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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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File.62「令嬢・報酬」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)

  お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆明智 柚葉 (あけち ゆずは) 15歳(高1)

 フレンドリーなクラスのムードメーカー。可愛いものが大好き。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆根茂平 侑 (ねもひら ゆう)16歳(高1)

 陽彩とは隣の席で、清楚な見た目ながら芯が強く、プライドが高い。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳

 厳格な性格で、常に冷静沈着。

 戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。


◆アカツキ

 陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。

 お嬢様口調で、派手な見た目をしている。


◆翡翠 輝羅 (ひすい きら) 45歳

 ヒュドールカンパニー代表取締役社長兼ヒュドール学園理事長。

 行方不明の娘・"葛"を探すため、蘭をクロッカスに入隊させた。

「おやおや、その様子だとホントに知らないようだねぇ」


 黒華は半ば呆れつつも、俺の唖然とした顔を冷ややかな視線で眺める。


「……そりゃそうだろ!てか、何でお前がそんなこと――」


「中等部出身の人間からすれば、こんなの周知の事実さ。蘭センパイの妹さん――”(かずら)”センパイは3年前に突然姿を消し、未だに見つかっていない」


「おいおい!突然って、大事件じゃねぇか!」


 俺は次々と露わになる衝撃の事実に、思わず口元を手で覆い隠した。


 俺の反応を満足げに一瞥した黒華は、ベンチに腰かけ顎に手を当てる。


「そもそも、キミはなぜ疑問に思わなかったのかい?」


「……何の話だよ」


「ヒュドールカンパニーの社長令嬢が、わざわざ死と隣り合わせのここにいるのかをネッ☆」


「んんっ!?待て待て、ヒュドールカンパニーの社長令嬢!?!?そんなの初めて聞いたぞ!?」


 確かに、いいところのお嬢様であることは何となく察していたが、まさかあの大企業のご令嬢だったとは。


「ハハッ☆ヒーロークンは蘭センパイのこと、何も知らないようだねぇ。そんなんじゃ、彼女のハートを射止めるなんて1億年かかっても無理な話だヨッ☆」


「くっ……」


 畳み掛けられるようにして煽られたが、俺は歯を食いしばって苛立ちを抑えた。


 俺が今まで見てきた翡翠先輩は、俺にとってはただ都合のいい偶像に過ぎなかったのかもしれない。


 完璧美少女の裏に潜む闇――刹那、彼女が見せた痛々しい口元の歪みの正体が、静かに姿を現し始めていた。


「じゃ、用も済んだし、ボクはお先に失礼するヨッ☆」


 黒華は立ち上がると、呆然と立ち尽くしている俺の顔を見ることもなく寮へと向かっていった。


 俺は黒華の背中を横目に、スマホを取り出してヒュドールカンパニーのホームページを開く。


 そして、企業情報が記載されたページに移動すると、40代くらいの男性の顔写真が浮かび上がってきた。


「ヒュドールカンパニー代表取締役社長・翡翠 輝羅(ひすい きら)……マジかよ」


 翡翠先輩の父親ということもあり、顔立ちは非常に整っていて、実年齢よりも若くみえる。


 画面を凝視していると、アカツキが隣で怪訝そうな表情を浮かべていた。


「この男、あまり好きではないですわっ」


「んっ、アカツキは面識あるのか?」


