File.65「滝・巡回」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士化する。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)
お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)
ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
◆戌亥 48歳
祭りの幹事を務める筋骨隆々なおじさん。
「そんなに驚くことかい?」
あたかも知ってて当たり前かのような態度を取る黒華に、俺はさらに声を荒げる。
「いやいやいやいや!!お前毎日のように女の子ナンパしてたじゃねぇかよ!」
絵に描いたような女誑しのコイツが、たった一人の女性に好意を寄せているなど、誰が信じるものか。
「ハハッ☆あんなのはただの処世術に過ぎないのさ。ボクは彼女がクロッカスにやってきてからずっと、想いを寄せていたヨッ☆」
「嘘くせぇ……」
常日頃から道化師のような振る舞いをしているがゆえ、これも俺を揶揄うための冗談に聞こえてしまう。
でもそうだとしたら、わざわざ花束まで用意するだろうか。
それに、この男の発言には少し引っかかる部分がある。
「ちょっとまて、月下先輩ってずっとヒュドールにいるんじゃなかったのか?」
「いやいや、彼女は去年の春に転校してきたのさ。1年間のハンデを物ともせずに、たった数か月でクロッカス最強の生徒に成り上がった、天性の戦士なのさ☆カッコいいだろう?」
「はぇ……」
まさかクロッカスを代表する月下先輩が転入生だったとは。
衝撃の事実が次々に降りかかり、俺は啞然としてしまった。
「てか、任務中にプロポーズなんて、月下先輩に怒られて終わりそうだけどな」
「ハハッ☆そこは上手〜くやるさ」
百戦錬磨の黒華は一切動揺することなく、勝利を確信しているようだ。
「やっぱ噓くせぇ……」
コイツが付き合おうがフラれようが俺的にはどうでもいいが、うずらっちの雰囲気が気まずくなるのだけは避けてほしいものだ。
————————————————————◇◆
「いやー!チョー美味かったな!」
俺たちは旅館での昼食を済ませ、先頭を歩く月下先輩は満足そうにお腹をさすっていた。
「郷土料理なんて、滅多に味わえないですものねっ♪」
「だなっ!」
月下先輩と翡翠先輩が楽しく会話をしている後ろで、俺は口元を押さえながら足を引きずっている。
「……御角くん?」
青ざめた俺を真っ先に気にかけてくれたのは、意外にも桔梗先輩だった。
「うっぷ……!あ、いや……お気になさらず……」
「調子に乗って食べすぎましたわね」
アカツキは呆れながら俺の顔色を窺っている。
「だって……うっぷ……!美味かったんだもん……」
ちょっとでも腹を刺激されでもしたら、昼食のきりたんぽ鍋が全部出てきそうだ。
「はぁ……まったく……」
桔梗先輩は立ち止まると、溜息交じりにポーチから錠剤を取り出す。
「これでも飲んで、胃を落ち着かせてください」
「こ、これは……?」
「ヒュドールカンパニー系列の製薬会社が販売している、即効性の高い胃腸薬です。30分もすれば効果が表れてくるかと」
「ありがとう……ございまウゲェェェェェェェェエエエエエエエッ!!!!!!!!」
薬を飲み込んだ瞬間、異常なまでの吐き気が腹の底から込み上げ、30分どころか30秒すら経たぬうちに熱々のきりたんぽ鍋は喉奥から飛び出してきた。
明らかに俺の知っている胃腸薬の効能ではない。
「きゃあ!!ばっちいですわっ!!」
俺の足元にいたアカツキは悲鳴を上げながら俺から距離をとり、その声に気がついた他のメンバーの視線も俺に集まってしまう。
「オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」
――嘔吐系主人公爆誕の瞬間である。
「即効すぎましたね……」
「ナイアゲロの滝……ですわ……」
桔梗先輩とアカツキの冷ややかな視線が、俺の胃痛をより加速させていた。
————————————————————◇◆
「ひいろっち、大丈夫か?」
地面に蹲っている俺の背中を、月下先輩が励ますように優しくさすっている。
「……はい」
「いつまで凹んでいるんですか、早く行きましょう」
月下先輩と桔梗先輩は俺の両腕を引き上げ、半ば強引に立たせた。
なんかもう、自分が情けない。
「こんな……無様な姿を……みんなに……ガクッ」
俺は涙ながらに口元を押さえ、俯きながら桔梗先輩の後に続く。
それから歩く道すがら、桔梗先輩は俺の様子を気にかけるように何度か振り返っていたが、やがて足を緩めると、俺の耳元へと顔をそっと近づけてきた。
髪から漂うほんのり甘い香りと、微かな吐息が鼓膜をくすぐる。
「……私は、何も気にしていませんから」
彼女の凛とした横顔がすっと離れていく。
「うっ……桔梗先輩……」
普段は悪魔の微笑みにしか見えない口元が、天使の微笑みに変わった瞬間である。
彼女の何気ない一言に、死に体だった俺の自尊心は劇的に救われた。
この異常なまでの優しさ――もしかして、桔梗先輩の影武者か……?
