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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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File.67「暗雲・襲来」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)

  お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆御角 照 (みかど ひかる) 43歳

  堅物で責任感の強い陽彩とすずの父。特技は料理。


◆クイン ??歳

 ボスの配下につく、感情を失った少女。

「御角くん……?どうかされましたか?」


「えっ、あ、いや!その……」


 桔梗先輩は、動揺して冷や汗が額に滲んでいる俺を不審そうに見つめている。


 すると何かを察したのか、桔梗先輩はその場を立ち上がり翡翠先輩に頭を下げた。


「すみません、少し席を外しますね」


「ええ、わかったわ」


 桔梗先輩は身体を反対に回しながら、俺に目配せをする。


「さあ、いきましょう」


「あっ、はいっ!」


 俺は慌てて立ち上がり、ほとんど手をつけていないご馳走を置き去りにして桔梗先輩の後に続いた。


「……なんかすみません、気を遣わせてしまって」


「いいえ、お構いなく。私も白百合さんの違和感には気づいていましたから」


 桔梗先輩は背中越しに見解を示しつつ、白百合が去った方向を眺めている。


 それから広場のバリケード付近に辿り着いたところで桔梗先輩が立ち止まると、唇を真一文字にして腕を組んだ。


「……それで、白百合さんが逃げ出してしまった原因は?」


「それは……」


 俺は躊躇いつつも、白百合結衣の過去を打ち明けた。


 この人になら話しても大丈夫だろう――本能がそう感じていたんだと思う。


「……なるほど、白百合さんが中学時代のときの同級生ですか」


「同名の別人だって信じたいけど、白百合さんの様子からしてそうは思えなくて……」


「巫女役の方はその”小長井 りり”さんで間違いないかと思います。去年もいらっしゃいましたし、年齢も御角くんたちと同じでしたから。たしか、神主の姪っ子さんだったはずです」


「やっぱりか……」


 神主の姪っ子である以上、白百合は完全にアウェイ側だ。二人の最悪な再会を避けるためにも、ここは作戦を考えるべきだが……


「……桔梗先輩は、どうするべきだと思いますか?」


「そうですね……私だったら、二人を極力近づけないようにして、その場しのぎをすると思いますが……御角くんは、きっとそうはしないでしょうね」


「あはは……察しがいいっすね」


 もちろん、今後二人が会う確率を考えれば、桔梗先輩の作戦は無難かつ最も安全な策だ。


 でもそれは単なる問題の解消であり、解決とはいえない。


「この件は御角くんにお任せします。きっと白百合さんもそれを望んでいるでしょうから。それに……」


 桔梗先輩は僅かに微笑むと、俺の耳元に顔を近づける。


「御角くんなら、なんとかできちゃいそうですし」


 前夜祭の喧噪を遮るように、彼女の静かな声色と僅かな吐息が俺の鼓膜をくすぐった。


「そーっす……かね……?」


 彼女から信用されている嬉しさと、胸騒ぎがするような恥ずかしさが混じり合い、思わず歯切れの悪い返事をしてしまった。


「では、戻りましょうか」


 桔梗先輩は満足げな表情を浮かべているが、俺はもう一つの問題を思い出す。


「あ、そうだ!ちょっと別件でご相談が……」


「別件、ですか」


 俺は明日決行されるであろう、黒華苧環プロポーズ大作戦について報告した。


「なるほど……それは大問題ですね」


「やっぱそうっすよね!?」


「黒華くんのプロポーズ成功率は、間違いなく0%でしょうから」


「いや、そっち!?」


 0%と断言してしまうのはさすがに気の毒だが、そもそも任務中に告ること自体にはツッコまないのか……?


 もしかしたら、黒華の奇行に耐性がついてしまっているだけなのかもしれないが。


「……てか、何でわかるんですか?」


「それは……私から詳しくは言えませんが、彼女の入隊理由と大きく関わっているから――ですかね」


「ほう……?なるほど……?」


 なんとも抽象的な回答だが、月下先輩の恋愛事情とクロッカスの入隊理由――どんな相互関係だろうか。


 クロッカス内に好きな人がいる、とかか?


「とりあえず、この件は明日考えてみましょう。最優先すべきは、あくまでクロッカスの任務ですから」


「……はいっ!もちろんですっ!」


 白百合と黒華、二人の問題を解決に導くカギは、もしかしたら俺が握っているのかもしれない。


 明日の静和祭、トキシーが現れないことを祈るばかりだ。



————————————————————◇◆


 

 某日、夜10時頃――


 東京都・第7コロニーの閑静な住宅街の一角に住む俺は、ベランダで夜空を眺めながら寛いでいた。


「もう、2ヶ月……か」


 息子と娘が進学で家を離れ、俺は孤独な日々を送っている。


 決して一人の時間は嫌いじゃないが、騒がしかったはずの我が家が無駄に広々と感じてしまい、最近は物寂しさを覚えていた。


 愛する我が子を想っていると、突如メモリングの通知が鳴る。


「……すず」


 娘の”すず”からのメッセージだった。


『パパ、元気にしてる?ご飯もちゃんと食べてる?私はとーっても、毎日充実しています!にぃにもクロッカスで頑張ってるみたいだよ!夏休みに入ったら帰るから、美味しいお料理作って待っててねっ!』


