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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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File.66「祈祷・灯籠」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)

 人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士(バーサーカー)化する。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)

  お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)

 ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆アカツキ

 陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。

 お嬢様口調で、派手な見た目をしている。


◆戌亥(いぬい) 48歳

 祭りの幹事を務める筋骨隆々なおじさん。

 俺と桔梗先輩は山頂の静和(せいわ)神社周辺の巡回を始めた。 


 俺たちはチェットポイントを順番に辿っていき、最終的には山を大きく一周することになっている。


「あぢぃ……」


「何言ってるんですか、まだ6月ですよ」


「つってもなぁ……」


 梅雨入りしたというのに、今日は一日中見事なまでの晴れ模様だ。


 勾配がきつく前日の雨でぬかるんだ山道は、俺の体力をみるみる奪っていく。


 平然と進んでいく桔梗先輩の足止めをするため、俺はふと思いついた質問を彼女の背中目がけて投げかけた。


「そーいえば、桔梗先輩はどうしてクロッカスに?」


 作戦通り、桔梗先輩の足はピタリと止まる。


 だが、桔梗先輩は振り返らぬまま声のトーンを落とした。


「……いま、答える必要がありますか?」


 表情を見なくても伝わる、”これ以上深入りするな”という圧力に俺は身の毛がよだつ。


「いやっ、何となく気になっただけです……すみません」


 俺は即座に深々と頭を下げた。


「いいえ……こちらこそ」


 桔梗先輩は気まずそうに胸元を押さえながら振り返ると、一息ついてから口を開く。


「流れで――としか言えませんね」


 彼女の重厚感のある低い声色から放たれた端的な返答。


 まさか答えてくれるとは思わなかったが、そのあまりに曖昧で冷ややかな返答は、かえって謎を深めるだけだった。


「これ以上は、機会があれば」


「……わかりました」


 その機会がいつ訪れるのかはわからない。


 ただ、彼女の身体に複雑に絡みつく”棘つきの蔦”が彼女自身を絞めつけ、傷つけていることだけは、隠しようもなく伝わってきた。


 それからしばらくして、俺たちは中間地点へと辿り着く。


「おぉー結構いい眺めっすねー」


 神社のちょうど真裏に位置する展望台からは、古風な街並みや巨大な湖などを一望することができた。


「ここが、”祈祷(きとう)の丘(おか)”です。8年前にこの地域で亡くなられた方々のお名前が、あちらの巨大な石碑に刻まれています」


「でっけぇ……」


 見晴らしの良い場所に堂々と置かれた、家の屋根ほどの高さがある石碑には、みっちりと人の名前が刻まれていた。


 最低でも数千――下手したら数万にも上るだろう。


 8年前といえば、既にほとんどの地域がコロニー化されていたはずだ。


 それでも大量の死者が出てしまったのは、地理的隔絶性や神主のコロニー化反対などの要因が挙げられているらしい。


「8年前、コロニーに指定されていなかった地域の中で、最も人口が多かったのがこの街なんです。おそらく、敵組織も把握していたんだと思います」


「なるほど……てことは、祭りの主催に携わってる人たちって――」


「生き残った地元の方や、近隣のコロニーにお住まいの方がほとんどですね」


 当の神主の心境は不明だが、亡くなってしまった人々を弔う意味でも、危険を冒してまでお祭りを開催しているのだろう。


「あれっ、あの人は……?」


 軍服のようなものを身に纏った高身長の男性が純白の献花を抱え、丘の中央へと姿を現した。


