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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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File.69「一途・外膜」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)

 人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士(バーサーカー)化する。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)

 ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆アカツキ

 陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。

 お嬢様口調で、派手な見た目をしている。

 午後6時を回り、静和祭のメインイベントである”静和の儀”が執り行われた。


 俺と白百合は予定通り、拝殿の周辺を警備することになっている。


「……小長井さん、かっこいいですっ……!」


「だなっ」


 俺たちは拝殿の側方で小長井の踊りを見守っていた。


 彼女の所作は表情から指先に至るまで非常に洗練されており、赤の他人である俺ですらも見惚れてしまいそうだ。


「にしても、大丈夫かなぁ……」


「……御角さん、どうかされましたか?」


 小声で呟いた俺の横顔を、白百合は心配そうに見つめている。


「……んっ、あーいや!なんでも」


 これから黒華が月下先輩にプロポーズするだなんて、口が裂けても言えないな。


 テキトーに誤魔化してから白百合の様子をもう一度窺うと、僅かに眉をひそめていた。


「他の皆さんに大変な仕事を任せてしまって、何だか申し訳ないです……と思います……」


 俺たち警備班に比べ、他4人の巡回班の方が負うリスクも仕事量も圧倒的だ。


「まあまあ、俺たちの仕事だって大切さ。それに……」


 俺は咳払いを挟んで恥ずかしさを誤魔化しつつ、胸に親指を突き立てる。


「俺も、ついてるしな!」


「……そうですねっ」


 白百合は心底安心そうに微笑むと、再び小長井の踊りに釘付けになっていた。


 俺はその隙に時刻を確認しつつ、桔梗先輩との個人通話を起動する。


「あっ!俺、一旦裏の方見てくるわ!」


「……は、はいっ!」


 俺は即座に拝殿の裏側に身を潜め、周囲を警戒しつつインカムを掌で覆う。


「……桔梗先輩、聞こえますか?」


『……はい、お疲れ様です』


 インカム越しに桔梗先輩の小さな声が俺の鼓膜に伝わった。


「えっと……どーすか、そっちの状況は」


『今のところ、トキシーの発見報告はございません』


「いや、そうじゃなくて……」


『冗談ですよ。黒華くんと月下先輩は別行動中ですし、静和の儀の間に彼が動くとは考えにくいですね』


「だといいんだけどなぁ……」


 わかりにくい冗談はさておき、黒華とて職務放棄をするような真似はしないと踏んでいるのだろう。


 とはいえ、日頃から予測不能な行動を起こしている黒華を心の奥底で警戒しているのも事実だ。


『とりあえず、静和の儀が終わるまでは任務に集中してください。黒華くんの対処は、そのあとで』


「……了解っす」


 俺はため息混じりに桔梗先輩との通話を切る。


「うずらっち、どーなっちまうんだか……」


 俺の脳内に靄がかかったまま、静和祭はフィナーレを迎えるのであった。



————————————————————◇◆



『静和祭にお越しの皆様、本日はご来場いただきまして、誠にありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいませ』