「あまり覚えていないですけれど、良い印象が無かったのは確かですわね」


 アカツキにとっては生みの親といっても過言ではなさそうだが……


「……てか、知ってたなら先に言ってくれよっ!!」


「聞かれてませんもの」


「そうだけどよ……」


 アカツキはプイっと顔を背け、対する俺は肩を落としつつ夜空を見上げる。


「翡翠先輩、もしかしたら……」


 最悪の状況が脳裏に浮かびつつも、この時の俺は輝く星々に心を委ねることしかできなかった。



————————————————————◇◆



 ――同日、ヒュドールカンパニー社長室。


「……失礼いたします、お父様」


 荘厳な雰囲気が漂う部屋に、一人の可憐な少女が陰鬱な顔つきで姿を現した。


 一方、男は少女には目もくれず、黙々と手元を動かしつつゆっくりと口を開く。


「……こんな時間に何の用だね」


「呼び出したのはお父様ではございませんか」


 男はようやく手を止め、少女と目を合わせた。


「そうかそうか、そうだったな。いい加減、手掛かりを掴んだであろうと思ってな?当然、何かしらの成果はあるのだろう?我が娘よ」


 男の態度が大きくなる半面、少女は次第に萎縮していく。


 お世辞にも良好な父娘関係とは呼べないだろう。


「……」


 俯きながらだんまりとしている少女に、男は強い憤りを感じているようだ。


「お前をクロッカスに入れたのは間違いだったか……まったく、役立たずめ」


 少女は一歩踏み出し、震える手を胸に当てる。


「いいえ……!わたくしは必ず、葛ちゃんを……!」


「……口先だけの馬鹿娘の言い訳など、笑止千万だな。帰りたまえ」


 縋るような少女の瞳を、男は一瞥もくれずに門前払いにする。


「……失礼いたしました」


 少女は泣き腫らしそうな目元を隠すように踵を返し、部屋を後にした。 


 男は扉の閉まる音を確認してから一息つくと、机に立てかけてある家族写真を眺め、唇を震わせる。


「”零斬(れいざん)”よ……貴様は何を企んでいるのだ……!」


 男は机を拳で強く叩き、抑えていた感情を孤独の空間で撒き散らした。


「娘を……返しておくれ……!ゔぅっ……!!かず……ら……!!葛ぁああああああああっ!!!!!」


 部屋の外まで漏れ出した悲痛な叫び声が、少女の鼓膜に容赦なく突き刺さる。


「……お父様……」


 少女は反射的に耳を塞ぎ、冷たい廊下に蹲る。


 少女の小さな唇から零れ落ちた言葉は、誰かに届くこともなく夜の闇へ消えていった。



————————————————————◇◆



 翌日、翡翠先輩のことを考え続けていると、あっという間に教室へ辿り着いた。


 時間ギリギリということもあり、既にほとんどの生徒が席を埋めている。


「陽彩くん、おはよ〜」


「おはよう……侑さん……」


 俺は目元を擦りながら自分の席に腰を掛けた。


「ありゃりゃ、随分とお疲れだね〜私もだよ〜」


「俺はどちらかというと勉強疲れだけどな……」


 昨晩、4時間分の授業動画を視聴していた俺はそのまま机に突っ伏した。


 正直、今日くらいはサボっても良かったのでは……


「――初日から任務なんて、さっすが精鋭部隊ですぅ~!!」


「おおっ!ビックリした……明智さんは、相変わらず元気そうだな」


 落ちそうな瞼を引っ剝がすように俺の席に飛びついてきた明智は、精鋭部隊に所属する俺や根茂平に羨望の眼差しを向けていた。


「そんなことないですぅ〜!!結衣ちゃんや御角くんと話せる時間が減っちゃって、明智は寂しいのですぅ~!!」


 明智は大袈裟に顔を両手で覆い、根茂平も軽く頷いている。


「うんうん、全員が滅多に揃わない教室って、何だか不思議だよね」


「そうだな、今日も5人くらいは任務に……あれっ、白百合さんは?」


 今日もちらほらと空席があるようだが、そのうちの一人は白百合らしい。


「結衣ちゃん、今日はお休みらしいですよ?」


「えっ?今日は任務ないはずじゃ……もしかして俺だけハブられてる??」


 もしそうだとしたら……俺泣くぞ?


