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趣味で作ったコスプレ衣装が、なぜか全部S級装備だった件  作者: あどん


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第11話 ギルドの華は未来からやって来る(ミオ・ミナリスの場合)

俺は冒険者ギルドに、いつもの納品で訪れていた。


ここは「勇者の宿り木亭」と呼ばれる、街一番の大きなギルドだ。

石造りの堅牢な建物には、荒くれ者もいれば爽やかな若者も集う。

掲示板には依頼書が貼られ、受付カウンターでは事務方が忙しなく動き、酒場兼食堂では常連たちが昼間から酒を酌み交わす。

まさに異世界ファンタジーのギルドテンプレートがここにある、と言わんばかりの活気に満ち溢れていた。


「お、イオリじゃん。今日は納品だけ? また変な妄想に取り憑かれてるんじゃないでしょうね?」


声をかけてきたのはリエアだ。

以前、爆裂魔法使い用の衣装をプレゼントした――正確には、一度だけ着てくれたきり、今では俺の店の倉庫の奥に眠っているが――その張本人である。


「いやいや、そんなに天啓がポンポン降ってくるもんじゃないって。今日は普通に納品だよ」


軽口を叩きながら、俺は受付窓口へ向かった。

対応してくれたのは、冒険者ギルド受付嬢――ミオ・ミナリス。


「おつかれさまです。イオリさん、今日は納品ですね」


銀色の髪を左右に分け、どこか現世離れした透明感を纏った少女。

感情の起伏がほとんど見えない瞳は、深い湖の底を覗き込んでいるような錯覚を覚えさせる。

整った容姿と相まって、どこか「人形めいた」印象すら受けた。


その無機質で知的な佇まいが、俺の網膜を灼いた瞬間。


――情報の海を統べる妖精。

――人ならざる演算能力を秘めた、星の海を往く少女。

――静かな沈黙の奥に、計り知れない可能性を秘めた存在。


……その瞬間だった。


天啓。


「……明日まで、待ってくれ」

「? 納品の処理なら今終わりますが?」

「違う! 明日、もう一度ここへ来る!」

「?」


ミオが不思議そうに小首を傾げる。


「また始まった……」


背後でリエアが額を押さえて溜息をついたが、今の俺にはもう関係ない。

俺は納品書を窓口に放り出すような勢いで、工房へと全力疾走した。


ーーー


工房に戻った俺は、狂ったように型紙を引いた。

今回のテーマは「未来の機能美」。


この中世風の世界において異彩を放ちながらも、合理性を極め、なおかつ少女の愛らしさを一切損なわない装束。


清潔感のある白のドレスシャツ。

首元を引き締める細身の黒いネクタイ。

夜の海に灯る火のように鮮やかなオレンジのベスト。

そして、動きやすさとラインの美しさを両立した漆黒のミニスカート。


規律正しい制服然とした佇まいを備えつつ、この世界の住人が見れば明らかに異質――

まるで星の海を往く船に乗っているかのような、SFチックな雰囲気を纏わせた。


胸元には、未知の組織を思わせるエンブレムを、精密な銀糸の刺繍で刻み込む。

だが、真に重要なのは外見ではない。


生地の裏側には、着用者の脳内演算能力を強制的に引き上げる魔導回路を、高密度で配置。

さらに、あらゆる物理干渉を位相ごと遮断する多重防壁術式を、スカートの裾に重層的に編み込んだ。


「……完璧だ」


情報の嵐を捌く、窓口の守護妖精。

その正装として、これ以上のものは存在しない。


最後の一針を通した時、外はすでに白み始めていた。

完成した装備は、無骨なギルドの事務服とは一線を画す、未来の輝きを静かに放っていた。


ーーー


翌日。

ギルドへ向かうと、そこにはジト目で俺を出迎えるミオがいた。その隣では、リエアが「今日は何をやらかすのか」と言いたげな、不安そうな顔で見守っている。


俺は二人の視線をものともせず、自信満々に完成した装備を差し出した。


「……これですか」


