File.54「代表・憎悪」
◆御角 陽彩 (みかど ひいろ) 15歳(高1)
本作の主人公。運動神経抜群だが能天気。瀕死体験をきっかけにクロッカスを志した。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆白百合 結衣 (しらゆり ゆい) 15歳(高1)
人見知りな性格だが、トキシーを前にすると狂戦士化する。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆桔梗 レエナ (ききょう れえな) 16歳(高2)
本作のメインヒロイン。口数が少なく、感情表現が苦手。陽彩の専属コーチ。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆翡翠 蘭 (ひすい らん) 17歳(高2)
お淑やかな性格で、ヒュドール学園高等部の生徒会長を務めている。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆月下 人美 (つきした ひとみ) 17歳(高3)
ギャルメイクと"うずらっち"が趣味の姉御肌。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆黒華 苧環 (くろばな おだまき) 15歳(高1)
クロッカス入隊試験首席合格の優等生だが、キザで性格に難あり。
ヒュドール学園高等部戦闘護衛部隊"クロッカス"に所属している。
◆牡丹田 朱里 (ぼたんだ あかり) 27歳
厳格な性格で、常に冷静沈着。
戦闘護衛部隊"クロッカス"の総指揮官を務めている。
◆アカツキ
陽彩の相棒である初代ルミナスクロー。かつては牡丹田朱里のパートナーだった。
お嬢様口調で、派手な見た目をしている。
◆黒華 梛李阿 (くろばな だりあ) 28歳
苧環の兄で、マスタークロッカスの代表を務める厳格な男。
「桔梗先輩に……翡翠先輩!?!?」
俺は思わず心の声を漏らしてしまった。
青天の霹靂とは、まさにこのことを言うのだろう。桔梗先輩はともかく、翡翠先輩と同じチームに所属することになるとは……
俺の動揺に気がついた月下先輩は、微笑みながら俺の背中を軽く叩く。
「おっ?もしかして知り合いか?」
「えっと……まあ、色々ございまして……」
俺は翡翠先輩からそっと目を逸らした。
彼女はあの時のことを覚えているだろうか……どちらにせよ、心の準備が圧倒的に足りていない。
「そっか!だったら話は早いなっ!」
「んえっ!?ちょっと!!」
月下先輩は俺の心情など当然知るはずもなく、俺の背中をグイグイ押して翡翠先輩との距離を強引に近づける。当然、彼女と目が合った。
「えっと……その……」
「ふふっ、よろしくねっ♪結衣ちゃんと……陽彩くんっ♪」
翡翠先輩は困惑する俺に気を遣うようにして、お淑やかに首を傾げて微笑んだ。
「……よろしくお願いしますっ!と思います……」
俺よりも先に、白百合が深々と頭を下げた。
「ウェッ!はっ、はいっ!!よ、よろしゅくおなぎゃあしゅます!!」
一方、動揺がピークに達した俺は、挨拶が”しどろもどろ” になってしまった。
あぁ……絶対キモがられたよな……
とはいえ、いきなり名前呼びは刺激が強すぎやしませんかね……?
『蘭先輩』とかゼッテー言えねぇよ……
脳内の俺が肩を落としていると、月下先輩が辺りをキョロキョロと見渡し始める。
「そーいえば、苧環は一緒じゃないのか?」
「あれっ、確かに……」
「教室には残っていなかったと思います……」
白百合の言う通り、俺たちが教室を出た頃には黒華は残っていなかったはずだ。てっきり既に会場入りしているものだと思っていたが……
「……ま、無理もないか」
意味ありげな言葉を吐いた月下先輩を横目に、桔梗先輩は俺に視線を向ける。
「まあ、事情は様々ですから」
「事情……ですか……」
桔梗先輩は、深入りすることは避けるべきだと諭しているような素振りを見せた。
少々気まずい空気が流れているが、月下先輩はお構いなしに俺たちの背中を軽く叩く。
「ささっ!そろそろ会が始まるから、席に座りな!ひいろっち!ゆいっち!」
「はいっ!……ん、ヒイロッチ?」
ヘンテコなあだ名をつけられた気がするが、多分聞き間違いだろう。むしろ聞き間違えであって欲しい。
それから間もなくして会場の照明が暗くなり、簡易的に設置されたステージで待機している牡丹田が、マイクを片手に周囲を見渡していた。会場は徐々に静まり返り、生徒の注目は自然と牡丹田に集まっていく。
そして、牡丹田がマイクを口元に近づけた。
「ただいまより、戦闘護衛部隊クロッカス懇親会を執り行う」
随分と堅苦しい挨拶に、会場は妙に重苦しい雰囲気になってしまった。
そんな気まずさを誤魔化そうと、牡丹田は軽く咳払いをする。
