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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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File.61「彼方・行方」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)

  お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)

 ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。第1部隊(うずらっち)の頼れるリーダー。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。

 時刻、午後4時――


 翼を無事に保護者へ引き渡し、俺たちはうずらっち号に乗りテラに向かっていた。


「うわぁぁぁぁぁあああああああっっっ!!!!」


「んえっ!?どっ、どうしたんですか月下先輩!?」


 絶叫しながら頭を掻きむしる月下先輩に驚いた俺は、思わず手に持っていたタブレット端末を放り投げてしまった。


「……いつものですよ」


 しかし、俺の前に座る桔梗先輩は少し呆れたような口調だ。


「……いつもの?」


 月下先輩の様子を遠目で覗き込むと、彼女の震える手元には薄い卵型の物体が握られている。


「アッ……アタシの”うずらっち”が……死んじまったぁ……ガクッ」


「あぁ……うずらっちね……」


 第1部隊の名前の由来にもなっている”うずらっち”――何十年も前に流行っていた携帯型電子育成ゲームだ。


 まさか未だに遊んでる人間がこの世に存在していたとは。しかも高校生で。


「おいっ!ひいろっち!その冷たい眼差しは何だよっ!」


 うずらっちを愛してやまない月下先輩は子供のように駄々をこねている。


「いやいや、だってうずらっちって、ただの玩具(おもちゃ)じゃ――」


「ひいろっち、お前船降りろ」


「はぁい!?!?!?」


 某海賊の船長みたいなセリフが飛び出してきたが……冗談だよな?


「御角くん、一線を越えましたね」


「陽彩くん、それは良くありませんわ」


 俺を揶揄う時だけ生き生きとしている桔梗先輩に限らず、翡翠先輩まで俺に矛先を向けている。


「えっ……もしかして俺、大罪を犯した……?」


 予想だにしない展開に、俺の額には冷や汗が滲みだしてきた。


 月下先輩は首を左後方に傾け、俺の心臓を貫くほど鋭い視線を向けている。


「いいか陽彩、これはアタシの命よりも大切なモンだ。そこらの玩具とはワケが違う。次うずらっちをバカにしようものなら……”コレ”だかんな」


 月下先輩は俺を睨みつけたまま、自身の首元に一直線に親指を通した。


「ひっ……!!すみませんでした……」


 俺はチビりそうになるのをグッと堪えて月下先輩に頭を下げた。


 まさかあの玩具にそんな思い入れがあるとは……もしかして、よっぽどのレア物なのか?


「はっはっは!ジョーダンジョーダンっ!また一から育てなおすっか~」


 冗談言うテンションじゃねぇ!!!!


