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趣味で作ったコスプレ衣装が、なぜか全部S級装備だった件  作者: あどん


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第12話 サバイバル・ホラーは突然に(トモリス・モルガインの場合)

俺は冒険者ギルドへ、いつもの納品に訪れていた。

カウンターでは、我らが電子の妖精――もとい、ギルドの妖精ミオ・ミナリス嬢が、今日もテキパキと依頼書を処理しているはずだった。


しかし、今日は様子が違う。

ミオのカウンター前で、一人の男が馴れ馴れしく絡んでいるようだ。


前髪をセンターで綺麗に分けて流した、長めの金髪ショートヘア。整った甘いマスクに、少し生意気そうな角度の眉。背も高く、衣服越しにも鍛え上げられた肢体がわかる――いわゆる「イケメン冒険者」というやつだ。


「……ですから、何度も申し上げていますように、現在パーティメンバーの斡旋はしておりません。ご希望の方は掲示板をご確認の上、ご自身で交渉を……」

「いやいや、だからさぁ。そういう堅苦しいのは抜きにして、もっとこう……俺が直々にお願いしてるんだけど?」

「結構です。お引き取りください」

「つれないなぁ。一杯飲みに行くくらいでいいんだよ?」

「いいからさっさとどっか行ってください」


ミオの声は丁寧さを保ってはいるが、わずかに冷気を帯びていた。男はしばらく粘っていたが、埒があかないと悟ったのか、吐き捨てるように捨て台詞を残す。


「けっ! カワいくねぇ受付嬢だぜ。まったくこれだからお嬢さんは……」


そして、俺の存在に気づくと、露骨にオラついた声をかけてきた。


「あ? なんだお前。俺になんか文句あんのか?」


その顔、その立ち姿を見た瞬間――雷に打たれたような衝撃が走った。

斜に構えたポーズ、ホルスターを意識したような独特の腰の構え、そしてどこか「不運を呼び寄せそうな」危うい色気。


俺の視神経がそのシルエットを捉えた瞬間、鮮烈な記憶がフラッシュバックする。


――蒼褪めた、死の街。

――闇から響く、無数の呻き声。

――絶望の初日を潜り抜けた者のみが宿す、青い眼差し。


その眼差しだ。

目の前のチャラついたイケメン冒険者は、この瞬間、俺の網膜に焼き付いた“伝説の捜査官”と、寸分違わぬ輪郭で重なって見えた。


天啓。


「――お前!!」


俺の突然の剣幕に、トモリスは虚を突かれたように数歩後ずさる。


「お前!! お前!! お前!! 名前は!!」

「お、おう!? 藪から棒に何なんだよ……トモリス・モルガインだが……」

「トモリス!! お前に最高に似合う逸品をやる! 明日、ここに来い! 絶対だぞ!」


返事を聞く間もなく、俺は踵を返してギルドを飛び出した。


「あのー、納品は……?」


背後からミオの冷ややかな声が聞こえた気がしたが、俺は振り返る余裕もなく、頭の中に溢れる「青い制服」の設計図を抱えて工房へと疾走した。


ーーー


工房に戻るなり、俺は裁断台にかじりついた。

今回のテーマは「生還者」。

法と秩序を守る者の誇りと、地獄のような状況下で生き延びるための実用性、その融合だ。


メインの素材には、深みのある紺青色の強化繊維を選択。特殊強化繊維を基布とし、その上に耐久性の高い「ブルー」と形容される独特の群青色の織物を重ねていく。ベルトやポーチ類には、実用性を損なわない範囲で鈍く光る金色の金属装飾を施した。


胸元と背中には、この世界には存在しない「R.P.D.」という謎の組織ロゴを白銀の糸で刻み込む。


防弾・防刃性能を極限まで高めたタクティカルベスト。どのような姿勢からでも即座に武器を抜けるよう、人間工学に基づいた特殊な肩と腰の構造。さらに、着用者のナイフ技術を強制的に引き上げる「格闘補正術式」を袖口に忍ばせた。


装備そのもののステータス補正だけでなく、特定の状況下での生存確率を爆発的に跳ね上げる「運命操作」に類する魔術回路を左胸のポケット内部に極小で埋め込み、さらに「腐敗毒素」に対する微弱な耐性付与陣も腰の裏側に忍ばせた。


「……完璧だ」


全ての工程を終えた時、俺の手には紛れもない「R.P.D.の制服」が誕生していた。

中世的なこの異世界においては奇跡の異物。しかし間違いなく、地獄の門を叩く者にふさわしい代物だ。


「……よし。これで、どんなゾンビパニックが起きても安心だ」


朝日を浴びて輝く青いユニフォームは、どこか悲劇的で、かつ英雄的な輝きを放っていた。


ーーー


翌日。

ギルドを訪れると、意外にもトモリスはちゃんと約束の場所に立っていた。腕を組み、いかにも面倒くさそうに欠伸をしているが、律儀なところはあるらしい。

俺は早速、包みから完成した制服を取り出し、彼に向かってずいと突きつけた。


「トモリス! これを着ろ!」

「おぅ? なんだ急に……っておい! お前大丈夫か? 顔色が死人ゾンビみたいだぞ」


確かに、一晩かけて鬼気迫る集中力で作り上げたせいで疲労困憊だが、そんなことは些事に過ぎない。


「大丈夫だ! 問題ない!!」

「……それ、一番問題がある奴が言うセリフですよね」


背後から冷静なツッコミを入れたのは、ミオだ。

彼女は例の電脳制服に身を包み、今日も涼しげな美貌で業務をこなしている。俺の強引な行動にも慣れたのか、はたまた諦めているのか。「まあ、いつものことです」と言いたげな冷めた眼差しだ。


