Chapter 17 「総力戦」
「中でゲコゲコ凄い音が聞こえてきたけど大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃない。中からカエルの化け物が出てくるぞ!」
カーターに簡単に答えた。
長く説明している余裕はない。
俺たち3人が祭壇のある部屋に戻るや否や、力自慢のランボーとコマンドーの2人が石の扉を押して閉じた。
パタムンカさんが石の扉が動かないように楔をハンマーで打ち込む。
「なんなんだよ、カエルの化け物って? 詳しく説明しろ」
「カエルに山羊の足が生えたような化け物が襲ってきた。エリちゃんが力負けするくらい強い」
俺は全員に地下で起こったことを端的に説明した。
「オイオイ、そいつはシャレになってないぞ。旧支配者じゃないのかそれ」
「なんだよ旧支配者って」
「それはだな……一言で説明すると宇宙怪獣だ」
「何の説明にもなっていないぞ」
よくあるファンタジー世界に出てくるモンスターなど一匹も出てこないというのに、変な敵だけは次々登場する状況には慣れっこではある。
なので、今度は宇宙怪獣ですかと言われても「はいはいいつものやつね」という感覚になりつつある。
そもそも敵の分類が分かったから何だというのだ?
「宇宙怪獣では分からない。具体的にどういう敵なのか情報を知りたい。教えてくれ」
クロウさんもカーターに詳細な情報を求め始めた。
「要するに、異世界……といってもオレたちがいた地球でもなければ、この世界でもない。全く別の世界から来た、怪物だ」
「それは人間なのか?」
「分からない。とにかく異世界からやってきた神のような存在をひっくるめて旧支配者と呼んでるわけだ。地球の動物を『生物』と呼んでるようなものだ」
だいたいは理解できた。
要するに、地球の歴史、進化体系とは異なる、神として崇められるような強い生物がこの遺跡に棲み着いたと。
悪意だらけの赤い宝石が自然発生などするわけがないと思っていたが、異世界産の兵器か何かだったのか。
「つまり、個体によって能力などは異なる……そういうことだな」
結局のところ強い以外の情報が分からないことだけは分かった。
「旧神の印は書けるか?」
「だから、俺が知ってる前提で謎の固有名詞を使うのを止めろ」
カーターがまたも意味の分からないことを言い出した。
色々と分かっていることを前提で話すのを止めて欲しい。
文句を言おうとするが、カーターはお構いなしに会話を続けた。
「最適化、かつ単純化された魔法陣だ。ゾスの祭祀場で見ただろう。五芒星の真ん中に目が描かれた図形を」
確かにそれならば覚えている。
遺跡にあった4枚の絵のうち、3枚は巨人が人々を襲っているものだったが、4枚目だけは謎の幾何学模様が描かれているだけだった。
指で宙に図形を描く。
五芒星を書いた後に、真ん中に点。
「あのマークを描けば、旧支配者を弱らせることができる。もちろん、それだけで敵を倒せるような都合の良い話はないが、やらないよりはマシだ」
「描くと言われても何で描けと? ペンか? 鉛筆なら持ってるけど」
「その儀式用の短剣で敵に直接刻み込むんだ。もし、その短剣が俺の想像通りの代物ならば確実に効果がある。魔法陣を描くことに特化された短剣だ」
カーターはランクアップで追加された、俺の腰にぶら下がっている短剣を指して言った。
黒い刀身を持つ謎の短剣。
何かあるとは思っていたが、魔法陣を描くためのものだったらしい。
「俺って魔法使い……魔女なんだけど、これを振り回して近接戦闘をしろと?」
「だから、一応保険だって。敵に全く攻撃が通用しないようならば、それを使え。突破口を開けるはずだ」
分かったような分からないような説明だ。
攻撃が通用しなかった時の保険。その程度の認識で良いだろう。
ランクアップ時に混じったオウカちゃんの能力により、刀を扱う技術は身についている。
しかし、刀を振り回す体力や筋力までは身についていないので、効率良く扱えるというわけではないのだ。
