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趣味で作ったコスプレ衣装が、なぜか全部S級装備だった件  作者: あどん


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2/18

第1話 天啓はいつも突然やってくる(ハルシア・トマの場合)

朝靄が立ち込める王都の片隅。湿り気を帯びた石畳の冷たさを靴底に感じながら、俺──イオリは一つ大きな欠伸を漏らし、まだ眠気の残る通りを歩いていた。


異世界という、お決まりのことわりに放り込まれてから、早いもので数年が経つ。図太いのか順応性が高いのか、今ではこの喧騒の中に馴染んで生きている。


転生者といえば、規格外の魔力で軍勢を焼き払ったり、伝説の聖剣を手に勇者として崇められたりするのが定番だが、俺に授けられたのは【裁縫】という、この上なく地味で堅実なスキルだった。当然、最前線でドラゴンを無双するような華々しい真似は、夢のまた夢だった。


それでも、俺はこの地味なスキルを気に入っている。 指先から糸を紡ぎ、布を裁つ。ただそれだけで、この世界で生きていくための「居場所」が作れるからだ。 冒険者たちが使う安価な軽装の仕立て、頑丈さが命の防具用インナー、あるいは激戦でズタボロになったマントの修繕。派手さこそないが、俺の手から生み出される装備は「妙に身体に馴染む」と冒険者ギルドでも評判になり、たまにB級相当の業物すら作り出すことがある。


食い扶持には困らないし、平穏な職人生活。 俺はこれで割と満足している──


その日も俺は、仕上げた依頼品を抱え、馴染みの宿屋を訪れた。 常連の冒険者から受けた「丈夫さと動きやすさだけが取り柄」のごく普通の上着。何の変哲もない。


宿屋『風見鶏亭』の扉を開けると、看板娘のハルシア・トマが目に入った。


胸の下まで届く、光沢のある栗色のストレートヘア。 鼻筋の通った柔らかな小顔に、澄んだ茶色の瞳。控えめな優雅さと、年相応の勝気さが同居したような少女だ。


「おはようございます、イオリさん。今日は早いんですね!」

「ああ。昨日言ってた奴を持ってきた。納品しておいてくれ」


彼女はテーブルに散乱していた空の皿を、手際よく片付け始める。 前髪がさらりと額に沿い、顔まわりのサイドバングが動きに合わせてふわりと揺れた。


(……あ)