 すっかり元気を取り戻した月下先輩は、再びたまごっちをポチポチ弄りだした。


「ふぅ……」


 何とか一命を取り留めた俺は、額の汗を拭いつつ、遠ざかっていく北の大地を一望する。


「翼くん、また会えるといいな……」



————————————————————◇◆



 1時間前――第68コロニー・君嶋宅



「本当に……ありがとうございました……!」


 翼の母親が俺たち一人一人に向けて深々と頭を下げ続けている。


「いえいえ、当然のことをしたまでですから!」


 月下先輩は少し申し訳なさそうに翼の母親に対して笑顔を作った。


「ほら、翼もお礼言いなさい」


「……」


 翼は不貞腐れながら母親から目を逸らす。


 この感じ、思春期の少年らしいな。


「こらっ!」


「イデッ!!」


 母親の拳が翼の頭に容赦なく振り下ろされた。


「……その……あ、ありがとう」


 翼は頭を押さえながらぎこちなく俺たちに感謝を告げ、照れ臭そうに頬を赤らめる。


「ございます!でしょ!」


 今度は翼の耳たぶを思いっきり引っ張った。


「イデデデデデデデッ!!!!ありがとうございますっ!!!!」


 翼は目元に涙を浮かべ、ようやく反省の色を見せた。


 何となく予想はついていたが、翼の母親は真面目で責任感の強い人だ。叱責しつつも、大切な息子の帰りを今か今かと待ち望んでいたのだろう。


 そして、月下先輩は翼の頭に掌を乗せ、笑みを浮かべる。


「ははっ!家出なんてもうすんじゃねーぞ?」


「……もう懲り懲りだよ」


 俺たちが見つけなければ、この子は間違いなく餓死するか、トキシーに惨殺されていたことだろう。


 臨死体験を経て、彼は今後の人生をどのように歩んで行くのか。


 俺に出来ることは、ただ祈ってあげることだけだ。


 雑務を一通り終えた月下先輩は俺たちに目配せをし、翼に小さく手を振る。


「じゃ、元気でな」


「うんっ!」


 月下先輩に続き、俺も翼に別れを告げようとした、その時……


「……そうだ、陽彩!」


「んっ、俺か?」


 翼が俺を呼び止め、俺に耳打ちをしてくる。


「オレ、小さい頃は夢があったんだ」


「夢か……聞いてもいいか?」


「宇宙飛行士さ。勉強が大変だって知ってからは諦めちゃったけど」


 翼は母親を横目に、どこか虚しそうな表情を見せた。


「オレの父さんは旅客機のパイロットだったんだ。母さん曰く、仕事にすごく誇りを持ってたらしい。でも、”トキシー・カタストロフィ”で仕事を失っちゃって……」


 あの大事件が起きてから、この国の観光業は大打撃を受けてしまった。


 君嶋家はその直後母子家庭になったらしいが、別れてしまった原因も何となく予想がつく。


「この名前も、父さんが名付けてくれたんだよ。母さんが勉強しろってうるさかったのも、この夢を諦めないで欲しくなかったからなんだと思う」


「きっとそうだな」


 口ぶりや表情からするに、翼は父親のことを心から尊敬しているのだろう。


「さっきうずらっち号に乗せてもらったときさ、ほんの数分だったけどスゲー楽しかったよ!オレの住む町があんなに小さく見えて――宇宙に行ったら、もっと小さく見えるんだろうなって」


「ああ、きっと見えないくらい小せぇぞ!それに、宇宙は比べ物になんねーくらいデカい!」


「だよな!!」


「へへっ」


 俺たちは互いの興奮した顔を見つめ合い、それが何だか可笑しくなって笑みが零れた。


「……オレ、勉強頑張ってみるよ。友達と別れるのは辛いけど、夢に挑戦できるのって、多分幸せなことなんだと思う」


「幸せ、か……そう、だよな」


 胸の奥を突かれたような気がした。俺の夢――遠い昔、自分は何になりたかったんだっけ。


 忘れてしまうほど泥に塗れて生きてきた俺の視界を、翼の真っ直ぐな瞳が射抜く。


 気がつけば、翼が俺の手を両手で強く握り締めていた。


「だからさ、陽彩も夢を叶えるために頑張ってね!」


「――ああ、約束な!」


 交わした握手は、驚くほど力強かった。

 

 宇宙の彼方を目指す彼の夢を守るためにも、まずはこの歪んだ世界に平和を取り戻さなきゃならない。自分の夢なんて、その後でいくらでも探せばいい。


 背中に受ける陽光が、俺の拙い使命感をじんわりと熱く染め上げていくのが分かった。



————————————————————◇◆


 