「あの化け物は思っているよりも強力です。相手は俺たちがやりますので、みんなこの遺跡から一時退避してください」
非戦闘員であるパタムンカさん、教授たちはまず避難してもらうことにする。
「戦いが終わったらまた教えてくれ。この遺跡の調査は継続して行いたい」
「同じく。まだ宝を調べ尽くしていない」
2人とも先程の怪物は見たはずなのにそれ以上に商魂たくましいなと思った。
何にせよ、非戦闘員には一時退避をしてもらうのが正解だろう。
「リプリィさん、お願いします。この2人を連れて一時撤退を」
「ええ、分かりました」
そう言うとリプリィさんと軍人2人が教授とパタムンカさんを連れて祭壇のある部屋を離れていった。
「それで、オレはどうすればいい?」
カーターが尋ねてきた。
それくらいは自分で判断してほしいのだが。
「エリちゃんが力負けした化け物とやり合う自信は?」
「それは間違いなくオレの専門範囲外だな」
「そういうことなら、リプリィさんたちの護衛を頼む。そっちにも敵が出ましたという状況だとシャレにならない」
「それくらいなら何とか」
カーターはそう言うと全力で階段の方へと駆けていく。
ここでクロウさんが手を叩いてパンと音を鳴らした。
「では、フォーメーションを決めよう。幸いにも、この広場は広くて全員が動き回るのにも支障はない。そして、ここには百戦錬磨の能力者が集まっている」
俺たち3人。
ハセベさん、ウィリーさん、ガーネットちゃん。
クロウさん、レオナさん、マリアさん。
総勢9名の能力者だ。
相手が少々強かろうが、これだけの戦力が揃えば、どうとでもなるだろう。
「敵のサイズは?」
「身長2メートル。首がない体形でイメージは蛙。腕は細く足は長い」
「そうなると、あまり大勢で一気に取り囲んでもお互いが邪魔にしかならないな」
クロウさんは改めて一同を見回す。
「まずは怪物相手に真正面から殴り合いを仕掛ける役目だ。これはオレ、ハセベさん、それにエリスさんの3人であたる」
「クロウ、待ってくれ。攻撃なら私の方が向いていないか?」
ここでレオナさんが出てきた。
格闘には自信があると言わんばかりだ。
「自慢ではないが、攻撃力には自信がある」
「レオナは牽制役だ。一歩離れた位置から敵をかく乱しつつ、隙を見て攻撃を仕掛けるヒットアンドアウェイで頼む」
「そういうことならば理解した」
レオナさんは渋々ながら納得したようだ。
「マリアとモーリス君は回復と防御担当。負傷者が出た時には回復を頼む」
「分かりました。モーリスさん、よろしくお願いします」
「ああ、よろしく」
一瞬だけエリちゃんから怖い視線が飛んだが、戦闘前ということでそれで終わった。
このまま何もなく終わって欲しい。
「ウィリーさんは精密射撃で支援に入って欲しい」
「了解した」
そして俺とガーネットちゃんが余る。
さすがにこれは仕方ない。
乱戦になると俺たちのスキルは攻撃範囲が広範囲すぎて仲間を巻き込む可能性が高すぎて使えない。
ただ傍観するつもりはない。
盾で支援できるのだから、鳥だけは喚び出しておこう。
鳥を5羽喚び出して、祭壇を取り囲むように立つ。
30秒……何も起こらない。
無言で汗を拭う。
仕方ないので待機状態の鳥を5羽追加する。
さらに30秒……祭壇のある部屋は静寂に支配されていた。
鳥を追加で召喚。これで15羽……盾が5回分になった。
さらに30秒が経過した。
これで鳥の数は20羽……過去最高になる。
現在は何の命令も与えずに好きにさせている。
一斉に操作しようとすると、情報量が過多で俺の脳が持たないだろう。事実上の限界値。
普段ならば鳥に何の命令も与えないと好き放題に飛び回るのだが、今回は鳥にも緊張感が伝わっているのか、その全てが遺跡の壁から出ている飾りなどに止まり、祭壇の方を見つめている。
もしかして扉を閉めたことにより、奴は俺たちへの追撃を止めたのではないだろうか?
