第3話 異国の武闘家と鉄壁の守護(リュナ・サトオスの場合)
「イオリさーん! ちょっといいかーい?」
店の扉が勢いよく開き、リエアが賑やかな声とともに飛び込んできた。 先日の「究極魔法事件」で、海辺に顔面からダイブする羽目になったはずの彼女だが、驚くほど立ち直りが早い。俺の趣味全開な衣装を、なんだかんだと着こなしてくれた希少で貴重な……そして、恐ろしくお人好しな常連客だ。
「……あれ? 今日は一人じゃないんだな」
リエアの背後から、ひょっこりと別の少女が顔を覗かせる。
「そうそう! こっちは最近パーティーを組んでる仲間のリュナ。彼女、近接格闘がメインなんだけど、今使ってる装備がボロボロになっちゃってさ。……まともな装備も作れるって紹介した手前、今日は『普通に』頼むよ?」
リエアが少しだけ頬を引きつらせて、釘を刺すように付け加える。どうやら彼女なりに、友人を「おかしな職人の餌食」にしないよう、必死に予防線を張っているらしい。
「……この人?」
「そう。あの噂の『変態裁縫師』だよ」
「リエア、さらっと変な肩書きを足すな」
俺が釘を刺すと、女性は真剣な眼差しで俺を見つめた。
「はじめまして、リュナ・サトオスです。リエアから、あなたの作る装備はすごいって聞いてきました」
「……まあ、ゆっくり見ていってくれ」
俺は二人を店内に招き入れた。リュナは興味深そうに陳列された品々を眺め始めた。特に軽装の防具や、動きやすさを重視した素材に関心があるようだ。
「へー、まともな店じゃない。リエアが言ってたからもっと怪しい店かと思ったわ」
「店に置いてある商品は、”基本”まともだからね」
「“基本”が付く時点で、嫌な予感しかしないんだけど……」
そんな二人を余所に、俺の視線はリュナに釘付けになっていた。
栗色の髪は肩にかかる程度のショートボブ。瞳は同じく茶褐色で、意志の強さを感じさせる凛とした輝きを宿している。スラリと伸びた四肢は無駄な脂肪がなく、しなやかな筋肉がついている。少女らしい可憐さを残しつつも、どこか中性的な格好良さがある容姿。
──その瞬間、脳内にある「天啓」が駆け巡った。
あの立ち姿。風になびく髪。雷を操るにふさわしい瞳。脳内の記憶のフィルムが高速再生される。間違いなく──!
「リュナ! 明日もう一度来てくれ!!」
「……は?」
「ほら、始まったわよ」
リエアが「あちゃー」と言わんばかりに額を押さえる。だが、俺はもう止まらない。
「ちょっ……私まだ何も選んでないんだけど!」
「いいから! 任せてくれ!!」
二人が帰るや否や、俺は店にクローズの看板を掛けると、工房へと飛び込んだ。
ーーー
深夜。工房には魔法銀糸の淡い光が揺れていた。今回のテーマは、あの学園の制服を完全再現することだ。
生地には特製の耐電繊維を混紡し、電撃を中和する耐性としなやかさを両立。胸元の刺繍には微妙な魔術式を組み込み、魔力循環を円滑にする。プリーツスカートは膝上15センチ──動きやすさと「絶対領域」の美学を両立させた自信作だ。
さらにスペシャルギミックとして「帯電繊維」を縫い込んだ。装着者の魔力に反応し、スカートが翻るたびに小さな火花が散る。単なる飾りではない。魔法防御の簡易バリアとしても機能する。
俺は没頭した。徹夜で針を動かし続け、朝焼けが窓を染め上げる頃、ついにそれは完成した。
ーーー
翌日。目の下にさらに深いクマを刻んだ俺の前に、リュナが怯え半分、期待半分といった様子で現れた。
「……昨日からリエアに『覚悟しなさい』って脅されてたんだけど。これが、その……完成品?」
「ああ。君にしか着こなせない至高の一着だ。着てみてくれ」
差し出したのは、この世界の常識では考えられない「明るい茶色のニットベスト」に「白い襟付きシャツ」、そして「膝上丈のプリーツスカート」だった。
「なんか、変わった装備……というよりは普段着に近いね」
着替えてきたリュナは、鏡の前で不思議そうに自分を見つめている。 ベストの左胸には、俺が即興でデザインした『〇盤台』風の校章刺繍。白いソックスにローファー風の魔導靴。どこからどう見ても、お嬢様学校の勝ち気な中学生そのものだ。
「いい。完璧だ……! 完璧な『ミ〇カミ〇ト』だ……!」
「……は? 何それ、新しい呪文?」
「説明は不要だ。問題はここからだ。リュナ、電撃を作るイメージを持つんだ。体内の魔力を電気に変えて、全身に巡らせろ」
「電気? 雷魔法みたいな?」
「そういう理解でいい」
「よくわかんないけど……とりあえずやってみるわ」
リュナが目を閉じて意識を集中させた。するとどうだ、彼女の周囲を青白い火花がパチパチと駆け巡り、髪の毛がふわりと逆立ち始めたではないか。