 俺たちはテラに到着し、ターミナルのエントランス前で輪になっていた。


 月下先輩は腕を組みながら、俺たちの顔を見渡している。


「いやー、初日から大変だったな。でも、一人一人がしっかりと役目を果たせていたから、アタシ的には100点満点だ!今後も、よろしく頼むぞっ!」


「――はいっ!」


 俺は月下先輩の鼓舞に元気よく応えた。



 解散して間もなく、俺はスマホの教材アプリを開いて溜息を零す。


「はぁ……あとは数学と……現代文と……やべ、吐きそう」


 うずらっち号での移動時間が想像以上に短く、今日分の授業動画を半分以上溜めてしまっている。


 こんなもの放置して今すぐにでも帰って寝たいところだが……


「あっ、そうだ!」


 俺は別の用事を思い出し、即座にある人物の背中を追いかける。


「あのっ!翡翠先輩!!」


 俺は翡翠先輩と桔梗先輩が並んで帰っているところに割って入るようにして呼び止めた。


「……外しましょうか?」


 空気を読もうとしたのか、桔梗先輩は先に行こうとしてしまう。


「あぁ……えっと……すぐ終わりますので!」


「……そうですか」


「では、海辺の公園にでも寄りましょうか♪わたくしのお気に入りの場所ですの♪」


 翡翠先輩は俺の無理な要求にも笑顔で応じるだけでなく、場所まで提案してくれた。


 彼女はやはり神の末裔なのかもしれない。


「……はいっ!是非!」


 それから俺が連れられてきたのは、寮からすぐ近くに位置する海浜公園だ。


 陽が傾き始め、夕焼けに照らされた東京湾はざわめくように輝きを放っている。


「どうかしら?ここからの眺めは」


 翡翠先輩は嬉しそうに海を一望し、彼女の艶髪も波打つように潮風に当たっていた。


 そんな彼女の横顔は幻想的で、刹那的だった。


「……めっちゃ、綺麗です……」


 ふと、彼女を眺めながら言葉が漏れ出した。


「ふふっ♪お気に召していただけて嬉しいですわ♪」


 彼女の笑顔に釣られそうになりながらも、俺は上がりそうな口角を無理矢理に戻す。

 

 ずっとこの時間が続けばいいのに……なんて甘い妄想はさておき、俺は本題に入ろうと口を開いた。


「それで……その……」


「任務中に話そうとしていたことかしら?」


「まあ、そうですね」


 俺は一息つき、翡翠先輩の顔を直視する。


「翡翠先輩にお礼の言葉、まだ伝えてなかったので!」


「お礼……もしかして、去年の?」


「はいっ!あの時は、本当にありがとうございました!!」


 覚えていてくれた嬉しさと、ようやく伝えることができた嬉しさが重なり、俺は一際大きな声で感謝を伝えた。


「ふふっ♪別に気にしなくてもいいのよ?クロッカスとして当然のことをしたまでだから」


「でも……あの時、翡翠先輩の助けが無かったら、俺はここ(クロッカス)には居ません。貴方の勇敢な姿に憧れて、背中を追いかけてきました」


「まぁ……!光栄ですわ♪」


「ホントは入学してすぐにお伝えしたかったんですけど……タイミングをずっと逃してしまって……」


「ふふっ♪クロッカスに入ってきてまで言ってくれるなんて、陽彩くんは真面目さんだねっ」


「あ、いや……そんなことは……」


 俺は困惑しつつも、照れ隠しのためにそっぽを向いた。


 もしも助けてくれたのが翡翠先輩ではなく、他の誰かだったとしたら――俺は同じようにここ(クロッカス)に居たのだろうか。


 あの日の出来事を想起していると、ふと俺の脳内に疑問が浮かんだ。


「そういえば、あんな山奥で俺を見つけられたのって、もしかして偶然……?」


 俺はメモリングを外して家出をしていた。それにかなりの距離を移動していたから、位置情報の特定も困難だったはずだ。


「あら?もしかして聞かなかったのかしら……」


「……?」


「陽彩くんの捜索届をクロッカスに出されていたのは、御家族の方だったのだけれど……あそこの山奥に居るかもしれないという情報を提供してくださったのは、陽彩くんの担任の先生だったの」


「乙桐先生が?でも何で……」


「私たちも深くは追及しなかったわ……でも、この辺りで警備クローの監視が行き届いていないのは、そこの山ぐらいだろうって……それで、ダメ元で向かってみたら陽彩くんが木陰で蹲っているのを見かけたの」