 閉会のアナウンスとともに、観光客はぞろぞろと駅の方へと向かっていった。


 どの客にも笑顔が見られ、静和祭は大成功だったと誰もが思っているだろう。


「ふぅ……結局トキシーは出なかったな」


「何を言ってますの!油断は禁物ですわっ!」


「とか言って、戦いたくてウズウズしてるだけだろーが」


 アカツキを除き、運営陣も非常に満足げな表情を浮かべていた。


 だが、俺には最後のミッションが残されている。


「……そろそろ動き出しそうだな」


 俺は再び桔梗先輩との個人通話を起動した。


「桔梗先輩、お疲れさまです。ヤツの動きは?」


『そうですね……向かった方角からするに、祈祷の丘に誘いだす可能性が高いです』


「まあ、眺めはいいし、ロケーションとしては悪くない……のか?」


 マップの位置情報を確認しても、黒華は祈祷の丘方面へ真っ直ぐ向かっている。桔梗先輩の読みは当たっているだろう。


『白百合さんは?』


「あぁ、おそらく小長井さんと合流するんじゃないすかね。何か二人で約束してたっぽいですし」


『そうですか。では、蘭さんには私から伝えておきますので、指定のポイントで待ち合わせましょう』


「……了解っす」


 俺は桔梗先輩に示された場所へと駆け出した。



————————————————————◇◆



「先輩、お待たせしました」


「ええ、お疲れ様です」


 俺たちが待ち合わせしたのは、祈祷の丘から少し離れた茂みだ。月下先輩と鉢合わせする可能性が低いわりに見通しは悪くない。


「それで……二人は?」


「黒華くんは、すでにあちらにいらっしゃいますが……」


 色欲にまみれた男がベンチに腰かけて星空を眺めている。


 緊張感は全く感じられず、勝ちを確信しているとしか思えない。


「ヒトミはどこにいますの?」


 アカツキは無秩序に飛び回って月下先輩を探すが、一向に姿を現さない。


「えーっと、位置情報は……あれっ、まだ広場だぞ」


「バックレたのかしら?」


「そもそも誘い出したのかどうかもわからんからなぁ」


 月下先輩本人から聞き出すのが一番手っ取り早いのだろうが、下手に干渉すればうずらっちの関係性にヒビが入ってしまうだろう。


 ……まさに、黒華が今やろうとしていること自体がヒビ割れの原因になりそうだが。


「桔梗先輩、今のうちにアイツを説得すれば、プロポーズを諦めてもらえるのでは?」


「それは……どうでしょうね」


 なぜか歯切れの悪い返事をされてしまった。


 この案が最も穏便に済まされそうなのに。


「だって、成功率がゼロだってわかってたら、いくらアイツでも手を引くんじゃないすか?」


「それは……無いでしょうね」


 桔梗先輩への説得を続けたが、今度は言い切られてしまった。


「えっ?」


「だって彼は――」


「何してんだ?二人とも」


「うわぁ!!つ、月下先輩!?!?」


 桔梗先輩の言葉を遮るようにして、茂みの中から月下先輩が姿を現した。


「おいおい!トキシーが出たときみたいな反応すんなって!」


「あっ、すみません……」


 むしろトキシーじゃなくて安心すべきだが、トキシーと同じくらい出くわしたくはなかったぜ……


「月下先輩、なぜここに?」


「なぜって……お前たちの位置情報がこんな変な場所だったからだよ」


「あぁ……」


 閉会後にチームメイトが茂みに固まっていたら、疑問に思うのは当然か。


 それよりも、本人が来てしまった以上、聞き出すべきことがある。


「月下先輩、黒華から何か言われてませんか?」


「あぁ、苧環に『後で渡したいものがあるから祈祷の丘に来てくれ』って言われて、今ちょうど向かうところなんだ」


「なるほど……」


 俺と桔梗先輩は肩を落として見つめ合った。


「それがどうかしたのか?」


「えーっと……」


 俺は悩んだ挙句、月下先輩の手を握り作り笑顔を浮かべる。


「月下先輩!どんな結果になっても、うずらっちは最強です!」


「お、おう?」


 意図が全く伝わらず、月下先輩は首を傾げた。


 俺も何が言いたかったのかよくわからない。


「じゃ、またあとでな!」


「ご武運を」


 対する桔梗先輩は静かに頭を下げた。


「……ヒイロ、なんですの、あの意味不明なエールは」


「ちょっとあれは……無いですね」


「ですわ」


 アカツキと桔梗先輩は俺に矛先を向け、意味もなくブーイングを飛ばしている。


「いやいや!なんて声かければいいかわからなかったんだよっ!桔梗先輩だって、『ご武運を』しか言ってねーくせに!」


「あれ以上の言葉は不要でしょう」


「ですわ」


「くっ……!」


 言い返しようもない正論をぶつけられ、俺は下唇を強く噛んだ。


「それよりも、始まりますよ」


 桔梗先輩の視線の先では、月下先輩が黒華のすぐ近くまで迫っていた。


「ひーっ!負け戦なのに妙に緊張してきたぞっ!」


 俺は鳥肌をさすって緊張を分散させる。


「ウイング、様子を見てきて」


 桔梗先輩は手際よくウイングをドローンモードにして、二人の近くまで向かわせた。


 ……もしかして、この人が一番乗り気なのでは?