そう思っていた時に、突然に先程の通路で発生したのと同じようなカエルの輪唱が聞こえ始めた。
最初はゲコゲコという小さな音だったのだが、だんだんと音は大きくなっていき、ついには蛙の鳴き声以外の音が一切聞こえなくなった。
あまりのうるささに俺以外の全員が耳を塞いでいる。
誰かが何かを叫んでいるようだが、蛙の鳴き声にかき消されて何も聞こえない。
これはどう対処すれ《命令を与えずに放置していた鳥たちが一斉に鳴き始めた。奴がくる》
魔女に意識を持っ《鳥を扱う技術ならば僕の方が上だ。ここは任せて欲しい》
「体のコントロールを少し貰うよ。この状況だと僕が戦った方が良さそうだ」
僕は待機させていた鳥たちへ命令を下した。
どうやら奴は理解していなかったらしい。
カエルの天敵の鳥が既に待機していたことを。
「夜鷹たちよ、蟇を食らい尽くせ!」
20羽の鳥たちが本能に従って縦横無尽に飛び回り、奴の呼び出した不可視の使い魔を食らっていく。
鳥たちは魔女の呪いや盾、魔法陣を作るための媒介だ。
奴が結界を張るための不可視の蛙と根っこの部分は同じ。
ならば、あとは相性の問題。
蛙の声で結界を作ろうとしているようなので、それが構成できないように、媒介を潰して回る。
「たくさん食べなよ。今日はパーティーだ!」
奴の使い魔が屠られる度に、カエルの鳴き声は聞こえなくなっていった。
「ラビちゃん、これは何が起こっているの?」
どうやら天井付近を鳥が無秩序に飛び回っている光景をエリちゃんが不審に思ったようだ。
「奴に結界を張らせたりはしないってことだよ、エリちゃん」
「……あなた、本当にラビちゃんなの?」
急に雰囲気が変わったことで、さすがのエリちゃんも中身が俺さんじゃなく僕に入れ替わったことに気付いたようだ。
「信じて欲しい。僕は俺さんとは違うけど、君の友達であることは変わらない。それよりも来るよ!」
予見した通り、祭壇が石畳と共に真下から高く舞い上がった。
祭壇は僕たちから5メートルほど離れた場所に落下した。
そして、開通した穴から這い出してくる者がいる。
名前もわからない蛙の神だ。
奴は指の間に水かきがついたその手を穴にかけてこの祭壇がある部屋に登ってこようとしていた。
僕は3羽の鳥に盾を展開したまま突撃を命じる。
青白く光る三角形の力場……盾に頭を押さえられた蛙の神はそのまま穴の奥へと逆戻りをしていった。
奴を穴の奥まで叩き落とした後は盾を一時解除する。
「今の盾は一度解除。そして、3羽を再結集して盾を再形成。そして極光!」
まずは盾の位置を調整。
箒の先から3番目のスキルによって放たれる極彩色の閃光を上空に展開した盾へ向けて照射する。
「跳ね返せ!」
光線は盾によって向きを強制的に変えられて、下方向……穴の奥にいる蛙の神に向かって注がれた。
極光の性質は熱と衝撃……乾燥に弱い蛙には、熱による水分蒸発はさぞ痛むだろう。
「さて問題は、ここまでやってほとんどダメージが入っていないことなんだけど。硬すぎるよこいつ」
蛙の神は極光の熱と衝撃を受けながらも、ノーダメージで穴から這い上がってきている。
相手の弱点を突いているのだから、もう少しダメージが入っても良いはずなのに、これでは成果が上がっていないのと同じだ。
《というわけで、後は任せるね》
「おい、こんな中途半端な状態で戻すなよ!」
閃光を撃っている最中に諦めて魔女が引っ込んでコントロールを戻されるという、とんでもない状態でキラーパスが回ってきた。
まさに「急にボールが来たので」状態だ。
こんな中途半端な状況で何ができるというのか?
文句を言うが、返事は返ってこない。
もしかして、こいつは俺の体を乗っ取ることができる時間制限があるのか?