「でも、黒華くんは来てるみたいです~」


 窓側に視線を向けると、普段通り横柄な態度で椅子に腰掛ける黒華の姿があり、俺たちに向かってウインクを飛ばしてきた。


「フッ☆グッモーニン☆」


 逆光のせいで様になっているのが少々腹立たしい。


「じゃあ……違うな」


 初任務で暴れ回ってしまったことを根に持っているのか、単なる疲れなのか……


 ――どちらにせよ、後で様子を見に行ったほうがよさそうだな。


 色々と思考を巡らせていると、牡丹田がいつも以上に固い表情で教卓の前へと現れた。


「――お前ら席につけ。ホームルームを始める」


「んっ、誰だ……?」


 扉の磨りガラス越しに、謎の人影が映っている。


 学園長にしては背が高すぎる気がするが……


「……ゲッ」


 アカツキが人影に視線を向けた途端、変な声を漏らしながら背筋を凍らせた。


「どうした?アカツキ」


 俺は小声でアカツキの異変を心配する。


 だが人影が正体を現した瞬間、俺はその理由を即座に理解することになった。


「本日は、我がヒュドール学園の理事長兼、ヒュドールカンパニー代表取締役社長の翡翠 輝羅 様がお見えになられている。理事長、ご挨拶のほど、よろしくお願いいたします」


「なっ……!」


 なぜ、翡翠先輩の父親がここに……!?


 それに、この学園の理事長まで務めていたとは。


 写真越しで見たばかりの人物が、今こうして目の前に立っている――なんとも不思議な感覚だ。


 そして、翡翠理事長は俺たちを一通り見渡すと、品のある佇まいで教卓に両手を置いた。


「1年生諸君、ごきげんよう。吾輩はこの学校の理事長を務めている、翡翠と申す。娘の蘭がいつも世話になっているな」


 隣の根茂平も突然の来訪者に困惑しており、俺に何度も視線を向け、耳打ちをしてくる。


「ねぇ陽彩くん、もしかしてあの人……」


「あぁ、翡翠会長のお父様だ。俺も昨日知ったばかりだけどな……」


「そうなんだ……」


 外部入学の根茂平も、翡翠先輩が社長令嬢であることは知らなかったようだ。


 翡翠理事長は軽く咳ばらいを挟むと、俺たちに鋭い視線を向けてくる。


「本日、君たちに顔を合わせたのは他でもない。我が愛しき娘、葛の捜索に全面協力していただきたいのだよ」


「……!?」


 驚愕の発言により、教室全体が胸騒ぎの如くざわつき始め、かくいう俺も額に冷汗が滲みだしてきた。


 騒ぎを落ち着かせるためか、横で大人しくしていた牡丹田が口を挟む。


「知らない者も多いかと思うが、生徒会長の妹さんは3年前に姿を消している。我々も捜査を続けてはいるが、一向に手掛かりを掴めていないのが現状だ」


 理事長兼社長の娘の失踪――これは学校運営側も相当重く捉えているようだ。


「そこでだ。”次期社長候補”である我が娘を救い出した者には、特別報酬を与えよう」


 特別報酬……か……


 それよりも、”次期社長候補”ってことは、翡翠先輩は……?


「そこの君、何か質問かね?」


 張り詰めている顔が気になったのか、翡翠理事長が俺に話を振ってきた。


「あっ、いいえ!何でも……」


 もちろん脳内には疑問が溢れかえっているが、どれも本人を目の前にして聞けるわけがない。


 翡翠理事長はこれ以上は踏み込まず、再び教室全体を見渡した。


「コホン……!その報酬とは……」


 俺たちは固唾を呑んで次の言葉を待つ。


「――今後一生遊んで暮らせるだけの莫大な財産、そして……」


 とんでもない報酬に思わず目玉が飛び出そうになったが、そこから言い淀んだ翡翠理事長の口元が、不気味な下弦の月を作り出したのを俺は見逃さなかった。


 この男は、俺には想像もできないほど無慈悲で、薄情な人間なのだ。


 

「――娘、蘭との婚約だ」



 そう感じたのは、きっと俺だけではなかっただろう。


 この男にとっては、血の繋がった娘ですらも、他人を合理的に動かすための駒に過ぎなかったのだ。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


完璧少女だと思われていた蘭の闇が掘り起こされてしまいました。


執拗に葛へ執着している父・輝羅の思惑とは一体……


YouTube&ニコニコ動画にてビジュアルボイスドラマも公開中です♪


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