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サイレント・ベルフラワー  作者: ProjectAI.【プロジェクトアイ】
◇ Program Ⅴ ◆

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55/60

File.55「集結・評価」

◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)

 本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)

  本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)

 人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士(バーサーカー)化する。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)

  お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)

 ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)

 クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。

 ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。


◆アカツキ

 陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。

 お嬢様口調で、派手な見た目をしている。

「ふぁぁぁぁ……ねみぃ……」


 翌朝、俺は目元を擦りながら学校へと向かう。


 昨晩は色々考えすぎて、十分に眠れなかった。


「マスタークロッカス……ねぇ……」


 混濁した脳内を整理しつつ左右にふらつきながら歩いていると、メモリングの通知が鳴った。


「ん?なんだ朝から」


 うずらっちのグループチャットに一件のメッセージが届いた。差出人は、月下先輩だ。


『みんな、おはよ!今日の放課後、東館1階の会議室3に集合でよろ!』


「いよいよか……『了解です』っと」


 簡潔に返信を送ると、即座に2年生組の既読が付いた。


『かしこまりました』


 桔梗先輩、文面上でも堅苦しいな……アイコンも初期設定から変えてないし……


 一方、翡翠先輩は可愛らしい猫の『OK』スタンプを送信していた。


 それにしても不思議なものだ。可愛い人が送るスタンプって何でこんなにも愛おしく見えてしまうのだろうか。不覚にも口元が緩んでしまう。


「――って、いかんいかん!翡翠先輩はあくまで仕事仲間だろ!線引きはちゃんとしないとな、うん」


「まったく、朝からゴチャゴチャ騒がしいですわね」


 頭を引っ掻き回している俺を一瞥(いちべつ)したアカツキは、やれやれと首を左右に振っていた。


「いいだろ別に。それよりも、お前の調子は大丈夫そうなのか?いざ実戦で充電切れとか不具合とか起こされたらたまったもんじゃねぇぞ?」


「ふんっ!ミーの心配よりもまずは自分の心配をするべきではなくって?」


「あーはいはいその通りですね。すみませんでした優秀なルミナスクローさんっ」


「優秀……えっへん!ですわっ!」


 雑な誉め言葉を放った途端にアカツキの機嫌が良くなり、軽快なステップを刻みながら俺の先を進んでいった。


「なんて都合の良い耳をしていやがるんだ……」


 もはやこのポンコツAIも可愛く思えてきたぞ。



————————————————————◇◆



 放課後、うずらっちのメンバーは定刻通り会議室3に集合した。誰かさん(黒華苧環)のせいで6人がちゃんと揃ったのは今日が初めてだ。 


「それじゃ!第1回うずらっち定例会議を始めるぞっ!」


 モニターの目の前に立っている月下先輩が親指をグッと立て、満面の笑みでチームメイトを見渡す。


「ひゅーひゅー☆」


「よっ、リーダー♪」


 黒華と蘭先輩が月下先輩を鼓舞した。黒華にとっては、歓迎会をサボった後ろめたさなど微塵も無いのだろう。


「コホン……!じゃ、改めて……」


 軽く咳払いをした月下先輩は、胸元に手を置き大きく息を吸い込む。


「月下人美、うずらっちのリーダーだ!ヨロシクッ!ついでに、アタシの相棒は”ムーン”だ。可愛いだろ?」


 月下先輩の足元では、凛々しい顔立ちのルミナスクローが元気よく飛び跳ねていた。


「うぅん、素敵だぁ☆是非、ボクの”ミカエル”とも仲良くしてもらいたいねぇ」


 黒華は相棒のミカエルをムーンに近づけ、半ば強制的にスキンシップを取らせようとしている。ミカエルも自己評価の高さは黒華に負けず劣らずなようで、ムーンに対し色目を使い始めた。


