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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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File.68「巫女・悔悛」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)

 人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士(バーサーカー)化する。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)

 ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆アカツキ

 陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。

 お嬢様口調で、派手な見た目をしている。


◆戌亥(いぬい) 48歳

 静和祭の幹事を務める筋骨隆々なおじさん。


◆小長井 りり (こながい りり) 15歳(高1)

 結衣の中学時代の同級生で、静和の儀では巫女役を務める。

 過去のトラウマが原因で結衣のことを嫌っている。

 翌日、うずらっちは広場に集合した。


 すでに全国のマスタークロッカスが集結しており、お祭りとは思えない異様なオーラが漂っている。


「じゃ、改めて今日の動きを確認するぞっ!」


 月下先輩は意気揚々とタブレット端末のマップを開いた。


「静和祭の開始時刻は午後4時で、神社でのメインイベント、”静和の儀”は午後7時から午後8時の予定だ。最初の2時間は最寄駅から会場までの動線の警備、静和の儀の間は所定の位置で警備する班と神社周辺を巡回する班に分かれてもらうぞ」


「月下先輩、班分けはどうするんですか?」


 月下先輩は俺の質問に対し、腕を組んで少しばかり考え込む。


「そうだな……警備班2人と巡回班4人でどうだ?アタシは巡回班につくよ」


「じゃ、ボクもそうしよっカナ☆」


 磁石のように黒華が吸い寄せられ、指を鳴らした。


 そういえば、コイツのプロポーズ決行日でもあったな。


 白百合の件もあるというのに、厄介なことをしてくれたもんだ。


「……御角くん」


「はいっ?」


 隣の桔梗先輩が小さく名前を呟くと、俺の耳元に顔を近づける。


「……こちらは、なんとかしますから」


 黒華を横目に、桔梗先輩は静かに策を投じた。


 小長井りりとの不本意な接触を避けるためにも、俺が白百合と行動を共にするのがベストだろう。


「白百合さん、俺と警備班に回らないか?」


「……えっ、は……はいっ!」


「決まりだなっ!」


 白百合は戸惑いつつも、俺の誘いを受け入れた。


 あとは彼女の意思に沿って、俺が上手く立ち回ればいい。


「じゃ、最初の2時間の配置なんだけど――」


 月下先輩の説明をよそに、俺は白百合の憂いを帯びた横顔を眺めていた。

 


————————————————————◇◆



「……残り5分か」


 現在時刻は午後3時55分、俺は駅から少し離れた場所で待機していた。


 陽が傾き始め、道沿いからは機械音や調理音を奏でる屋台が、来客を今か今かと待ち望んでいるようだった。


「ヒイロ、ユイの件はどうするつもりですの?」


「昨日から考えてはいるんだが……どうも最善策が思いつかなくてな。小長井さんは白百合さんの狂変を間近で見ていたわけだし、それを学校中に吹聴した張本人――一筋縄ではいかないよなぁ」