いや、その考察は後回しだ。
手持ちのカードで何ができるのかを考える。
周りを見回すと、手持ち無沙汰のガーネットちゃんが目に入った。
「ガーネットちゃん、仕事が来たぞ!」
「えっ仕事?」
「竜巻を頼む。穴の一番下から、真上の盾に向かって」
簡単な説明だが理解してもらえたようだ。
「分かりました。渦巻く旋風!」
ガーネットちゃんのスキルにより、穴の底から竜巻が巻き上がる。
這い上がろうとしていた蛙の神は、足元から突如として発生した竜巻によって突き上げられた。
自ら上がろうとしていたところに不意打ちの下からの突き上げ。
当然、避けられるわけもなく、蛙の神はなすすべなく高く舞い上げられた。
だが、それを塞ぐようにして真上には俺が作り出した「盾」が展開されている。
これを有効活用しない手はない。
何しろ、盾の新しい使い方をたった今教えてもらったのだから。
「跳ね返せ!」
ガーネットちゃんの生み出した竜巻と俺の盾が発生させた斥力で蛙の神を上下で挟み込む。
このまま押し潰すことができれば良かったのだが、さすがに盾にそこまでの威力はないようだ。
だが、相手を身動きできない状態にして空中に固定できたことは大きい。
「今です! 近接戦闘チームの皆さん、こいつが動けない間にやっちゃってください!」
「ああ、任せろ!」
クロウさん、ハセベさんが空中に変なポーズで浮かんだままになっている蛙の神へ同時に武器で斬りかかる。
だが、効いていない。
2人の刃はわずかに蛙の神に食い込んではいるのだが、薄皮一枚といったところだ。
致命傷どころか有効打にすらなっていない。
同様にエリちゃんが拳に青い光を込めたパンチを繰り出す。
蛙の神の体に拳が当たった鈍い音と衝撃が響き渡るが、やはりほとんどダメージが入っていない。
遺跡の出口でSFロボをほぼ一撃で無力化した「すごいパンチ」のはずだが、こちらも表面の薄皮が破れた程度だ。
「エリスさん、ラッシュで少しだけ時間稼ぎを頼む! こちらも必殺技を出す! 全員が必殺の攻撃を出すんだ!」
「やってみます!」
エリちゃんが手から青い光を消した。
代わりに、両手で超高速でパンチの連打を始めて蛙の神へ打ち込んでいく。
エリちゃんが時間を稼いでいる隙に、ハセベさんとクロウさんが一歩引いて、それぞれ武器を構えた。
その直後に、全く空気を読まない、特撮番組のBGMのようなものが流れ始めた。
どうやら、クロウさんが持っている剣から鳴っているようだ。
剣の柄に付いているダイヤルを回転させると、そこに電子音声まで鳴り始める。
まるで特撮番組のおもちゃだ。
その横でハセベさんが刀を鞘に納め、足を開いて低い姿勢で構えた。
左手は鞘、右手は柄尻に当てて、睨み付けるような視線を蛙の神に向け、じわじわと詰め寄る。
『Finish Attack SwoSwoSwoSword!』
合成音声が響いた後に、クロウさんが持った大剣から、まばゆい光が放たれた。
それは大剣を芯として、巨大な光の刃へと姿を変える。
「準備は整った!」
「任せた!」
エリちゃんが後方へバク転しながら飛び退くと同時に、クロウさんとハセベさんが同時に動いた。
クロウさんは巨大な刃を大きく振りかぶり、真正面から蛙の神へ体重を込めた一撃を振り下ろした。
ハセベさんは鞘から抜刀しながら一気に詰め寄り、体を捻りながら蛙の神の脇腹へ刃を突き立てた。
「チャージショット!」
「シールドスロー!」
間髪入れずに、ウィリーさんのライフルが火を噴いた。
とどめとばかりにレオナさんがフリスビーのように投げた円形のシールドが蛙の神に命中する。
4人がスキルを放った最大の攻撃。
これならばひとたまりもあるまい。
――どうやら俺の認識が甘かったらしい。
ウィリーさんのエネルギー弾は表面で弾けた。
レオナさんのシールドは金属音を鳴らしてはじき返された。
ハセベさんの刀は脇腹に数センチだけ食い込んだが、切断にはほど遠い。
クロウさんの刃も蛙の神の頭頂部から生えた触腕数本を切断したがそこまでだ。
脳天にうっすらと筋が入っただけで、まともにダメージが入ったとは思えない。
「全員下がってください! 拘束が解けます!」
ガーネットちゃんの竜巻も、俺の「盾」も効果は無限に出し続けられるわけではない。
どちらも能力は効果時間が終了して、拘束は自動的に解除された。
蛙の神が両手を伸ばし、クロウさんとハセベさん、2人の武器を掴み取った。
「くっ離せ!」
「振りほどけない!」
蛙の神がそのまま両手を振り回した。
武器を持っていたクロウさんとハセベさんの両方が吹き飛ばされた。
2人とも激しく床に叩きつけられて、呻いている。
「俺はハセベさんの治療に行く。マリアさんはクロウさんを!」
モリ君とマリアさんがそれぞれ負傷した2人を治療するために駆け出した。
だが、蛙の神はそれを待ってくれない。
蛙の神は周りを見回し……マリアさんの方へ向かって走り出した。
明らかに回復役を潰すための行動だ。
こいつには、状況を見て有利不利を判断して行動する知能がある。
寄生体とは明らかに違う。
「させるかっ!」
レオナさんが円形のシールドを回収して、蛙の神とマリアさんの間に飛び込んだ。
「フォースフィールド展開!」
レオナさんの盾が光を放った。
円形の盾を中心に白い光のバリアのようなものが展開されて、蛙の神の行く手を阻む。
その前に、さらに別の青白い粒子で構成された光の壁が現れた。
モリ君がハセベさんの治療をしながら、プロテクションでサポートしたようだ。
さすがに二重の壁は蛙の神でも破れないようだ。
だけどジリ貧だ。今のままだと近いうちに限界が来る。
こうなれば魔女の呪いしかないか?