──それは、本当に唐突だった。


視界の中で跳ねるように動く彼女の影が、俺の脳内にある「記憶」と重なり合う。 白と赤。軽やかに往復する、あの凛々しき剣士の姿。


「あの……? イオリさん?」


怪訝そうな声に、我に返る。 今の俺は間違いなく、魂の抜けた顔で虚空を見つめていたはずだ。


「……悪い。明日また来る」

「えっ? あれ、納品は?」

「そこに置いておいてくれ!」


それだけ言い残し、俺は宿屋を飛び出した。 背後でハルシアが何か叫んでいた気がするが、今は構っていられない。


脳内のキャンバスが、猛烈な勢いで「白と赤」に塗り替えられていく。


ーーー


工房に戻ると、俺は一言も発さず、作業台の上に布を広げた。


余計な思考はすべて切り捨てる。

今、必要なのは理屈じゃない。宿屋で閃いた“あの姿”を、寸分違わず形にすることだけだ。


基調は白。

ただの白ではない。光を受けて淡く輝き、返り血すら美しく映える白。

そこに、走る赤。胸元から腰、裾へと流れるようなラインを入れる。主張しすぎず、だが確かに目を引く色。

視線を前へ、剣先へと導くための配置だ。


装甲は最低限でいい。守るための服じゃない。


――避け、踏み込み、斬り抜ける。


それだけに特化した形。


肩や腰、関節部には一切の無駄を作らない。

可動域を奪う硬さは排除し、動いた分だけ素直に追従する柔軟性を持たせる。

軽量化を最優先しながら、必要な部分だけを強化する。

布の重なり方一つで、動きはまるで変わる。


「……急いで仕上げないと」


口から零れた独り言すら、どこか他人事だった。

頭の中では、すでに完成形が戦場を駆けている。


高速の踏み込み。

細身の剣を操るための体重移動。

一撃必殺ではなく、連撃で削り切る戦闘スタイル。


それに、この衣装は応える。


布を裁つ。

躊躇はない。寸分の迷いもなく、刃は走る。

裁断線はまるで、あらかじめそこに引かれていたかのように自然だった。


縫い合わせる。

一針一針に、魔力を込める。

耐久性を確保しつつ、引き裂かれた際の衝撃を分散させる魔術回路を、布の裏側に細密に縫い込んでいく。


水を飲むことすら忘れて、ただ手を動かし続ける。


この衣装は、“速さ”の象徴でなければならない。

剣と一体化し、着る者の存在感を消し、ただ刃だけがそこにあるような――そんな装備でなければ意味がない。


朝日が差し込む頃、

作業台の上には、純白と紅が織りなす“それ”が静かに横たわっていた。


俺は深く息を吐く。


「……よし」


剣士のための衣装。高速戦闘に特化した、純白の戦装束。


あとは――


ーーー


翌朝。徹夜明けの眼をこすりながら、俺は再び宿屋の門を叩いた。


「ハルシアさん……っ!」

「イオリさん!? どうしたんですか、その幽霊みたいな顔!」


お盆を抱えた彼女が、悲鳴に近い声を上げる。 確かに鏡を見れば、過労死寸前の男が映っているだろう。だが、そんなことは些細な問題だ。


「これを……着てくれ」

「えっ? これ、なんですか……?」


差し出したのは、白を基調とした軽装の鎧。

白を基調とした軽装の鎧に赤いラインや装飾。胸元はほどよくフィットし、肩や腕は動きやすく設計されている。腰のあたりに装飾ベルトがあり、剣や小物を下げる位置に最適化。スカートは動きやすくスリットが入り、ブーツは膝下までしっかりフィット。赤と白の配色は全体を引き締め、清楚さと機能美を極限まで両立している。


「いいから。……頼む、着てみてくれ!」


ハルシアは俺の剣幕に押され、困惑しながらも奥の部屋へ引っ込んだ。 数分後。 扉が開いた瞬間、俺の心臓は物理的に跳ね上がった。


「そ、それで、どうでしょうか……。ちょっと、恥ずかしいのですが」


頬を赤らめ、はにかむ彼女。 しかし、その姿は──。


「ああ……素晴らしい。……完璧だ」


カメラがないことが、これほど悔やまれたことはない。


「あの、これは一体……?」

「決まっているだろう。君専用のコスチュームだ」

「こすちゅーむ?」


説明は不要だ。俺はさらに、用意しておいた細身のレイピアを手渡す。


「ポーズを。重心を低く、左足を半歩前だ」


言われるままにハルシアが身構える。 しなやかな脚が重心を移動させた瞬間、彼女の空気感が一変した。


「……っ、軽っ!?」


次の瞬間、彼女の姿が──ブレた。 いや、違う。ブレたのは俺の動体視力だ。


白と赤の軌跡が、空間を断ち切る。 一歩。たった一歩の踏み込みで、彼女は宿屋の端から端まで到達していた。


──赤い、閃光。


「……完全にアス〇だ。……本物だ」

「はい?」

「なんでもない! 次は背後に向かって走れ! 髪をなびかせてターンだ!」

「こ、こうですかっ!?」


高速旋回しても、重心は一切揺るがない。衣装に刻んだ魔法回路が、彼女の身体能力を強制的に最適化ブーストしているのだ。


「よし、完璧だ! これなら最前線のモンスターとも渡り合えるぞ!」

「はぁ……。そうですか……?」

「……なんだ、不満か?」

「不満じゃないですけど……私、宿屋の娘ですよ? 戦闘なんてしませんし……」


「…………」


「あっ、でも! この服、すごく体が軽いです! お掃除も配膳も、いつもの三倍速で終わっちゃいそう!」


ハルシアは楽しげに笑う。……そうか、三倍か。赤くないけどな。


「でも、これすごく良い生地ですよね? 私の給料じゃ一生かかっても払えませんよ」

「あげるよ。……むしろ、着てくれてありがとう」


俺は深く息を吐き出し、満足感に浸った。

最高のモデルに、最高の衣装。これ以上の報酬があるだろうか。


こうしてまた一着。


本人の意向を完全に無視した「オーバースペックな趣味(S級装備)」が、世に放たれた。


ーーー

【S級】疾風の制服(改)

素材: 特殊銀糸×亜麻混紡(高耐熱・自己修復)

特徴:

・全動作速度+150%(閃光補正)

・回避行動中、全属性耐性+30%

・敏捷補正:SS++

・高速思考支援システム搭載

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