File.64「旅館・花束」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士化する。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)
お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)
ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
「やああああああああっ!!!!」
接近戦開始直後、白百合が鋭い眼差しを俺に向け、模造刀を垂直に振り下ろした。
「っ……!!」
華奢で小さな身体からは想像もできない衝撃に、俺は歯を食いしばって攻撃を受け止める。
黒百合の人並外れたパワーやスピードには劣るものの、彼女の燃え滾る瞳からは強い闘志が感じられた。
だが、剣技においては俺だって負けていない。
彼女は言わずもがな、俺だって血反吐を吐く思いで鍛錬に勤しんできた。
俺は白百合の攻撃を受け止めつつ、僅かな隙をついて彼女の足元を薙ぐ。
「そこだぁっ!!!」
「……いっ!」
俺の無遠慮な斬撃に、白百合は顔を歪めながらも唇を固く噛みしめ、痛みを必死に堪えた。
「あっ、ごめ――」
「御角くん、手を止めないでください!」
思わず伸ばしかけた手を、桔梗先輩の鋭い声が射抜く。
そうだ、ここで甘さを捨てることこそが彼女の成長ため――そして、自分の成長のためでもあるのだ。
いまこの瞬間だけは、友人関係であることを忘れよう。
「……すいませんっ!!」
俺は一歩引き、模造刀を強く握り直して前傾姿勢をとる。
「白百合さん、もっとだっ!!俺をトキシーだと思って、殺すつもりで来いっ!!」
「……はいっ!!」
黒百合をさらけ出し、己と向き合う覚悟を決めた彼女の心は、そう簡単に欠けたりはしない。
傷つきやすく繊細だった俺たちの心は、クロッカスでの日々を通じて確実に強化され始めている。
「……やああああああああっ!!!!」
白百合は叫びとともに、俺に向かって一直線に走り出した。
そして、何度も何度も俺に向かって斬撃を与えてくるが、俺も必死に食らいついていく。
「お腹がガラ空きだぜ!!そんなんじゃ……トキシーに……刺されちまうぞっ!!」
「……はいっ!!」
両者譲らない接近戦は何分も続き、それから互いに1点も取ることなく、試合終了のゴングは唐突に鳴り響いた。
そして、試合を傍観していた桔梗先輩が俺たちの間に入り、右腕をピンと伸ばす。
「――終了です」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
俺以上に体力を奪われたであろう白百合は、桔梗先輩の合図と共に膝から崩れ落ちた。
まだ制限時間は1分ほど残っている。
「桔梗先輩、まだ時間が……」
「白百合さんの課題点は大体わかりましたので。あとは私に任せてください」
「そういうことなら……」
まあ、戦闘技術に関しては俺が教えられることなんてほぼ無いからな。
白百合は片膝をつきながらゆっくりと立ち上がると、俺に深々と頭を下げる。
「御角さんっ、ありがとうございました。ちゃんと手加減せずに戦ってくださって……」
「いやいや、こっちこそありがとな。誰にも負けないくらい努力してる白百合さんなら、きっとチームの要になれるはずさ」
「……そうだといいんですけど……」
きっと彼女は、黒百合に頼らずとも一人前に戦える戦士になりたいのだろう。
薄々感じてはいたが、彼女の目指す目標がこれで明確になった。
「じゃ、俺は向こうでメニューをこなしてくるよ」
俺は白百合と桔梗先輩に会釈をし、桔梗先輩に与えられた筋トレのメニュー表を眺める。
「スクワット100回×5セット……これホントにやらなきゃダメか……?」
『接近戦で疲れたんで、今日は帰りまーす!』とか言おうものなら……
「少しでも妥協したら……わかってますね?」
予想していた通りの冷徹な言葉が俺の背中に突き刺さった。
「わっ、わかってますよぉ~!」
俺はいそいそと部屋の隅に向かって走り出す。
そして、桔梗先輩の後ろ姿を遠目に見て、俺は小さく言葉をこぼした。
「――俺も、早く追いつかねぇとな」
————————————————————◇◆
翌日の昼休み、うずらっちのメンバーは会議室に緊急招集された。
「よしっ!全員集まったな!」
月下先輩は普段通り、満面の笑みでメンバーの顔を見渡している。
別に嫌な予感はしていないが、俺は無意識に手を挙げた。
「月下先輩、緊急会議って一体何ですか?まさか今から任務に――」
「ああすまんな、別に事件があったわけじゃないんだ。とりま、これを見てほしい」
月下先輩はプロジェクターに映像を映し始めた。
「これは……?」
神社の拝殿前で、巫女姿の少女が独特な踊りをしている。何かの儀式的なやつだろう。
「……秋田の……伝統的なお祭りですね」
秋田出身の白百合が真っ先に小さく呟いた。
「へぇー、行ったことあるのか?」
「幼い頃に、一度だけ……平和の神様を祀っている、有名な神社があるんです」
「平和の神様か……」
まさに今の日本で最も崇拝されるべき存在だな……
「明後日の日曜に開催されるんだけど、アタシらは会場の護衛を任されたのさ」
「護衛……もしかして、コロニーの外で祭りを?なんでそんな危険な場所で……」
それだけ名のある祭りなら、このご時世でも県外からの観光客は多いはず。
そんな催しをコロニー外で大々的に行うなんて、あまりにも異質だ。