「巫女役の娘は気が強そうですしね。下手に鉢合わせでもしたら、エラいことになりそうですわ」


「勝負は全てが終わってから、だな」


 アカツキの言う通り、まずは白百合と小長井りりの物理的距離を離し続けることが最優先だ。


 白百合は俺の100メートル後方で待機しているが、小長井りりの所在は不明だ。


 静和の儀が終わったタイミングで接触を図り、俺が仲介役となって穏便に和解まで持っていくのがベストだが……


「桔梗先輩、ホントに上手くやってくれるのだろうか……」


 どうしても、別件が脳裏に浮かんでしまう。


「オダマキも余計なことをするものですわ……」


 俺たちが揃ってため息をこぼしていると、駅の出口から人波が押し寄せてきた。


「おーーいっ!!お客さんが来たぞーっ!!」


 駅の目の前で待機していた戌亥さんが嬉しそうに声を張り上げている。


「おおっ!あんなにたくさん!」


「……命知らずな連中ですわね」


「こらっ!それだけクロッカスを信用してくれてるってことだろ?」


「……まあ、そうだといいのですけれど」


「……?」


 アカツキが来客を遠目に皮肉めいた発言をしたが、過去に何か事件でもあったのだろうか。


 月下先輩は静和祭での被害者は未だに0人だと言ってはいたが。


「ほら、出番ですわよっ!」


 アカツキは立ち尽くしている俺の背中を蹴った。


「お、おうよ!」


 静和祭を今か今かと待ち望んでいたであろう来客の笑顔につられ、俺も満面の笑みを浮かべる。


「ようこそ、静和祭へ!」



————————————————————◇◆



 静和祭開始から30分後、白百合が人混みをかき分けて俺のもとにやってきた。


「……お疲れ様ですっ、御角さん」


「おおっ、お疲れ!そろそろ交代だな」


「……」


 白百合はコクリと頷いたが、昨日から様子は変わらず、やたらと周囲を警戒しているようだった。


「そのー、白百合さん……ひとつ聞いてもいいか?」


「……小長井さんのこと……ですか」


「やっぱり、本人なんだな」


 俺が質問するまでもなく、巫女役の少女が小長井りりであることが確定した。


 決して桔梗先輩を疑っていたわけではないが、こんな巡り合わせが起きてしまうとは、当の本人も思っていなかっただろう。


 問題解決のため、俺は次なる一手を投じる。


「白百合さんは、どうしたいんだ?」


「……ゆっ、結衣は……」


 白百合が言葉を紡ごうとした瞬間、彼女の瞳孔が大きく開いた。


「……!」


 白百合の肩はわなわなと震え始め、俺は慌てて周囲を見渡す。


「どうした?しらゆ――」


「そうそう!でさーでさー!……ん?」


 異変の正体は、俺でもすぐにわかった。


 巫女装束を纏った同い年くらいの少女が友人と談笑しており、俺たちの存在に気がつくとぴたりと足を止めたのだ。


「あれーっ?誰かと思えば、白百合結衣ちゃんじゃーん!ひっさしぶりー」


 猿芝居じみた大げさな挨拶――白百合は顔を真反対に向けていたが、特徴的な純白の髪色は存在感を際立たせてしまっている。


「……りり、知り合い?」


「ま、ちょっとねー」


 声色こそ明るく見せているが、小長井は白百合の背中を鋭い目つきで睨みつけている。


「……」


 まるで天敵に怯える草食動物のように俺を岩陰代わりにしている白百合を見て、小長井は薄ら笑みを浮かべた。


「隣にいるのは、もしかして……彼氏とか?ププッ」


 ”彼氏”という単語を聞いた瞬間、白百合は肩が跳ね上がるのと同時に目が泳ぎ始める。


「うぇっ!……え、えっと……その――」


「俺と白百合さんはクロッカスの仲間だ。今日は静和祭の警備で招集されたんだ」


「えへっ?白百合がクロッカス??なんの冗談だよっ!はっは!!腹痛ぇ!!」


 小長井は膝を叩いて白百合を嘲笑した。


「おいっ!白百合さんはなぁ――」


「大丈夫です、御角さん」


 つい手が出そうになった俺を、白百合は言葉で制止する。


「いや、でも……」


 久々の再会で散々な言われようだが、 一瞬のうちに中身が誰かと入れ替わったのかと疑ってしまうほど、白百合は妙に落ち着いていた。


 そして、白百合は逃げ出すどころか、小長井との距離を徐々に詰め、ついには視線を合わせた。


「……」


 中学時代からは想像できないであろう悠然とした佇まいに、小長井も動揺を隠せずにいる。


「……なんだよ、いまさら文句でも言いたいわけ?」


 腕を組んで虚勢を張る小長井に対し、白百合は次の瞬間、深々と頭を下げたのだ。


「小長井さん……あの時は怖い思いをさせてしまって、本当にごめんなさい」


「……ほっ、ホントだよ!あん時の痣、まだ残ってるからな?」


 想定外の謝罪に歯切れが悪くなっているが、袴を捲し上げて同情を誘うかのように痛々しい太股の痣を見せつけてくる。


「……りり、あの子にやられたの?」


「あぁ、バケモンみたいに暴れてさ」


「……え、やば」


 小長井の友人も眉間に皺を寄せ、白百合から距離を取るように身体を反らした。


 精神的に追い詰められてはいるが、白百合は恐怖心を必死に抑え言葉を振り絞る。


「結衣は……あれから色々と考えました。小長井さんに対する罪滅ぼし、そして菊ちゃんに対する供養――結衣がクロッカスで活躍すれば、きっと――」


「それはアンタの思い込みだよ!!どーせまたトキシーが現れでもしたら、暴走して周りに迷惑をかける!アンタの隣にいる彼氏?も巻き添え食らって死んじまうかもなぁ!!」


 小長井にとっては、白百合の弁明はその場しのぎの言い訳にしか聞こえなかったようだ。


「……そっ、そんなこと……」


「無いって?どーやって証明すんのさ」


「そ……それ……は……」