「……えー、まず初めに、クロッカスの生徒諸君。ご多忙の中集まってくれてありがとう。改めて、総指揮官の牡丹田朱里だ。今年度は新入生41名を迎え入れ、明日から新体制として活動することとなる。まずは本日の懇親会で、チームメンバーとの親交を深めてくれたまえ」
調子を取り戻した牡丹田は、普段通りに淡々と話を続けた。
「そうだな……この場で堅苦しい話をするのも何だが……我々クロッカスは、人類の安全、もとい命を保障する実力組織だ。たとえ犠牲が生じようとも、我々人類の平和を取り戻すため、己の限りを尽くして欲しい。私からは以上だ」
「犠牲……か……」
この会場にいる人間のうち、何人が命を落とすことになるのか――考えるだけで背筋が凍りそうになる。
牡丹田自身も、目の前で仲間の命が失われる瞬間を何度も目の当たりにしてきたのだろう。彼女の瞳の奥には、内に秘める闘志が宿っていた。
「続いて、”マスタークロッカス”代表、黒華 梛李阿よりご挨拶を承る」
「んっ、黒華……ってまさか……」
”マスタークロッカス”――クロッカス卒業後、大半の生徒が所属することになる大人のクロッカスだ。全国各地に点在し、コロニーの警護やトキシーの討伐を行っている。
その代表の名字が黒華らしいが、ただの偶然だろうか……
牡丹田が壇上から降りると、一際背の高い男が堂々とした足取りでステージの中心に置かれたマイクスタンドの前に現れ、刃物のような鋭い目つきで会場を俯瞰した。年齢は恐らく20代後半――牡丹田と同じくらいだろうか。
「マスタークロッカス代表、黒華 梛李阿だ。新入生諸君、ようこそクロッカスへ。心より歓迎するぞ」
厳格な顔つきとは裏腹に、黒華代表は両手を広げて俺たち新入生を温かい目で見渡した。
「入ったばかりの諸君にこんなことを言うのは野暮かもしれんが……」
黒華代表は瞳を閉じ、深呼吸を挟んでから開眼する。
「――君たちに、己の命を捨てる覚悟はあるか?」
「……」
刹那、彼と目が合ったような気がした。
俺はこの問いに、二つ返事でYESと答えることができない。
いざトキシーに惨殺された己の姿を想像したら、吐きそうになるほど悪寒が走った。
「もしも今、少しでも揺らいだ者は、まだクロッカスとしての自覚が足りていない。君たちの先輩は皆、国民の希望を背負い、覚悟を持ってこの場にいる。それを忘れるな」
「……俺もまだまだだな」
己の未熟さに、つい弱音が零れてしまった。
隣に座る桔梗先輩も、常に笑顔を絶やさない翡翠先輩も、死と隣り合わせの任務を日々こなしているのだ。今の心持ちでは、チームの足を引っ張るに違いない。
途端に、彼女らの存在が遠いものに感じてしまった。
「俺からは以上だ。君たちの健闘を祈っている」
黒華代表は一礼すると、牡丹田に軽く会釈をしつつ、会場を後にした。
会場が静まったのを確認し、牡丹田が再び咳払いをする。
「……では、残りの時間は各班での歓談を楽しんでくれたまえ。明日以降の活動内容については、リーダーからの指示を仰ぐように。以上だ」
牡丹田が降壇すると、消えていた照明が次々に灯り、会場も同様に明るい雰囲気へと戻っていく。
「さーてと!みんな好きな物食えよっ!明日から忙しくなるからなっ!」
月下先輩は立ち上がり、チームメンバーを見渡して手を鳴らした。
複雑な心境ではあるが、俺も笑顔で月下先輩の鼓舞に応える。
「……はいっ!いただきます!」
————————————————————◇◆
懇親会は終盤を迎え、料理を食べ終えた俺たちは、他愛もない会話を挟みながら寛いでいた。
基本的には月下先輩が会話の主導権を握っているが、俺は隙を突いて”ある質問”を月下先輩に投げかける。
「そーいえば、このチーム編成は指揮官が考えたんですか?俺と白百合さんがセットだし……」
「いや、全員アタシの推薦だぞっ!」
「えっ、月下先輩のですか?」
てっきり牡丹田の独断と偏見で決めているものだと思っていたんだが……
「おうよ!ライセンス試験、お前たちの様子を見させてもらったよ。実に見事だったな!」
「いやいや、俺は別に……」
視線を逸らしつつ謙遜していると、その先に座っていた翡翠先輩が俺に眩い笑顔を向ける。
「わたくしも、お二人の活躍には感動いたしましたわ♪」
「うへっ、そーすかぁ??」
「キモキモヒイロ」
俺の足元で大人しくしていたアカツキが唐突に喋りだした。
「聞こえてんぞーアカツキ」
「フンッ!ですわっ!」
何故か拗ねた。何だコイツ。
「うーん、苧環も来てくれたら良かったんだけどな……」
月下先輩は眉間に皺を寄せ、唸り声を上げながら首を傾げる。
俺は月下先輩に耳打ちするようにして再び質問を投げかけた。
「あのー、黒華 梛李阿さんって……」
「ああ、苧環のお兄さんだ」
「やっぱりか……」
黒華が会場に来なかった理由――マスタークロッカス代表を務める兄への対抗心によるものなのか、あるいは……
