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趣味で作ったコスプレ衣装が、なぜか全部S級装備だった件  作者: あどん


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第10話 悠久を歩む白花のエルフ(アツミール・ネザキアの場合)

本日ものんびりと制作に勤しんでいた。

別に、毎回毎回天啓が降りてきては、世界をひっくり返すような装備を作っているわけじゃない。

コツコツと地道に依頼の品を縫い上げるのも、職人としては嫌いじゃない、穏やかな時間だ。


夕暮れが近づき、一日の区切りをつけようとした、その時――。


音もなく扉が開いた。 振り返ると、そこに佇んでいたのは、あまりにも浮世離れした雰囲気を纏う一人の女性だった。


「いらっしゃいませー」


俺が声をかけると、その人物は無言のまま、静かに一礼して店内を見回り始めた。どこか迷いなく、それでいて何を求めているのかも分からない。そんな不思議な眼差し。初見の客だろうか、見慣れない顔だ。


失礼のないよう距離を置いて見守っていると、髪の間から、長く尖った耳が覗いているのが見えた。


(エルフか?……珍しいな)


エルフといえば深く静かな森に住まう種族で、滅多に人里には現れないそうだ。しかも彼女の髪は、エルフの代名詞である金髪ではなく、白に近い神秘的な薄紫色をしていた。


――膝下まで届く、飾り気のない白いローブ。

――冷静沈着という言葉を形にしたような、平坦でいて深淵な瞳。

――感情の起伏が乏しく、淡々としていて、それでいて底知れない存在感。


その立ち姿を目にした瞬間、俺の脳裏に一つの言葉が浮かんだ。


――悠久。


(……来た)


天啓。


「お姉さん! お名前を伺ってもよろしいですか!?」


気づけば、抑えきれない熱量で大声を出してしまっていた。目の前の彼女は少しだけ驚いたように目を見開いたが、すぐにその翡翠色の瞳を真っ直ぐに俺へ向けた。


「……アツミール・ネザキア」


静かに紡がれたその名は、まるで遠い昔に失われた神話の一節を読み上げるかのように響いた。


「アツミールさん! 明日! 明日、必ずまたここへ来てください! 君に渡したいものがあるんだ。お願いします!」


必死な形相でそう訴えると、アツミールさんはわずかに目を細めただけで、肯定も否定もせず、ただ静かに俺を見つめていた。その沈黙を「承諾」と勝手に解釈し、俺は弾かれたように工房へと駆け込んだ。


ーーー


夜の帳が下りる頃。ランプの灯りを頼りに、俺は一心不乱に針を動かしていた。


今回のテーマは――「研ぎ澄まされた日常」。


イメージは、ただ一つ。

華美な装飾など不要。

奇抜さもいらない。

威圧も、誇示も、英雄性すらも蛇足だ。

必要なのは、洗練された機能性と、一切の隙がない「無」の完成度。


気が遠くなるほど長い時を生きる魔法使いが、日常の中で自然に袖を通し、呼吸するように魔法を操るための「器」。一切のノイズを排し、魔力の純度を損なわないための装束。


俺は混じり気のない純白の魔法絹を贅沢に使い、縁取りには細く、鋭く、金の刺繍を施した。

一見すれば、どこにでもある普通のローブ。

だがその繊維一本一本には、魔力制御の精密性を極限まで高める微細術式を、血管を繋ぎ合わせるような執念で刻み込んでいる。


一滴の魔力も無駄にせず、まるで己の皮膚の一部であるかのように魔力を操るための工夫。素材は柔らかく、軽く、魔力干渉の極めて少ないものを厳選した。


装飾は最低限。刺繍も抑えめ。 だが、縫い目の一本一本には、体内の魔力循環を最適化する調整を施していく。 派手さはない。だが“ズレ”が一切ない。


一晩中、俺はただ一点、「無機質な美」だけを追求し続けた。


「……これでいい」


完成したそれは、拍子抜けするほど地味だった。


だが、それでいて、周囲の空気がそこだけ凪いでいるような、不思議な静寂を纏っていた。


ーーー


翌日。アツミールさんは約束通り、風が凪ぐように静かに店を訪れた。 挨拶もそこそこに、俺は昨日から一睡もせずに作り上げた装束を差し出す。


「アツミールさん。これを……ぜひ、試着してみてください」


彼女は静かに頷くと、流れるような所作で装束を受け取り、試着室へと消えた。

しばらくして現れた彼女の姿に、俺は息を呑んだ。


そこには、時代そのものを超越した「完成された魔法使い」が立っていた。


金の刺繍が控えめに輝く、純白のワンピース。その上に、肩のラインを美しく見せる丈の短いケープ。機能的でありながら、千年前でも千年後でも通用するような普遍的なデザインだ。