「おぉっ! なんかすごい! 体が軽い!」
「素晴らしい……! まさにレベル5だ!」
「レベルアップ!? ……よくわかんないけど、嬉しいわ!」
誤解を招いた気がしたが、とりあえず話をそらした。
「気に入ったか?」
「凄く良いんだけどさ……これスカート短すぎて、キックしたらパンツ見えちゃうんだけど」
「そんな時のためのコレだぁ!!」
俺は鼻息荒く、一丁の『スパッツ』を差し出した。
「これをスカートの下に履け! そうすればパンチラなど恐るるに足らず! 鉄壁の守護を約束しよう!」
「……え、じゃあスカートいらなくない? これ一枚で動いたほうが楽なんだけど」
「いいや、断じて否だ! この衣装は、スカートの下にこれを履いているという『ギャップ』にこそ真髄があるんだ! 譲れない!」
俺のあまりの剣幕に、リュナは「そ、そんなもんか……」と丸め込まれてしまった。フッ、職人のこだわりを舐めてもらっては困る。
「さて、仕上げだ。次は『レールガン』の練習に移ろう」
「レールガン?」
「いいから! ここでは危ない、浜辺に行こう!」
「……めちゃくちゃ嫌な予感がするんだけど……」
横でリエアがぼやいたが、無視だ。
浜辺に到着し、俺は懐からコインを取り出し、リュナの手に握らせた。
「いいか、コインを指にセットして、電気の力で磁場を作り、超高速で弾き飛ばすんだ!名付けて『レールガン』だ!」
「レール……? 磁場……?」
リュナは首をかしげながらも、俺の指示通りにコインを構え、電撃を集中させる。
「……えいっ!」
パシィィィィィン!!
景気いい音が鳴り響く──が、コインは力なく「ぺちっ」と数メートル先の砂浜に落ちた。
「…………」
「…………」
「おぅ……俺の知識だけでは……時代が早すぎたのか……」
俺が必死に伝えようとしたところで付け焼刃の知識では、電磁砲の原理を正確に伝えられない。
「ええっと……ごめん、イオリさん。何がしたかったのか、正直さっぱり分からなかったんだけどさ」
リュナはポリポリと頬を掻きながら、足元に転がったコインを見つめて苦笑した。だが、すぐにその瞳に力強い光が宿る。
「でも、これ凄いよ。さっきのビリビリを拳や足に集中させれば、大抵の魔物は一撃で沈むわ。それにこの服、驚くほど体が軽くなる。……うん、私、これ気に入ったかも!」
リュナは屈託のない笑顔を浮かべ、シャドーボクシングをするように鋭い突きを繰り出した。その拳が空気を切り裂くたび、帯電したプリーツスカートから青白い火花が散り、幻想的な光景を作り出す。武闘家としての本能が、この装備に秘められた真の身体強化性能を正しく見抜いたらしい。
「まあ、一発撃ったら行き倒れる私の時よりは、随分とマシな装備ね。これなら『実用的』って言えるんじゃない?」
リエアもようやく安堵したように肩をすくめた。相変わらず狂気は混ざっているが、今回はまともに戦力アップに貢献している。その事実に、友人として胸を撫で下ろしたようだ。
「ありがとうイオリさん! 大切にするよ。まずはこいつの性能をフルに引き出せるように、特訓してくるわ!」
リュナは「よしっ!」と気合を入れるように拳を叩き合わせ、満足げに笑った。その弾けるような笑顔に、俺はまたしても、心の底から救われるような思いがした。
ーーー
──数日後。 冒険者ギルドや街の酒場では、奇妙な噂が広まるようになった。 森の奥で、見たこともない『異国の服』に身を包んだ少女が、凄まじい電撃を纏った拳で凶悪なモンスターを次々と薙ぎ倒しているという。
曰く、「白い稲妻」
もちろん、彼女が激しい格闘戦でどれほど高く跳躍し、どれほど鮮やかにスカートが舞い上がろうとも、その下の聖域が暴かれることは決してなかった。 一部の不届きな観衆たちが期待に胸を膨らませて凝視したとしても、そこに存在するのは非情なまでのスパッツ。そして、その領域を犯そうとする不埒な視線には、衣装に仕込まれた数億ボルトのカウンター電撃が無慈悲に降り注いだ。
職人のこだわりが生んだ「鉄壁の防御」と「ギャップの美学」。 今日もまた一人、俺の手によって、この世界に新しいヒロインが誕生してしまったようだ。
ーーー
【アイテムデータ】
【S級】〇盤台学園指定制服(リュナ・サトオス専用)
素材: 導電性魔法繊維 × 雷狼龍の毛皮
特徴:
電撃属性付与 / 帯電による物理衝撃吸収
電撃使用時、攻撃力+150%
身体能力強化(超) / 精神集中力向上
特殊効果:【鉄壁のスパッツ】
防御力・精神防御力が大幅に増大。
スカートをめくろうとする不埒な輩には、自動で数億ボルトのカウンター電撃が放たれる仕様。