そんな俺の疑問に、月下先輩も少々困った表情で答える。
「元々はその地域もコロニーに指定される予定だったんだ。でも大人の事情でその話は白紙になっちまったらしい。神主がすげー頑固でさ、祟りがどーのこーのみたいな感じで、色々と厄介なのさ」
「なる……ほど……?」
正直、曖昧すぎてよくわからないな。
「前日の準備も手伝うことになってるから、明日から移動する必要があるんだ。つまり――」
「お泊り会、だネッ☆」
黒華が指を鳴らし、月下先輩の言葉に乗っかった。
「うおっ!マジか!」
「ふふっ♪楽しみですわ」
興奮を抑えられない俺に続き、翡翠先輩も微笑む。
2回目の任務で早くも日を跨ぐことになるとは……さすがは精鋭部隊だ。
「本来はクロッカスのサテライトにうずらっち号を停泊させるのが基本なんだが……秋田のサテライトは丁度改装中でな。特例として近くの旅館に泊まることになったぞっ!」
「旅館きたぁ〜〜~!!!!!」
機中泊を通り越して宿泊――いくらクロッカスとはいえ、あまりにも好待遇だ。
「……まったく」
喜びを露わにしている俺を横目に、桔梗先輩はため息をついた。
ほぼ全員が高揚している中、彼女だけは明らかに気分が停滞している。
まあ、桔梗先輩はみんなでワイワイみたいな雰囲気は苦手だろうしな。
ビジネスホテルで全員個室だったら、反応も多少は変わったのだろうか。
「とりま、各々準備して明日の朝9時に出発な!当日の流れについては、今から詳しく説明すっから、しっかり覚えておいてほしい」
翡翠先輩は桔梗先輩の顔を覗き込み、優しい笑顔を向ける。
「お泊まりの任務なんて、久しぶりだねっ♪」
「……ですね」
微笑み合う彼女らの後ろで、俺はずっと複雑な心持ちだ。
どこまでが本心でどこからが嘘なのか――翡翠先輩の”あの横顔”を目撃して以来、俺はすっかりわからなくなってしまった。
彼女の仮面が厚くなればなるほど、抱いていた感情が歪に捻じ曲がっていく。
――いずれ、真実を目の当たりにする瞬間が訪れることも知らずに。
————————————————————◇◆
翌日、俺たちはうずらっち号を隣県に停泊させ、新幹線で秋田県に上陸した。
会場近くの旅館の前に着くと、俺は興奮のあまり荷物を投げ出す。
「うっひょ~~~!!!めっちゃ豪華じゃねぇか!!!」
趣を感じる荘厳な建造物に、俺は目を輝かせた。
まるで戦国武将のお屋敷のような造りに、白百合や翡翠先輩も感嘆の声を漏らしている。
「トキシーが出るまでは人気すぎて、碌に予約は取れなかったらしいからな」
月下先輩は首を傾げながら口を真一文字に結んだ。
「なんだか皮肉っすね……」
観光業が大打撃を受けてもなお経営の存続が可能なのは、宿泊客の評判や経営者の想いが上手いこと軌道に乗っかっているからなのだろう。
一日も早くここの活気を戻すためにも、俺たちが尽力しなければならない。
「じゃ、男子と女子に分かれて部屋で一時休憩!昼になったら飯食って、会場に向かうぞっ」
「了解で――ん、てことは……」
冷汗をかき始めた俺の背後から生温い視線が伝わってくる。
「二人きりだネッ、ヒーロークンッ☆」
黒華と相棒のミカエルが俺とアカツキに向かって熱烈なウインクを飛ばしてきた。
「さ、最悪だ……」
「ミーもですわ……」
ミカエルは黒華をそのまま閉じ込めたような性格の持ち主だ。アカツキもどこか苦手意識を持っているらしい。
俺は渋々黒華の後に続き、部屋の襖を通り抜ける。
「うわぁ……部屋もめっちゃ広ぇなぁ……!」
20畳近くある広々とした和室には、既に二人分の布団が横並びにセッティングされていた。
旅館あるあるだが、窓際の広縁がいい雰囲気を醸し出している。
同室がコイツじゃなければ、夜にはさぞムーディーな空間になっただろうが……
「女子と寝れなくて残念でしたわね!」
「るっせ」
アカツキの軽薄な煽りを俺はテキトーにあしらった。
別に、誰と寝たいとか、そういう雰囲気になりたいとか……無いからな?
俺たちは仕事で来ているんだからな。うん。
だが、同室の男は仕事とは明らかに無関係なブツを持参しているようだ。
「……おい黒華、1泊にしては荷物が多すぎやしないか?」
「ん?そうかい?」
黒華は平然としているが、無駄にギラギラとした装飾が施された特大の紙袋には、さすがの俺も触れずにはいられなかった。
「その無駄にデカい紙袋、一体何が入ってるんだよ」
「ハハッ☆これかい?」
黒華は躊躇なく中身を俺に見せると、そこには絵に描いたようなバラの花束がみっちりと詰められていた。
「なぜ花束……?お前まさか、こんなところに来て告白でもするつもりじゃ――」
「プロポーズさ」
「あープロポーズね……はぁあああああああああい!?!?!?!?」
理解不能な黒華のパワーワードに、俺の大声が和室の天井を突き抜けた。
当の黒華は、深紅の花束を愛おしそうに見つめながら口元を緩ませている。
「ボクは明日の祭りで、人美センパイに愛のプロポーズを実行するのさ」
「はぁああああああああああああああああああああああい!?!?!?!?!?!?!?」
二度目の大声は、もはや絶叫に近かった。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
陽彩と結衣の成長が垣間見え、物語の舞台は秋田県へ……
そして、予想外すぎる苧環の恋路は如何に!?
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