トモリスは訝しげに俺とミオを交互に見ながらも、好奇心が勝ったのだろう。制服をひったくるように受け取った。


「……ま、まあ、せっかく作ったんなら、もらってやってもいいけどよ」


と言いつつ、その場で脱ぎ始めようとする。


「ギルドの玄関口で着替えないでください。奥の部屋を使ってください」


ミオに釘を刺され、トモリスは「へいへい」と渋々従い、奥の部屋へと消えていった。


「イオリさん。ああいう騒がしい人は、苦手だと思っていましたが」

「まあそうだな。無駄に偉そうだし、イケメンだし、イケメンだし……。ああ、あと、どうしようもなくイケメンだしな」

「『イケメン』が何なのかはよくわかりませんが、あなたが無駄にあの男を嫌っていることだけはよくわかりました」


ミオは冷淡な視線のまま、手に持った書類にペンを走らせる。俺はそんな彼女の反応に、深く、深く素直に頷いた。


「でも、装備は作ってあげるんですね」

「ああ。天啓は好き嫌いに関係ないからな。気が付いたら勝手に作ってる」

「むう……やはりこの人は、早いうちにどこかへ監禁しておいた方がいいのでは……」


ミオが何か恐ろしいことを呟いた気がしたが、今はトモリスの着替えの方が重要なので聞こえなかったことにした。

しばらくすると、ドアが開き、トモリスが姿を現した。


――紺青の制服に身を包んだ、完璧な“生還者サバイバー”。


「よしよし……完璧にレ○ンだ」

「ちょっと変わってるが……。ふん、これはこれで悪くない。身体が軽いな」


トモリスは鏡を見ながら、満更でもなさそうな表情でポーズを決める。

ミオは腕を組み、「確かに悪くないですけど……やっぱりどこか既視感というか、妙な不吉さを感じるのは気のせいでしょうか」と難しい顔をしている。

さすがの慧眼だ。


俺は咳払いをしてから、仕様を叩き込んだ。


「いいかトモリス。この装備は凄いぞ。まずお前の身体能力が格段に上がる。さらに、ナイフ術をはじめとした格闘技術に凄まじい補正がかかるんだ!」


俺は拳を握って力説する。レ◯ンといえば、ナイフ一本で巨大な変異体と渡り合う男。その切れ味鋭い体術が再現できなくては意味がない。


「なんじゃそりゃ、すげー装備じゃねぇか!」


トモリスは単純に食いついた。わかりやすいスペックアップには弱いタイプらしい。


「しかもな! お前がどんな死地に追い込まれても、土壇場で運命をねじ曲げて生きて帰って来られる――そんな特別仕様なんだ!」

「最高じゃねぇか! よし、ちょっとダンジョンで試してくるわ!」


俺の説明が終わるか終わらないかのうちに、トモリスは満足げに鼻を鳴らすと、風のようにギルドを飛び出していった。


「良かったんですか? あんなに高そうな装備、タダで渡してしまって」


ミオが溜息混じりに尋ねてくる。


「俺は、使ってもらえるのが一番だからな……あっ!」


そこで、俺は一番重要な「裏スペック」を説明し忘れたことに気づいた。


「……どうしたんですか?」

「いや……まあ、そのうち自分で気づくだろうからいいか」

「……?」


ミオはますます怪訝そうな顔をしていたが、俺はその不都合な事実を意識の隅に追いやることにした。


ーーー


おかしい。


ダンジョンの低層なんて、本来なら雑魚しか出ないはずだ。

俺の実力ならソロでも余裕だし、何よりこの装備は凄まじい。いつも以上に身体が動くし、吸い付くようにナイフで敵の急所を突ける。


しかし――。


「なんで今日に限って、ゾンビばっかり出てくるんだよ!!」


通路の曲がり角からも、天井からも、腐敗した死者が呻き声を上げて這り出してくる。

しかも、人型に限らず、犬の姿をした魔物や鳥の魔物まで、すべてが腐り果てた「ゾンビ」と化して襲いかかってくるのだ。


個々の強さは大したことはない。だが、倒しても倒しても、湧いて出やがる。しかも、こちらの死角になるような嫌らしい位置から新しい群れが現れる。


「ちくしょう! どうなってやがる!」


トモリスは必死で応戦しながらも、内心で悪態をついた。


「こ、こんなのまともにやってられっか! 脱出だ!」


彼はゾンビの包囲網を掻い潜り、転がるようにして階層間の通路へと飛び込んだ。背後からは腐肉が床に崩れ落ちる不快な音と、おびただしい数の呻き声が追いかけてくる。


「ハァ……ハァ……。あの野郎……“死地からの生還”って、こういう意味じゃねぇだろな……!」


トモリス・モルガイン。

この装備に秘められた『ゾンビに異常に好かれる』という最重要スペックに気づくのは――

この惨劇が、伝説として語られるようになった、ずっと後の話である。


ーーー


【S級】R.P.D.捜査官の制服(トモリス・モルガイン専用)

素材: 特殊強化ケブラー繊維 × 魔導防弾糸 × 英雄のイメージ

特徴:

サバイバル・センス: 危機回避能力と、ナイフ・ハンドガン等の扱いに極大補正。

身体能力大幅向上(敏捷性・筋力): 戦闘向けにバランス良く強化。特に接近戦向き。

格闘・刃物系スキル補正(大): 格闘技及びナイフ使用時の命中率・威力を上昇。

致命傷回避(中確率): 即死攻撃に対して一定確率で無効化。

悪環境適応(腐敗環境): 致死毒や腐敗粒子への耐性。

ゾンビトラップ(特大): 装着者は腐敗体に異常に好かれるようになる。

備考:常に「長すぎる一日」を体験できる、スリルを求める者に最適な一着。

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