「あぁ、大歓迎だぞっ!」


 黒華の馬鹿げた要求にも月下先輩は快く応えている。俺だったらミカエルごと殴り飛ばしてしまいそうだ。


「さて……レエナと蘭はもう分かってると思うけど、改めてクロッカスの任務について説明するぞっ」


「よろしくお願いします……!」


 変な茶番が終わり、ようやく本題に入るようだ。俺はいち早く頭を下げ、白百合がそれに続いた。


 間もなくして部屋の照明が消え、前方のモニターにスライドが映し出される。


「アタシ達を含む”精鋭部隊”は、マスタークロッカスから招集がかかると優先的に出動する部隊だ。もちろん、クロッカスに直接依頼が入ってくることもある。場合によっては任務が突発的に発生するから、常に気を引き締めておくといいぞっ」


「突発的に……てことは、授業中とか寝てる時とか――」


「関係ないですね」


「Oh……」


 前方に座っていた桔梗先輩に二つ返事で否定されてしまい、俺はガックリと肩を落とした。


 分かってはいたが、平穏な高校生活とは今日限りでおさらばだな。


「陽彩くん、大丈夫?」


「ひ、ひゃいっ!!だいじょーぶじぇごじゃーましゅ!!!」


 突如、左前方から翡翠先輩の上目遣い (フローラルの香り付き) が直撃し、俺は動揺して噛みまくってしまった。


「……ひいろっち、もしかして具合でも悪いのか?」


「あっ、いいえ……ホントに大丈夫です……」


 月下先輩は心配してくれているが、桔梗先輩は呆れて再び背を向けてしまった。(ほの)かに冷えたため息を残して。


「そっか、じゃ、続けるぞっ」


 月下先輩は脱線した会話の軌道を直ぐに戻した。


「うずらっちは集団行動厳守、任務中はアタシの指示を絶対に守ってくれ。それと、サブリーダーはレエナにお願いしたいんだが、頼んでもいいか?」


「ええ、喜んで承ります」


 桔梗先輩はその場に立ち上がると、近寄ってきた月下先輩と熱い握手を交わした。


「おう!サンキューな!もしもアタシが不在の時は、色々頼んだぞっ」


「ええ、お任せください」


 学年主席の二人が目の前で固く結んだ誓約――今の俺には遠すぎる場所だ。


「それと……基本的な班の役割を考えてきたから、周知しておいてほしい」


 モニターには簡易的に作成された”3DCG”のアニメーションが映し出された。


「アタシは司令塔として、チーム全体の動きと位置を把握しつつ、いざとなったときに加勢する。基本的には、ゆいっちと苧環に前衛で頑張ってもらって、レエナは中衛、蘭には後衛を任せたいと思ってる」


「えっと……月下先輩、俺の役割は?」


「そうだな……ゆいっちの行動管理をしつつ、レエナの補佐を頼みたい。レエナは優秀だから、知識や技術はじゃんじゃん吸収していくといいぞっ」


「えっ、桔梗先輩のですか?」


 この中で圧倒的に戦闘能力が低いであろう俺が白百合の行動管理と中衛補佐――そんなことまで任されて大丈夫なのだろうか。


「……まあ、中衛はかなり複雑な戦術が求められますから。私一人では心(もと)ないですし、それが最適解かと。それに、学年が上がればそのうち私と同じ役を担うでしょうから」


