫の装飾が、圧倒的な存在感を放っていた。そして仕上げは、何よりも目を引く大きな三角帽子だ。鋭く尖りながらも気品あるフォルム。その側面には複雑精緻な紋様が刻まれ、まるで意志を持っているかのような威圧感を放っていた。


まさに、その姿は──。


「……完成だ。これは、完全に『めぐみ○』だ……!」

「あのねイオリさん。私、戦士なんだけど。これどう見ても魔法使いの装備でしょ?」


深紅のローブとマント、そして大きな帽子。どこからどう見ても、魔法使いにしか見えない。


「いいんだ!これで正解なんだよ!さあ、次は杖を持って!」

「いや、そもそも私、杖なんて持ってないし」

「大丈夫だ、用意してある」


俺が懐から取り出した杖を差し出すと、それを受け取ったリエアの目が見開かれた。手に馴染む感覚に、明らかな違和感を覚えたのだろう。


「ここ、服屋よね……?なんでこんな……って、これ、まさか本物の……」

「さて、行こうぜ。海辺まで!」


ーーー


「よし、ここにしよう」


町外れの海岸へ辿り着くと、辺り一面に無人の砂浜が広がっていた。波打ち際まで進んで振り返ったリエアは、いまだ不安げな表情を浮かべている。


「……準備はいいか?」

「準備って言われても困るんだけどさ」

「いいか、海へ向けて撃つんだ」

「撃つって、何をよ」

「究極魔法、エクスプ〇ージョンだ」

「はぁっ!?」

「いいから、魂を込めて唱えてみろ!」


リエアは困惑しながらも、促されるままに杖を掲げた。


「……エクスプ〇ージョン!」


刹那──杖の先が猛烈に輝き出した。迸る光の奔流に、俺は思わず両目を閉じる。次に瞼を開けたとき、遥か彼方の水平線上に巨大な火球が膨れ上がっていた。それは見る間に膨張し、視界を焼き尽くさんばかりの閃光とともに、凄まじい爆音が世界を震わせた。


──【BOOOOM!!!】


数秒の静寂の後、遅れてやってきた衝撃波が暴力的なまでの塊となって押し寄せた。ゴォッ、という地鳴りのような音が空気を震わせ、巻き上がった砂煙が視界を完全に遮る。


「おっと……!」


俺は腕で顔を覆い、必死に足を踏ん張って耐えようとしたが、その努力も虚しく、見えない巨人に突き飛ばされたかのように後ろへ転がった。


ようやく砂煙が落ち着き、目を開ける。視界の先では、海面が巨大なクレーターのように抉れ、煮え繰り返った海水が蒸気となって立ち上っていた。


「うむ……素晴らしい。これぞロマンだ」


満足感に浸りながら起き上がると、少し離れた場所に「それ」は転がっていた。深紅のローブを纏い、砂浜に顔面からダイブしているリエアだ。


「す、凄いんだけど……これ……1ミリも、動けないんだけど……!」


リエアは砂を噛んだまま、消え入りそうな声で訴えてきた。指先ひとつ、ピクリとも動いていない。まるで全身の骨を抜かれた軟体動物のように、ぐったりと砂の上に広がっている。


「ああ。その装備には『全魔力をたった一撃に、無理やり注ぎ込む』という特殊な魔導回路を組み込んであるんだ。放った瞬間に魔力残量は完全なゼロ。脳が生命の危機を感じてシャットダウンするから、文字通り指一本動かせなくなる。……それが爆裂の美学(お約束)だからな!」


俺が誇らしげに胸を張ると、リエアは地べたに這いつくばったまま、瞳の奥に怨念のような光を宿して俺を睨みつけてきた。


「ダメじゃん!!死ぬって!敵地でこんなの使ったら確実に死ぬ!これなら普通の剣を持って戦った方が百倍マシよ!」

「だが、放つ瞬間のポージングは最高だったぞ」

「そこを褒められても嬉しくないわよ!!」


俺は砂を払いながら立ち上がり、恍惚とした表情で頷いた。


脳裏には、先ほどの一撃が焼き付いている。轟音に震える大気、立ち昇る火柱、そして激しい爆風を受けて鮮やかに、あまりにも美しく翻ったあの赤いマント。あれこそが俺の見たかった「完成形」だ。あの瞬間を再現できただけで、徹夜で目を血走らせ、指先を魔法銀糸でズタズタにした苦労は、お釣りが来るほどに報われた。


「……あー、最高だった」

「最高なのは、あんたの頭の中だけよ……」


砂浜にめり込んだまま、リエアが力なく毒を吐く。


本来なら頼りがいのある前衛戦士であるはずの彼女を、一歩も歩けないポンコツ魔導師に変え、敵地であれば即座に詰みという致命的な欠陥を抱え込ませる。


だが、それでもいい。実用性をかなぐり捨て、効率を嘲笑い、ただ一瞬の輝きとロマンのためだけに持てる技術のすべてを注ぎ込む。これこそが、俺が前世から夢見ていた「趣味」の極致なのだから。


こうして、伝説的な破壊力と致命的な欠陥を併せ持つ『紅の法衣(試作型)』は、リエアの激しい抗議を経て、無事(?)に封印されることとなった。


いつか、この理不尽な火力を必要とするその日まで、あるいは俺のロマンが再び暴走するその時まで。それは工房の棚の最奥で、静かに、そして禍々しく出番を待つことになる。


戦士を魔法使いに変えてしまう、世界一美しい役立たず──。俺の『布袋工房』には、今日もまた一つ、売り物にならない傑作が増えてしまった。


ーーー


【アイテムデータ】

【S級】紅の法衣(リエア・タカハル専用装備)

素材:爆龍の髭糸×高密度魔導綿

特徴:

・爆裂魔法詠唱補助システム搭載

・魔法威力:極大に固定

・防御力:微増

・敏捷性:大幅低下

特殊効果:【リミッター解除】

発動時、全魔力を強制消費。発動後24時間は歩行を含む自力行動が不能となる。

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