 圧倒的な重厚感を漂わせる男性は、迷いなく石碑の前まで歩み寄ると、献花を供えて両手を静かに合わせる。


「あれは……黒華代表ですね」


「えっ!?なんであの人がこの場所に?」


 マスタークロッカスの代表であれば、年中多忙を極めているはずだ。


 まさか一週間も経たぬうちに再び姿を見ることになるとは思わなかったな。


「代表は毎年、このお祭り――静和祭(せいわさい)に足を運ばれています。我々クロッカスにとっても、静和祭は特別な催しなんです」


「なるほど、それで……」


「私たちも行きましょうか」


 俺は桔梗先輩に続き、黒華代表の元へ向かう。


「お疲れ様です、黒華代表」


「おっ、お疲れ様です!!」


 俺たちは深々と一礼した。


 というより、黒華代表のオーラに気圧されて無意識に頭を下げた。


「第1部隊の桔梗くんと御角くんか、お勤めご苦労だ」


 黒華代表は口元を緩ませて俺たちの顔を交互に見つめる。


 なぜ俺の名前を?――という疑問が真っ先に浮かんだが、黒華代表は俺の戸惑う顔を見て微笑んだ。


「まあそう驚くな。俺はクロッカスの全メンバーの所属と名前は既に把握済みだ」


「さすがっすね……」


 ベクトルは違えど、黒華兄弟のスペックの高さには驚かされるな。


「御角くんはまだ日も浅いと思うが、先輩の教えをしっかり身体に叩き込んで、一人前の戦士に成れるよう精進してくれ」


「はいっ!もちろんです!」


「桔梗くんも、後輩への指導頑張るんだぞ。キミは俺の後釜になるかもしれないからな」


「ええ、肝に銘じておきます」


 俺と桔梗先輩は黒華代表と固い握手を交わした。


 黒華代表にも認められるほどの実力を持つ桔梗先輩の横顔が、いつも以上に逞しく見える。


 数年後、桔梗代表と呼ばれる日が訪れるのだろうか。


 その時、隣に立っているのは……


「それじゃあ、俺は失礼するよ。明日の静和祭の成功はキミたちに懸かっているから、よろしく頼んだぞ」


 黒華代表は俺たちに一礼すると、堂々とした足取りで祈祷の丘を後にした。


「……ホントに、黒華のお兄さん?」


 俺は思わず本音をこぼしてしまう。


「性格が真逆ですわね」


 静かに様子を眺めていたアカツキも、黒華兄弟の格差には疑問を抱いたようだ。


 桔梗先輩は石碑に近づくと、一人一人の名前を眺めつつ、両手を静かに握りしめる。


「……さて、私たちも祈りましょうか」


 桔梗先輩に続き、俺も石碑の前で両手を合わせ瞳を閉じた。


 ――刹那、ある言葉が脳裏をよぎる。


『流れで――としか言えませんね』


 明日の成功を祈る以前に、俺の隣で手を合わせる少女の言葉が鼓膜にへばりついたまま離れなかった。



————————————————————◇◆



 祈祷の丘出発から1時間後――


「はぁ……どっと疲れたぜ……」


 俺たちは任務を終えて広場に戻り、石造りの長椅子に腰掛ける。


「トキシーが現れなくてよかったですね」


「まあ、それはそうですけど……」


 結局、俺たちが巡回したエリアでは、トキシーは一体も出現しなかった。


 月下先輩&黒華チームはまだ巡回中だそうだが、特に異常はなさそうだ。


「ミーの出番はお預けですわ……」


 戦う気満々だったアカツキはしょんぼりと肩を落としている。


「戌亥さーん!バリケードの設置、完了しました!」


 広場の外縁で作業をしていた若者が戌亥さんに向かって手を振った。


「おう!あんがとな!」


「ん、バリケードなんてどこにもないぞ?」


 俺が首を傾げていると、桔梗先輩が若者の足元辺りを指差す。


「専用の装置を地面に埋めて、小型のプログラミングバリアを張っているんです。お祭りの出店近辺だけでも安全に――とのことです」


「なるほど……だから駅とか旅館は安全が担保されていたのか」


 外住人(アウトランダー)からしたら、生存に必須なアイテムだな。


「御角くんにしては、理解が早いですね」


「……余計なお世話だ」


 やはりこの人は、俺を揶揄う時だけ生き生きとしている気がする。


「ふふっ、蘭さんたちのお手伝いにでもいきましょうか」


「はい、よろこんで!!!!」


「……」


 口角が上がった俺とは裏腹に、桔梗先輩の表情は瞬く間に真顔になった。


 あれ……?俺、何か変なこと言いました?