 メモリングに映し出された映像では、黒華が丁度月下先輩に振り向く瞬間が捉えられていた。


『よっ!待たせたな』


『いやいや、いま来たところだヨッ☆』


 10分以上待っていたはずの黒華は、普段通りの態度で前髪を掻き上げている。


「うわー、超ベタなセリフ……」


「ヒイロ、静かに」


「はいはい」


 アカツキもプロポーズ大作戦に夢中なようだ。


『それで、渡したいものって?』


『それはね……』


 黒華は立ち上がると、ベンチの横に置かれたハイテーブルに向かい、被せていた純白の布を剥がす。


『こ・れ・さ』


 机に飾られていたのは、予め用意していた例の花束だった。


『おおっ……!すげー綺麗だなぁ!これをアタシに?』


 月下先輩は目を輝かせ、敷き詰められた深紅のバラを色んな角度から堪能している。


「いつの間に用意していたんですね」


「まったく、何しに来たんだか……」


 桔梗先輩は黒華のサプライズに感心しているが、アカツキは一周回って呆れかえっていた。


『ちょっと、あっちで話でもしないかい?』


 黒華は花束を抱え、石碑の裏側を指差す。


『あぁ、いいけど……』


 二人は月明りを頼りにゆっくりと移動すると、再び向き合った。


 そして黒華は瞳を閉じ、深呼吸をして月下先輩をまじまじと見つめる。


『――ボク……人美センパイのこと、好きなんだ』


「いっ、いっ、いっ、言ったぁーー!!」


「ヒイロうるさい!!」


「サーセン」


 チームメイトの告白の瞬間を目の当たりにして、興奮しない人間がいるだろうか。


 俺の心拍数はみるみる上昇し、額には多量の汗が浮かび上がる。


 隣の桔梗先輩も、僅かに頬を赤らめていた。


『……えっ?アタシのことを?』


 月下先輩は信じられないといった様子だが、当然周囲を見渡しても彼女しかこの場には居ない。


『うん。センパイが学園に来てから、ずっとね』


『ははっ、そいつはビックリだな。気がつかなかったよ』


『だから、ネッ……』


 うっとりとした表情の黒華は膝をつき、花束を月下先輩に差し出した。


『――ボクと結婚してほしい』


「……!!!!」


 アカツキに怒られそうだから我慢しているが、このとき俺の興奮は最高潮に達していた。


『えっ!?結婚!?いきなりだな……』


「そりゃ驚くよな……」


 付き合うを通り越して結婚の申し込みをする男がこの世に存在しているとは、誰も思うまい。

 