箒を構えて蛙の神に向かって狙いを定めるも、諦めた。
この室内では何をどうしても味方を巻き込む。
ランクアップさえしていなければ、3羽の魔女の呪いならば、蛙の神を撃ち抜けたかもしれない。
だが、ランクアップで魔女の呪いの攻撃範囲が広がっている。
強化してしまったことで、逆に使いにくくなっている。
「ラヴィ、聞いてくれ」
俺が策を考えていると、ウィリーさんとガーネットちゃんが駆け寄ってきた。
「一連の攻撃を見ていて気づいたんだが、奴の前には目に見えないバリアみたいなもんが全身を覆っている」
「バリア……ですか?」
「はい。皆さんが攻撃した瞬間に、一瞬だけ空気が揺らぐんです。空気の流れを読める私しか気付いていないと思いますが」
ガーネットちゃんが、なおも光の壁を殴りつけている蛙の神を見ながら言った。
蛙の神によって、プロテクションとレオナさんの防御スキル、両方が破られようとしている。
レオナさんは両足を踏ん張って耐えてはいるが、今のままだと押し切られるのは時間の問題だ。
「それは空気操作で防御しているということですか?」
「いえ、違います。単純な空気操作ならば私が破れます。本当に見えない壁があるんです」
「破る方法は何か考えられないか?」
「待ってください」
緊急事態だが、あえて目を閉じて思考に全力を費やす。
あの蛙の声の輪唱は、不死身とは関係ないだろう。
今は鳥たちが抑え込んでいるにもかかわらず、無敵バリアは健在なのだから。
もちろん、だからといって鳥たちを解除して蛙の声の輪唱を解き放って良いわけではない。
いや、ここにヒントがあった。
地下で蛙の鳴き声が響いた時に、石像を壊すと、一瞬だけ蛙の鳴き声が止まった。
まだ全ての石像は破壊していない。
音は今は聞こえていないが、まだあの石像群が、蛙の神に何かしらの力を与えている可能性は0ではない。
「地下に玉座と石像がありました。一部を壊した時に輪唱が少し止んだのですが、もしかすると、石像を全て破壊すれば事態は変えられるかもしれません」
「地下ってあの穴の中か?」
ウィリーさんが蛙の神に目をやる。
蛙の神が先ほど開けた穴から地下に降りられそうではあるが……。
「正しいかどうかは分からないが、今はやれることを全部試していくしかないです」
もう一つの手段は、カーターから聞いていた旧神の印だ。
ただし、それを刻み込むには、俺があの怪物に近づき、接近戦で短剣で紋様を刻み込まなければならない。
俺の体力と運動能力でそれができるか?
いや、今はできることを積み上げるだけだ。
「やれることを全部やるって方針は分かった。手が余っているオレとガーニーで地下に向かう。今はできることをやるだけだ!」
ウィリーさんがライフルを背中に背負い、腰のホルスターから二丁拳銃を抜いた。
勢いよく駆け出して、ガーネットちゃんと共に穴の中へ飛び込んでいく。
「みんな頑張っているんだ。俺も覚悟を決めるしかない」
箒を背中に背負い、腰の短剣と、オウカちゃんの形見である短刀をそれぞれ両手で構えた。
蛙の神に向かって勢いよく駆け出した。
俺の今の手札は、頭上に浮かべた17羽の鳥たちだ。
こいつらにも力を貸してもらう。
「ここからが本当の総力戦だ」