……いや、そもそも俺を吐かせたのはこの人だ。
騙されるな、俺。
俺が正気を取り戻したところで、月下先輩が地図を確認しながらピタリと立ち止まり、周囲を見渡す。
「えっと、たしかこの辺で――」
「お~~い!!人美ちゃん!!」
農道を挟んだ向かい側の畑の中心で、逞しい両腕を広げる男性が野太い声を上げている。
年齢は50歳前後といったところか。
何となく徳川先輩と同種の香りがする。
「あっ!お久しぶりです戌亥さん!相変わらずお元気そうで!」
月下先輩もおっさんに負けじと大きく手を振り返した。
戌亥と呼ばれたおっさんは、額の汗を拭いながらずかずかと俺たちに近づいてくるや否や、月下先輩の顔を凝視しながら顎髭を弄り始める。
「はっはっは!!人美ちゃんはより別嬪さんになったなぁ!」
「へへっ」
月下先輩ははにかみつつ、戌亥さんに掌を向けてチームメンバーを見渡す。
「祭りの幹事を務めている戌亥さんだ。レエナは去年も会ってたよな?」
「ええ、その節はお世話になりました」
桔梗先輩は礼儀正しく頭を下げた。
どうやらこの二人は去年も同じチームに所属していたらしい。
「いやいや!この祭りが開催できてるのも、君たちクロッカスのお陰さ!今年もよろしく頼むぜっ!」
「もちろんっす!」
戌亥さんと月下先輩が熱い握手を交わしたところで、前日準備と当日のスケジュール表が共有された。
「じゃあ、二人ずつ分かれてもらってもいいか?とりあえずあっちの方に、手先が器用な子がいてくれると助かるんだが……」
戌亥さんが指差したのは、石畳で造られた簡易的な広場だ。
村の若い女性が集まり、祭りの小道具を量産している。
「そうだな……蘭とゆいっちで頼めるか?」
月下先輩は翡翠先輩と白百合に視線を向けた。
無論、手先が不器用な俺には一秒たりとも視線を合わせてくれなかった。
ちょっと悲しいぜ……
「結衣……ですか?」
「おう!アタシは別の仕事があるからな」
戸惑う白百合に、翡翠先輩の柔らかい手が差し伸べられる。
「結衣ちゃん、行きましょ♪」
「……はいっ」
戌亥さんは二人が去ったのを確認すると、俺たちに神社周辺のマップデータを配布した。
格子状に分けられた区画ごとに、危険度が5段階で示されている。
「残りの4人は、二手に分かれて神社の周辺を巡回してほしい。マスタークロッカスの兄ちゃんが定期的に見に来てくれてはいるんだが……どうも最近、トキシーの出現数が増えているらしくてな。先日もウチの近所に住んでいた爺さんが亡くなっちまったんだ」
「ええっ……!?そんな状況で開催しちゃって大丈夫なんすか?」
俺は思わず目を見開き、咄嗟に口元を押さえる。
翡翠先輩と白百合に安全な作業を任せたのも納得がいく。
「まあ、当日は毎年マスタークロッカスの兄ちゃんたちが大勢駆けつけてくれているから、余程のことが起こらない限りは問題ないな。万が一の時は即座に中止することになってるのさ」
全国各地のマスタークロッカス――辺境の地での祭りにしては随分と大がかりだな。
「ちなみに他の班の方々は、マスタークロッカスの穴埋めをする形で、日本各地に派遣されるそうです」
桔梗先輩はクロッカ全体のスケジュール表を俺に見せてきた。
「なるほど……」
ほぼ全ての部隊が遠征の予定らしい。
明日はクロッカスが最も忙しい日となりそうだな。
「ボクは、人美センパイについていこっかな☆」
黒華は指を鳴らすと、真っ先に月下先輩との距離を詰めた。
「おう!苧環がいるんなら、こっちの危険な方まで回れそうだなっ!」
好意が向けられているとも知らずに、月下先輩は黒華の肩をポンと叩く。
俺がもし黒華の立場だったら、身体が触れただけでとんでもなく動揺するだろうな。
そもそも、ここまで積極的にアピールできる精神力には脱帽せざるを得ない。
「お先に失礼するよッ☆」
残された俺と桔梗先輩は自然とペアを組むことになった。
何だかんだで一番気を遣わなくていい相手かもしれないが、向こうはどう思っているだろうか。
「私たちも向かいましょうか」
普段通り、無表情だ。
……多分、何とも思ってなさそうだ。
「探検♡探検♡」
「こらっ、遊びじゃねーんだぞ」
俺は能天気なアカツキの頭部にチョップをかました。
「イデッ!わかってますわっ!”ゲイロ”!」
今度は魂の一撃を食らわせた。
「イデッ!!ミーは繊細ですのよ!!」
「そうかいそうかい、ならもっと強く殴って頑丈にしてやろうか?」
「できるものならやってみろ!ですわっ!」
俺はアカツキと睨み合い、例によって不毛な争いが始まってしまった。
今回に関しては間違いなくアカツキが悪い。
というか、アカツキの余計な一言が毎度のごとくトリガーになっている気がする。
「……あの兄ちゃんたち、大丈夫か?」
戌亥さんは眉をひそめながら桔梗先輩に視線を向ける。
「申し訳ございません。彼らは少々――いえ、かなり気が短いものですから」
「ぐっ……」
「しゅん……ですわ……」
俺たちにわざと聞こえるような大きさで言い放った言葉は、俺たちの心臓に深く突き刺さった。
「さて、行きましょうか」
俺たちを一刀両断した桔梗先輩は、俺たちには目もくれず森林へと歩を進める。
「アイアイサー……」
「で……すわ……」
俺は萎れた腕を天に伸ばし、アカツキは覇気のない口癖をこぼした。
やはり、天使の桔梗先輩は刹那の幻影だったらしい。
俺は手先が不器用な己の肉体を心底恨んだ。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
不穏な空気が漂うなか、陽彩たちは各々の任務をこなしていきます。
みなさんも、食べすぎには気をつけましょう!
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