 妙な空気が流れたまま、俺たちは翡翠先輩と白百合の元へと向かう。


「あら♪もう見回りは終わったの?」


「はいっ!完璧であります!」


 俺は背筋を伸ばして翡翠先輩に敬礼した。


 そんな俺の背中に、二つの冷徹な視線が向けられている。


「……ヒイロがどんどんキモくなっていきますわ」


「もう手遅れですね」


「おーい、聞こえてんぞー」


 絶対にわざとデカい声で言っただろ……


 俺は気を紛らわせるため、翡翠先輩の手元に視線を逸らす。


「……それで、お二人は何を?」


「灯籠を作っていますの。境内に並べて飾るそうですわ」


 翡翠先輩が作っていたのは、箱型の一般的によく見かける灯籠だ。他にも、風船を用いたものや、ペットボトルを再利用したものまで多種多様な灯籠がズラッと並んでいる。


「へぇー、色んな形があるんすね」


「……御角さんも、作りますか?」


 翡翠先輩の隣で作業していた白百合が俺に製作キットを渡してきた。


「うーん、俺にできるかなぁ」


 翡翠先輩の前で難なく作り遂げる姿をアピールしたいものだが、如何せん自信は全くない。


「ブキヨーなヒイロには無理ですわっ!ぷぷっ!」


 生意気なAIが露骨に煽ってきた。


「なんだとぉ!?!?やってやるよ!!こんなん余裕だっつーの!!」


 俺は露骨な煽りに乗っかってしまった。


「ふーん、ですわ」


「コイツっ……!」


 俺は白百合から製作キットを受け取り、鼻息を荒げながら翡翠先輩の向かい側の席に座った。


「私もお手伝いします」


 桔梗先輩も製作メンバーに加わり、はじめての灯籠作りが幕を開けた。


 まあいいさ。俺を馬鹿にしたこと、後悔させてやる。


 ……あとは、俺の指先に神が宿ることを信じるだけだ。



————————————————————◇◆



「ぜっっっっんぜん上手くできねぇ……」


 神は宿らなかった。


「ふんっ!だから言ったでしょうに」


 アカツキは馬鹿にするを通り越して、もはや説教モードに入っている。


「だってよぉ……この和紙繊細すぎだろ……うわっ!また破れた!」


「ヒイロが苦戦している間にも、レエナはもう10個目突入ですわ」


「はやっ!すげぇ集中力だ……」


 早さだけではなく、正確さも精密機械に負けず劣らずといったところだ。


 実は私、人型クローの生き残りでした――なんて言われても全く驚かない自信がある。


「うん、いい感じですわ♪」


 翡翠先輩も順調に灯籠を完成させていた。


「おぉ!寸分の狂いもない完璧なフォルム――まさに翡翠先輩そのものだ……」


「嬉しきお言葉ですわ♪」


 俺も先輩の笑顔が見れて嬉しいです!!


「結衣も……できました……」


 白百合も少々苦戦しながらも灯籠を完成させた。


「おぉ!温かみを感じる清廉なデザイン――まさに白百合さんそのものだ……」


「えへへ……」


 白百合の照れ顔は万病に効くな。間違いない。


「クロッカスよりコメンテーターのほうが似合ってますわね」


「……るっせ」


 アカツキに真っ当すぎるツッコミをされてしまった。



————————————————————◇◆



「えーでは、明日の静和祭成功を祈りまして……」


『カンパ~~~~イ!!!!!』


 時刻は夜7時を回り、戌亥さんによる乾杯の音頭がとられると、主催陣にうずらっちを加えた前夜祭が開催された。


 明日は一日中バリケード外の護衛に当たるため、俺たちにとっては今日がお祭り本番みたいなものだ。


「いやー助かったよ!これで今年も無事開催できそうだ」


 既に酒に酔って頬を赤らめている戌亥さんが月下先輩の背中を軽く叩いた。


「いやいや!アタシらも貴重な経験ができたし……なっ!ひいろっち!」


 月下先輩は俺に目配せをする。


「んっ!?そ、そーですよ!!こんな美味い飯までご馳走になっちゃって……うんめぇ~~!!」


 昼間にゲロったことなど忘れてしまうほど、地元の方が振る舞ってくれた郷土料理は絶品だった。


 死と隣り合わせの生活を強いられる地域とは思えないほど、前夜祭は活気に満ち溢れている。


「……」


 だからこそ、そっぽを向いたまま全く動かない少女には必然的に視線がいってしまう。


「……白百合さん?」


「……はっ!い、いいえ、何でもないですっ……!と思います……」


 白百合は慌てて一度俺の方を向いたが、再び同じ方向に首を向けてしまった。


「灯籠、綺麗ですものねっ♪」


「……はいっ」


 翡翠先輩の言う通り、広場を囲うようにして並べられた灯籠の明かりは、殺伐とした世の中とは対照的に俺たちの心を癒してくれる。


 だが、白百合の瞳の揺れは決して灯火によるものではなく、明らかな動揺を孕んでいた。


 そんな中、白百合の視線とは真逆の場所で、一人の少女が和太鼓と縦笛の音色と共に雅やかな踊りを始める。


「あれは……?」


「明日のメインイベント――”静和の儀”で踊られる巫女役の方ですね。おそらくリハーサルでしょう」


「へぇー、巫女かぁ」


 秋田出身でもないのにやたらと詳しいのは、桔梗先輩の几帳面な性格によるものだろう。


 巫女役の少女に気を取られていると、どこか息苦しそうな白百合が勢いよく立ち上がる。


「ゆ、結衣っ、お手洗い失礼します……!」


「おおっ、気をつけ……」


 白百合は誰とも目も合わせずにその場を立ち去ってしまった。


 明らかに様子が変だと感じたのか、戌亥さんとの歓談に夢中だった月下先輩も顎に手を当てて考え込む。


「ゆいっち、どうしちまったんだ?」


「さあ……」


 ――しかし、白百合の異変の正体に気がついたのは、その直後であった。


「”りり”ちゃーん!今年も頼むな!」


「はーい!」


 戌亥さんに向けて手を振る巫女役の少女――聞き覚えのある名が俺の鼓膜を通り過ぎる。


「”りり”って……もしかして……まさか……!?」


 ――俺の脳内で欠けていた悪魔のピースが嵌まってしまった瞬間だった。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


灯籠づくり、一度はやってみたいですね。


そして、結衣に再び訪れる悪夢――その理由は、File.47をご覧ください。


YouTube&ニコニコ動画にてビジュアルボイスドラマも公開中です♪


↓下記URLよりご覧いただけます☺️↓

https://www.youtube.com/watch?v=5mCj5bY2rAI&list=PLh-u7PjjPcTPlayuqAarIKzDpkoxIinIl


https://www.nicovideo.jp/user/142201767/series/537295


ボイスドラマに出演していただく声優様も随時募集していますので、そちらも併せてご覧くださいませ。


【X(旧Twitter)】https://x.com/ProjectAI_2025


【YouTube】https://youtube.com/@mochi_ccs


【ニコニコ動画】 https://www.nicovideo.jp/user/142201767

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