『だって、結婚する気のない相手と付き合う意味はないだろう?』


『ははっ、たしかにそうかもなっ』


 とても高校生とは思えないマインドだが、月下先輩は苦笑いしつつも黒華の言い分には賛同していた。


『……それで、返事を聞かせてもらってもいいカナ?』


 黒華はウインクをかまし、右手をゆっくりと差し出す。


『ああ、えーっと……だな……』


 月下先輩が戸惑っているなか、黒華は突如として目を疑うような行動を起こした。


『なーんてネッ☆』


 なんと、持っていた花束を丘の下に投げ捨てたのだ。


『おいっ!なん……で……』


 月下先輩の消えかかった言葉とともに、一途な想いが詰まった花束は深紅の花弁を散らしながら奈落の底へと姿を消していく。


「アイツ、何考えてんだ……?」


 俺は呆気にとられ、思わず頭を抱えてしまった。


 当然、月下先輩の口元は徐々に歪み始める。


『……苧環、もしかして好きだってのは冗だ――』


『いーや、ホントさ。ボクは人美センパイと本気で結婚を前提にお付き合いしたいと思っている。でも、センパイは絶対に断る――だろ?』


『……』


 図星だったのか、月下先輩は気まずそうに視線を逸らした。


 桔梗先輩の言う通り、月下先輩は端(はな)から黒華の告白を断るつもりだったのだろう。


『ごめんネ、ボクはセンパイに気持ちを伝えたかっただけなんだ。ボクもセンパイも、この立場でいる以上、いつ死ぬかわからないからね』


『それは……そうかもしれないな』


 黒華の言葉が重くのしかかるかのように、月下先輩の視線はみるみる地面へと落ちていく。


『じゃ、ボクの用は済んだから、これで失礼するヨッ☆明日からまたヨロシクネッ☆』


『……』


 気が済んだのか、それとも気を紛らわせるためなのか、黒華は口笛を吹きながら颯爽と広場の方へと戻っていった。


「……アイツは、あれでよかったのか?」


 置き去りにされた月下先輩の虚ろな目を見て、俺は黒華への疑念を吐露する。


「……どうでしょうね」


 穏便に済ませるはずのプロポーズ大作戦は、黒華本人の奇行によって大失敗となってしまった。


「……俺たちも帰りましょうか」


 桔梗先輩と目を合わせ、立ち上がったその瞬間(とき)――


『クロッカス諸君!緊急事態発生だ!』


「!?」


 何の前触れもなく、指揮官の強烈な叫声が鼓膜を刺激する。


 その直後、俺たちのメモリングの緊急アラートが鳴り響いた。


『東京都・第7コロニー内にてトキシーが出現した!既に複数の被害が報告されている!マスタークロッカス一同と精鋭部隊は私の指示に従い、直ちに援護に向かえ!!繰り返す!東京都・第7――』


「と、とっ、トキシーが!?!?」


「……!」


 耳を疑いたくなる事態に、俺と桔梗先輩は固唾を呑んで目を合わせた。


「それに、第7コロニーって……」


 ただの聞き間違いだと信じたかった。


 だが、そんな祈りはどれだけ視界を手で塞いでも、イヤホンから漏れ出る指揮官の荒い息遣いや悲痛な叫びによって無慈悲に打ち砕かれる。


 俺は薄暗い森林を一目散に駆け出した。


 胸を押しつぶしそうな嫌な予感を振り払うように、喉が千切れるほどの声量でその名を叫ぶ。


「――親父っ!!」


 ――残酷なことに、そこは俺が生まれ育った地だった。



 平和を謳っていたはずの、透明の外膜に包まれた世界が、再び終焉へと傾き始める――

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


絶対の自信を持っていたはずの苧環がまさかの玉砕……恋愛は奥深いですね。


そして、陽彩の故郷にトキシー襲来……!平和の仮面が綻び始めます……


父・照は無事なのか、そもそも世界はどうなってしまうのか、気になる第6章は来月中に公開を予定しています。


お楽しみに!!


YouTube&ニコニコ動画にてビジュアルボイスドラマも公開中です♪


↓下記URLよりご覧いただけます☺️↓

https://www.youtube.com/watch?v=5mCj5bY2rAI&list=PLh-u7PjjPcTPlayuqAarIKzDpkoxIinIl


https://www.nicovideo.jp/user/142201767/series/537295


ボイスドラマに出演していただく声優様も随時募集していますので、そちらも併せてご覧くださいませ。


【X(旧Twitter)】https://x.com/ProjectAI_2025


【YouTube】https://youtube.com/@mochi_ccs


【ニコニコ動画】 https://www.nicovideo.jp/user/142201767

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