「はぁ……不思議なこともあるもんですね」


 今まで言及してこなかったが、まさか乙桐の神の一手によって俺の命が救われたとは。


 いつか機会があれば感謝を伝えたいところだな。


「翡翠先輩、お忙しい中ありがとうございました」


「いえいえ、お構いなく♪他にも聞いておきたいことはあるかしら?」


「他にも……」


 彼氏はいるのか?』とか『好きなタイプは?』とか聞いてみたいものだが、少し離れたベンチに座る桔梗先輩に殺されそうなのでやめておこう。


 それよりも、俺は数時間前の出来事が脳裏にちらついてしまった。


 彼女の真っ直ぐな聖女のような笑顔。そこに、数時間前の戦闘後に見せた、あの痛々しく歪んだ唇の残像が重なる。


 途端に、俺の背筋を冷たい悪寒が駆け抜けた。


 答えを知りたい。だけど、これ以上踏み込めば、彼女を縛る剥き出しの何かに触れてしまう――本能的な恐怖が警鐘を鳴らしていた。


「……いいえ、大丈夫です!お疲れさまでした!」


「ええ、お気を付け――」


 俺は彼女の言葉を聞く前にその場を飛び出してしまった。


 これ以上踏み込むと、俺の中で何かが壊れてしまう気がしたのだ。


 寮まで一直線に向かっていると、公園の外縁に生えた木の陰から、いけ好かない声が飛んでくる。


「やあやあ、ヒーロークンッ☆」


 解散して寮に戻っていったはずの黒華が薄ら笑みを浮かべていた。


「なっ!?何でこんな所にお前が……」


「ハハッ☆失礼だなぁ~、ボク抜きで楽しそうな密会をしていたみたいだから、ちょっと覗かせてもらっていただけさ」


「……別に、そんな大した話はしてねぇよ」


 歯切れの悪い返事をした俺を訝しげな目で見つめる黒華は、俺の耳元に顔を近づける。


「さては……愛の告白カナ?」


「バカっ!ち、ちげぇわい!」


「ハハッ☆蘭センパイとキミじゃ、月とスッポンくらい差があるからねぇ。精々ボクくらいのスペックの高さでないと……ねッ?」


 こんな話をするためにわざわざ出待ちをしていたとは、あまりにも暇人すぎやしないか……?


 それに俺たちは月とスッポンどころか、アルタイルとゴキブリくらい差があるからな。


 翡翠先輩を過小評価し過ぎたぞ、黒華。


「……ったく、俺は帰るぞ」


 冷やかしに付き合っている暇は無いと、背を向けたその時――


「――知りたくないのかい?」


 背後から響いた黒華の声から、すっと温度が消え、俺は思わず足を止める。


「……何をだよ」


 ゆっくりと振り返ると、黒華は夕闇の中で、悪魔のような不敵な笑みを浮かべていた。


「蘭センパイのヒ・ミ・ツを」


「……それは、アレか?『彼氏はいるのか?』とか『好きなタイプは?』とか」


 努めておどけてみせる俺を、黒華の冷徹な両眸が見下ろす。


 じりじりと狭まる距離。耳元に吹き付けられた囁きは、あまりにも残酷で鋭利なナイフだった。


「――蘭センパイには、行方不明の双子の妹がいる」


「……!?!?」


 頭を殴られたような衝撃に、俺の思考は完全に停止した。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


蘭には双子の妹が……ここにきてまさかの衝撃事実ですね。


何故、苧環は知っていたのか。何故、このタイミングで暴露したのか。


黒華苧環の謎がますます深まっていきます。


YouTube&ニコニコ動画にてビジュアルボイスドラマも公開中です♪


↓下記URLよりご覧いただけます☺️↓

https://www.youtube.com/watch?v=5mCj5bY2rAI&list=PLh-u7PjjPcTPlayuqAarIKzDpkoxIinIl


https://www.nicovideo.jp/user/142201767/series/537295


ボイスドラマに出演していただく声優様も随時募集していますので、そちらも併せてご覧くださいませ。


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