耳元で揺れる赤い雫のピアスが、白髪の彼女に唯一の鮮やかな色彩を添えている。


素朴でありながら、その周囲の魔力が完全に統率されているような、圧倒的な気配。


「いい……。普通だけど、最高にいい!」


俺の感嘆の声にも彼女は動じることなく、ただ静かに新しい衣装を見下ろしていた。だが、その翠玉すいぎょくの瞳には、湖面に広がる波紋のような、確かな満足の色が宿っているように見えた。


そして――

彼女の唇が、静かに動く。


次の瞬間。


工房の中に、花吹雪が舞った。


色とりどりの花弁が、音もなく空間を満たし、幻想的な光景を描き出す。

甘い香りが、ふわりと漂った。


「……こういうのが、いいんでしょ?」


少しだけ口角を上げ、悪戯っぽく微笑む彼女に、俺は全力で頷くしかなかった。まさかこちらの思考ロマンを読んだのだろうか。


「……これしかないけど」


そう言って、彼女はカウンターに、ずっしりと重い革袋を置いた。


「いや、いいんだ。俺は君がこれを着てくれた、それだけで十分満足だから」


俺が辞退しようとすると、アツミールさんは静かに、だが拒絶を許さない意志を込めて首を横に振った。


「全ステータスが大幅に上がっている。特に、この魔力制御の精密性は異常。……正直、これでも足りないと思う。それだけの価値があるから」


彼女はニッコリと、年相応の少女のような、あるいはすべてを見通す慈母のような、慈愛に満ちた笑顔を見せた。


その笑顔に見惚れている間に、彼女は静かに、そよ風が吹き抜けるように店を去っていった。


ーーー


後日。


「――それで、残ったのがこれですか」


呆れたような溜息を吐いたのは、商人のサーヤだ。 残念ながら、今は例の「沈黙の魔道衣」は着ていない。……まあ、もし着ていたら、まともな会話どころか、視線を合わせるだけで彼女が卒倒していただろうから、これで正解なのだが。


あの袋の中には金貨がたんまりと入っていたのだが、どれも見たことがない意匠だったため、目端の利く彼女に鑑定を頼んでいたのだ。


「これ、古代金貨ですよ。現行貨幣の10倍、いえ、コレクターに流せばそれ以上の価値がつきます」

「へぇー、そうなのか」

「……あんまり驚いてませんね、イオリさん」

「いや、驚いてるよ。でもな、あの雰囲気だ。何があっても不思議じゃない気がしてさ」


古代金貨を惜しげもなく差し出せる、彼女の正体とは。 考えれば考えるほど謎は深まるが、不思議と不安はなかった。


「私の情報網でも、ここ最近、王都でエルフの目撃情報は一件もありませんね」


サーヤは断言するように告げる。


「そうか……。まぁ、あんな人だ。何があっても不思議じゃないさ」


ここは異世界だ。千年を生きる魔法使いがふらりと現れ、花を咲かせて去っていったとしても、驚くには当たらない。


金貨を大事そうに掲げ、光に透かしてウットリしているサーヤに、俺は言った。


「1枚やるよ」

「えっ!? 話聞いてました!? これ1枚で最低10倍ですよ! 10倍!!」

「買い取ってくれる場所があるなら、な」


俺がニヤリと笑うと、サーヤも即座に不敵な商人の顔に戻り、目をキラキラと輝かせた。


「……二十倍で買ってくれる物好き、探してきます!」


満面の笑みで請け負うサーヤの目は、「もちろん仲介料は頂きますよ?」と雄弁に語っていた。


――まぁいいさ。


あの様子なら、あの装備は彼女の長い、長い旅の相棒として、しっかり役立ってくれるだろう。


今頃、どこか遠い場所で、彼女はまた新しい花畑を作っているかもしれない。 そんな想像をするだけで、疲れも心地よい余韻に変わるというものだ。


ーーー


【アイテムデータ】

【S級】悠久を行く魔法使いの法衣(アツミール・ネザキア専用)

素材: 万年樹の繊維 × 純白の魔法絹 × 精霊銀糸(基本素材)

特徴:

・強化術式:全ステータス向上 全属性耐性+50% 魔力量+30%

・魔力制御(極大): 魔力操作の精密性を極限まで高め、無駄な消費をゼロにする。

・防御性能:最高度の物理・魔法ダメージ軽減。自己修復機能(小規模)。

備考: 地味すぎて誰も特別な装備とは思わないが、実は国宝級の逸品。使用者がその性能を十全に引き出すためには桁違いの才能が必要。

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