「なるほど……」


 桔梗先輩が納得しているなら謎の安心感があるな。


 とはいえ、桔梗先輩でもギリギリな役回りなら、キャパオーバーは必至だろうけどな……


「御角さんっ、すみません……結衣が御角さんの負担を増やすことに……」


 隣に座る白百合が申し訳なさそうに眉を(ひそ)めた。


「いやいや、分かってたことだから気にしないでくれ。お互い、チームメンバーとして支え合っていこうな」


「ひゅーひゅー☆さっすがヒーロークンだねぇ」


 俺が白百合の肩に掌を翳していると、黒華は大袈裟に手を叩き、ニンマリとほくそ笑んだ。


「……何が言いたいんだよ、黒華」


「いやいや~お気になさらず、続けてくれたまえ」


「んだよ……」


「……」


 白百合は黒華に拒絶反応を示すかのように縮こまってしまった。


 やはり黒華と同じチームだなんて生き地獄も同然だ。恐らくコイツは、チームメイトが命の危機に晒されたとしても、己の思うがままに行動するのだろう。


 黒百合以上の大きな問題に、俺は早くも気圧(けお)されてしまいそうになっていた。


 それから約1時間に(わた)り、フォーメーションのチェックや業務内容の説明が事細かく行われたが、後半の話は俺の小さな脳内にはほとんど入ってこなかった。ダメだと分かっていながらも寝息を立てていた可能性さえある。


「――とりま、最初の任務は明日の朝8時からだ。詳細は当日移動しながら話すから、今日はゆっくり休んでくれ。じゃ、解散!」


 俺が呆けている間に室内の照明が灯り始め、定例会議はあっさりと幕を閉じた。


「グッナイ☆可憐なお嬢様方ッ☆」


 黒華は前髪を掻き上げると、一足先に会議室を後にした。


 俺もいそいそと立ち上がり荷物を纏めていると、桔梗先輩が周囲を警戒しつつ、俺の耳元に顔を近づけてくる。


「……御角くん、ちょっといいですか」


「ん、俺ですか?」


「すぐに、終わりますので」


 俺にしか聞こえないように囁くと、桔梗先輩は流れるように扉へと向かった。


「……何だ?」


 俺は疑問を抱きつつも、桔梗先輩の後に続いた。



————————————————————◇◆



「えっと……ここは……」


「学生会館内のカフェですよ。もしかして、ご存じでないのですか?」


「この俺に一緒に行くような友達や恋人がいるとでも?」


「ふふっ、愚問でしたね」


 俺の自虐には素直に笑ってくれるらしい。桔梗先輩は本当に性格がよろしいな。


「ヒイロには学食ボッチ飯がお似合いですわね!やーい!ボッチ!」


 金魚の糞(アカツキ)が加勢してきた。


「ボッチじゃねぇし!学食美味ぇし!」


「あ、そ」


「コイツ……!」


 俺への煽り性能だけは日々上昇中らしい。アカツキは本当に性格がよろしいな。


「……行きましょうか。お茶代くらいは出しますので」


「あ、はい、ごちそうさまです……」


 桔梗先輩は手慣れた様子で店内の自動発券機に人数と注文内容を入力し、窓際のテーブル席へと向かった。


 着席してから間もなく、俺は薄暗い照明に照らされた店内をキョロキョロと見渡し始める。

  

「どうされましたか?落ち着きが無いようですが」


「いやだって、お客さん女の子ばっかだし……数少ない男もほとんど彼女と来てるし……」


 この状況、とてつもなく気まずいぞ……もしもクラスの連中に見られでもしたら……


「時間も無いですし、手短に済ませましょうか」


「桔梗先輩はこういうの気にしないんですね……」


「……何の話でしょうか?」


「……いや、何でも」


 こういう時は頬を赤らめて黙り込むのがクール系女子のお決まりだと思うんだが――ここまでフラグが立たないとなると、もはや清々しいまである。


「御角くんは、第1部隊のメンバーについて、思うところはありませんか?」


「思うところ……?うずらっちのですか?」


 唐突に質問を挟んできた桔梗先輩は静かに頷いた。


「そうだな……やっぱり最初に疑問に思ったのは、『何で俺が選ばれたんだろ』ってことですけど……それは”白百合さんとの共闘を見てたから”って月下先輩が説明してくれましたし、特に思うところは――」