「組織内では有名な話です。ただ……」
桔梗先輩も後ろめたそうに言葉を詰まらせた。
これ以上、本人が居ないところで深入りするのは野暮だろう。
お通夜ムードになってしまった空気を払うかのように、月下先輩は手を鳴らして勢いよく席を立ち上がる。
「ささっ、時間も時間だし、そろそろ解散にすっか!明日から頼むぜっ、二人とも!」
「はいっ、よろしくお願いします!」
「……しますっ!」
俺たちもつられて席を立ち上がり、月下先輩に深々と頭を下げた。
「そうそう!”うずらっち”のグループチャットを作っておいたから、後で確認しておいてくれ!業務連絡は基本的にここで発信するからな。じゃ!」
「はいっ、ありがとうございます」
月下先輩は俺たちに用件を告げると、一足先に会場を後にした。
メモリング内のメッセージアプリを起動すると、俺の連絡先に”うずらっち”のメンバーが自動的に登録されていた。翡翠先輩は超大歓迎だが、黒華は今すぐにでもブロックしたい。何なんだこの自信満々なキメ顔の自撮りアイコンは。
「二人とも、明日からよろしくねっ♪」
「……失礼します」
翡翠先輩は手を振り、桔梗先輩は丁寧に頭を下げた。
全く実感が湧かないが、彼女らも明日から多くの時間を共にするチームメイトなのだ。
高揚感、不安、闘志――様々な感情が渦巻くなか、俺は精神統一のために両頬を叩き、気持ちをリセットする。
時刻は夜7時、会場内に残っている生徒もごく僅かだ。
俺は白百合に視線を向けつつ、椅子に掛けておいた制服のジャケットを羽織る。
「よしっ、俺たちも帰るか」
「……はいっ」
白百合結衣の狂戦士化――彼女が抱える問題の解決策は果たして見つかるのだろうか。
ふと、彼女の虚ろな目を見て考えてしまった。
————————————————————◇◆
新緑が生い茂る桜の木々に沿って、俺たちは帰路を歩む。
「ん、あれは……」
月明かりに照らされ、一際大きな木に凭れながら夜空を眺める少年が、俺たちの足音に気がつくと得意げに微笑んだ。
「おやおや、ヒーロークンと子リスチャンじゃないか。パーティーは楽しめたかい?」
「黒華……こんなところで何やってたんだよ」
「ボクかい?ハハッ☆夜風に当たって黄昏ていただけさ。キミたちも一緒にどうだい?」
「え、えっと……結衣は……」
白百合は狼狽えながら徐々に後退りをしている。ライセンス試験前後での出来事もあってか、どうも黒華に対して苦手意識があるようだ。
「遠慮しとく」
俺は白百合の代わりに黒華の誘いを冷たくあしらった。
「ウ~ン、つれないねぇ」
黒華は普段と変わらぬ調子だが、どうも黒華代表との関係性が引っ掛かる。
これは直接聞き出すしかなさそうだ。
「お前、お兄さんと何かあるのか……?」
「キミにそれを言ったところで、ボクに何のメリットがあるのカナ?」
言葉に若干の棘を感じるが、聞き出してしまった以上、もう後には引けない。
「いや、メリットというか……懇親会に来なかったのも、お兄さんが関係しているんじゃないのか?」
「チームメンバーとは既に顔見知り。今更挨拶を交わしたところで何の意味も無いだろう?だからボクは参加しなかった。それが答えさ」
「はあ……」
まるで準備していたかのように即答され、俺は思わずため息を零した。俺と黒華の軽薄な関係性では、どうも御託を並べられるだけのようだ。
呆れた俺は再び歩み出そうとするが、次の瞬間――
「それに……」
黒華はゆっくりと立ち上がると俺たちに冷徹な――いや、世界そのものを呪うかのような視線を向けた。
「ボクはあの男を……兄だとは思っていない」
「……」
黒華の血みどろになった本音が零れ落ちた。
他者を蹴落としてでも首位を獲得するような普段の彼からは想像もつかないほど余裕の無い言動に、俺は妙な寒気を覚えた。
恐らく俺たちに言うつもりは一切無かったのだろうが、それすら抑えられないほど、黒華は兄への憎悪が積もりに積もっているのだろう。
桔梗先輩と一戦交えて敗北した際に、ふと零した言葉の答えが垣間見えた気がする。
「じゃ、ボクは失礼するヨッ☆」
先程の台詞が嘘であったかのように調子を戻した黒華は、俺たちに手を振り薄暗い夜道へと姿を消していった。
彼の背中が見えなくなるまで目で追っていた白百合は、ふと言葉を漏らす。
「……黒華さんにも、結衣たちには話せない過去があるんでしょうか……」
凄惨な過去を背負いながらクロッカスに身を置く彼女の言葉は、同情の念を抱いているかのような虚しさを孕んでいた。
「……かもしれないな」
黒華 苧環という少年の弱さがほんの少しだけ垣間見えた、そんな夜だった。
こんばんは!ProjectAI.【プロジェクトアイ】です。
突如として現れた苧環の兄・梛李阿。
彼らの関係性が悪化した要因とは……
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