ミオは俺が差し出した包みを用心深く受け取ると、奥の部屋へと入って着替えてくれた。


数分後。


現れた彼女の姿に、俺は思わず大きく息を飲んだ。


白のドレスシャツに鮮やかなベスト。きっちりと結ばれたネクタイに、短めのスカート。


「おお! いい! 完全に電子の妖精だ!」


思わず拳を握りしめて叫ぶ俺の隣で、リエアも感嘆の声を漏らす。


「可愛い……。この辺りじゃ見ないデザインだけど、仕事着としてはすごく洗練されてるわね。……センスだけは本当、癪に触るほど良いんだから」


異世界の一般的な衣服とは一線を画す、直線的で無機質な美。それがミオの透明感溢れる容姿と合わさった瞬間、彼女の周囲だけが未来の空気に塗り替えられたかのようだった。


「まあ……良かったわ。なんか変な能力もなさそうだし、イオリのいつもの“アレな病気”じゃないみたいで安心したわ」


リエアがほっとした表情で言うが――


「いや! 実はあるぞ!」


俺は鼻息荒く反論した。


「!」

「変な能力があるんか……」

「聞いて驚け!!この制服には高度のハッキング能力があるんだ!!」

「はっきんぐ能力……?」

「ハッキングって、なんですか?」


二人はほぼ同時に首を傾げた。


「もちろん!コンピューターシステムに侵入し、乗っ取ることができることだ!」

「???」

「……いつもに増して、おかしいことを言ってるわね……」


リエアは完全に理解を放棄した様子で、頭を抱えている。


「わかってる!!わかってはいるんだ!!この世界にコンピューターやネットワークなんて存在しない!ハッキング能力なんてあっても意味がないことくらいは!!」


俺は一息に叫んだ。


「だが!だが!それでもいい!!概念こそが正義なんだ!!」


魂からの叫びに、ミオとリエアは完全にドン引きしていた。その冷たい視線が――心地よいわけではないが。


「いよいよ変態性が臨界点を超えたわね……」


リエアがぼそりと呟く。


「違う! そういう時は、こう言うんだ、ミオさん!」


ミオはしばらく俺を見つめ、少しだけ首を傾げると、無表情のまま呟いた。


「……バカ?」


「惜しい!非常に惜しいが……それでもいい!!」


リエアが呆れ顔で、ミオの肩を軽く叩く。


「ミオさん、気に入らないなら突き返していいからね。この変態、放っておくとどんどん図に乗るから」


しかしミオは、鏡に映る自分の姿をじっと見つめ、布地の感触を確かめると――ほんの少しだけ、口元を緩めた。


「いいえ。とっても可愛いですし、ぴったりです。それに……なんだか不思議と落ち着きます。頂いても、いいですか?」

「やったー!」


諸手を挙げて喜ぶ俺を、リエアは完全に「重度の不審者」を見る目つきで眺めていた。


ーーー


その後の話である。


どうやら制服に仕込まれた超高度な演算補助機能が、予想外に噛み合ったらしい。

依頼の振り分け、報告書の整理、冒険者の対応――

ミオは驚くほど正確かつ高速に、ギルド業務をこなしていった。


「……けっこう便利ですね。これ」


無表情のまま、そう呟くミオ。


冒険者ギルドでは、今日もひとつ噂が流れ始めている。

――最近、受付が異様にスムーズになった、と。


原因は、誰にも分からないままだった。


ーーー


【S級】星海を往く受付嬢の制服(ミオ・ミナリス専用)

素材: 魔法繊維(漆黒) × 情報演算結晶繊維 × 位相防御膜材

特徴:

超高速演算: 脳内の情報処理能力を極限まで引き上げ、同時並行処理を可能にする。

高度ハッキング能力: コンピュータシステムに侵入・支配する。※ただしこの世界には対象がほぼ存在しない。

不可視防壁: 物理・魔法攻撃に対する自動展開型の障壁。

カリスマ(静寂): 立ち振る舞いに気品を与え、周囲の注目と人気を集める。

備考:無自覚に毒舌を発する危険性がある。

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