「すみません、質問を変えましょうか。精鋭部隊の1年生、一体どんな基準で選出されたと思いますか?」


「んえっ、そうだな……」


 どうやら期待していた回答とは違っていたらしい。確かに、うずらっち以外の選出方法は公にされていなかったはずだ。


 精鋭部隊に選出された1年生は俺を含め9名。そこには根茂平 侑や田中 大葉(たいよう)、橋本 (はじめ)といった成績優秀者が名を連ねていた。


「単純に試験結果の上位の生徒かと思ったんですけど……それなら俺は選ばれないはずだし、明智さんだけ精鋭部隊に選ばれなかったのもおかしい……よな?」


「ですね。御角くんのグループの試験結果は下位でしたし、その考察は間違っています」


 気を遣うわけでもなく、はっきりと現実を突きつけて否定された。


「……じゃあ何なんですか」


 俺は半ば不貞腐れつつも答えを聞き出す。


「第1部隊は月下先輩による独断ですが、他の部隊はある基準によって選出されています。それが、クロッカスの”クワッドファクター”と呼ばれるものです」


「……クワッドファクター?」


 聞き慣れない単語に俺は思わず首を大きく傾げた。


「はい。戦闘能力・判断力・精神力・協調性の4項目を10段階で評価したシステムの総称です。”クワッドファクターポイント”、通称・”QFP”は、入学試験からライセンス試験までの活動を基準に、AIによって自動算出され、総合点が高く且つバランスが優れているほど、戦闘員としての評価が高くなります。このQFPはメモリングを介して随時更新され、QFPが最も高い生徒が学年代表を務めることになります」


「なるほど……そんな重要なことを、指揮官や桔梗先輩は何故黙ってたんですか?」


「これは、昨年度から導入された試験的なシステムですので。知っているのは一部の生徒のみです。今後、クロッカスの全生徒に周知させる可能性はありますが……生徒の目的が人助けではなくQFP稼ぎに変わってしまうことを恐れているかもしれません」


「えっ……そんなことを俺に喋っちゃって良かったんですか?」


 知っている一部の生徒というのは、桔梗先輩や月下先輩などのQFPに拘らず人命救助を第一に考える優秀な生徒――つまりは、牡丹田が一目置いている生徒なはずだ。


「指揮官の許可は得ていますから。それに君は私の弟子であり、チームメイト。学年代表を狙ってもらわなくては、私の面子(めんつ)が潰れてしまいますので」


「代表ったって……1年の代表はもう決まってるんじゃ……」


「いいえ、まだ決まっていません。ライセンス試験終了時点でQFPが同点だった生徒が2名いますので」


「……!」


 桔梗先輩が俺を呼び出した理由――ようやく解ったぞ。


 俺は席を立ちあがり、鼻息を荒くして身を前に乗り出す。


「そ、それってもしかして、黒華と、お――」


「いいえ、第2部隊の根茂平 侑さんです」


「あっ……侑さんね……」


 期待した俺がバカだった――と言いたいところだが、この流れで俺じゃ無いことあるか!?


 意地悪なだけなのか、それとも天然の悪女なのか……


「この後18時から、クロッカス訓練場にて黒華くんと根茂平さんの接近戦が行われ、勝者が本年度1年生の代表となります」


「はぇ……」


 悪い意味で肩の荷が下りた俺には大して興味のない話だ。根茂平の実力は未知数だが、学年敵無しの黒華が負けるとは考えにくい。


「御角くんも観て行かれますか?」


「えっ、俺が?」


「君の士気を上げるためにも、必要なことかと」


「士気……ね……」


 あまり気乗りしないが……とはいえ桔梗先輩に逆らうわけにもいかず、俺は渋々目の前の紅茶を啜った。


「……苦ぇ」


 俺のQFP――気にはなるものの、現実を叩きつけられる恐怖が先行し、どうも聞き出す勇気は出なかった。


気乗りがしなかったのも、己の弱さから逃げ出したかっただけなんだろうな。

こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。


うずらっちの活動がいよいよ幕を開け、陽彩は複雑な想いを背負い、任務へと向かっていきます。


そして、QFPによる評価システム――陽彩にはかなり刺さったと思います。


(QFPが後に大きな混乱を招くことになるとも知らずに……)


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