 文章からも十分に伝わる娘からの愛情に、俺は涙腺が緩みそうになった。


 元々しっかり者だったとはいえ、ついこの間までランドセルを背負っていたとは到底思えないな。


 俺はメモリングのバーチャルキーボードを起動する。


『父さんは元気だぞ。ご飯もお前らの分までたらふく食べてるさ。夏休み、楽しみにしてるからな』


 こんな感じでいいかな。


「ふっ……ついでに、陽彩にも送っといてやるか。アイツ、高校生になってから一度も連絡を寄越さないじゃないか……まったく」


 対する息子は相も変わらずマイペースで、俺のことなど一切気にかけてはいないらしい。


 これは一度説教が必要だな。


 冗談はさておき、娘への返信を考えつつ顎をさすっていると、ガーデンテーブルに置いていたタブレット端末で流れているニュースが耳に入る。


『続いてのニュースです。昨晩未明、第7コロニー・東京都〇〇市のキャンプ場で、複数の遺体が発見されました。警察によりますと、遺体に目立った外傷はなく、年齢は20代――』


「隣町じゃないか。物騒だなあ」


 10年前の事件で感覚が麻痺したのかもしれないが、子どもの頃のように他人(ひと)の死に対して心痛することは日に日に少なくなっていた。


 それでも、身近な人間が死に直面しようものなら――想像するだけで反吐が出る。


 それほど、俺にとって家族はかけがえのない存在なのだ。


「……ん?やけに賑やかだな」


 遠くで人の叫び声のようなものが木霊している。夏祭りは当分先のはずだが……


 気になった俺はベランダから身を乗り出すと、衝撃の光景を目にした。


「なんだ……あれは……!?」


 夜空に浮かぶ漆黒の物体。その上には人間が乗り、死に物狂いで逃げ回る人々に向けて光線のようなものを放っている。


「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」


 光線を背中に受けた男性が悲鳴を上げながらその場に倒れ込んだ。


「だれか!!!早くクロッカス呼べ!!!」


「なんでコロニー内に出てきてんだよ!!!バリアはどうなってんだ!!!」


 聞き覚えのある単語を口にする人々を見て、俺は確信を得る。


「あれは……トキシーか……?」


 禍々しい雰囲気を纏った悪性AI兵器――トキシーを初めて目の当たりにした俺は、その場で足元がすくんでしまい、呼吸をすることすら忘れてしまった。


「アンタも早く逃げな!!ヤツに殺されちまうぞ!!」


 ベランダの外から声が届いてくるが、俺は迫ってくるトキシーを無意識に凝視し続ける。


 コロニー内にトキシーが現れるはずがない――そんな常識を簡単に覆されたこの状況に理解が全く追いつかない。


「あれは……女の子か?」


 トキシーの上に乗っていたのは、息子と同い年くらいの少女だった。


 黒いフードを被り、露出しているのは真一文字に結ばれた口元だけだ。


「……」


 少女は次第に俺を認識して近づくと、迷いなく家のベランダに飛び降り、懐から短剣を取り出して剣先を俺に向けた。


 夢でも幻想でもない、突如として訪れた命の危機。


 無作為に俺を選んだのかは不明だが、俺は汗でびっしょりになった拳を握りしめる。


「大丈夫だ……クロッカスはきっと助けに来る……」


 無力な俺はひたすら祈るしかなかった。


 そして、俺は少女を刺激しないように恐る恐る口を開く。


「君は――」


「ターゲット、”ミカド ヒカル”を発見いたしました」


「!?」


 いま、間違いなく俺の名前を呼んでいた。


 つまり、俺が隠れようが逃げようが少女は追ってくるつもりだったのだろう。


 少女は何者かと連絡を取っているのか、耳元を手で押さえてじっとしている。


「……かしこまりました」


 そして、機械的な返事をした。


「……俺になんの用だ」


「……我々に協力してください」


「協力だと?」


 俺を殺すために来たわけじゃないのか……?


「貴方のご子息、”ミカド ヒイロ”を我々に譲渡してください」


「なっ、なぜ陽彩を!?」


 てっきり仲間に入れとでも言うのかと思ったが、まさか陽彩が狙いだったとは。


 クロッカスに所属していることが原因だろうか。


「我々に従わなければ、この場で貴方の命を頂戴いたします。すなわち――」


「ふざけるなっ!!ノコノコ現れてきて息子を渡せだと??お前らみたいな無差別殺人軍団に、俺の大切な子供たちは指一本たりとも触れさせない!!さっさと失せろ!!」


「……」


 俺は奥底に沈んでいた憎悪を暴発させ、床に転がっていた物干し竿を構えて威嚇する。


 一方、少女は表情を変えぬまま再び耳元を手で押さえた。


「……ええ、かしこまりました。パターンBへ移行いたします」


 少女は短剣を握り直して体勢を低くする。


 宣言通り俺をこの場で殺めるつもりなのだろう。


 殺意が完全に俺に向けられた途端、走馬灯のようなものが脳内をかすめた。


「陽彩……すず……」


 子供たちの無垢な笑顔が浮かび上がった。


 俺は、お前らの未来を守るために戦う。


 陽彩だって、いずれはこいつらと相対することになるだろう。


『自分を信じろ、迷ったら進め』


 かつて陽彩に向けた言葉が、脳裏で激しく閃光を放つ。


 そうだ、まずは俺が背中で示さなければ嘘になる。


「かすみ……」


 そして、離れて暮らす妻の名をこぼした。


 また家族4人で揃う約束をしたのだ。


「……愛してるぞ」


 俺は唇を強く噛み締め、再び少女に怒りを露わにする。


「こんなところで無様に死んでたまるかっ……!」


 俺は物干し竿を強く握り直し、少女に向かって一直線に飛び込んだ。


「うおおおおおおあああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!!!!!」

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


結衣のトラウマに苧環のプロポーズ……陽彩は二つの事件を無事解決に導けるのでしょうか。


そして、平和の仮面が欠けはじめ、再び世界は終焉へと向かっていきます……


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