 白百合は中学時代のトラウマが蘇り、今にも泣き出しそうな震え声で徐々に視線を落としていく。


 彼女の横で傍観に徹していた俺の我慢も、ついに限界を迎えてしまった。


「……いい加減にしたらどうだ、小長井さん」


「は?部外者のアンタには関係ないっしょ」


「部外者じゃない。俺は白百合さんの大切な仲間で、大切な友達だ」


 俺は一歩踏み出し、怯える白百合の前に立ち塞がる。


「彼女はクロッカス内の誰よりも努力家で、狂戦士(バーサーカー)化する自分に対しても逃げずに向き合っている。もう、君の知っている白百合さんとは違うんだよ」


「違うって……アンタにウチの何がわか――」


「それに、怪我を負ってしまったことは気の毒だが、かといって精神攻撃をして彼女を転校まで追い詰めた君に、威張る権利は無いと思うけどな」


 俺が勢い任せに事実を突きつけた途端、被害者面していた小長井の表情は瞬く間に険しくなっていった。


「えっ……りり、ホントなの?」


「うっ……えぇっと……」


 反論の余地がなくなった小長井は、無様に目を泳がせている。


 白百合も、これで満足しただろう。


「じゃ、俺たちは任務があるから失礼するぜ。行こう、白百合さん」


「……うぇっ!?……は、はいっ!」


 俺は白百合を引き連れて神社の方向へ身体を向ける。


「……ちょっ!待ちなさいよ!」


 だが、小長井はまだ話を終わらせるつもりはないようだ。


「……まだ何か用か?」


 俺は小長井を睨みつけるが、彼女が視線を向けていたのは、隣の白百合だった。


「その……白百合、さ……」


 小長井は俯きながら白百合との距離を詰める。


 殴りかかってくると予想した俺は、白百合の前に身を乗り出そうとするが……


「……ウチも、悪かったよ」


 なんと、小長井は白百合に対して深々と頭を下げたのだ。


「……えっ?」


 俺も白百合も、この状況には驚かざるを得ず、同時に声を漏らした。


「……ウチも、ずっと後悔してたんだ。あの日、アンタと淀川(よどがわ)をコロニーの外に連れ出したこと。あんなバカなことしなければ、淀川は死なずに済んだし、アンタが狂変することもなかった」


 小長井は唇を震わせながらも、あの日から閉じ込めていた心情を吐露していく。


「……怖かったんだ。ウチに矛先が向いたとき、ウチの人生はどうなっちゃうんだろって。自分を守るために、アンタに矛先が向くように根回しして、アンタを学校から追い出したんだ」


「そう……だったんですね……」


 小長井が黒百合に傷つけられたのは事実だが、自身の罪を揉み消そうという執念が、結果的に白百合を深く傷つけてしまったのだ。


「こんな罰当たりが巫女役なんて、ホント笑えるよな。ずっと謝りたいって思ってたくせに、いざ本人が目の前に現れたら高飛車に出る」


 話していくうちに自己嫌悪が漏れ出した小長井は、ついに目元から涙を流し始める。


「ウチは……何も……変われてない……!」


 コンプレックスを払拭するために、クロッカスで戦うことを決意した白百合。


 彼女の変化を目の当たりにした小長井は、虚勢を張るのに精一杯だったのだ。


 そんな友人の前で泣き崩れる小長井に、ゆっくりと白百合の手が差し伸べられる。


「……小長井さん」


 呼びかけられた小長井は、白百合の顔を恐る恐る見上げる。


 白百合は、優しく微笑んでいた。


「結衣と、仲直り……しませんか?」


「……えっ?」


 絶交されるどころか、その真逆の言葉を口にした白百合を、小長井は唖然とした様子で見つめている。


「小長井さんが嫌なら、無理にとは言いません。でも、結衣たちがずっと仲違いしたままだと、菊ちゃんはきっと悲しみます」


「そうかも……だけど……」


「小長井さんは平和を願い踊って、結衣は平和を願い戦う。道は違っても、想いはひとつなんです……!」


「白百合……」


 小長井は溢れ出る涙を乱暴に拭うと、立ち上がって白百合に手を差し伸べた。


「……わかった、仲直りしよう」


「……はいっ!」


 夜の境内を明るく照らす灯籠の明かりの下、あの日から止まっていた少女たちの時間が、再び動き出す。


「……アンタ、マジで変わったな。変われてないのは、ウチだけだよ……」


「いえ……結衣もまだまだです。チームの皆さんの足を引っ張ってばかりだし、助けられてばかりです。でも……」


 白百合は一度俺の方を振り返り、静かに笑みをこぼすと、再び小長井の手を強く握った。


「結衣は、必ず一人前の戦士になります。小長井さんが、そして天国の菊ちゃんが笑顔で暮らせる世界を、取り戻してみせます……!」


「……ああ、応援してる!ウチも、アンタの活躍を願って、今日は精一杯踊るよ!」


 俺が手を差し伸べ立ち上がった少女が、今度は勇気を持って手を差し伸べる。


 我が子の成長を感慨深く思う親の気持ちが、少しわかった気がした。


「それで、祭りが終わったら、さ……」


 言い淀んだ小長井は照れ臭そうに白百合の耳元に顔を近づける。


 白百合は少し驚いた様子だったが、その直後に満面の笑みをこぼした。


「……はいっ!」


 思いがけない展開となったが、抱えていた問題の一つは無事に解決した。


 入学時の彼女からは想像できないほど、今の白百合は心身ともに著しい成長を遂げている。


「……良かったな、白百合さん」


「ですわね」


 灯籠に照らされる彼女らの笑顔を遠目に見つめながら、俺とアカツキは安堵の表情を浮かべた。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


結衣の成長を感じられるお話でしたね(*^^*)


次回、苧環プロポーズ大作戦(!?)


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